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平成30年12月7日付け裁決(答申第16号)

2023年2月17日

ページ番号:460055

裁決書

審査請求人
〇〇〇〇
処分庁
大阪市〇〇区保健福祉センター所長

 審査請求人が平成29年1月19日に提起した処分庁による生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)第78条の規定に基づく徴収金決定処分(○○第○○号。以下「本件処分」という。)に係る審査請求(以下「本件審査請求」という。)について、次のとおり裁決する。

主文
 本件処分を取り消す。

事案の概要
1 平成17年1月26日、処分庁が審査請求人に対し、法による保護を開始した。
2 平成27年6月23日、審査請求人が処分庁に対し、平成26年〇月から平成27年〇月までの間の収入申告書及び年金額改定通知書を提出した。
3 平成27年7月、平成27年度個人市民税調査により、審査請求人の公的年金収入金額と収入申告額に相違があることが判明した。
4 平成28年6月23日、審査請求人が処分庁に対し、平成27年〇月から平成28年〇月までの間の収入申告書及び年金額改定通知書を提出した。
5 平成28年11月7日、処分庁が審査請求人に対し、本件処分をした。
6 平成29年1月19日、審査請求人が大阪市長に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をした。

審理関係人の主張の要旨
1  審査請求人の主張
(1)平成26年の収入申告義務の説明について、審査請求人は、当時視力がほとんどない状態であるにも関わらず、娘である審査請求人代理人(以下「代理人」という。)の立ち合いなく行われた。
(2)今まで、年金が多く入るということは1度もなく、遡及分、時効特例加算分という存在自体分かっていなかった。
(3)毎年の収入申告の際には、年金が振り込まれている通帳を提示していた。
(4)処分庁は、平成26年〇月の収入について、平成27年には、わかっていたはずである。
2 処分庁の主張
 法第78条第1項は「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と定めている。また法第61条は「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、又は居住地若しくは世帯の構成に変動があったときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と定めており、保護開始時だけでなく、平成26年8月19日に審査請求人に説明を行っている。
 なお、平成27年度個人市民税調査の遅れについては、A年金事務所等への調査に時間を要したためである。
 また、平成27年6月23日および平成28年6月23日に提出された収入申告書と一緒に提出のあった年金額改定通知書の年額に、今回徴収決定となった年金の遡及分と時効特例分等(以下「本件収入」という。)は反映されておらず、収入申告書にも記載がなく、通帳の写し等の添付もない。
 よって、本件処分に至ったものである為、処分庁の判断に何ら不当性は存在しない。

理由
1 本件に係る法令等の規定について
(1)法第4条は、生活保護制度における基本原理の一つである「保護の補足性」について規定しており、その第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めている。また、法第5条は、「この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基づいてされなければならない。」と定めている。
(2)法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と定めている。
 これは、生活保護制度により保障されるべき最低限度の生活は、生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)によって、要保護者各々について具体的に確定され、その保護の程度は、保護の基準によって測定された需要と要保護者の資力(収入)とを対比し、その資力で充足することのできない不足分について扶助されることを定めているものである。
(3)法第28条及び第29条で保護の実施機関には積極的な調査権限が付与されているが、併せて、法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と規定し、被保護者に対し、届出の義務を課している。
(4)法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。
(5)生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下「課長通知」という。)の「2 法第78条に基づく費用徴収決定について」では、法第78条の条項を適用する際の基準は、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」と示されている。
(6)生活保護問答集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡)の問13-22の答において、法第78条による「徴収額は、不正受給額を全額決定するものであり、法第63条のような実施機関の裁量の余地はないもの」とされており、また、問13-25において、「法第78条に基づく費用の徴収は、いわば損害追徴としての性格のものであり、法第63条や法第77条に基づく費用の返還や徴収の場合と異なり、その徴収額の決定に当たり相手方の資力(徴収に応じる能力)が考慮されるというものではない」と示されている。
2 争点
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は、審査請求人が本件収入を申告しなかったことが「不実の申請その他不正な手段」といえるか否かである。
3 争点に対する判断
 前提として、本件収入が未申告であること、本件収入が、平成26年6月の収入申告後、年金額の再計算が行われたことにより、過去に支給すべきであった分として追加で振り込まれた年金及び増額となったため同月に申告した年金額と異なることとなった差額分であることについては、審査請求人も争っておらず、年金収入により被保護者の活用可能な資産が増加したといえるから、本件収入が、収入認定すべき収入であることは明らかである。
 本件の争点である「不実の申請その他不正な手段」(法第78条第1項)には、積極的に虚偽の事実を申請することはもちろん、消極的に真実を隠ぺいすることも含まれると解されるが、審査請求人がこれらに該当する前提として、そもそも当該収入の存在について認識していたことが必要である。
 この点に関し、審査請求人は、反論書等において、年金が追加で振り込まれていることは知らなかった旨主張しているところ、大阪市行政不服審査会(以下「審査会」という。)による調査審議の中で、以下のような事実が確認された。
 まず、平成26年〇月〇日に審査請求人の記名・押印がなされ、「昭和47年〇月~昭和47年〇月」の期間の国民年金の納付について、「未納」から「納付」に訂正し、年金額を再計算する旨申し立てる「年金記録の訂正についての回答書兼年金額の再計算についての申出書及び時効特例給付支払手続用紙」(以下「訂正等請求書」という。)が厚生労働大臣あて提出されている。
 また、審査請求人に対して送付されたことまでは確認されていないが、一般的な流れとして、上記訂正等請求書の提出を受けて、厚生労働省から、再計算された年金額を伝える「年金支払通知書」が訂正等請求者に対し送付されているとのことである。
 上記判明した事実を受けて、審査会から審査請求人に対し、訂正等請求書提出に係る経過について改めて確認したところ、審査請求人としては、訂正等請求書の署名の筆跡は審査請求人のもののように見受けられるが、審査請求人本人は署名した記憶はなく、記載された住所・電話番号の筆跡は当時のケアマネージャーのもののように見受けられ、また、審査請求人は当時、手紙、ハガキの読み取りは困難となっていたとのことであった。さらに、年金支払通知書についても、確認していないとのことであった。
 ここで、審査請求人が当時、手紙やハガキの読み取りに困難をきたしていた事実や、ケアマネージャーが手続きに関与していた事実は確認できないが、審査請求人は高齢であり、年金の追加給付を受けるための書類であるとの認識が不十分のまま署名し、それを代理人に伝えていなかった可能性は否定できない。そして、審査請求人及び代理人は、一貫して、本件収入を知らなかったと述べていることから、審査請求人、代理人とも請求を行った認識のないまま、本件収入が振り込まれるに至った可能性も否定できない。
 しかし、仮に、事前に本件収入について振込がなされるとの認識がなかったとしても、平成26年〇月〇日に本来支給されるはずの年金に〇〇円の5年遡及分が加算されているため通例の約1.5倍の金額が振込まれていること及び〇〇円の時効特例加算分の振込が年金支給月ではない同年〇月〇日であることが通帳の記録からそれぞれ明白であり、少なくともこれらの振込があった以降においては、通帳を確認すれば容易に収入について気付くことができたはずであって、審査請求人あるいは代理人が本件収入の存在を事後的に認識し得たとも考えられるので、以下検討する。
 上記に関して、審査会が、口頭意見陳述の際に審査請求人に確認したところでは、審査請求人と代理人は同居しておらず、通帳の管理は娘である代理人が行っていたとのことであり、記帳は4ヶ月に1回くらいで、代理人は当時多忙のため、平成26年〇月、〇月の振込については気付かなかったとのことである。
 ここで、通帳の記録上、審査請求人の生活に必要な額のみ必要な時期にキャッシュカードで預金の払戻しを受けていたことが窺われるために逐一記帳をしていない可能性があることから、代理人が当時多忙のために上記それぞれの入金について気付かなかったという主張は一概に不合理なものであるとは認められない。そして、通帳の管理を行っている代理人が気付いていなかったのであれば、通帳を所持していない審査請求人も本件収入について当然気付いていなかった可能性も認められる。
 また、仮に年金が追加で振り込まれることを認識していたとしても、上記訂正等請求が平成26年〇月になされたことからすれば、処分庁に提出済みの年金額改定通知書に反映されているものと思っていたとの審査請求人の主張も一概に不合理なものであるとまではいい難い。
 さらに、本件収入の振込口座を生活保護費の振込口座と別の口座にしなかったことは、発覚のおそれを高めるものであり、不正の意図を有する者の行動とは認め難い。
 以上から、審査請求人あるいは代理人が、本件収入についてそもそも認識していなかった可能性は否定できず、また、認識していたとしても隠ぺいする意図を有していなかったものと考えざるを得ない。
 ここまでに検討したところを踏まえ、本件の事実関係に基づき総合的に判断すると、本件収入について申告しなかったことが、積極的に虚偽の事実を申請することにも、消極的に真実を隠ぺいすることにも当たらないから、法第78条第1項にいう「不実の申請その他不正な手段により」保護を受けたとまではいえないというべきである。
 にもかかわらず、法第78条を適用して審査請求人に保護費の返還を求めた本件処分は要件を欠き違法である。
4 結論
 以上のとおり、本件審査請求は理由がないから、行政不服審査法第46条第1項の規定により、主文のとおり裁決する。

平成30年12月7日
審査庁 大阪市長  吉村 洋文

裁決書(平成30年度答申第16号)

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