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平成30年11月15日付け裁決(答申第12号)

2023年2月17日

ページ番号:456712

裁決書

審査請求人  〇〇〇〇〇
          〇〇 〇〇
処分庁  大阪市〇〇区長 

 審査請求人が平成29年7月12日に提起した処分庁による転入届不受理決定に係る審査請求について、次のとおり裁決する。

主文
 本件審査請求を棄却する。

事案の概要
1 審査請求人は、住民異動届の「届出の理由」欄に「転居届」、「これからの住所」欄に「〇〇〇〇〇」と記載し、平成29年6月8日、当該住民異動届を処分庁に提出した。
 なお、転居届とは、市町村(政令指定都市である大阪市においては区。以下同じ。)間にわたることなく、一の市町村の区域内において住所を変更することとされており、審査請求人について○○区の区域内に住民登録がなされている住所がないことから、処分庁は、当該住民異動届については、「届出の理由」欄の記載が「転居届」とされているものの、「転入届」が提出されたものとして取り扱った。(以下、審査請求人が処分庁に対して提出した当該住民異動届を「本件転入届」という。)
2 平成29年7月6日、処分庁は、本件転入届に記載された場所(以下「本件場所」という。)について、河川法(昭和39年法律第167号)上の一級河川である○○川の区域内の土地であり健全な社会通念に基礎づけられた住所としての定型性を具備していると評価できず、住民基本台帳法(昭和42年法律第81号。以下「住基法」という。)のいう住所としては認められないものとして、本件転入届を受理しない決定(以下「本件処分」という。)をし、同日付けで審査請求人に対し通知した。
3 審査請求人は、平成29年7月12日、大阪市長に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をした。

審理関係人の主張の要旨
1 審査請求人の主張
 審査請求人は、本件審査請求において次のとおり主張している。
⑴ 河川管理者に対し河川法第24条、第26条第1項に係る許可申請をしているが、未だに当該申請についての判断が示されていない。処分庁は河川管理者への当該申請の有無ないし許否を確認せずに本件処分を行っており日本国憲法(昭和21年11月3日公布。以下「憲法」という。)第31条違反である。
⑵ 眠るための住居を有する土地の使用が許されなければ、幸福追求権を保障した憲法第13条、居住の自由を保障した憲法第22条第1項に違反する。
⑶ 同使用が許されなければ、雨風に打たれ歩きながら眠ること、若しくは歩きながら眠ることの強要となり、意に反する苦役を禁じた憲法第18条に違反する。また、適正手続を保障する憲法第31条に違反する。
⑷ 憲法第27条第1項は人民に対し、勤労を義務付けて不労所得を禁じているが、家賃収入は不労収入であり、家主・地主が収入を得るためにその私有地を利用することは同項に反している。
⑸ 憲法第29条第2項は公共の福祉に適合しない私有財産の使用を禁じており、家主・地主が収入を得るためにその私有地を利用することは同項に反している。
⑹ 憲法が極東アジアに居住する人民に対し、家主・地主に金銭を支払うことなく居住を有するための土地を使用する権利を保障していることが明らかであり、具体的にその権利は、憲法第13条、第22条第1項に内在されていることは明らかである。
⑺ 扇町公園住所裁判控訴審判決(大阪高裁平成18年(行コ)第10号同19年1月23日判決)を前提としたところで、本件処分には裁量の逸脱がある。本件場所に設置の家は建築基準法に適合する頑強な構造を有しており容易に撤去・移転されない。また独立した電気設備、独立した排せつ設備がある。水道設備を依存していない(飲料水は購入し、洗濯はコインランドリーで行っている。)。
⑻ 河川敷に建設された住居につき、政府機関が行政代執行手続をもって強制的に撤去したことは一度もない。また、河川法は同法が適用される土地に住居が建設されることを前提にしている。
⑼ 本件処分は、河川敷に建てられた小屋を所在地に住居とする住民異動届について受理してきたこれまでの行政実例に反している。
2 処分庁の主張
 処分庁は、1記載の審査請求人の主張のうち、⑵から⑹までの主張については本件処分に関わらないとし、⑴及び⑺から⑼までの主張については次のとおり主張している。
⑴ 審査請求人の主張の⑴について
 本件処分の根拠は次のとおりであり、審査請求人の主張する手続上の瑕疵はないものと考える。
ア  本物件について
 本件場所に所在し、審査請求人が居住する旨主張する「〇〇」と称する物件(以下「本物件」という。)は、金属製単管等が組み合わされて構築されたものであり、雨風をしのぐことができるものであると認められる。また、電気設備については審査請求人から発電機を使用している旨説明を受けた(発電機の所在は確認していない。)。 
 しかし、排せつ設備・水道設備については、下水管及び配水管がないことを大阪市建設局及び水道局の図面により確認できている。このことから通常の日常生活に必要な最低限の設備を備えておらず、その場所で日常生活を営むためには他の設備・手段に依拠しなければならないものであるといえる。
イ  本件場所について
 本件場所は河川法第4条にいう一級河川である〇〇川の河川敷にあり、同法第6条にいう河川区域の区域内の土地に当たる。同法第24条は、河川区域の区域内の土地を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない旨を規定し、また、同法第26条第1項は、河川区域の区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない旨を規定している。
 これらの規定に違反し、河川管理者の許可を受けることなく河川区域の区域内の土地を占用して工作物を新築するなどした場合、河川管理者は、同法第75条第1項の規定により、当該違反した者に対して、当該工作物の除却等を命ずることができるとされている。
 本件場所及び本物件について河川法第24条の許可の審査基準である河川敷地占用許可準則に照らすと、同準則第8には「工作物の設置、樹木の栽植等を伴う河川敷地の占用は、治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない。」、第9には「河川敷地の占用は、他の者の河川の利用を著しく妨げないものでなければならない。」とあり、これらの規定に反するものと判断できる。また、同法第26条第1項の許可の審査基準である工作物設置許可基準第3の1の「当該工作物の機能上、河川区域に設ける以外に方法がない場合又は河川区域内に設置することがやむを得ないと認められる場合」ではないと判断できる。これらのことから、本件場所及び本物件について、一般的に河川法第24条及び第26条第1項の許可がなされるものではないと認識している。
 本件処分を行うに当たっては、河川管理者に問い合わせを行い、河川法の上記各条項に係る許可を行っている居住を目的とした物件はない旨回答を得ており、これらの事実からすると、審査請求人は、河川管理者の許可を受けることができない様態で、河川区域の区域内の土地に当たる本件場所を占用して本物件を建て、そこを起居の場所としているため、河川管理者から本物件の除却等を命ぜられ本物件を起居の場所として使用することができなくなり得る不安定な立場にあるといえる。
⑵ 審査請求人の主張の⑺について
 本物件及びその設備については、2の⑴のア記載のとおり。
⑶ 審査請求人の主張の⑻について
 河川法は第1条で「この法律は、河川について、洪水、津波、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより、国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することを目的とする。」とその目的を定めている。また、同法第2条第1項では「河川は、公共用物であって、その保全、利用その他の管理は、前条の目的が達成されるように適正に行なわれなければならない。」としている。これら各条項の趣旨に鑑みると、住居が建設されることを前提にしていると解することはできないと認識している。
⑷ 審査請求人の主張の⑼について
 本物件については、雨風をしのぐことができるものであるということはできるものの、人の通常の日常生活に必要な最低限の設備が備えておらず、本物件が河川管理者の許可を受けることができない様態で、河川区域の区域内の土地に建設されたものであると判断できることから、客観的に住所としての定型性を具備していると評価することはできない。よって、本件場所は住民基本台帳法にいう住所として認められるものではないと判断している。

理由
1 本件に係る法令等の規定について
⑴ 住基法関係
 住基法第1条は「この法律は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)において、住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り、あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め、もつて住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする。」と規定している。
 住基法第3条第1項は「市町村長は、常に、住民基本台帳を整備し、住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに、住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」と規定し、同条第3項は「住民は、常に、住民としての地位の変更に関する届出を正確に行なうように努めなければならず、虚偽の届出その他住民基本台帳の正確性を阻害するような行為をしてはならない。」と規定している。
 住基法第4条は「住民の住所に関する法令の規定は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第10条第1項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならない。」と規定し、総務省において定めている住民基本台帳事務処理要領(昭和42年10月4日自治省行政局長通知)では、住所の認定にあたっては、客観的居住の事実を基礎とし、これに当該居住者の主観的居住意思を総合して決定する。住所の認定に疑義または争いがあるときは、事実の調査を行い、その真実の発見に努めるものとするとされている。
 住基法第5条は「市町村は、住民基本台帳を備え、その住民につき、第7条及び第30条の45の規定により記載をすべきものとされる事項を記録するものとする。」と規定し、住基法第6条第1項は「市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならない。」と規定し、住基法第7条第7号は、住民票に記載又は記録すべき事項として「住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については、その住所を定めた年月日」と規定している。
 住基法第8条は「住民票の記載、消除又は記載の修正(第18条を除き、以下「記載等」という。)は、第30条の3第1項及び第2項、第30条の4第3項並びに第30条の5の規定によるほか、政令で定めるところにより、第4章若しくは第4章の3の規定による届出に基づき、又は職権で行うものとする。」と規定し、住基法第8条を受けて、住民基本台帳法施行令(昭和42年政令第292号)第11条は「市町村長は、法第4章又は法第4章の3の規定による届出があつたときは、当該届出の内容が事実であるかどうかを審査して、第7条から前条までの規定による住民票の記載、消除又は記載の修正(以下「記載等」という。)を行わなければならない。」と規定している。
 住基法第22条第1項は「転入(新たに市町村の区域内に住所を定めることをいい、出生による場合を除く。以下この条及び第30条の46において同じ。)をした者は、転入をした日から14日以内に、次に掲げる事項(いずれの市町村においても住民基本台帳に記録されたことがない者にあつては、第1号から第5号まで及び第7号に掲げる事項)を市町村長に届け出なければならない。」と規定し、同項各号において「氏名」「住所」「転入した年月日」等を掲げている。
 住基法第38条第1項「地方自治法第252条の19第1項の指定都市(以下「指定都市」という。)に対するこの法律の規定で政令で定めるものの適用については、区及び総合区を市と、区及び総合区の区域を市の区域と、区長及び総合区長を市長とみなす。」と規定している。
⑵ 河川法関係
 河川法第1条は「この法律は、河川について、洪水、津波、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより、国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進することを目的とする。」と規定している。
 河川における占用の許可については、河川法第24条において「河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く。以下次条において同じ。)を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。」と規定され、工作物の新築等の許可については、河川法第26条第1項において「河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。河川の河口附近の海面において河川の流水を貯留し、又は停滞させるための工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者も、同様とする。」と規定されている。
2 争点について
 審査請求人が、本件場所内に住基法にいう住所を有しているといえるか否かである。
3 争点に係る判断について
⑴ 住基法にいう「住所」の意義
 住基法にいう「住所」とは、生活の本拠、即ち、その者の生活に最も関連の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、社会通念に照らし、客観的に生活の本拠としての実体を具備しているか否かによって決すべきである。(最高裁平成19年(行ヒ)第137号同20年10月3日第2小法廷判決・裁判集民事229号1頁及び同事件の原審判決である大阪高裁平成18年(行コ)第10号同19年1月23日判決)
⑵ 本件における検討
ア 本件場所は、河川法上の一級河川である〇〇川の河川区域(同法第6条第1項)の区域内にあるが、河川区域は、いつ発生するかわからない洪水、津波、高潮等の災害による被害を除却・軽減する機能を有するものであることに鑑みれば、河川区域の区域内の土地については起居など人の日常生活の場として使用することはおおよそ想定されていないことは明らかである。
イ 現に、審査請求人は、本物件について、〇〇川の河川管理者に対し、同法第24条に基づく占用許可及び同法第26条第1項に基づく工作物新築許可申請をしたが、いずれについても不許可処分がされており、本物件は、河川法に違反して河川区域の区域内に不法に設置された工作物として、除却命令や原状回復命令といった監督処分(同法第75条第1項)がなされ得る状態にあると認められる。
 さらに、河川管理者が行った上記不許可処分の処分書によると、不許可処分の理由として、洪水時に本物件が流失することによって河川管理施設又は工作物を破損させる原因となり治水上の支障が生じることや本物件の設置によって一般公衆の河川の利用を妨げることが挙げられており、本物件は、当該治水上の支障及び一般公衆の河川の利用の妨害といった危険性を既に生じさせていることが窺われるのであって、上記の除却命令や原状回復命令といった監督処分のみならず、本物件の除却や原状回復が行政代執行手続に基づいて実行され得る状態にあると認められる。
ウ この点、審査請求人は、審査請求書において、本物件が容易に撤去・移転されないこと、独立した電気設備があること及び独立した排せつ設備があることをもって同人が本件場所に住所を有しているといえる旨主張するが、仮にこれらの事実が認められるとしても、本物件が河川法に違反して河川区域内に不法に設置された工作物である以上、河川管理者による監督処分及び行政代執行手続によって本物件における居住が不可能になり得る不安定な状態にあると認められることに変わりはないのであって、本件において当該事実をもって審査請求人が本件場所に住所を有していると認めることはできない。なお、生活基盤の1つといえる水道設備が本物件に存在しないことは審査請求人自身も審査請求書において認めるところである。
エ 以上のとおり、本物件については、起居など人の日常生活の場として使用することはおおよそ想定されていない河川区域の区域内の土地に所在し、現に、審査請求人からの河川法第24条に基づく占用許可及び同法第26条第1項に基づく工作物新築許可の申請に対して河川管理者が不許可処分をしており、本物件における居住は、河川管理者による監督処分及び行政代執行手続によって不可能になり得る不安定な状態にあるものである。
 そうすると、本物件の所在する本件場所については、社会通念に照らし、客観的に生活の本拠としての実体を具備しているとはいえないと認められる。
⑷ 結語
 以上から、本件場所については、住基法にいう「住所」には当たらない。
⑸ 争点に係るその余の審査請求人の主張について
 審査請求人は、行政実例を挙げて本件場所が住基法上の住所である旨主張するが、次のとおり、審査請求人が主張する各行政実例は、いずれも本件において必ずしも参考となるものではなく、それらをもって同人が本件場所内に住基法上の住所を有していると認める要素とはならない。
ア 行政実例のうち、「昭和31年2月6日日記戸第103号福井地方法務局長照会・同年2月15日民事⑵発第63号民事局第2課長回答」については、河川区域の区域内と思われる場所を住所として認定することに差支えない旨の回答との解釈も可能であるが、当該行政実例は、今日と社会情勢が異なる当時のものであることに加え、河川管理者による監督処分及び行政代執行手続によって居住が不可能になり得る不安定な状態にあると認められることが前提となっているかが必ずしも明らかではない。
イ 「昭和29年11月25日茨城県戸籍事務協議会総会決議」については、洞くつや山中において住民登録を認めた実例であるとの解釈も可能であるが、当該行政実例も、今日と社会情勢が異なる当時のものであることに加え、洞くつや山中についてのものであって、本件のように、河川法に違反して河川区域の区域内に設置された物件についてのものではない。
 その他審査請求人は縷々主張するが、いずれも独自の見解であって採用することはできない。
4 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 その他本件処分に違法又は不当な点は認められない。
5 結論
 以上のとおり、本件審査請求は理由がないから、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により、主文のとおり裁決する。

平成30年11月15日
審査庁 大阪市長 吉村 洋文

裁決書(平成30年度答申第12号)

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