四天王寺西門石鳥居納入品 一括(586点)
2019年1月9日
ページ番号:9105
四天王寺西門石鳥居納入品
分野/部門
有形民俗文化財
所有者
宗教法人 四天王寺
所在地
大阪市天王寺区四天王寺1
紹介
四天王寺西門に立つ石鳥居は、国の重要文化財に指定された建造物であり、永仁2年(1294)に忍性(にんしょう)によって建立されたものである。石鳥居ではあるが、柱を繋ぐ梁にあたる部材、すなわち島木(しまぎ)と貫(ぬき)については、重量の軽減化をはかるためか、石ではなく、木製の心材を銅板で覆うという構造をとっている。
1997年から1998年にかけて実施された保存修理の際に、島木と貫についても解体が行われた。その際に、銅板と心材の間の空間から、大量の納入品が発見された。主体となるのは包みと経木札である。このうち包みは、和紙で毛髪、火葬骨の砕片、臍の緒、寛永通宝などをくるんだもので、その包み紙に極楽往生を願って南無阿弥陀仏の名号等を記し、あわせて奉納者の名前を書き連ねている。中には題目を記すものもあった。包み紙とは別に、法名書や奉納者の名を記した文書を数通含む場合が多い。また包みの中に、さらに小分けにして小さな包みがいくつか含まれていたものもあった。包みの大きさは、縦10~15cm、横 3~5cm、厚み1cmほどのものが多いが、大小があり、墨書の筆跡も様々である。奉納者は大坂市中の町人で、内骨屋町、西横堀、天満源蔵町などの地名を記すものもあった。このような包みが全部で154点確認された。
経木札は、表裏に名号と奉納者の名を書き連ねたもので、全部で244枚確認された。これらの大半が同じ筆跡によって記されたものである。
この他に、南無阿弥陀仏の名号を書写した写経帳や奉納者の名を記した帳面が9冊、菩薩戎の印信が9枚、曲物が1点、文書が9枚、銭が120枚、毛髪の束が 19束、数珠が7点の計572点である。また、包み9点、写経帳1冊、毛髪の束4束が、島木と貫の中ではなく、島木とその上にのる笠石との間に、新聞紙に包まれて発見された。これらをあわせると、納入品は合計で586点となる。この新聞紙は、旧国宝指定のための報告書作成にかかる調査を実施した昭和8年 (1333)のものであり、その調査の際に島木と貫からこぼれ出ていたものを、まとめて納めたものと推測される。
これらの納入の時期だが、納入品で年紀が確認できるものに、永正13年(1516)の年紀を持つ結縁者の名前を記した文書3通があった。これは、銅板に刻まれた修復銘から、永正7~13年(1510~1516)に修理を行っているので、その際のものと考えられる。この3通以外は、包みや経木の形状が共通することや、墨書の筆跡から、すべて江戸時代のものと考えられる。年紀の記載があるものは、寛文9年(1669)12月14日と15日のものが大半であり、一部12月13日、16日など、近接した日を記すものも見られた。写経帳や法名書には、明暦2年(1656)から寛文9年までの年紀を記すものも見られたが、寛文9年以降の年紀を持つ納入品は確認できなかった。銅板の銘から、寛文7年(1667)に地震で破損した鳥居を、寛文9年に修復していることがわかるので、その際の納入品と考えられる。なお、宝暦9年(1759)にも修復が行われているが、その際の納入品と見られるものはなかった。
文献上で、寛文9年の修復の際に、勧進が行われたことを示す史料は未確認だが、おそらく修復にあたって寄進を募り、それに応じて極楽往生を願い結縁した市中の町人たちによって納入された品々と考えられる。銅板の修復銘の日付は12月22日であり、それに先立つ数日前、修復の終わった島木と貫を再び柱上に掲げる直前の14日と15日に勧進が行われたものと推測される。
四天王寺西門は、浄土教信仰のうえで日想観の聖地として位置付けられる特別な土地である。平安時代以降、様々な階層の人々から厚い信仰を集めてきた。石鳥居はその象徴的な存在で、現世から西方浄土への入口としての役割を負う建造物である。その鳥居の中に、奉納者の名前を記した紙にとどまらず、自分や家族の髪の毛、骨片、臍の緒などを納入するということから、当時の人々の極楽往生への強い憶念がうかがえる。江戸時代における西門周辺の浄土教信仰の展開を考える上で、重要な史料である。大坂市中で出開帳などに伴い勧進が盛んに行われるのは、この少し後、17世紀末頃からだが、そのような事例を含めても、勧進に伴う納入品が残ることは極めて珍しい。当時の市中における信仰のあり様を如実に物語る品々である。
用語解説
忍性(にんしょう) 鎌倉時代の律宗(真言律宗)の僧(1217-1303)。房名(通称)は良観
結縁(けちえん) 世の人が仏法と縁を結ぶこと。仏法に触れることによって未来の成仏・得道の可能性を得ること
参考文献
関連ページ
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