人見知り同士が心を開いた時、 フロアがすごくうるさくなった件について
2025年11月28日
ページ番号:665756
受賞者
梅田 ユミ 様
概要
現在の施設では5年目になりますが、介護職員として働いた20数年の中で、一番驚きと発見を感じ、仲間の力を借りながらも成長しています。その中で心に残ったエピソードを記しました。O様との出会い、人見知り同士がどのようにして心を開いて行けたのか、仲間からの助言で立ち止まり、自分の支援を振り返り、考える事の大切さ。心を解き放った2人は、野球が好きなので、シーズンではテレビ前で歓声を上げています。今日も今日とてフロアで2人が揃うとにぎやかです。
エピソードを通じて伝えたい「福祉・介護の仕事」の魅力
介護の仕事を長年していると自信がついてきます。ましてや振り返って自分の支援方法を見つめ直すなんて頭の隅にあっても実際そうする事は勇気がいる事かと思います。入居者様の何気ない一言で自分の支援方法を見直すきっかけになりました。周りの仲間たちの助言をもらいながら立ち止まり、振り返り考えて実践する。当たり前の様で難しいこのお話を読んで自分の支援に自信を持っている様に仲間に助けを求める事は恥ではない!寧ろ入居者様の為になる!自分を見つめ直す事に躊躇してる人の背中をそっと押せたら良いなと思います。
本文
私は、特別養護老人ホームで勤務してもうすぐ5年目になる非常勤職員です。施設には様々な方がおられますが、その中で出会った仲間・印象に残っているご入居者様のお話をしようと思います。 その印象に残っているご入居者はO様という男性の方で、車いすを日頃は使用されていますが、奥様に先立たれてから、お一人で生活をされていたこともあり、「自宅に帰って自分で生活がしたい」「まずは一人で歩きたい」というご意向を抱かれている方です。見慣れない職員が来たときに手を払って顔を背けられたりもします。先輩職員からは、O様は人見知りだからと教えてもらい、納得したのを覚えています。 かくいう私も人見知りなので、知らない人が来たとき、目線をそらしたり、無口になったり、少し緊張してしまう気持ちもわかります。介護において、言葉でコミュニケーションをとるのは基本ですが、人見知り同士だと何を話せば良いか…と悩んだこともあります。そんな時、先輩職員が間に入って話してくださったりもしました。1対1で悩んでいる私を見て、先輩が助け舟を出してくれたのだと思い、今も感謝しています。そんな、O様とまだ知り合って日が浅かった時の事です。
O様の入浴支援に入らせて頂く機会があり、O様は右半身に麻痺があるのですが、ご自身で出来る事は行って下さる方で、「前は出来たけどな、今は出来へん」「でも、これは前は出来へんかったけど今は出来るで」と、現在の身体の状態を教えてくださいます。【歩く】という目標に向かい、リハビリも前向きにされています。 以前からO様の入浴支援に入られている先輩職員に教えていただいた通り、支援も行いましたが、入浴後の感想は「今日はあかんわ。いつもはもっと出来るのに」でした。私自身、入浴支援に関しては一通りできると思っていたので、その言葉をお聞きした時にはショックでした。何が悪かったのか、滑ってこけそうになったなどの危険もなかったのに・・・。自分の支援方法を振り返ってみても思い当たるものはなく、ショックを通り越して悔しい想いを抱きました。絶対私が「気持ちよかった」とO様に言わせてみせる!元来の負けん気に火が付いた瞬間です。
まずは、自分の顔と名前を憶えて頂くために、O様に話しかけることから始めました。初めの方はそっけない態度でしたが、徐々にO様との会話に花が咲き、「昔は左官屋だった。」「このコップは妻とおそろいやねん」といつも使っているステンレスコップを片手に大切なものであると教えてくださるようにもなってきました。私の事も知って頂けるように、私の家族の話や、テレビを見ながら共にお話する時間も共有します。その間にもO様の入浴支援をご一緒する機会はありましたが、全て惨敗。「気持ちよかった」というお言葉はいつになったら聞けるのか・・・。途方に暮れている中、仲間に悔しく思っていることを相談します。その中で、先輩職員が「O様が自分でやりたいと思っていることは理解できている?」といわれました。
私はいつも行っている支援の手順を身振り手振りで先輩に伝えると「それは職員目線じゃないかな。O様が何事も自分でしたいという思いを持っているのはわかっているよね?本人様のペース・動きに合わせた声掛けは出来ているかな?」とアドバイスを受けました。自分では意識していない声掛けの指摘に驚くと同時に、O様の入浴後に良いお返事がないってことはそうなのだろうと腑に落ちたのを覚えています。良く考えてみれば、湯船に浸かって頂く際「ちょっと待ってや」「あかんな」という事を仰られていたことを思い出し、私が安全だと判断していたことは、O様にとっての安全ではなく、ペースを乱すことになっていたのではないかと気づきます。また、O様のご意向は「自分で生活がしたい」「自分の力で歩きたい」という思いがあるのにも関わらず、私はO様の力を信用せず、支援しすぎてしまっていたのではないかと思い出します。「左官屋で働いていて、親方に仕事を任された時はうれしかった」「俺は一人で家の事もしてたよ。出来るよ」といわれていたのを聞いていたのに!自分の不甲斐なさにショックを受けながらも、気づけた事はチャンスだと拳を握って次の入浴支援は私に入らせてほしいと周りの職員にお願いします。
次の入浴支援の際は、その点を意識して行ってみました。O様の動きに合わせて声掛けを行い、O様の動きに合わせて支援を行いました。本人様の体制が整うまで待ったり、「滑りそうで怖い」と仰られた際は、しっかりと支えてますのでと安心できるように声掛けを行いました。すると「今日は上手に出来たわ」と、入浴後の汗を拭きながらO様が仰られました。すごく嬉しくなったのを覚えていますが、求めている「気持ちよかった」にはまだまだたどり着きません。その次の入浴支援の際も、本人様のペースに合わせるのは勿論、洗髪時の力の強さ・身体を洗う順番の確認、お湯加減を聞き好みの温度に合わせたり、好みの入浴剤を選んでもらったり、世間話をしたりと入浴を楽しんで頂けるように配慮しました。すると待ち望んでいた瞬間はやってきました。
「ねーちゃんありがとうな。気持ちよかったで」と最上級の労いの言葉と、笑顔を頂きました。もう心の中で何度ガッツポーズをしたことか。この言葉を頂くまでに相談に乗ってくれ、一度立ち止まって考える機会を作って下さった先輩にも報告し「よかったね」とお褒めの言葉を頂きました。更に、そのやり方を共有したいので、「O様専用の支援用紙にその内容を記載してほしい、それは絶対O様のためになるから。」といわれ、私とO様の事だけではなく、他の職員の事まで考えておられた先輩にはまだまだ追いつけないと、少し負けん気が出てきましたが、今は喜びと学びの方が優先されました。また、O様には、いくら支援の技術を磨いても、そこに信頼関係が無ければ相手にとっては恐怖でしかないという事を教えてもらいました。そこから、私の人見知りは消え去りました。いや、消え去ったというか、入居者様の支援に置いて必要な関係が取れなければより良い支援が出来ないと気付いたため、なりふり構ってはいられなくなったのが本音です。どのような方に対しても、まずは丁寧に挨拶を。挨拶とアクセントに一言添えることを意識し、入居者様が安心して身を預けて下さるよう目線を合わせ、入居者様のペースや癖を把握するように努めています。今ではO様から「おはようさん」と声を掛けられるようになり、私が連休で姿が見えなかったときは「最近見なかったけど元気か」と声をかけて下さり、お互いの人見知りはなりを潜め、今では互いに大きな口を開けて笑い合っています。最初は怖い方だな。気難しい方かなと思っていましたが、今ではとっても性根の優しい方であると認識を改めています。O様も最初私の人見知りにより「何だこの子は」と思っていたのが、「元気な子やな」くらいに昇格しているかもしれません。O様との関わりを活かし、今後もより良い支援が出来る介護職員になりたいと思うと同時に、同じように悩んでいる仲間がいれば、あの時助けて頂いた先輩方のようにアドバイスが出来るようになりたいと思います。全ての支援は個人で行っているわけではなく、チームで行っているので、一人で悩まず周りの職員に相談し、一度立ち止まって自身の支援を振り返る時間が作れたり、解決の糸口が必ず見つかると思います。何よりO様の、入居者様のお気持ちを大事にしながら支援を行うと自然と「ありがとう」「気持ちよかったよ」の言葉を頂き、私も「こちらこそありがとうございます」「こちらこそ楽しい時間でした」と、笑顔で言い合える時間を共有できました。
これが私の経験した心に残る出来事で、今も更新されているO様のお話でした。
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