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答申書(令和元年度答申第10号)

2023年2月17日

ページ番号:487057

諮問番号:令和元年度諮問第6号
答申番号:令和元年度答申第10号

答申書

第1 審査会の結論
 本件各審査請求は、棄却されるべきである。

第2 審査請求に至る経過
1 処分庁大阪市長(以下「処分庁」という。)は、審査請求人に対して、平成29年11月24日付けで、平成26年度市民税及び府民税税額変更処分、平成27年度市民税及び府民税税額変更処分並びに平成28年度市民税及び府民税税額変更処分をし、平成29年12月8日付けで、平成25年度市民税及び府民税税額変更処分(以下、これら各変更処分を併せて「本件各先行処分」という。)をした。
2 処分庁は、本件各先行処分に係る別紙1徴収金明細記載の各徴収金(以下「本件各徴収金」という。)について、審査請求人がその納期限までに完納しなかったため、本件各先行処分のうち、平成26年度ないし平成28年度市民税及び府民税税額変更処分に係る各徴収金についての督促状を平成30年1月24日に発付し、平成25年度市民税及び府民税税額変更処分に係る徴収金についての督促状を平成30年2月26日に発付した。
3 処分庁は、上記2の各督促状を発した日から10日を経過しても、審査請求人が本件各徴収金を完納しなかったため、平成30年3月23日付けで、審査請求人が有する外国為替証拠金取引(以下「FX」という。)に係る預入証拠金の払戻請求権に対する差押処分(以下「本件処分」という。)及び別紙2、1ないし3記載の株式に対する各差押処分(以下、本件処分と併せて「本件各処分」という。)をした。
4 審査請求人は、平成30年4月2日、大阪市長に対し、本件各処分の取消しを求めて、審査請求をした。

第3 審理関係人の主張の要旨
1 審査請求人の主張
(1) 平成○○年○月○日に京都地方裁判所で判決(京都地方裁判所平成○○年○月○日判決・平成○○年(○)第○○○○号。以下「京都地裁判決」という。)があり、審査請求人については給与所得者ではなく事業主と判決された。
(2) これまでの税務署の更正処分は審査請求人を給与所得者として課税しており、明らかに錯誤がある。事業所得として計算し直す必要がある。このことについては、税務署と協議中であるが、処分庁は審査請求人が給与所得者でないとの京都地裁判決が出たことを知ったのちに、税務署の更正処分は有効であるとの主張で、本件各処分を強制してきた。
(3) 処分庁は、地方税の趣旨を理解していない。地方税は国税に基づいて計算され、その結果をもとに課税するものであると解釈されている。ところが、再三言っているように国税が決定していない(国税不服審判所に審査請求中)にも関わらず、強引に差押えしてきたものである。国税の最終決定を確認してから地方税を課税すべきである。
(4) 処分庁は、課税処分と滞納処分は別個独立した処分であると主張しているが、課税処分により税額が確定した段階で、その金額を滞納した場合に滞納処分が発生するのであって、密接に関連した処分であり、別個独立した処分などとの主張は失当である。
(5) FXの証拠金を差し押さえた場合、評価損が実損となり、多大な損害を与えることになるため、FXの証拠金の差押えは違法行為である。
(6) 預金等、現時点での明確な残高が分かり、経年変化しても価値を金利等で追跡できる物を差し押さえるのには問題がない(差押えが間違いであっても弁済可能な財産)が、FXや株式など、時々刻々と変化するものを差し押さえるには甚だ問題がある。
2 処分庁の主張
(1) 審査請求人は、所得税は給与所得ではなく事業所得とすべきであるにもかかわらず処分庁は本件各処分を強制したと主張していることから、所得税の更正処分の違法性及び市民税及び府民税の課税処分の違法性を理由として本件各処分が違法であると主張していると考えられる。
 しかしながら、課税処分と滞納処分は別個独立した処分であることから、課税処分の違法性は承継されず、課税処分が重大かつ明白な瑕疵であるとして無効とならない限り、課税処分の違法を理由に本件各処分の取消しを求めることはできない。
(2) 本件処分については、地方税法(以下「法」という)第331条第6項等において、地方団体の徴収金の滞納処分については、国税徴収法(以下「徴収法」という。)に規定する滞納処分の例によると定められており、徴収法第75条から第78条に規定する差押禁止財産には該当せず、違法ではない。
(3) FXの預入証拠金を差し押さえる為に全ての建玉を強制的に決済したのではなく、FXに係る払戻請求権を差し押さえたまでである。

第4 審理員意見書の要旨
1 結論
 本件各審査請求には理由がないため、行政不服審査法第45条第2項の規定により、棄却されるべきものと判断する。
2 理由
(1) 本件各先行処分と本件各処分の関係について
 東京地方裁判所昭和37年4月26日判決等においては、賦課処分と滞納処分とは別個独立の行政処分であるから、賦課処分が形式的に確定しているときは、賦課処分の瑕疵が、重大かつその存在が処分の外形上一見して明らかな場合のほか、賦課処分の瑕疵によって滞納処分が違法となることはない旨判示されている。
 すなわち、本件各先行処分について、単に違法であるのみでは本件各処分にその違法性は承継されないため、仮に瑕疵が認められたとしても、その瑕疵が重大かつ明白である、すなわち本件各先行処分が無効である場合にのみ、本件各処分が違法となるものであるため、本件各処分の妥当性の判断に先立ち、本件各先行処分に無効とされるべき瑕疵がないかについて判断する。
(2) 本件各先行処分に係る無効事由の有無に関する判断について
 最高裁判所昭和36年3月7日第三小法廷判決・昭和35年(オ)第759号において、「行政処分が無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならず、ここに重大かつ明白な瑕疵というのは、『処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な瑕疵がある場合』を指すものと解すべきことは、当裁判所の判例である(略)。右判例の趣旨からすれば、瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上、客観的に明白である場合を指すものと解すべきである。」とされている。
 したがって、本件各先行処分について、当該判旨に照らして無効と言い得るものであるか判断する。
ア 京都地裁判決日後に係る本件各先行処分について
 審査請求人は、国税に対し、平成24年から平成27年までの所得税に係る再計算を求めて不服申立てをした旨主張しているが、令和元年8月19日現在、当該不服申立てに基づき、所得税に係る課税処分が取り消されたという事実はない。
イ 結論
 本件各先行処分を処分庁が行った当時は、「処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な瑕疵がある場合」とは認められず、成立の当初から誤認であることが外形上、客観的に明白であると解することはできず、無効とは認められない。
(3) 本件各処分の適法性及び妥当性に係る判断について
 前記(2)のとおり、本件各先行処分については、重大かつ明白な瑕疵があるとは認められないため、本件各処分自体の適法性及び妥当性について検討する。
ア 審査請求人が国税不服審判所に不服申立てを行っていることについては、本件各先行処分の税額に直ちに影響を及ぼすものではなく、また、国税不服審判所に不服申立てを行っていることを理由に本件各徴収金に係る滞納処分の続行を停止すべき法令等の規定はない。
イ 本件各処分については、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る本件各徴収金を審査請求人が完納しなかったため、平成30年3月23日付けで差押通知書を送達することにより行われたものである。
ウ 本件各処分の対象となっている財産は、株式及びFXに係る預入証拠金の債権差押通知書が送達された日の払戻請求権であり、徴収法第75条から第78条に掲げる差押禁止財産等にはあたらない。
エ 国税徴収法基本通達(以下「徴収法基本通達」という。)「第47条関係 差押えの要件」において、差し押さえる財産の選択は、「徴収職員の裁量によるが、第三者の権利を害することが少ない財産であること、滞納者の生活の維持又は事業の継続に与える支障が少ない財産であること、換価が容易な財産であること及び保管又は引揚げに便利な財産であることといった事項に十分留意して行うものとし、この場合において、差し押さえるべき財産について滞納者の申出があるときは、諸般の事情を十分考慮の上、滞納処分の執行に支障がない限り、その申出に係る財産を差し押さえるものとする。」とされている。
 しかしながら、本件処分にあたり、審査請求人から差し押さえるべき財産の申出が行われた事実はない。
オ 差し押さえる債権の範囲については、全額差し押さえなければならないとされている。本件処分により決済された、未決済評価損を差し引く前のFXに係る預入証拠金額から未決済評価損を差し引いた差押え時点における金額は○,○○○,○○○円であることから、差押え時点における本件各徴収金の合計金額である○,○○○,○○○円に達していないことから、徴収法第63条ただし書にも該当しない。
カ 以上のとおり、本件各処分は適正に行われており、審査請求人の主張は採用することができない。

第5 調査審議の経過
 当審査会は、本件各審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  令和元年8月21日 諮問書の受理
  令和元年8月23日 調査審議
  令和元年8月30日 調査審議
  令和元年9月11日 調査審議
  令和元年9月27日 調査審議

第6 審査会の判断
1 関係法令等の定め
(1) 市民税及び府民税の滞納処分について
ア 市町村民税に係る滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る地方団体の徴収金を完納しないときは、市町村の徴税吏員は、当該地方団体の徴収金につき、滞納者の財産を差し押さえなければならない(法第331条第1項)。
 地方団体の徴収金の滞納処分については、徴収法に規定する滞納処分の例による(同条第6項)。
イ 個人の道府県民税の徴収は、法第2章第1節第2款に特別の定めがある場合を除くほか、当該道府県の区域内の市町村が、当該市町村の個人の市町村民税の徴収の例により、当該市町村の個人の市町村民税の徴収と併せて行うものとする(法第41条第1項)。
ウ 市町村は、個人の市町村民税に係る地方団体の徴収金について督促状を発し、及び滞納処分をする場合においては、法に特別の規定がある場合を除くほか、当該個人の道府県民税に係る地方団体の徴収金についてあわせて行うものとする(法第334条)。
(2) 差押禁止財産について
 次に掲げる財産は、差し押さえることができない(徴収法第75条第1項)。
ア 滞納者及びその者と生計を一にする配偶者その他の親族の生活に欠くことが出できない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具(同項第1号)
イ 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者のその業務に欠くことができない器具その他の物(同項第5号)。
(3) 差押財産の選択について
 差し押さえる財産の選択は、徴収職員の裁量によるが、次に掲げる事項に十分留意して行うものとする。この場合において、差し押さえるべき財産について滞納者の申出があるときは、諸般の事情を十分考慮の上、滞納処分の執行に支障がない限り、その申出に係る財産を差し押さえるものとする(徴収法基本通達第47条関係17)。
ア 第三者の権利を害することが少ない財産であること。
イ 滞納者の生活の維持又は事業の継続に与える支障が少ない財産であること。
ウ 換価が容易な財産であること。
エ 保管又は引揚げに便利な財産であること。
2 争点等について
(1) 本件各先行処分について
ア 審査請求人は、給与所得者ではないとの判決が出たことにより、先行処分である課税処分に錯誤があることは明らかであるのに、処分庁はそれを知ったのちに本件各処分を強制してきた旨及び課税処分により税額が確定した段階で、その金額を滞納した場合に滞納処分が発生するのであって、両者は密接に関連した処分であり、別個独立した処分などとの処分庁の主張は失当である旨主張する。
 しかしながら、課税処分と滞納処分とは、前者が租税確定手続であり、後者が租税徴収手続であって、両者はそれぞれ別個の法律効果の発生を目的とする別個独立の処分であるから、課税処分の違法は、滞納処分に承継されず、仮に課税処分に瑕疵があったとしても、当該課税処分が当然無効であるか、権限のある者によって取り消されない限り、滞納処分の効力に影響を及ぼすものではない。
 これを本件についてみると、本件各先行処分について、当然無効となり得る瑕疵があると認めるに足りる事情はなく、また、本件各先行処分は権限のある者によって取り消された事実もない。
 したがって、上記審査請求人の主張は採用することができない。
イ 審査請求人は、国税不服審判所に審査請求中であるにもかかわらず、処分庁が強引に差押えをしてきたが、国税の最終決定を確認してから地方税を課税すべきである旨も主張している。
 しかしながら、国税不服審判所に対して不服申立てを行っていることについては、先行処分である大阪市における市民税及び府民税の賦課決定に直ちに影響を及ぼすものではなく、また、国税不服審判所に審査請求中であることを理由に地方税の滞納処分の続行を停止すべき法令等の規定はない。
 したがって、上記審査請求人の主張は採用することができない。
(2) 本件各処分について
 審査請求人は、FXの証拠金を差し押さえた場合、評価損が実損となり、多大な損害を与えることになるため、FXの証拠金の差押えは違法行為である旨及びFXや株式など、時々刻々とその価値が変化するものを差し押さえるのは甚だ問題である旨主張している。
 しかしながら、FXに係る預入証拠金の払戻請求権及び株式は、徴収法第75条に規定する差押禁止財産に該当しないことは明らかである。
 また、徴収法基本通達第47条関係17において、差押財産の選択については徴収職員の裁量によるとしつつも、上記1(3)のとおり、差押財産の選択について留意すべき事項を掲げるとともに、差し押さえるべき財産について滞納者の申出があるときは、滞納処分の執行に支障がない限り、その申出に係る財産を差し押さえるものとするとされている。本件各処分に係る差押財産の選択については、上記1(3)の留意すべき事項が留意されていなかったと認めるに足りる事情はなく、また、審査請求人から差し押さえるべき財産の申出が行われた事実は認められないことから、上記通達の趣旨を踏まえても、本件各処分に係る差押財産の選択に違法又は不当な点は認めらない。
 したがって、審査請求人の主張には理由がなく、審査請求人の本件各処分に関する請求は認められない。
3 審査請求に係る審理手続について
 本件各審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
4 結論
 よって、本件各審査請求に理由がないものと認められるので、当審査会は第1記載のとおり答申する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会税務第1部会
 委員(部会長)佐藤善恵、委員 永井秀人、委員 秋山利元

別紙1及び別紙2 省略

答申書(令和元年度答申第10号)

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