答申書(平成31年度答申第1号)
2023年2月17日
ページ番号:471388
諮問番号:平成30年度諮問第4号
答申番号:平成31年度答申第1号
答申書
第1 審査会の結論
本件審査請求に係る処分のうち日本中央競馬会及びテレボートからの口座への入金○○円に係る決定部分は取り消されるべきであり、その他の部分については棄却されるべきである。
第2 審査請求に至る経過
1 平成28年10月11日、大阪市A区保健福祉センター所長(以下、「処分庁」という。)が審査請求人に対し、生活保護法(以下、「法」という。)による保護を開始した。
2 平成28年12月1日、審査請求人が処分庁に対し、収入が無い旨記載した収入申告書を提出した。
3 平成29年5月26日、審査請求人が処分庁に対し、収入が無い旨記載した収入申告書を提出した。
4 平成29年7月3日、処分庁がB銀行から、審査請求人名義の口座の出入金記録に関する法第29条に基づく調査に対する回答を受理した。
5 平成29年7月6日、処分庁が審査請求人に対し、法第78条に基づく徴収金決定に関する処分(○○第○○号)(以下、「本件処分」という。)を行った。
6 平成29年7月25日、審査請求人が大阪市長に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をした。
第3 審理員意見書の要旨
本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1 審査請求人の主張
(1)本件処分を取り消すとの裁決を求める。
(2)競馬、競艇のインターネット投票を行ったが、日本中央競馬会やテレボートが指定する口座にお金を預けたものの、勝ってもいないのに返還を受けたお金を申告すべき収入と認定されることには納得できない。そもそも、ギャンブルの払戻金が申告すべき収入にあたるとの説明も受けていない。
(3)就労収入については、当時、人間関係のもつれから自分の身に危険を感じることがあり、申告書に記入して提出できるような状況にはなかった。もっとも、仕事をしている事と給料の収入があった事は口頭で報告しており、給料の収入を隠したことはない。
2 処分庁の主張
(1)本件処分は、適法に行ったものであり、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
(2)法第61条において、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」とされており、生活保護の被保護者は、保護の実施機関へ収入を届け出る義務がある。届出義務については、保護の開始時に説明済みである。
(3)法第78条第1項において、「不実に申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる」とされている。法第78条の条項を適用する際の規準に関しては、生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下「課長通知」という。)の2の④では、「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」とされている。この点、審査請求人は、審査請求書において、「ギャンブル収入があるとの事で納得が出きません。インターネットで競馬とボートの口座にお金をあずけ、勝ってもないのに、当月返かんされたお金を収入とされています。」と主張しているが、処分庁として、これらの入金が収入にあたるとともに、競馬等の投票額にかかわらず、払い戻しによる入金額の全額を徴収金として決定すべきと判断し、本件処分を行ったものである。
(4)本件の事実経過の中で、審査請求人は、収入申告書を「提出しなければならないと説明がなかった。」とも主張しているが、処分庁は、審査請求人に対し生活保護開始時に、生活保護のしおりを用いて収入申告義務を含む生活保護制度全般について説明しており、当該説明を受けたことに関し審査請求人も署名しているし、収入申告義務に関しては、「生活保護法第61条に基づく収入の申告について(確認)」についても提出を受けている。このように、審査請求人は、収入があった際には申告をしなければならないと説明を受けたうえで、その内容を理解している旨署名捺印していたにもかかわらず、平成28年10月11日の保護開始以降の就労収入並びに競馬及び競艇による収入について、故意に申告せず、生活保護を受給していたのであり、明らかに法第61条の届出義務に反している。そして、これらの収入に関しては、処分庁が行った法第29条に基づく照会の回答結果により判明したものであるから、処分庁として、課長通知2の④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当し、法第78条の条項を適用すべきと判断したものである。
(5)以上のとおり、本件処分は、法に基づき適正に行われたものであり、違法又は不当な点がないことから、本件審査請求は理由なしとして棄却されるべきである。
3 審理員意見書の結論
本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4 審理員意見書の理由
(1)本件に係る法令等の規定について
ア 法第4条は、生活保護制度における基本原理の一つである「保護の補足性」について規定しており、その第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めている。また、法第5条は、「この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基いてされなければならない。」と定めている。
イ 法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と定めている。
これは、生活保護制度により保障されるべき最低限度の生活は、生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)によって、要保護者各々について具体的に確定され、その保護の程度は、保護の基準によって測定された需要と要保護者の資力(収入)とを対比し、その資力で充足することのできない不足分について扶助されることを定めているものである。
ウ 法第28条及び第29条で保護の実施機関には積極的な調査権限が付与されているが、併せて、法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と規定し、被保護者に対し、届出の義務を課している。
エ 法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。
オ 生活保護法による保護の実施要領について(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)第8-3-(3)において、収入として認定しないものが列記されており、また、次官通知第8-3-(5)において、勤労に伴う必要経費以外で、収入から控除することが認められている必要経費が列記されている。
カ 生活保護行政を適正に運営するための手引について(平成18年3月30日社援保発第0330001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)で提示されている「生活保護行政を適正に運営するための手引」のⅣ-3-(1)の注)において、「『不実の申請その他不正な手段』とは、積極的に虚偽の事実を申し立てることはもちろん、消極的に事実を故意に隠蔽することも含まれる。刑法第246条にいう詐欺罪の構成要件である人を欺罔することよりも意味が広い。」と示されている。
キ 課長通知の「2 法第78条に基づく費用徴収決定について」では、法第78条の条項を適用する際の基準について、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」と示されている。
ク 生活保護問答集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡。以下「問答集」という。)の問13-22の答において、法第78条による「徴収額は、不正受給額を全額決定するものであり、法第63条のような実施機関の裁量の余地はないもの」とされており、また、問13-23の答の「(3)法第78条を適用する場合」において、「意図的に事実を隠蔽したり、収入の届出を行わず、不正に保護を受給した者に対しては、各種控除を適用することは適当ではなく、必要最小限の実費を除き、全て徴収の対象とすべきである。」と示されている。さらに、問13-25の答において、「法第78条に基づく費用の徴収は、いわば損害追徴としての性格のものであり、法第63条や法第77条に基づく費用の返還や徴収の場合と異なり、その徴収額の決定に当たり相手方の資力(徴収に応ずる能力)が考慮されるというものではない」と示されている。
(2)本件処分について
ア まず、平成28年10月17日に、生活保護制度について説明を受け、しおりを受け取ったことに関する審査請求人の署名及び捺印がなされ、平成28年10月21日に、「生活保護法第61条に基づく収入の申告について(確認)」に記載の収入申告義務に関する説明を受け、理解したことに関する審査請求人の署名及び押印がなされた事実が認められる。
イ よって、審査請求人は、法第61条に定められた「収入、支出その他生計の状況について変動があったとき」の届出義務を理解していたものと認められるが、C株式会社、日本中央競馬会及びテレボートから、B銀行a支店の審査請求人名義の口座への入金を申告していなかった。
ウ そもそも、審査請求人は、保護開始申請時の平成28年10月11日付けの資産申告書にB銀行の預金口座を記載しておらず、収入申告義務の説明を受けた後も、処分庁に対し、当該預金口座の存在を申告することはなかった。
また、平成28年11月1日付けの「求職活動状況・収入申告書」には、同日時点においてC株式会社で勤務していたにもかかわらず、同社の採用に応募したものの不採用となった旨が記載されていた。
エ これらの経過を踏まえると、審査請求人には、B銀行の預金口座の存在及び同預金口座への入金を隠蔽し、不正に保護を受けようとする意図があったと認めざるを得ず、「消極的に事実を故意に隠蔽」したことに該当する。
そして、B銀行の預金口座の存在並びに就労収入及び競馬等の払戻金の入金の事実は、処分庁が行った法第29条に基づく調査により発覚したものであることから、課長通知2-④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当すると考えられるため、本件処分について、法第78条の条項を適用した処分庁の判断に不合理な点はない。
オ なお、審査請求人は、審査請求書において、「インターネットで競馬とボートの口座にお金をあずけ、勝ってもないのに、当月返かんされたお金を収入とされています。」と述べ、また、反論書において、「『ギャンブルの払いもどし金が収入になる』との説明は一切されていません」と述べており、競馬等の払戻金が収入として認定されることが違法又は不当であると主張しているものと考えられる。
しかし、法第61条は、「収入、支出その他生計の状況について変動があったとき」の届出義務を定めたものであることから、競馬等の払戻金であっても、届出義務の対象であるし、また、競馬等の払戻金は次官通知第8-3-(3)で列記されている収入として認定しないもののいずれにも該当しないため、請求人の主張を採用することはできない。
(3)上記以外の違法性又は不当性についての検討
他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。
第4 調査審議の経過
当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
平成30年6月6日 諮問書の受理
平成30年7月23日 審査庁からの主張書面の収受
平成30年8月17日 調査審議(審査庁による口頭説明・処分庁による陳述)
平成30年9月26日 調査審議(審査請求人による口頭意見陳述)
平成30年10月24日 調査審議
平成30年11月27日 審査庁からの主張書面の収受
平成30年11月28日 調査審議
平成30年12月19日 調査審議(審査庁による口頭説明)
平成31年1月16日 審査庁からの主張書面の収受
平成31年1月23日 調査審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件に係る法令等の規定について
前記第3、4、(1)に記載のとおりと認められる。
2 争点について
審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は次のとおりである。
(1)競馬、競艇の払戻金等は収入認定すべき収入に該当するか否か(争点1)
(2)審査請求人は保護費を不当に受給しようとする意思をもって、申告すべき収入を申告していなかったことが認められるか(争点2)
3 争点1に係る審査会の判断について
(1)前記第3、4、(1)、アのとおり、保護の補足性について定めた法第4条第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と規定されている。そして、かかる法の規定からすると、収入認定すべき収入にあたるか否かは、その金銭を得たことにより、被保護者の最低限度の生活の維持のために活用可能な資産が増加したか否かの観点から検討すべきこととなる。
審査請求人は、日本中央競馬会及びテレボートからの前記入金について、インターネットによる投票のため、日本中央競馬会及びテレボートの指定する口座への入金を行ったものの、投票には費消されずにそのまま同人に返金されたものが含まれている旨主張しており、そうであるとすると、最低限度の生活の維持のために活用可能な資産が増加したか否かの観点から、本件入金の中には収入認定すべき収入にあたらないものが含まれている可能性があるため、当審査会では審査請求人のかかる主張について検討を行った。
(2)まず、法第1条は、生活保護の目的の一つとして、国民の「最低限度の生活」の保障を掲げ、法第3条は「最低限度の生活」の意義として「健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」と定めている。これによれば、生活保護費を娯楽の費用に充てること自体が法的に否定されているとまではいえない。一方で、娯楽の一種である競馬、競艇等は、その投票のために支出をすることにより、別途新たな金銭の受領が想定されるものであって、この点につき、他の娯楽とは異なる、競馬、競艇等の特殊性があるといえる。
以上を踏まえ、審査庁は、平成31年1月16日付収受の主張書面(2)において、法の目的とする「最低限度の生活」の保障は、最低限度の生活に必要となる金銭を「生活保護費」として支給する方法で実施されることが想定されていることから、日常生活の中で当然に必要な需要に費消されることが予定されており、かつ、費消された時点でその目的を達するものとしたうえで、審査請求人は、競馬、競艇のインターネット投票を目的として、当該月の生活保護費のうちの一部を日本中央競馬会及びテレボート指定の口座に送金したものであるから、同口座に送金された生活保護費は、送金の時点で他の需要を排除し、競馬、競艇での投票に充てられることが明白になったといえるとしている。
確かに、事件記録の他、これまでの調査審議において明らかになった事実関係によれば、前述の審査請求人が送金を行った日本中央競馬会及びテレボートの指定口座は、インターネット投票においてその投票のための資金を集約するための専用の口座であるといえる。したがって、被保護者から上記本中央競馬会及びテレボートの指定口座への送金が為された時点において、その送金された生活保護費の全部が競馬、競艇のための費用として費消され、その目的を達したものと評価することも不合理ではないといえる。
さらに、このように考えるとすると、日本中央競馬会及びテレボートからの入金額の全ては、その内訳が当たりに伴う配当金か、投票への費消なく返還された金員かの如何にかかわらず、審査請求人において活用可能な資産が新たに生じたものとみなされることになり、この点でも不合理であるとまではいえない。
(3)以上のことから、審査請求人に係る、日本中央競馬会及びテレボートからの入金額全額を収入認定すべき収入に該当するとした、処分庁の判断は不合理とはいえないというべきである。もっとも、後述のとおり、競馬、競艇の払戻金等の取り扱いについては、処分庁の主張するような評価方法が唯一の合理的な方法であるわけではなく、その他の方法も含めて、なお考究の余地があることも否定しがたい。
4 争点2に係る審査会の判断について
(1)法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」た者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収することを規定している。ここでいう「不実」とは、積極的に虚構の事実を構成することはもちろん、消極的に真実を隠ぺいすることも含まれると解されている。また、課長通知では、「被保護者に不当に受給しようとする意思がないことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるとき」等は、「法第63条の適用が妥当である」と示されている。以上から、法第78条の適用にあたっては保護費を不当に受給しようとする意思があることが求められるとともに、課長通知における各基準はその客観的事情を示しているものと解される。
こうしたことを踏まえ、当審査会では、審査請求人が保護費を不当に受給しようとする意思をもって、課長通知の基準に該当する行為を行ったことが認められるかという点について、本件の事実関係に照らして検討を行った。
(2)審理員意見書、事件記録によると、処分庁は、審査請求人の保護開始時に、保護費は国の定めた保護基準による最低生活費から被保護者の収入を差し引いた額を支給する旨と、保護費の額を決めるためにどんな収入でも必ず届け出をしなければならないことについて、生活保護のしおりを用いて説明を行っていることが認められ、同しおりには、給与収入等の「働いたことにより得た収入」が届出を要する収入であることが明示されている。また、事件記録によると、審査請求人が提出した収入申告書の様式自体にも「働いて得た収入」の記載欄が明記されている。
したがって、給与収入が収入申告書に記載すべき収入であることは明らかであり、勤務先からの給与が入金されたときには処分庁に対して収入申告を行う義務があること、及び収入申告を行わなかった場合、保護費を本来支給される額以上に受給する可能性があることについて、審査請求人は理解しているものと認められる。
しかしながら、審査請求人は、保護開始申請時に提出する資産申告書において、同人名義のB銀行の預金口座の存在を明らかにせず、その後、審査請求人が収入申告義務の説明を受けた後も、同口座の存在を自ら申告しなかったことが認められ、別途、処分庁が法第29条に基づいて行った調査により、審査請求人の前記勤務先、及び同社からの給与収入が同口座に送金されていたことが判明したものである。また、事件記録によれば、審査請求人が提出した平成28年11月1日付「求職活動状況・収入申告書」においては、その時点でも前記勤務先にて就労していたにもかかわらず、「不採用になった」等と事実と異なる記載をしていたことが認められる。
以上のことからすれば、審査請求人は、少なくとも前記勤務先からの入金については、収入申告義務を理解しながらも、前記入金のある預金口座の存在をと同口座への入金を収入申告書等に記載せず、以て、虚偽の収入申告書を提出する等したものと認めざるを得ない。よって、課長通知2-④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当する行為を行ったものと認められる。
この点、審査請求人は、「仕事に行っている事と収入があった事も口頭で報告しています」、「昨年(平成28年)の12月末に命にかかわる出来事があり、これからの事を考えると、書類の提出どころではありませんでした」等と主張する。しかしながら、事件記録によれば、審査請求人の具体的な勤務先や、同勤務先からの具体的な収入額は、既述のとおり、処分庁が別途行った法第29条に基づく調査で初めて判明したものであり、就労の事実やその収入について、処分庁が審査請求人から口頭で報告を受けた旨の記録はない。また、審査請求人のいう「命にかかわる出来事」についても、これを示す客観的な裏付けはないうえ、仮にそのような出来事が存在したとしても、審査請求人は、平成28年12月1日、及び同月26日に大阪市A区保健福祉センターに来所しているのであるから、その際に、少なくとも口頭により、就労の事実とその収入について処分庁に申告することはできたはずであり、被保護者の申告義務が免除される理由にはならないというべきである。
よって、少なくとも、前記勤務先からの審査請求人名義のB銀行口座への入金相当分については、審査請求人が保護費を不当に受給する意思を以て、申告すべき収入を申告していなかったものと認められる。
(3)既述のとおり、審理員意見書、事件記録によると、処分庁は、審査請求人の保護開始時に、保護費は国の定めた保護基準による最低生活費から被保護者の収入を差し引いた額を支給する旨と、保護費の額を決めるためにどんな収入でも必ず届け出をしなければならないことについて、生活保護のしおりを用いて説明を行っていることが認められるところ、前記給与等の「働いたことにより得た収入」とは異なり、競馬、競艇等による収入については、同しおりにおいて申告すべき収入であるとは明記されていない。また、事件記録によれば、競馬、競艇等について「払い戻し」による入金については徴収対象とされているものの、審査請求人が主張する、一度投票のための資金として日本中央競馬会等の指定口座に送金はしたものの、現に投票には費消しないまま被保護者の下に返還された金員についての取扱いは何ら示されていない。
そもそも、被保護者が競馬、競艇等により得た収入についての「収入認定すべき収入」の算出については、法律上一義的に定められた算出方法や、処分庁としての統一的な取扱いの基準が存在するわけではなく、例えば馬券・舟券毎に算出する、レース毎に算出する、日単位で算出する、月単位で算出する等の様々な方法が考えられる。また、前記3、(3)のとおり、審査庁、処分庁における算出方法の考え方は不合理とはいえないが、その他の算出方法が否定されるべきとまでもいえず、実際にも、各地方公共団体において、各々、個別の考え方、根拠を以て収入を算出し、収入認定を行なっているのが実情である。
以上のように、審査庁、処分庁において、競馬、競艇等による収入の算出方法が明確な基準として示されていない中で、審査請求人が、競馬、競艇等による収入に係る申告義務の有無や、申告義務の範囲を正しく認識し、審査庁、処分庁の想定に沿う申告を行うということは、極めて困難といわざるを得ない。
したがって、審査請求人が申告を行っていなかった収入のうち、日本中央競馬会及びテレボートからの入金によるものについては、審査請求人が収入申告義務を理解していたとはいえず、同収入に関して審査請求人が保護費を不当に受給しようという意思をもって、申告すべき収入を申告していなかったとはいえない。
5 小括
以上から、審査請求人の未申告収入について法第78条の規定を適用した本件処分のうち、同人の勤務先からの入金額合計金○○円に対する処分に違法又は不当な点は認められないが、日本中央競馬会及びテレボートからの入金額合計金○○円に対する処分には理由がなく、取り消されるべきである。
6 審査請求に係る審査手続について
本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
7 結論
よって、本件審査請求は一部理由がないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。
8 付言
前記4、(3)のとおり、現状では、被保護者に対して競馬、競艇等に起因する収入の取扱いが示されておらず、被保護者において申告義務の有無そのものを判断し難い事態が生じているといえる。被保護者の認識を促し、適正な生活保護行政を遂行するためにも、今後、競馬、競艇等を含む娯楽による収入の取扱いについての明確な基準を定めるとともに、被保護者への周知に努められたい。
(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
大阪市行政不服審査会総務第1部会
委員(部会長)
田中宏、委員 内山由紀、委員 片桐直人
答申書(平成31年度答申第1号)
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