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答申書(平成31年度答申第2号)

2023年2月17日

ページ番号:471391

諮問番号:平成30年度諮問第11号
答申番号:平成31年度答申第2号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求は棄却されるべきである。

第2  審査請求に至る経過
1 大阪市A区〇〇〇丁目において〇〇線整備に伴うA区〇〇号線道路付け替え工事のためB株式会社(以下「利害関係人」という。)は処分庁である大阪市長(以下「処分庁」という。)に対し、平成27年8月26日付けで道路法(昭和27年法律第180号、以下「法」という。)第24条の規定に基づき、道路工事施行承認申請を行った。
2 審査請求人らは、平成29年〇月〇日に審査請求人らの所有あるいは管理に係る土地の西隣の土地所有者より、利害関係人が設置した擁壁について「一昨日の雨で、擁壁の『水抜き孔』から道路の汚泥混じりの雨水が大量に敷地内に排出された」ことを知り、利害関係人と大阪市建設局C工営所に、審査請求人らの敷地境界線上に設置予定の擁壁のことについて説明を求めた。同時に「道路工事施行承認申請書」と「道路工事施行承認許可書(大阪市〇〇第〇〇号)」の開示を請求し、開示された「施行承認申請書」から、審査請求人らの敷地内に擁壁の基礎砕石の一部を設置して、重力式擁壁(以下「本件擁壁」という。)が設置される予定になっていることを知った。
 審査請求人らは、利害関係人と大阪市建設局C工営所に、本件擁壁の変更、擁壁の「基礎砕石」を審査請求人らの敷地内に設置しないこと、道路の雨水等が「擁壁の水抜き孔」から審査請求人らの敷地の中に排水されないようにすることを求めた。
 以上により、「道路工事施行承認許可書(大阪市〇〇第〇〇号)」は、道路工事施行承認(変更)に関する処分(大阪市〇〇第〇〇号)、すなわち本件処分に修正された。
3 本件処分地沿いに存する土地及び建物を所有あるいは管理する審査請求人らは、本件処分を不服として、平成29年6月29日、審査庁である大阪市長に対し、本件処分の取り消しを求める審査請求を行った。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1 審査請求人らの主張
(1) 国土交通省近畿地方整備局の設計便覧(示方書)に違反すること
ア 「基礎砕石の構造物よりの余幅」と「水抜き孔」がないこと
 本件処分の重力式擁壁展開図5-5、5-6について、本件「付替道路」と審査請求人らの敷地との境界線上に設置される予定となっている重力式擁壁には、「基礎砕石の構造物よりの余幅」と「水抜き孔」がない。
 国土交通省近畿地方整備局の「第3章 擁壁」の示方書においては、重力式擁壁の設置にあたっては、「基礎砕石の構造物よりの余幅については10㎝」、「水抜き孔は5m以内の間隔で設ける」としており、擁壁の設置には「基礎砕石の余幅」と「水抜き孔」を排除することはできない。
 これらがないと降雨のときや地震時には転倒や崩壊の危険が増大する。審査請求人らの聞いたところによれば、設計事務所の話では、仮に自然災害がなくても自動車の荷重の係る道路擁壁では、重力式擁壁は滑るとのことであり、滑って被害を受けるのは審査請求人らである。
イ  重力式擁壁の型式を選定する条件について
 本件処分の「Ⅰ章 躯体形状」においては、地下水位が70㎝となっており、本件処分の「Ⅰ章 設計条件」においても、擁壁の基礎の根入れの深さは50cm、基礎砕石の深さは20cmとしているため、擁壁自体が地下水上に設置されることになる。
 この一帯はもともと湿地帯で軟弱な地盤であるにも関わらず、「地盤補強」や「地盤改良」が行われていない。示方書においては、重力式擁壁の型式を選定する条件として、「自動車荷重の影響のない法尻及び境界」「底版反力が大きいため支持地盤の良好な箇所」と規定しており、軟弱な地盤や自動車の影響を受ける箇所に設置することは不向きとなっている。
 国土交通省近畿地方整備局は、上記の示方書を「近畿地方整備局管内の擁壁の設計に適用する」、「擁壁の設計は示方書及び通達がすべてに優先する」と定めている。
(2) その他、擁壁にかかる土圧及び構造計算等、擁壁の安全性について
 本件処分の「縦断図」「横断図」について、「付替道路」の敷地図面が、切土と盛土が混在する「付替道路」が以前あった道路敷の図面になっているが、現在は当該道路敷は、鉄道高架下の敷地になっているところであり、「付替道路」の敷地は全体が掘削されて100パーセント盛土となっているため、擁壁にかかる土圧及び構造計算は盛土100パーセントで算出されるべきである。
 以上の事情によれば、本件処分に基づき施行される工事は、震災等で擁壁が転倒や倒壊すると隣接地所有者や住民に甚大な被害が出ることが予想されるため、本件処分の取り消しを求める、というものである。
2 処分庁の主張等
(1) 本件処分の制度の趣旨について
 処分庁は、本件の道路工事施行承認の性質について、道路に関する工事又は維持は、道路管理の基本的な行為であり、その権限は、公物の管理主体である道路管理者に属するのが原則であるが、他の行政機関、私人などが自らの必要に基づいて道路に関する工事又は維持を行う必要が生じ、しかも、道路管理上支障がなければそれを許すための制度として、法において「道路管理者以外の者の行う工事」に関する制度が設けられており、本件処分についても、〇〇線整備に伴うA区第〇〇号線道路の付け替え工事を目的として、大阪市A区〇〇〇丁目に接する道路において、行った大阪市〇〇第〇〇号により行った道路工事施行承認についても工事計画内容の一部変更として行ったものであると説明している。
(2) 本件処分の妥当性について
 処分庁は、その上で、本件処分について、審査請求人らの申立ての論点に従って、次のとおり反論している。
ア 本市の仕様による重力式擁壁においては、適用条件に「車道」が定められており、その中でも、今回の擁壁上に整備を行う車道は生活道路であることから、本市の工事請負共通仕様書記載のC型に該当するため、自動車の荷重のかかる道路擁壁としては適している。
イ 基礎砕石を敷く目的は、擁壁本体の荷重を均等に地盤に伝えるためのものであり、擁壁の安定計算を行う際に「構造物の寸法」や「地盤の強度」に基礎砕石の部分を含めておらず、基礎砕石の余幅に関しては、重力式擁壁のコンクリートの打設に伴い設置するために必要な最低限の幅を示したものであり、当該重力式擁壁に基礎砕石の余幅がなくても擁壁の安定性には影響しない。
ウ 「道路土工 擁壁工指針」において、擁壁背面に雨水が侵入した場合、擁壁の安定性が損なわれることがあるため、上部より浸透した雨水をなるべく早く擁壁面に排出することを目的に水抜き孔を設置することとしているが、今回の施工においては、擁壁天端部の道路面を全面舗装し、擁壁の反対側へ雨水勾配を付け、側溝を設けることで排水処理を行うことから、工事竣工後の擁壁内に危険を及ぼすほどの雨水が浸透することは考えにくく、水抜き孔を設置しなくても擁壁の安定性には影響はない。
エ 当該重力式擁壁が軟弱な地盤に地盤改良を行わず設置する予定であることについては、基礎地盤の支持力を確認するため、平板載荷試験を地盤工学会基準「地盤の平板載荷試験方法」(JGS1521)に準じて実施しており、その試験結果によると、最大載荷圧力(250KN/m2)載荷時の最終沈下量は(3.54㎜)であり、地盤の破壊の目安とした沈下量(30㎜)には達していないことから、地盤改良等に関しては行わないものとしている。
オ 付替道路の敷地に切土と盛土が混在するため、擁壁にかかる土圧及び構造計算は100%の盛土で算出するべきことについては、既に盛土100%で算出している。
カ 擁壁が地震等で転倒するおそれに関しては、社団法人日本道路協会が設定している「道路土工 擁壁工指針(平成24年7月)」において、8m以下の擁壁で常時の作用に対して、擁壁の安定性と部材の安全性を満足する場合には、地震動の作用に対する照査を行わなくてもレベル1地震動(供用期間中に発生する確率が高い地震動)に対して、性能2(想定する作用による損傷が限定的なものにとどまり、擁壁としての機能の回復が速やかに行い得る性能)を、レベル2地震動(供用期間中に発生する確率が低いが、大きな強度を持つ地震動)に対して、性能3(想定する作用による損傷が擁壁として致命的とならない性能)を、それぞれ満足するとされているため、当該重力式擁壁は、地震により道路及び隣接する施設等に致命的な影響を与えることはない。
 以上のことから、本件処分は適法かつ妥当な行政処分であると反論している。
3 審理員意見書の結論
 本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4 審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 法第24条は、道路管理者以外の者が、道路に関する工事又は維持を行うことができる旨及びその場合の手続きを定めたものであり、道路に関する工事又は維持は、道路管理の基本的な行為であり、したがって、その権限は、公物の管理主体である道路管理者に属するのが原則であるが、本条の規定は、これに対しての特例を定めたものであり、他の行政機関、私人などが自らの必要に基づいて道路に関する工事又は維持を行う必要が生じ、しかも、道路管理上支障がなければそれを許すことが適当な場合があり、本件処分についても、鉄道事業法に基づく鉄道事業を行う利害関係人が、〇〇線の〇〇貨物線の複線化に伴い、隣接した道路(A区〇〇号線道路)の付替え工事の施行承認を処分庁あてに申請したものである。
イ 法第24条に定める「道路管理者以外の者」とは、国の行政機関、地方公共団体、私人等のいずれであるかを問わず、「道路に関する工事」とは道路の新設、改築又は修繕に関する工事を意味し、承認の申請は、道路工事に関する「設計」及び「実施計画」を提出して行うが、「実施計画」には工事区間、工事実施の方法、工事の時期等を記載されており、その他申請に関する細目事項については道路管理者の規則で定めることが出来ることとされている。本市においては、道路の新設、改築が本来道路管理者の所掌であるため、他の実施主体がこれを行う際の細目について、規則等の制定を行っていないが、本件処分の条件として、「工事の施行に際しては、『大阪市建設局共通仕様書』に基づき行うこととし、詳細について本市建設局所管工営所と事前に十分な打ち合わせを行い、その指示を得ること。」とした条件を付して、工事の施行を承認している。
ウ 「道路管理者の承認」により、申請者には申請に係る工事等を行う権能が与えられるが、この承認は自由裁量に属するものと解され、東京高裁の判例(平成20(行コ)192号)の不許可処分取消等請求控訴事件(原審・宇都宮地方裁判所平成18年(行ウ)第12号)においても、「道路法24条本文が定める道路管理者の承認も,自由裁量に属し,道路管理者は,その①工事等を行う必要性,②設計及び③実施計画の合理性並びに④道路管理上の支障の有無などを総合的に判断して,承認又は不承認の処分を行うことができる」と判示されているところである。
エ 本件処分については、先行した平成27年9月28日付けの道路工事施行承認(大阪市〇〇第〇〇号。以下「前回処分」という。)に関して、「擁壁に設置する水抜き孔(6m部分)の維持管理について、別途、道路維持担当と調整すること。」とする部分のみを変更した処分であり、前回処分に対しても審査請求人らから平成29年6月29日付けで、取り消しの裁決を求める審査請求がなされたが、処分庁大阪市は、これに対して、改正前行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第14条第3項に基づき、申立期間の1年を徒過したことを理由に却下する決定を行っている。
オ 上記①「工事等を行う必要性」については、平成14年12月に〇〇線整備事業において複線化を行う「〇〇~〇〇間」の工事施行が国土交通大臣に認可されており、工事施行に伴う線路に隣接する道路の付替えは止むを得ないものであると判断される。
カ また、上記②「設計」については、別に道路の設計基準を定める法令として、「大阪市が管理する道路の構造の技術的基準を定める条例」があるが、本件処分にて付け替えを行う道路にかかる「擁壁」に関しては、設計の詳細に関する条例等の規定は定められておらず、「工事の施行に際しては、『大阪市建設局共通仕様書』に基づき行うこと。」との記載があるのみである。また上記③及び④については、審査請求人らからの申立てのあった論点ではないものの、処分庁としては道路管理上の特段の支障がないものとして本件道路工事施行承認を行っているものと判断される。
(2) 「擁壁」の設計基準を定めた法令等の適用について
 本件処分により設置される「擁壁」については、上記(1)カで掲げた「大阪市が管理する道路の構造の技術的基準を定める条例」以外にも、法令等で「水抜き孔」を設けるべき規定が制定されているものがあるが、本件の「擁壁」については、いずれの法令等も適用を受けないものと解される。
ア 宅地造成等規制法施行令第10条(審査請求書「別紙7」)では、「第六条の規定による擁壁には、その裏面の排水を良くするため、壁面の面積三平方メートル以内ごとに少なくとも一個の内径が七・五センチメートル以上の陶管その他これに類する耐水性の材料を用いた水抜き孔を設け、かつ、擁壁の裏面の水抜き孔の周辺その他必要な場所には、砂利その他の資材を用いて透水層を設けなければならない。」とされているが、本件処分地は、大阪府の定める「宅地造成等規制区域」に該当しないため、宅地造成等規制法施行令第10条は適用されない。
イ 都市計画法施行規則第27条第1項第2号(審査請求書「別紙8」)では、「擁壁には、その裏面の排水をよくするため、水抜き孔が設けられ、擁壁の裏面で水抜き孔の周辺その他必要な場所には、砂利等の透水層が設けられていること。ただし、空積造その他擁壁の裏面の水が有効に排水できる構造のものにあつては、この限りでない。」とされているが、本件処分地は、「土地区画整理事業」「市街地再開発事業」のいずれの都市計画決定も受けていないため、都市計画法施行規則第27条第1項第2号は適用されない。
(3) 「道路土工―擁壁工指針」に定める「擁壁」に関する基準について
ア 本件処分と「道路土工―擁壁工指針」の関連について
(ア) 本件処分(大阪市〇〇第〇〇号)の「6 条件」においては、平成27年9月28日付け道路工事施行承認書(大阪市〇〇第〇〇号)の条件を遵守することの附款があり、大阪市〇〇第〇〇号の条件2には、「工事の施行に関しては、『大阪市建設局共通仕様書』に基づき行うこと」との記載がある。
(イ) 処分庁の弁明書(〇〇第〇〇号)中の(別紙1)は「大阪市建設局共通仕様書」における擁壁に関する設計・仕様を定めたものであり、「形状条件」「設計条件」の規定のほか、「道路土工―擁壁工指針(以下「擁壁指針」という。)による」旨の記載があり、擁壁指針は、審査請求書中の(別紙3)にて審査請求人らが引用している根拠資料と同じものを差している。
(ウ) 処分庁の弁明書(〇〇第〇〇号)中の(別紙2)についても、同様に擁壁指針からの抜粋である。
イ 水抜き孔の設置について
(ア) 擁壁指針5-1によれば、「コンクリート擁壁については、多くの施工実績により、供用中の健全性が経験的に確認されているため、本章に示した慣用的な設計方法・施工方法に従えば、以下のように所要の性能を確保するとみなせるものとした。…降雨の作用に対する擁壁の安定性は、擁壁背面への雨水及び地下水等の浸透水が大きく影響するが、これらを定量的に評価するのは実務上困難である。このため、一般には『5-9 排水工』に従い適切に排水工を設置し、『5-11 施工一般』に従い入念な施工を実施することにより、擁壁の所要の安定性は確保されているとみなし、降雨の作用に対する擁壁の安定性の照査を省略してもよい。」との記載があり、「5-9 排水工」との整合性が問題となる。
(イ) 擁壁指針「5-9 排水工」によれば、水抜き孔は、片持ばり式擁壁、控え壁式擁壁、ブロック積擁壁、もたれ式擁壁について設けることが望ましいとの記載があるが、本件の重力式擁壁に関して、水抜き孔を設けなければならない旨の記載は確認出来ない。
ウ 地盤改良の必要性に関するルールについて
(ア) 軟弱地盤の定義
 擁壁指針3-2-3(3)では、地盤調査においては、良質な支持層を粘性土層の場合で「N値10程度以上」、砂質土層で「N値20程度以上」としているが、軟弱地盤での具体的な調査手法(定義を含む)については、「道路土工―軟弱地盤対策工指針(以下『軟弱地盤指針』という。)によるものとする」とした上で、軟弱地盤指針においては、1-3(1)軟弱地盤の特性「解表1-2」により粘性土地盤では「N値4以下」、砂質土地盤では「N値10~15以下」を軟弱地盤と定義付けている。
(イ) 地盤調査の試験方式、試験箇所数のルールについて
 擁壁指針3-2-2(3)では、擁壁の基礎地盤の調査は、擁壁の設計計画箇所で少なくとも1箇所以上実施することが望ましいと記載し、地盤試験をボーリング試験等の「土質試験」と、平板載荷試験・スウェーデン式サウンディング試験等の「原位置試験」に分類しており、地盤の土質と荷重にかかる試験を併用して検討すべきことを記載している。
 擁壁指針3-2-1(4)では、施工段階における地盤条件の確認には、工事着手に先立ち標準貫入試験の追加実施や、支持層が比較的浅い位置にあると想定される場合にはバックホウ等を用いて試掘し、平板載荷試験による支持力調査等の方法を取るべきことを挙げている。
 また、擁壁指針3-2-2(3)では、原位置試験について、標準貫入試験や静的コーン貫入試験、スウェーデン式サウンディング試験のほかに、現場において地盤反力係数を確認するための平板載荷試験、ボーリング孔を利用した孔内水平載荷試験等を例示として挙げている。  
(ウ) 平板載荷試験の試験位置及び深さについて
 試験位置については、審査請求人らが提出した反論書(別紙1-1)にて、試験位置が擁壁の設置場所から離れている旨の主張がなされているが、処分庁より提出された弁明書(追加)における「断面イメージ図」において、付替えを行った後の線路から計測した6.0mの範囲内において平板載荷試験を実施していることから、試験位置については、擁壁設置場所の真上で実施されたものと認められる。
(エ) 本件平板載荷試験の荷重について(N置換算について)
 利害関係人が「〇〇線〇〇地区路盤新設他工事」において、株式会社Dより提出を受けた報告書(反論書の別紙1に添付)の4頁において、載荷条件を設計最大地盤反力度(123kN/m2)に対して2倍の(250kN/m2)≒(17.7kN/m2)としており、試験位置における載荷試験としては、十分な荷重において試験を行っているものと認められる。
(オ) 本件平板載荷試験の評価
 平板載荷試験は、弁明書、反論書の双方において引用されているとおり、地盤工学会基準の「地盤の平板載荷試験方法(JGS1521-2003)」に基づき、「沈下量30㎜に対応する載荷圧力を極限支持力とし、載荷板直径の1.5~2.0倍程度の深さが対象とした試験である」旨の記載があることから、直径30cmの載荷板を乗せた高さから、45cmから60cm程度の深さを対象として測定することが出来る試験であり、試験位置は擁壁の基礎を設置する予定位置からは約35cm上であるため、擁壁基礎の設置直下の地盤を測定する試験としては、適切に行われているものであると認められる。
(カ) 審査請求人らのスウェーデン式サウンディング試験の結果について
 審査請求人らは、本件処分地の擁壁設置場所の近隣地で、スウェーデン式サウンディング試験を2回実施したとして、平成19年度試験(審査請求人らの反論書「別紙5」)、平成29年度試験(審査請求人らの反論書「別紙9」)を提出している。
 平成19年度試験は、軟弱地盤指針において、軟弱地盤と定義される「N値4以下の粘性土」と判定される層が1.5m~3.75mの間で見受けられ、平成29年度試験は、本件擁壁の設置場所に近い場所での試験結果とされており、擁壁設置場所に面した「No,1」「No,2」については、粘性土で「N値3以上4以下」の地点が多く見られ、また擁壁設置場所の反対側の敷地の「No,3」では深さ1.5m~3.5m地点で、「No,4」では深さ1.0m~9.0m地点で粘性土で「N値0.8及び1.5」の地点が確認される結果となっている。
(キ) ボーリング試験の評価について
 処分庁より弁明書(追加)の添付資料として提出のあったボーリング試験データの試験位置については、弁明書(追加2)、反論書(追加2)において言及されているように、平板載荷試験の実施位置と約80mの距離にあることは認識に相違がなく、また処分庁より提出のあった弁明書(追加2)で言及される200mから500mに1回以上の頻度でボーリング試験を行うべき事情も認められない。
 また、ボーリング試験の深さ、擁壁設置の高さ、平板載荷試験の高さについても、大阪湾最低潮位(OP)を基準として比較することが可能であるため、高低差が原因で試験結果の適用に誤りが生じることは想定しにくい。
 処分庁より提出のあったボーリング試験データのN値は、地表より4(盛土)、9(砂)、24(砂)、30(砂)であるが、擁壁の設置高さ(OP+0.760)においては、N値は9であり、またN値が24以上の3.45m~5.45m地点までが良質な支持地盤と認められるため、N値10以下の軟弱地盤とされるような値は地表に近い位置にわずかに見られるのみであり、当該ボーリング試験の結果からは、深さが深くなるほど地盤の支持力が強くなる傾向があるとする処分庁の見解には一定の理由があると認められる。
(ク) 道路工事施行承認の妥当性について
 本件処分に付随した地盤調査については、「土質試験」は、利害関係人が実施したボーリング試験結果のみであり、「原位置試験」は、利害関係人が実施した平板載荷試験と審査請求人らが実施したスウェーデン式サウンディング試験の双方が存在している状況であるが、公益社団法人地盤工学会の設置する「低コスト・高精度な地盤調査法に基づく宅地の液状化被害予測研究委員会」の報告においては、「現在,宅地に対する地盤調査法はスウェーデン式サウンディング試験が標準であり,地盤の許容支持力の算定や沈下の可能性の有無の判定を目的に行われるが,この試験結果のみでは液状化判定はできない。一方,土木構造物や中規模以上の建築物に対してはボーリング調査(標準貫入試験と採取試料の粒度試験を含む)によって液状化判定を行っている」旨の言及がなされている。
 また、軟弱地盤指針1-3(3)軟弱地盤対策の考え方においては、「道路土工の調査において、十分な支持力を有しない地盤に遭遇した場合、軟弱地盤対策を適用しないで土木構造物が構築できるか、また供用後に土工構造物が要求される性能を確保できるかを判断する」旨の記載とともに、「解図1-7」において、「無対策で沈下、安定・変形、液状化の検討」を行った上で、問題がないと判断すれば、通常の地盤と同様に設計・施工を行う旨の記載がなされているため、軟弱地盤と判断されることが直ちに擁壁の設置の中止や、地盤改良工等を施工すべき旨を意味する訳ではないことからも、審査請求人らによるスウェーデン式サウンディング試験の結果だけを理由として、設置される擁壁が安全性を欠いた設計・仕様であると結論付けることは出来ない。
 なお、利害関係人は「水抜き孔を設けない場合の擁壁の照査」において、擁壁指針5-1から5-3に定められる「擁壁の転倒・滑動・支持に関する照査」において、許容値・安全率を十分に満足することを確認しており、所定の調査・検討については遺漏なく行われており、本件処分の取消しに至るまでの重大な瑕疵が認められるものではないものと判断される。
(4) 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
 平成30年10月15日 諮問書の受理
 平成30年11月12日 調査審議
 平成30年12月21日 調査審議(審査庁の口頭説明、処分庁の陳述)
 平成31年2月28日 調査審議
 平成31年3月28日 調査審議

第5 審査会の判断の理由
1 本件に係る法令等の規定
 上記第3の4(1)のとおりである。
2 本件の争点
 本件の争点は、本件処分が擁壁設置に係る処分庁の依拠する技術的基準に適合しないにもかかわらずなされた違法あるいは不当なものかである。
3 争点に係る審査会の判断
(1) 擁壁設置に係る技術的基準への適合性と本件処分
 道路法は、道路管理者以外の者による道路に関する工事又は道路の維持に関して道路管理者の承認を要する旨定めるが(法第24条)、ここでいう「道路に関する工事又は道路の維持」は、道路管理の基本的行為としてその権限は道路管理者に属するものであり、当該承認もまた、道路管理者が道路管理の一環として行うものであるから、その裁量に委ねられているものと解すべきであるが、道路工事施行承認申請に対する不承認処分について不服申立の途が認められている(法第96条)ことなどから、道路管理者の裁量も無限定なものではなく、道路管理者としての観点からの考慮をせず、道路管理上の理由とは関連のない事情を理由として承認又は不承認とすることや、当該工事を行う必要性、その設計及び実施計画の合理性並びに道路管理上の支障の有無などを総合的に考慮しても、道路の管理上、何ら当該申請を拒絶すべき理由が存しないにもかかわらず、不承認とすることは、裁量の逸脱あるいは濫用に当たり、また、裁量権行使が不適切なものとして許されないものといわなければならない(東京高裁平成20年(行コ)第192号同20年10月22日判決参照)。
 そうすると、当該道路工事施行承認又は不承認の判断をするに当たり、当該道路工事に関する複数の技術的基準の中から選択をすること、また、選択した技術的基準に適合するのかしないのかを考慮することは、いずれも道路管理者の裁量権の範囲に属するものであって、選択された技術的基準がおよそ通常用いられるものではなく、また、選択された技術的基準がおよそ通常用いられるものではないとはいえないものであっても、当該工事内容が選択された技術的基準に適合しないことが明らかであるにもかかわらず、適合すると判断して道路工事施行承認がなされた場合には、当該判断が裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用してなされたものとして違法となり、あるいは裁量権行使が不適切なものとして不当と評価されると解するのが相当である。
(2) 処分庁の依拠する技術的基準が道路工事に関して通常用いられるものではないとはいえないこと
 本件承認に係る道路工事の内容である本件擁壁の設置について、処分庁は大阪市工事請負共通仕様書に定める技術的基準への適合性を主張するが、同仕様書において準拠すべき諸基準として列挙されている、「道路土工‐擁壁工指針」(以下「擁壁工指針」という。)や「道路土工‐軟弱地盤対策工指針」をはじめとする技術的基準は、国土交通省の設計便覧(示方書)においても列挙されており、また、これらの技術的基準の中には、国が示しているものもあることを踏まえると、同仕様書に定める技術的基準は、我が国で行われている道路工事において、一般的に依拠されているものであると認めることができる。
 従って、処分庁の依拠する技術的基準は、道路工事に関しておよそ通常用いられるものではないということはできない。
 この点、審査請求人らは、本件擁壁につき、上記国土交通省の設計便覧(示方書)の定める技術的基準に適合しない旨主張するが、当該設計便覧に列挙されている技術的基準と処分庁が依拠する大阪市工事請負共通仕様書に列挙されている技術的基準はその多くが共通しており、両者に実質的な差異はないと認められるのであって、次の(3)で述べるとおり、本件擁壁については処分庁が依拠する技術的基準に適合しないことが明らかであるとはいえないのであるから、当該審査請求人らの主張を採用することはできない。
 なお、両当事者の主張する技術的基準には実質的な差異がないと認められることに鑑み、以下では、特に必要がない限り、両者を区別せず、「技術的基準」と表記することがある。
(3) 本件道路工事に係る擁壁の設置が処分庁の依拠する技術的基準に適合しないことが明らかとはいえないこと
ア 本件道路工事に係る本件擁壁に水抜き孔が設置されていないこと
 審査請求人らは、本件処分に当たり提出された工事計画上、本件擁壁に水抜き孔が設置されていないことをもって、技術的基準に適合しない旨主張する。
 他方で、処分庁は、工事計画上、本件擁壁の天端部がアスファルト敷きであるために擁壁内部に雨水等が浸透しにくく、当該天端部の勾配が審査請求人ら所有あるいは管理に係る土地建物とは反対側の、当該擁壁と平行に敷かれている鉄道側に傾斜させていることから、雨水等は擁壁とは反対側に流れる設計になっているために水抜き孔の設置に代わる排水の方法が講じられているとして、本件擁壁に水抜き孔を設けることは必須ではない旨主張する。
 この点、処分庁が依拠する技術的基準の1つである擁壁工指針209頁の「6)水抜き孔」は、同指針203頁以降の「5-9 排水工」の箇所で言及されているところ、これは、数ある排水の方法のうちの1つを示したものであると解される。つまり、擁壁の設置に当たって、排水が適切になされなければならないということであると解されるのであって(擁壁工指針88頁参照)、およそ本件擁壁のような重力式擁壁全てについて必ず水抜き孔を設けなければならないということが明らかであるとまではいえない。そして、処分庁は、本件処分に当たり、当該技術的基準に鑑み、本件擁壁について上記のとおり排水の方法が講じられていると判断したものであると認められる。
 なお、審査請求人らは、宅地造成等規制法施行令第10条及び都市計画法施行規則第27条第1項第2号を根拠に本件擁壁に水抜き孔を設置しなければならない旨主張する。しかし、宅地造成等規制法施行令第10条については、本件擁壁設置箇所が宅地造成等規制法第9条の「宅地造成工事規制区域」に該当しないと認められるために適用がなく、また、都市計画法施行規則第27条第1項第2号については、あくまでも都市計画法に基づく開発許可の基準であって(同法第33条第1項、同条第2項、同法施行令第28条第6号及び同法施行規則第23条第1項柱書参照)、本件処分の基準ではないと認められることから、審査請求人の当該主張を採用することはできない。
 以上から、処分庁が、本件擁壁について、上記のとおりその依拠する技術的基準に鑑みて排水の方法が講じられていると判断している一方で、審査請求人らの主張は、精々水抜き孔を設けることが数ある本件擁壁のような重力式擁壁設置の方法の1つとしてあり得るということを述べているに過ぎず、本件擁壁設置に係る工事内容が処分庁の依拠する技術的基準に適合しないことが明らかであると認めることはできない。
イ 本件擁壁に自動車の荷重がかかること
 審査請求人らは、自動車の荷重がかかる道路擁壁では重量式擁壁は滑るため、本件擁壁は、技術的基準に適合しない旨主張しているものと認められる。
 しかし、擁壁工指針では、「擁壁の上部に道路を設ける場合には、自動車等の車両による載荷重を考慮するものとする」(52頁)とあり、少なくとも、本件擁壁に自動車の荷重がかかるということのみをもって技術的基準に適合しないことが明らかであると認めることはできない。
ウ 本件擁壁に基礎砕石の構造物よりの余幅がないこと
 審査請求人らは、国土交通省近畿地方整備局の設計便覧において、「基礎砕石の構造物よりの余幅については10cmを標準とする。」との記載を根拠に技術的基準に適合しない旨主張しているものと認められる。
 しかし、そもそも、上記設計便覧の記載は「標準とする。」とするのみで、必ず余幅を10cm確保しなければならないとまでは認められない。
 よって、仮に、本件擁壁に係る基礎砕石の構造物よりの余幅が10cmに満たないのだとしても、そのことのみをもって、本件擁壁設置に係る工事内容が処分庁の依拠する技術的基準に適合しないことが明らかであると認めることはできない。
エ 本件擁壁設置箇所の地盤について
 審査請求人らは、本件擁壁設置箇所の地盤は軟弱であり、そのことは本件擁壁設置箇所付近で別の機会に実施したスウェーデン式サウンディング試験の結果からも明らかであり、また、本件擁壁設置に当たり利害関係人が行った平板載荷試験の数値は信用できないために本件擁壁の設置に係る工事内容は、技術的基準に適合しないものである旨主張する。
 しかし、審査請求人らは、本件擁壁設置箇所付近が湿地帯であったために地盤が軟弱であるという趣旨の主張をするのみで、当該事実を認めるに足りる証拠はない。また、審査請求人らが別の機会に実施したスウェーデン式サウンディング試験は、本件擁壁設置箇所で行われたものではなく、審査請求人らが所有あるいは管理する建物建築に際して実施されたものであると認められ、当該試験地に近い本件擁壁設置箇所の地盤の強度を一定程度推測することはできても、例えば、杭の埋設や浸水が原因となって当該試験地の地盤の強度が変化した結果、本件擁壁設置箇所の地盤よりも強度が弱くなっていることもないとはいえず、当該試験結果のみをもって平板載荷試験の数値の信用性を否定することはできない。
 他方で、上記平板載荷試験の結果によれば、当該試験が擁壁設置箇所で実施されたものと認められること、また、別の機会に行われたものではあるが、ボーリング調査結果をも併せて基礎地盤支持力が確認されていることからすれば、当該平板載荷試験の数値には一定の信用性が認められる。加えて、平板載荷試験・ボーリング調査は、処分庁が依拠する技術的基準である擁壁工指針36頁に記載のある試験方法であり、当該試験結果をもとに行われる本件擁壁設置に係る工事内容が処分庁の依拠する技術的基準に適合しないことが明らかであると認めることはできない。
オ 審査請求人らのその他の主張について
 審査請求人らは上記の他にも縷々主張するが、それらの主張に係る事実を認定するに足りる証拠はないため、採用することはできない。
(4) 小括
 本件においては、道路工事に関し処分庁の依拠する技術的基準に適合しないことが明らかであると認めることはできないため、本件処分に当たって処分庁がその裁量権を逸脱し、又は濫用したとはいえず、また、裁量権行使に不適切な点も認められないのであるから、違法又は不当な点はなく、本件処分を取り消すべき事由は認められない。
4 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 本件審査請求の利益
 審査庁提出に係る工事竣工届によると、本件処分に係る道路工事が完了しているため、審査請求人らが本件審査請求によって本件処分の取消しを求める利益は失われたものであるとして当該審査請求を却下するとの判断もなし得るところであるが、当該竣工届提出の時点(平成31年3月18日)で本件審議は終結段階にあって当審査会は本件審査請求を棄却するとの心証を形成していたものであり、また、手続の簡易迅速性が求められる行政不服審査法の目的(同法第1条参照)に鑑み、本件審査請求の利益の有無のみを判断するための更なる調査審議の継続は相当ではない。
 そこで、当審査会としては、本件処分に係る道路工事が完了していることを理由とする本件審査請求の利益の有無については審議の対象とせず、当該審査請求を却下するべきであるとの判断は行わないものとする。
6 結論
 よって、本件審査請求に理由はないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第2部会
 委員(部会長) 長部研太郎、委員 藤田整治、委員 曽我部真裕

答申書(平成31年度答申第2号)

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