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答申書(令和元年度答申第3号)

2023年2月17日

ページ番号:474578

諮問番号:平成30年度諮問第16号
答申番号:令和元年度答申第3号

答申書

第1  審査会の結論  
 
本件審査請求は棄却されるべきである。

第2  審査請求に至る経過
1 平成〇年〇月〇日、〇〇事業者(以下「審査請求人」という。)の従業員から「当社が〇〇を受託している〇〇食堂の利用者から、複数名が体調不良を呈している旨の申し出があった。」との届出が大阪市保健所A生活衛生監視事務所にあった。
2 平成〇年〇月〇日までの大阪市保健所の調査により、〇〇食堂の利用者は当該ビルに入る事業所社員のほか、関連会社で他のビルに事務所を置く〇事業所の社員であり、利用者のうち〇名が、平成〇年〇月〇日14時ごろから〇月〇日11時ごろにかけて嘔吐、下痢、発熱等の食中毒様症状を呈していたことが確認された。
3 大阪市長(以下「処分庁」という。)は発症状況に一峰性のピークが認められ、単一暴露が疑われること、喫食状況及び喫食遡及調査の結果、発症者らに共通する食事は平成〇年〇月〇日に当該〇〇食堂で提供された食事(献立は一種類)のみであること、複数の会社の社員である発症者らの執務する部署及び入居するビルの共用部分及び〇〇施設において非食餌性感染を疑う事象は確認されなかったこと、平成〇年〇月〇日、発症者〇名のふん便からノロウイルスが検出されたこと、発症者〇名の発症状況が類似しており、ノロウイルスによる食中毒症状と一致していることから当該施設を原因とする食中毒と断定し食品衛生法第55条第1項に基づく営業停止処分(以下「本件処分」という。)を行った。
4 平成〇年〇月〇日、審査請求人から、検食からは一切ノロウイルスが検出されていないこと、外部からの食品で〇〇が行なわれていたがその調べがされていないこと、調理に携わった者は検便の結果すべてノロウイルス陰性であったことから、食品衛生法第6条第3号違反ではないとして、本件処分に対する審査請求書の提出があった。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1 審査請求人の主張
(1) 当社昼食以外の可能性も十分考えられる
 当社の昼食の提供は平成〇年〇月〇日正午ごろであるところ、食中毒症状の発生は〇日の午前11時ごろということである。当社が食中毒の発生を聞いたのも同時期であり、食中毒の原因とされる昼食摂取から約47時間の間に当社の昼食以外の感染源に触れる機会は多く、当社昼食以外の可能性も十分考えられる。
 また、大阪市の処分の指令書によると平成〇年〇月〇日14時から、と書いて〇日14時の発症者のいることが書かれているが、この〇日14時の発症者の症状がどのようなものかはわからない。嘔吐、下痢、腹痛などのような症状はインフルエンザ、風邪、飲みすぎでも起こる症状で〇日午前11時ごろの発症者と同じ原因の食中毒と決めつけることは無理があると考えられる。
 仮にノロウイルス感染者であったとしても人間の行動範囲は広く、飲食、他人との接触等活動は多様であるため、〇日の午後2時より1日~2日前からノロウイルスを保有しており、〇日及び〇日に食堂施設を利用されておれば〇日と〇日に〇〇食堂利用者に拡散感染の可能性があり、〇日の午前11時の一峰性発症が合理的に説明でき、当社従業員1名がノロウイルス感染者であったことも合理的に説明できる。
 〇日14時の発症者と〇日11時の発症者では発症時間に21時間の乖離があることは双方が同じ感染源の発症者とみるより、保菌感染源と被感染者の関係とみて調査すべきであった。
 (2) 十分な調査を行っていない
 集団食中毒が発生した場合、直近の食事から時間的に合理性のある範囲で順次遡って調査すべきであるが、今回の大阪市保健所A生活衛生監視事務所の調査は一気に5食前の昼食に遡って〇月〇日の昼食と断定した。
 当社の昼食とノロウイルス食中毒の因果関係が証明されていない上、非食餌性感染に関する調査をした状況、結果について知らされず、調査した形跡もない。
 いきなり、集団発症の47時間前の当社の昼食と決めてかかっており、当社従業員のひとりの検便が陽性になったことを根拠に〇月〇日に処分したもので、弁明書では「従業者からノロウイルスが検出されたことについては本件原因施設を特定した理由には含めていない。」という矛盾を犯しており、到底科学的かつ客観的調査に基づく処分とはいえない。
(3) 検食からノロウイルスは検出されておらず、別の〇〇食堂で食中毒は発生していない
 厚生労働省の大量調理管理マニュアルに従い保存した検食からはノロウイルスは検出されなかった。また、同日に同じ材料の同じ調理方法で別の〇〇食堂で100食を提供しており、確率から言っても別の〇〇食堂でも相当数のノロウイルス食中毒が発生しているはずであるが、1名の発症者もないことは当社の昼食が感染源でない有力な根拠となるが、この点も調査もしていない。
(4) 外部から〇〇用として持ち込まれた飲食物により感染した可能性がある。
 〇月〇日の献立はノロウイルスが含まれている可能性が非常に低い、〇〇〇、〇〇〇、〇〇〇、〇〇〇、〇〇〇であった。
 〇月〇日(審査請求人は、審査請求書において「同じ日」と記載しており、〇月〇日と読み取れるが、処分庁の弁明書に〇月〇日であったと記載されているとおり、反論書では〇月〇日としている。)に外部から〇〇等の生ものを購入し、厨房外の食堂フロアの冷蔵庫に夕刻まで保管しており、これら生ものに付着して持ち込まれたノロウイルスが接触、飛散により食堂で拡散感染した可能性がある。
2 処分庁の主張
(1) 本件の原因が平成〇年〇月〇日の〇〇であるとの判断は妥当である。
 平成〇年〇月〇日の時点において、〇名が平成〇年〇月〇日14時ごろから〇日11時ごろの間に発症していることを確認し、うち〇名のふん便からノロウイルスが検出された。平成〇年〇月〇日正午ごろに提供された当該〇〇を起点とすると発症者の最短潜伏時間は26時間で最長は47時間(再弁明書では48時間と記載されていたが、処分庁から訂正があった。)であり、ノロウイルスの潜伏時間24~48時間に合致している。(人がノロウイルスに感染した場合、それぞれの人の感受性の違いや体内に取り込んだウイルス量の違いから、発症までの潜伏時間は一般に1~2日すなわち24~48時間となる。)
 発症者の調査では、発症状況、発症時点から10日前に遡っての喫食状況、平成〇年〇月〇日から〇日までの期間に勤務先内で嘔吐や下痢の症状のある人が周りにいなかったか、汚物等で汚れていた場所がなかったか等の非食餌性感染を疑う事象がなかったかを確認している。その結果、非食餌性感染を疑う事象はなく、全員の共通食は当該〇〇のみであった。(発症者の中には〇日に〇〇から出張で来阪し、〇日の昼食で当該〇〇食堂を利用し発症した方がいた。)
 発症者〇名の発症状況は類似しており、ノロウイルスによる食中毒症状と一致していた。請求人が疑念を抱いている〇日14時の発症者の発症状況についても他の〇名の発症者と類似しており、ノロウイルスによる食中毒症状とも一致していた。また、行政検便の結果ノロウイルス陽性であった。
 (2) 原因食品が特定できた時点で再発防止対策を講じるため、速やかに行政処分を行なった。       
 食中毒等の原因を調査する際には、発症時間を横軸に、発症者数を縦軸にとりグラフを描き、発症状況を確認するが、今回の発症状況は山型の一峰性のピークが見られたことから、発症者に共通した単一の暴露要因があると考えられた。発症者の調査では、上記のとおり発症時点から遡って調査を行い、発症者らに共通する食事は平成〇年〇月〇日の当該〇〇食堂で提供された食事(献立は一種類)のみであり、発症者・会社関係者・調理従事者に調査を実施し嘔吐物や便等による汚染等、非食餌性の感染を疑う事象はなかったことを確認した。病原体がノロウイルスであることが、発症者の検便結果等で判明したことから、ノロウイルスの潜伏時間を考慮して、暴露した時間等を推察し、その時間帯前後に暴露要因がなかったかを中心に調査を行った。発症者〇名のふん便からノロウイルスが検出されたこと、発症者〇名の発症状況が類似し、ノロウイルスによる食中毒症状と一致していたこと、発症者の共通食は平成〇年〇月〇日に当該施設で提供された食事以外になかったこと、飲食物以外からの感染が疑われる事象もなかったことから、当該施設を原因とする食中毒と断定した。
 食品衛生法に基づく不利益処分は、営業者等に対し義務を課し、又はその権利を制限するものであることから、適法であることはもちろん、妥当性について十分検討し、原因施設を特定した場合は、危害拡大防止のため緊急的に行うものである。本件処分においても全発症者に対して喫食遡り調査、症状や発症時間等の発症状況調査及び発症時から遡って感染症が疑われるようなエピソードがないかの行動調査を実施するとともに検便を行い、これら疫学的、科学的な調査結果に基づいて妥当性を十分に検討し、判断したものである。
 また、本件処分の指令書裏面に処分理由を示しているが、従事者〇名がノロウイルス陽性であったことは処分理由としていない。
(3) 検食からノロウイルスが検出されなかったこと、別の〇〇食堂で食中毒は発生していなかったことをもって、当該施設で提供された食事が食中毒の原因ではなかったとは言えない。
 検食の検査は施設を特定するにあたって必ず必要な検査ではなく、原因食品を特定するための手段のひとつである。病因物質の汚染経路等を解明し、再発防止を講じる上で重要な検査であることから、施設特定後に検査を実施した。
 当該施設については大量調理施設衛生管理マニュアルに従い検食を保存している    とのことであるが、マニュアルでは「調理済み食品は配膳後の状態で保存すること」と規定されている。しかし、当該施設では調理後の食品で配膳前のものを保存していたことを確認しており、またすべての提供食品を保存していたわけではなく、マニュアルに従っていたとは言えない。
 大量調理施設衛生管理マニュアルに従って保存されていたとしても、当該施設で   調理された食品の一部を採取していたものであるため、採取しなかった部分にノロウイルス汚染があった可能性があること、食品のノロウイルス検査では検査を妨害するような夾雑物が食品に含まれていた場合にはノロウイルスを検出できないこともあることから、検食からノロウイルスが検出されなかったことをもって、当該施設で提供された食事が原因であることを否定できるものではない。
 同一食材を使用している他〇〇食堂において発症者がいなかったことは、食材の汚染がなかった可能性を示したに過ぎない。
 (4) 外部から〇〇用として持ち込まれた飲食物により感染したとは考えられない。
 大阪市保健所が関係者に対し喫食遡り調査を行なった結果、当該施設において外部から〇〇等を持ち込んで喫食していたのは〇事業所のうち〇事業所のみであった。本件では〇事業所の〇名が発症していたことが判明しており、うち〇〇等のデリバリーを喫食した発症者は〇名のみであり、発症者〇名に共通する食事でないことから、〇〇等のデリバリーを調査対象から除外した。
 「〇月〇日の献立はノロウイルスが含まれている可能性が低い」との主張については、過去の食中毒事件の統計結果から、ノロウイルス食中毒の原因食品には様々な食品が考えられる。
 B株式会社社員が持ち込んだ食事については、発症者の共通食でないことは前述のとおりであるが、さらに、社員らが持ち込んだ食事を喫食したのは、平成〇年〇月〇日15時30分からであり、本件の初発患者の発症時間はそれより前の〇日14時である。
 「外部から持ち込み厨房外の食堂フロアの冷蔵庫に保管の上、夕刻から喫食しているが調査していない。時間的にも感染源の可能性が高い」との主張については、前述の初発患者の発症時間とノロウイルスの潜伏時間から考えると感染源の可能性は極めて低く、〇月〇日に当該食堂を利用していない方が発症していることから、外部から持ち込まれ、保管されていた食品に付着したノロウイルスが感染源ではない。
(5) 以上のとおり、請求人が審査請求の理由として述べている内容については、食品 衛生法第6条第3号違反に該当しない理由にはならないことから、本件審査請求は、棄却すべきである。
3 理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 食品衛生法において、不衛生な食品を提供して食中毒を発生させたことは、食品衛生法第6条第3号違反に該当するものであり、同法第55条第1項の規定により、大阪市長は同法第52条第1項の許可を取り消し、又は営業の全部若しくは一部を禁止し、若しくは期間を定めて停止することができると規定されている。
イ 大阪市では、食品衛生法に基づく行政処分を、「食品衛生法に基づく行政処分等取扱要領」を定めて行っており、同法第6条第3号違反は、同要領別表第2「行政処分取扱基準」に基づき、違反の結果人体に危害を与えた場合であって、危害の拡大のおそれがない場合については、営業停止1日以上と規定している。
(2) ノロウイルス胃腸炎について(厚生労働省ノロウイルスに関するQ&Aを一部抜粋)
ア ノロウイルスはどのようなものか
 ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒は、一年を通して発生していますが、特に冬季に流行します。ノロウイルスは手指や食品などを介して、経口で感染し、ヒトの腸管で増殖し、おう吐、下痢、腹痛などを起こします。
イ ノロウイルスはどうやって感染するのですか
 ノロウイルスの感染経路はほとんどが経口感染で、次のような感染様式があると考えられている。
(ア) 患者のノロウイルスが大量に含まれるふん便や吐ぶつから人の手などを介して二次感染した場合
(イ) 家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多いところでヒトからヒトへ飛沫感染等直接感染する場合
(ウ) 食品取扱者(食品の製造等に従事する者、飲食店における調理従事者、家庭で調理を行う者などが含まれます。)が感染しており、その者を介して汚染した食品を食べた場合
(エ) 汚染されていた二枚貝を、生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合
(オ) ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合
特に、食中毒では(ウ)のように食品取扱者を介してウイルスに汚染された食品を原因とする事例が、近年増加傾向にあります。
ウ ノロウイルスに感染するとどんな症状になるのですか
 潜伏期間(感染から発症までの時間)は24~48時間で、主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、腹痛であり、発熱は軽度です。通常、これらの症状が1~2日続いた後、治癒し、後遺症もありません。
また、感染しても発症しない場合や軽い風邪のような症状の場合もあります。
(3) 争点と調査結果について
ア 発症者の発症状況について
 大阪市保健所の調査によると平成〇年〇月〇日14時を初発として〇日11時までに嘔吐、下痢、発熱等の食中毒様症状を呈した発症者が〇名おり、この2日間にわたり連続して発生している。さらに発症者〇名のふん便からノロウイルスが検出され、発症者〇名の発症状況が類似し、ノロウイルスによる食中毒症状と一致していた(審理員意見書参考1)。
 また、発症者全員は〇月〇日の昼食として当該ビル〇階の〇〇食堂を利用していた。
 審査請求人は〇日14時の発症者と〇日11時の発症者では発症時間に21時間の乖離があるとして、双方が同じ感染源の発症者とみるより、感染源と被感染者の関係とみて調査すべきであると主張している。
 しかし、調査より発症者は〇日14時の初発から〇日11時まで断続的に発生しており、ノロウイルスの潜伏期間から請求人が主張するような初発者が感染源で他の発症者が被感染者との発生状況は見受けられない。
イ 当該〇〇食堂の発症者調査等について
 発症者調査等については発症者の居住自治体(〇〇府〇名、〇〇市〇名、〇〇市〇名、〇〇県〇名、〇〇市〇名、〇〇市〇名、〇〇県〇名、〇〇市〇名、〇〇市〇名)に協力依頼して行っており、喫食遡り調査、症状や発症時間等の発症状況調査及び発症時から遡って感染症が疑われるようなエピソードがないかの行動調査を実施するとともに検便調査を行っていた。
 一連の調査書類を確認したが、市域外の居住者については関係自治体に一部調査協力を依頼し調査を行っており、特に不備があるとは言えない。
ウ 非食餌性の感染について
 大阪市保健所の調査ではノロウイルスの潜伏期間を考慮して発症者がノロウイルスに暴露した時間等を推察し、その時間帯前後に暴露要因がなかったかを中心に調査しており、上記イの調査による〇〇食堂利用者だけでなく、当該〇〇食堂の従事者〇名及び各事業所の関係者〇名から汚染等の状況を聞き取りしており、非食餌性の感染を疑う要因はなかったことを確認していた。
エ 〇〇用として持ち込まれ、冷蔵庫に保管された飲食物が原因の可能性について
 審査請求人、処分庁の双方の説明ではノロウイルスの発症までの潜伏期間として概ね1日(24時間)から2日(48時間)であると述べており、厚生労働省の資料においても同様の潜伏期間であることが記述されている。
 仮に〇月〇日に持ち込んだ飲食物がノロウイルス感染の原因であったとした場合、本件発症者の発症日時との間に矛盾が生じる。
 大阪市保健所の調査では発症者〇名中、すでに〇日時点で〇名(うち〇〇で当該持ち込み飲食物を喫食した発症者〇名中〇名が〇日時点で発症)が発症しており(審理員意見書参考1)、審査請求人が主張する外部から持ち込まれた飲食物が原因でノロウイルス感染が発生した可能性は考えられない。
オ 検食でのノロウイルス不検出及び同一食材を用いた別の〇〇食堂での非発症について
 請求人は大量調理施設衛生管理マニュアル(以下、「マニュアル」という。)に基づき、検食を行っており、それらの飲食物からはノロウイルスは検出されなかったことは当該〇〇食堂が原因でない証拠となると主張している。
 マニュアルはその主旨として〇〇施設等における食中毒の予防のためのものとの記載があり、その中で検食についても記載されている(審理員意見書参考2)。
 マニュアルでは「調理済み食品は配膳後の状態で保存すること」と規定されているが、大阪市保健所の調査によると当該施設では調理後の食品で配膳前のものを保存していたことを確認している。また、すべての提供食品を保存していたわけではなく、マニュアルに従っていたとは言えないとの内容であった。
 当該処分時には検食の検査は行われておらず、検査結果は処分の判断理由に含まれていない。処分後に行った検査において、本件の原因であるノロウイルスが検出されなかったが、これが直ちにノロウイルスの汚染がなかったとの証明にはならないことから、今回の処分の判断根拠を覆す理由とはならない。
 また、同一食材を用いた別の〇〇食堂での非発症についても、食材の納入以降にノロウイルスに汚染される可能性は十分に考えられるため、判断根拠を覆す理由とはならない。
カ 行政処分における従業員の検便の取扱いについて
 請求人によると当該〇〇食堂の従業員のひとりの検便がノロウイルス陽性になったことを根拠に処分したと主張している。
 しかし、本件処分を命じた大阪市指令書の処分理由には一切従業員の内容は記載されておらず、また、処分についての説明を行った大阪市保健所職員にも審査請求人への説明内容を確認したが、そのような発言を行った事実は確認できなかった。
キ その他
 本審理では口頭意見陳述の申し立てがなかったが、平成〇年〇月〇日付けで審理員から処分庁に対し証拠書類等の提出を依頼(審理員意見書参考3)し、処分庁から平成〇年〇月〇日付けで報告(審理員意見書参考4)を受けている。
(4) 上記以外の違法性又は不当性についての検討
ア 他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。
イ なお、審査請求人が反論書、再反論書において記載している指令書の受領書への押印については、過去の判例(審理員意見書参考4)にもあるように押印によって処分の決定に影響するものではないため、本審理の対象とはしない。
4 結論
 以上のとおり、本件処分は妥当な判断であり、審査請求を行う理由が見受けられないことから、行政不服審査法第45条2項の規定により、棄却すべきである。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
平成30年11月12日 諮問書の受理
平成31年1月11日 調査審議(審査庁の口頭説明、処分庁の陳述)
平成31年1月4日 審査請求人からの主張書面の収受
平成31年2月1日 審査庁からの主張書面の収受
平成31年2月5日 調査審議(審査請求人の口頭意見陳述)
平成31年2月19日 審査庁からの主張書面の収受
平成31年2月28日 調査審議(審査庁の口頭説明、処分庁の陳述)
平成31年4月9日 審査請求人からの主張書面の収受
平成31年4月23日 調査審議
令和元年5月22日 調査審議

第5 審査会の判断
1 本件に係る法令等の規定について
 前記第3の3(1)に記載のとおりである。
2 本件の争点
 本件の争点は、審査請求人が平成〇年〇月〇日に「〇〇食堂」で〇〇として提供した食品(以下「本件食品」という。)が、食品衛生法第6条第3号の「病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり…」に該当することを理由としてなされた本件処分が違法あるいは不当なものか否かである。
3 争点に係る審査会の判断
(1) 食品衛生法第6条第3号の解釈
 食品衛生法第6条第3号にいう「病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり…」とは、食品又は添加物が、疾病の原因となる微生物によって汚染されていることが証明されるか又は相当程度の蓋然性の認められる場合である(大阪高等裁判所昭和26年11月29日判決・高刑集4巻11号1497頁参照)。
 本件処分は、本件食品がノロウイルスに汚染されていることについて証明され、又は相当程度の蓋然性が認められることをその理由としているが、ノロウイルスはヒトの腸管で増殖し、吐き気、嘔吐、下痢及び腹痛等を起こすウイルスであり、疾病の原因となる微生物に当たる。
 問題は、本件食品がノロウイルスに汚染されていることについて証明され、又は相当程度の蓋然性が認められるか否かであるから、この点について検討する。
(2) 本件食品がノロウイルスに汚染されていることについて証明され、又は相当程度の蓋然性があると認められるか。
ア 処分庁による調査
 平成〇年〇月〇日、処分庁は審査請求人からの届出を契機に調査を開始し、その結果、本件処分がなされた同年〇月〇日時点で、下痢、嘔吐及び発熱等のノロウイルス感染症罹患者にみられる症状を呈した者(以下「発症者」という。)は〇名であった。
 当該調査は、発症当日から5日間遡っているところ、これは一般的なノロウイルスの潜伏期間である24時間乃至48時間を超える幅を持たせており、また、検便のみならず、朝昼晩及びそれ以外の食事の内容、発症前10日間の勤務先及び家庭における便所の汚染状況や周囲の人の罹患状況の有無や内容及び対象者の体調に関する複数の項目にわたるものであることから、食餌性感染・非食餌性感染両方の可能性を念頭に置いた幅広くかつ詳細なものであると認められる。更に、同調査は発症者の居住する地方公共団体ごとに行われており、本件においては、処分庁のほか9つの地方公共団体の専門的知識を有する職員が別の機会に行った調査の内容も含まれている。
 よって、本件調査は、信用性の高いものであると認められる。
イ 処分庁による調査の結果から本件食品がノロウイルスに汚染されていることについての相当程度の蓋然性が認められること
 上記調査の結果、本件処分時点において、発症者〇名全員が本件食品を喫食していること、各発症者の発症日時から一般的なノロウイルスの潜伏期間である24時間乃至48時間を遡った結果、当該喫食が各発症者の当該潜伏期間の範囲内のものであること、発症者〇名のうちの〇名は〇〇地方から出張中に本件食品を喫食し、間もなく同地方に戻っていること、本件食品の喫食者総数〇名は、別の場所にある〇つの事業所に所属する者で構成されており、発症者〇名も、人数のばらつきはあるものの、〇つの事業所にそれぞれ所属し、〇つのうち特定の事業所に所属する者のみが感染しているといった偏りはないこと、発症者〇名のうち〇名のふん便からノロウイルスが検出され、残りの〇名についても、吐き気、嘔吐、下痢及び腹痛の症状があることがそれぞれ判明した。
 発症者〇名全員のノロウイルス潜伏期間中に提供された本件食品が共通食であり、更に、当該〇名の発症者につき当該共通食以外の別の共通食はなく、ノロウイルスが検出された〇名の者も含め、全員がノロウイルス感染症に罹患した際にみられる症状を呈していたことが認められる。更に、本件食品がいわゆる〇〇食堂として提供されていたことからすれば、喫食者の多くは高齢者や子ども等の抵抗力が弱い者ではなく、成人の男女であると認められるところ、本件処分の時期がノロウイルスの流行のピークの時期であることを加味しても、上記共通食の喫食者総数〇名のうち、〇名がノロウイルスの症状を呈したのであるから、少なくとも本件食品がノロウイルスに汚染されていることについての相当程度の蓋然性が認められる。
ウ 非食餌性感染の可能性について
 処分庁等による上記調査は、勤務先や家庭の便所や周囲の人の罹患状況等、非食餌性感染の可能性を前提としたものであると認められ、上記の調査結果は、当該非食餌性感染の疑いをも調査対象としたものであったこと、当該調査は複数の地方公共団体の専門的知識を有する職員が行ったものであること、上記のとおり発症者〇名の共通食が本件食品であると認められることからすれば、非食餌性感染の可能性があるとしても、本件食品がノロウイルスに汚染されていることについての相当程度の蓋然性を否定できるものではないと認められる。
 この点、審査請求人は、非食餌性感染を疑う事象が確認されなかったとの具体的内容が明らかにされていないにもかかわらずなされた本件処分は違法であると主張するが、処分庁等が行った発症者〇名全員を対象とする調査は、上記のとおり非食餌性感染の可能性を前提とした内容であることなど、信用性の高いものであると認められ、少なくとも、本件食品がノロウイルスに汚染されていることにつき相当程度の蓋然性を認めるに足りる程度の調査は行ったものと認められ、その結果、非食餌性感染を疑う事象が確認されなかったのであるから、当該主張は採用できない。
エ 小括
 以上から、本件食品がノロウイルスに汚染されていたことについては、少なくとも、相当程度の蓋然性は認められる。
(3) 審査請求人の主張について
ア 他の喫食の機会によるノロウイルス感染の可能性があるにもかかわらずなされた違法な処分であるとの主張
 審査請求人は〇つの事業所のうちの〇つの事業所に所属する者が同年〇月〇日に当該〇〇食堂で行われた〇〇での喫食の際にノロウイルス感染症に罹患した可能性があるにもかかわらずなされた本件処分は違法であると主張する。
 しかし、審査請求人主張に係る〇〇で喫食した者以外の者にも発症者がおり、しかも、当該〇〇の開始時刻が同日午後3時30分頃であるところ、上記の処分庁による調査の結果、発症者〇名のうち最も早く発症した者の発症日時が同日午後2時頃であったことが認められるのであって、当該〇〇で喫食された食品による感染は一般的なノロウイルスの潜伏期間と齟齬があることから、当該〇〇で喫食された食品による感染の可能性は、上記の本件食品の喫食によるノロウイルス感染症の罹患の可能性に比べれば相当程度低いと認められるのであって、当該主張を採用することはできない。
イ 汚染経路の特定に至らなかったこと及び他の汚染原因の可能性があるにもかかわらずなされた違法な処分であるとの主張
 審査請求人は、汚染経路の特定に至っていないこと及び検食からノロウイルスが検出されなかったことがそれぞれ認められるにもかかわらず本件処分がなされたことをもって、同処分の違法性を主張する。
 しかし、食品衛生法第6条第3号は「病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり…」と規定するところ、これは、食品又は添加物が、疾病の原因となる微生物によって汚染されていることが証明されるか又は相当程度の蓋然性の認められる場合なのであって、そのような場合に該当するといえるために、汚染経路が特定されなければならない訳ではなく、検食から当該疾病の原因となる微生物が検出されなかったことが確定しなければならない訳でもない。
 よって、上記審査請求人の主張は、食品衛生法第6条第3号の解釈を誤ったものであり、採用することはできない。
ウ 行政手続法違反との主張
 審査請求人は、本件処分に際し弁明の機会が付与されなかったことの違法性を主張する。
 この点、行政手続法第13条第2項第1号は、聴聞あるいは弁明の機会の付与という不利益処分に係る手続規定の適用除外事由として、「公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため…意見陳述のための手続をとることができないとき」と規定するが、これは、社会一般の利益の早急な確保を要するため、聴聞あるいは弁明の機会の付与の手続をとる時間的余裕がない場合をいう。
 この点、一般的に、ノロウイルスは強力な感染力を有し、ノロウイルス感染症に罹患すると死に至る場合もある。しかも、本件処分がなされた時期は流行のピークにあること、現在のところノロウイルスにはワクチン等はなく、一度感染するといわゆる対症療法といった対応しかないとされているからすれば、可能な限りノロウイルスに接触しないようにする方法での感染予防が極めて重要といえる。
 以上のような感染予防の重要性に鑑みれば、衛生上の危害の発生又は拡大を防止するという社会一般の利益を早急に確保する必要性は高かったといえるのであって、そのような公益の早急な確保のため審査請求人による営業の継続可能性を最小化してノロウイルスに接触する可能性を可能な限り排除する観点から、早急に本件処分を行わなければならなかったといえ、聴聞あるいは弁明の機会の付与といった手続を履践する時間的余裕はなかったといえる。
 よって、本件においては、上記「公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため…意見陳述のための手続をとることができないとき」が認められ、弁明の機会が付与されなかったとしても、行政手続法違反は認められず、審査請求人の主張を採用することはできない。
エ 処分時以後の事情を付加しているとの主張
 審査請求人は、審査庁が処分時以後に判明した事情を主張していることをもって過去の不適法な処分を有効にしている旨主張するが、審査庁の当該主張は、処分の理由を事後的に付加するものではなく、審査請求人の当該主張はその前提を欠き、採用することはできない。
オ 指令書への押印の強要があった旨の主張
 審査請求人は指令書への押印の強要があった旨主張するが、被処分者による指令書への押印が本件処分の要件ではないためそもそも処分庁にはそのような動機がないと認められることに加え、仮に、当該主張に係る事実があったとしても、そのことをもって本件処分を取消すべき事由となる訳ではなく、指令書への押印の強要があった旨の審査請求人の主張は採用することはできない。
カ その他の主張
 審査請求人は、その他縷々主張するが、当該主張に係る事実が仮に認められるとしても、本件処分を取消すべき事由には当たらないのであって、採用することはできない。
 (4) 結語
 本件においては、本件食品が疾病の原因となる微生物であるノロウイルスに汚染されていることについて証明され、又は相当程度の蓋然性が認められるため、本件処分が食品衛生法第6条第3号の「病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり…」に該当することを理由としてなされた本件処分は違法あるいは不当なものであるとは認められない。
4 本件審査請求の利益
 本件においては、本件処分に係る営業停止期間の末日である平成〇年〇月〇日を経過しているため、審査請求人が本件審査請求によって本件処分の取消しを求める利益はないとして当該審査請求を却下するとの判断もなし得るところである。
 この点、当審査会が本件審査請求を棄却するとの心証を形成していること及び手続の簡易迅速性を目的として規定する行政不服審査法第1条の趣旨に鑑み、本件審査請求の利益の有無のみを判断するための更なる調査審議の継続は相当ではない。
 そこで、当審査会としては、本件処分に係る営業停止期間の末日である平成〇年〇月〇日を経過していることを理由とする本件審査請求の利益の有無については調査審議の対象とせず、当該審査請求を却下するとの判断は行わないこととする。
5 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
6 結論
 よって、本件審査請求に理由はないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第2部会
 委員(部会長) 長部研太郎、委員 曽我部真裕、委員 榊原和穂

答申書(令和元年度答申第3号)

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