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答申書(令和元年度答申第13号)

2023年2月17日

ページ番号:491780

諮問番号:令和元年度諮問第10号
答申番号:令和元年度答申第13号

答申書

第1 審査会の結論
1 平成31年○月○日付け大財特第○○○○号差押処分(以下「本件処分1」という。)及び同日付け大財特第○○○○号差押処分(以下「本件処分2」という。)に対する審査請求(以下「本件審査請求1」という。)のうち、本件処分1に係る部分は却下されるべきであり、本件処分2に係る部分は認容されるべきである。
2 平成31年○月○日付け大財特第○○○○号差押処分(以下「本件処分3」という。)に対する審査請求(以下「本件審査請求2」といい、本件審査請求1と併せて「本件各審査請求」という。)は、棄却されるべきである。

第2 審査請求に至る経過
1 処分庁大阪市長(以下「処分庁」という。)は、平成21年10月19日付けで平成21年度市民税及び府民税(普通徴収)について繰上徴収を行い、繰上徴収に係る納期限変更告知書(以下「納期限変更告知書」という。)を審査請求人へ送達した。
2 審査請求人が別紙徴収金明細記載の徴収金(以下「本件徴収金」という。)を繰上徴収に係る告知により指定された納期限までに完納しなかったため、処分庁は、本件徴収金を徴収するため、平成31年○月○日付けで、審査請求人が○○刑務所会計課長に対して有する領置金の返還請求権(以下「本件差押財産1」という。)に対する差押処分(本件処分1)及び審査請求人が○○刑務所会計課長に対して有する作業報奨金の支払請求権(以下「本件差押財産2」という。)に対する差押処分(本件処分2)をした。
3 審査請求人は、平成31年2月4日、大阪市長に対し、本件処分1及び本件処分2の取消しを求めて審査請求(本件審査請求1)をした。
4 処分庁は、上記2と同様の理由により、平成31年○月○日付けで、審査請求人が厚生労働省年金局事業企画課長から支払いを受けるべき平成31年○月支給分以降の○○○○・○○年金のうち、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第76条第1項各号に掲げる金額を控除した金額の支払請求権(以下「本件差押財産3」という。)に対する差押処分(本件処分3)をした。
5 審査請求人は、平成31年4月16日、大阪市長に対し、本件処分3の取消しを求めて審査請求(本件審査請求2)をした。

第3 審理関係人の主張の要旨
1 審査請求人の主張
(1) 刑務所にいるからお金は必要ないというのは誤認である。作業報奨金は使用できる項目と金額が制限されており、自由に使えるものではない。所内での生活必需品は年金の中から送られてきている領置金を使用し、定められた日にしか買えない。今回、領置金を差し押さえられたことにより、厳寒の中、カイロの購入もできず、寒さに震えていなければならなくなる。
(2) 平成31年○月に離婚したため、出所後、生活する部屋を借りなければならないので、保証金、家賃のほか、家電製品、家財道具一式及び着る物に至るまで1からそろえなければならない。それらの全てを年金で賄う以外方法はない。まもなく70歳に達するため、出所後すぐに仕事につき収入を得られる可能性は極めて低い。そんな状況下で、年金、領置金や作業報奨金まで差し押さえられては生活できないのは目に見えている。処分庁は本件処分3について、差押通知書は平成31年○月○日に第三債務者へ送達し、差押調書(謄本)は同月21日に審査請求人へ送達したと主張しているが、全て差押えした後の事後報告ではないか。
(3) 処分庁の弁明によれば、平成21年10月19日付けで繰上徴収を行い、審査請求人に納期限変更告知書を送達しているとあるが、平成14年頃から東京に居住していたのと資金管理をしていた銀行とのトラブルにより、納期限変更告知書を受け取っていない。平成23年12月6日付けで交付要求通知書を送達したとあるが、平成23年○月○日に○○拘置所に拘束されており、郵便物は破産管財人へ届くようになっていたため受け取っていない。また、平成27年○月○日付けで債権現在額申出書を破産管財人へ送達しているとあるが、破産管財人からは何ひとつ送られてきていないほか、一切連絡も受けていない。
(4) 通常、差押えに至るまでは、何度か督促状を出し、最後は差押え勧告をした後、初めて差押えがされると思うが、そのプロセスが一切ない。破産をかけられて以降、処分庁は、5年6ヶ月所在を知りながら、審査請求人に1度も督促状を送ってきていない。破産管財人から清算されていると思って当然であろう。処分庁の落ち度であることは明白である。それが6年も経過して、いきなり1回目の領置金差押えを実行したのだから単なる暴挙に過ぎない。速やかに解除を求める。
(5) 処分庁は、代理人弁護士(以下「代理人」という。)から自主納付又は具体的な納税計画の提示もないので滞納処分を行ったと弁明しているが、代理人を通じて意向を提示している。代理人が月額○○○○円を支払い、出所後、自ら処分庁に出向き話をする旨を伝えているが、処分庁側がそれを拒否したに過ぎない。
(6) 住民票によると、東京に引っ越したのは、平成15年○月○日である。社会的に優位な立場にあった銀行の元頭取(以下「元頭取」という。)の強要により、平成16年○月○日に、大阪市○○区に住民票を移している。平成20年、住民登録があったと思われる大阪市○○区の物件は、法人名義での所有であった。審査請求人は自主的に大阪に住民登録していたわけではなく、元頭取の強要であったためである。
 実態は、平成14年頃から東京都○○区に住んでいて、平成18年○月○日に、さらに勤務地に近い○○に引っ越しをした。それが同区○○のタワーマンションであり、平成31年3月18日付け書面に添付した自宅取材記事のコピーが動かぬ証拠である。仮装住民票が大阪にあったからといって、それを盾に強引な延滞金の取立てをするのは理に反している。破産をかけられ全財産を没収された時点で支払い義務はなくなったと思っている。
(7) 昭和61年に会社を設立して以来、赤字を出した年度は1度もなく、20年以上にわたり増収増益を続け、多額の税金を納めてきた。個人も年収○○○○円に達していたが、法人、個人とも平成19年まで税金を延滞したことはない。法人も毎年○○○○円以上の税金を払い、大阪市に対して貢献してきた事実を鑑みていただき、対話による解決を願う次第である。
(8) 延滞金の元の金額がいくらなのか、全く知らされていない。平成21年10月7日及び22日が納期限だったようだが、平成29年7月7日の差押えまで何ひとつ書類すら届いていない。何も知らされないまま利息に利息がつき膨らんだ金額だとすれば、その額による差押えは不当と言わざるを得ない。
(9) 処分庁からの提出資料により延滞金の計算式を初めて目にしたが、平成22年からいきなり利息の率が3倍以上になっているのを見て驚愕した。
(10)  真実がわかった今、平成20年度までの納税実績を鑑みれば、延滞金は免除されるべきではなかろうか。
2 処分庁の主張
(1) 市税に係る滞納処分の根拠法令である地方税法(以下「法」という。)及び徴収法において、交渉中は滞納処分を猶予する旨の規定はなく、審査請求人の主張はその根拠がない。
(2) 平成29年9月5日に代理人から、「審査請求人が本市に月○○○○円納付する意思がある」旨の申出があったが、電話での申出であり、審査請求人の代理権限があることが確認できなかったことから、審査請求人の納付計画について、委任状を提出願うと返答した。委任状を受理した後の同年10月16日来所した代理人から「審査請求人が毎月少しずつ納付し、出所後に新たなビジネスを始めて何年かかっても納付する意思がある」旨の申出があったが、法第15条又は同15条の5で規定される猶予の要件に該当しないことから「少額の分納は認められない」と返答し、年金の全額差押えを提案したまでである。
(3) 審査請求人及び代理人は、本件処分1及び本件処分2までの1年3ヶ月以上の間、自主的に納付をしていないし、具体的な納税計画も提示していないうえ、電話による連絡もしていない。また、年金の全額差押えに係る承諾書の提出もなかったことから、法第331条第1項及び法第334条の規定に基づき平成31年○月○日付けで本件処分1及び本件処分2を行い、法第331条第6項により準用する徴収法第54条の規定に基づきその手続を行っている。同年○月30日になって代理人より連絡があり、審査請求人が本市に月○○○○円納付する意思があるので、本件処分1及び本件処分2を解除するよう申出があったが、徴収法第79条各項の規定による差押え解除の要件に該当しないことから、要求に応じていないまでである。
 また、本件差押財産1及び本件差押財産2については、法、徴収法並びに刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)において差押禁止財産である旨の規定はない。
 よって、本件処分1及び本件処分2は適正・適法である。
(4) なお、本件処分1に係る本件差押財産1に対するものについては、平成31年○月○日付けで第三債務者から○○○,○○○円を取り立て、同月13日付けで配当計算書を作成していることから、その処分は消滅している。
(5) 年金の滞納処分に関して、審査請求人の同意が必要である旨の規定はないが、審査請求人が刑事収容施設入所中は、徴収法第77条第1項で準用する同第76条第1項第4号及び第5号に規定する差押禁止財産に相当する金額については、その必要性がないことが考えられたため、同第76条第5項の規定に基づき、承諾書の提出を要請したものである。審査請求人から提出された「異議申し立て書」により、承諾書を提出しない旨の意思表示が確認できたこと、審査請求人の滞納市税について、滞納処分等を行い徴収してきたところであるが、完納となる見込みがないことから、法第331条第1項及び同第334条の規定に基づき、本市は本件処分3を行い、法第331条第6項により準用する徴収法第54条の規定に基づき手続を行っている。本件処分3に係る差押通知書は、平成31年○月○日に第三債務者へ送達し、差押調書(謄本)は同月21日に審査請求人へ送達している。
 以上により、本件処分3は適正・適法である。また、本件処分3の後、審査請求人は滞納市税を納付等しておらず、徴収法第79条に規定する差押えの解除の要件に該当する事実はないことから、本件処分3は解除できない。
(6) 法第329条第1項に規定する督促状については、同項ただし書で繰上徴収をする場合はこの限りでないとされており、法第13条の2第1項第1号の規定により平成21年10月19日付けで繰上徴収を行い、納期限変更告知書を送達していることから、督促状を送達していない。なお、当該告知書は、同第20条第1項の規定により、当時住民基本台帳に住所として届出があった大阪市○○区へ送達しており、同条第4項の規定により送達があったものと推定している。
(7) また、本市は審査請求人の破産手続開始を知った後の平成23年12月6日付けで、市税滞納額を明示した交付要求通知書を法第20条第1項の規定により、当時住民基本台帳に住所として届出があった東京都○○区○○へ送達しており、同条第4項の規定により送達があったものと推定している。なお、破産法第81条の規定により破産管財人へ配達されていたとしても、破産管財人から受け取っていないと主張する件については不知である。
 債権現在額申出書については、破産管財人から平成27年○月○日付けで債権の現在額申立書を提出するよう要請があったことから、大阪市○○区○○の破産管財人の事務所へ平成27年○月○日付けで市税滞納額を明示した債権現在額申出書を送達している。なお、破産管財人から送られてきていない等と主張する件については不知である。
(8) 審査請求人が破産者であった大阪地方裁判所平成23年(○)第○○○○号に係る配当等については、破産管財人より平成27年○月○日付けで財団債権については全額弁済、優先的破産債権については按分弁済の予定と文書にて連絡があり、平成27年○月○日付け債権現在額申立書を破産管財人に提出し、財団債権は破産法第5章、破産債権は同法第8章の規定により弁済又は配当を受けたものであり、本市の意思によって延滞金を回収しなかったのではない。その後、同裁判所が平成28年○月○日付けで破産手続の廃止を決定したことから、弁済又は配当を受けた額以上の延滞金徴収が破産財団からできなかったものである。

第4 審理員意見書の要旨
1 結論
 本件審査請求1のうち本件処分1に係る部分は、法律上の利益を欠く不適法なものであるため、行政不服審査法第45条第1項の規定により却下し、本件審査請求1のうち本件処分2に係る部分及び本件審査請求2には理由がないため、行政不服審査法第45条第2項の規定により、いずれも棄却されるべきものと判断する。
2 理由
(1) 平成21年度個人の市民税及び府民税賦課決定処分(以下「本件先行処分」という。)と本件処分1、本件処分2及び本件処分3(以下、併せて「本件各処分」という。)の関係について
 東京地方裁判所昭和37年4月26日判決等においては、賦課処分と滞納処分とは別個独立の行政処分であるから、賦課処分が形式的に確定しているときは、賦課処分の瑕疵が、重大かつその存在が処分の外形上一見して明らかな場合のほか、賦課処分の瑕疵によって滞納処分が違法となることはない旨判示されている。
 先行の賦課決定処分について、単に違法であるのみでは本件各処分にその違法性は承継されないため、仮に瑕疵が認められたとしても、その瑕疵が重大かつ明白である、すなわち本件先行処分が無効である場合にのみ、本件各処分が違法となるものであるため、本件先行処分に無効とされるべき瑕疵がないか判断したうえで、本件各処分についての適法性等を判断することとする。
(2) 本件先行処分について
 上記(1)でいう無効とされるべき瑕疵については、最高裁判所昭和36年3月7日第三小法廷判決・昭和35年(オ)第759号において、「行政処分が無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならず、ここに重大かつ明白な瑕疵というのは、『処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な瑕疵がある場合』を指すものと解すべきことは、当裁判所の判例である(略)。右判例の趣旨からすれば、瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上、客観的に明白である場合を指すものと解すべきである。」とされている。
 したがって、本件先行処分について、当該判旨に照らして無効とされるべき瑕疵がないか、以下判断する。
 市民税及び府民税の納税義務者については、当該年度の初日の属する年の1月1日時点において道府県内及び市町村内に住所を有する個人に対して課するとされ、住所を有する個人とは、その道府県の区域内の市町村の住民基本台帳に記録されている者をいうとされているところ、審査請求人に係る平成21年度の市民税及び府民税については、賦課期日である平成21年1月1日時点の住民基本台帳に大阪市○○区○○と記録されていたことから、審査請求人は大阪府及び大阪市における市民税及び府民税の納税義務者であると解するのが相当であり、大阪市長が行った本件先行処分について無効とされるべき明白な瑕疵があるとはいえない。
 なお、当該市町村の住民基本台帳に記録されていない個人が当該市町村内に住所を有する者である場合には、その者を当該住民基本台帳に記録されている者とみなして、その者に市町村民税を課することができるとの規定もあるが、処分庁及び審査請求人の主張及び提出された資料から、他の市町村で課税されていたとの事実も見当たらない。
(3) 本件各処分の適法性及び妥当性について
ア 本件処分1について
 審査請求人は、本件処分1の解除を求めているが、本件処分1は領置金に対する差押えであり、当該債権については既に取立てが行われており、本件処分1はこの取立てによって目的を完了し既に消滅していることから、本件審査請求1のうち本件処分1については、当該処分の解除を求める法律上の利益を有しない。
イ 本件処分2及び本件処分3について
(ア) 審査請求人は、本件処分2及び本件処分3の対象となっている平成21年度市民税及び府民税に係る徴収金について繰上徴収に係る告知により指定された納期限までに完納しておらず、本件処分2及び本件処分3は、いずれも差押えの要件を満たしている。
 また、本件処分2に係る作業報奨金については、刑事収容施設法に規定されているところ、同法、法及び徴収法において差押禁止財産である旨の規定はない。本件処分3に係る年金については、徴収法第76条第1項各号に掲げる金額を控除した金額の支払請求権について差押えをしていることが認められる。
(イ) 審査請求人は、納期限変更告知書、督促状、交付要求通知書及び債権現在額申出書について、いずれも受け取っていない旨主張している。
 地方団体の徴収金の賦課徴収に関する書類は、その送達を受けるべき者の住所、居所、事務所又は事業所に送達するものとされ、「住所、居所」とは、民法の住所又は居所をいい、民法における住所とは各人の生活の本拠をいい、住所が知れない場合には、居所を住所とみなすとされている。
 処分庁は、納期限変更告知書については、当時住民基本台帳に記録されていた審査請求人の住所へ送達しているところ、当該住所が送達時点における戸籍の附票に記載された住所と一致していること、また、通常の取扱いによる郵便によって書類を発送した場合には、その郵便物は、通常到達すべきであった時に送達があったものと推定されること、督促状については、処分庁が繰上徴収を行っていることから、督促状を送達する必要がないこと、交付要求通知書及び債権現在額申出書の送達如何については、本件処分2及び本件処分3の効力発生要件ではないことから、審査請求人の主張には理由がない。
(ウ) 差押えに係る手続について、法及び徴収法に照らし、違法又は不当な点は認められない。
(エ) 審査請求人は、差押えの解除について主張しているが、本件処分2及び本件処分3は、いずれも差押えの解除の要件を満たしていない。
(オ) 以上により、本件処分2及び本件処分3は適正に行われており、審査請求人の主張は認められない。
ウ その他の審査請求人の主張について
(ア) 延滞金の計算については、法令の規定に基づき適正に計算されていることが確認できる。また、延滞金の減免については、審査請求人が減免申請書を市長に提出した事実は確認できない。
 なお、延滞金は、納税者が各納期限後に税金を納付する場合に納付しなければならないとされているものであり、過去の納付状況により減免されるものではない。
(イ) その他の審査請求人の主張については、本件処分2及び本件処分3の違法性及び不当性を説明する主張ではないため、認められない。
エ 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 他に本件処分2及び本件処分3に違法又は不当な点は認められない。

第5 調査審議の経過
 当審査会は、本件各審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  令和元年10月21日 諮問書の受理
  令和元年10月29日 調査審議
  令和元年11月8日 調査審議

第6 審査会の判断
1 関係法令等の定め
(1) 個人の市民税及び府民税の納税義務者について
ア 道府県民税は道府県内に住所を有する個人に対して均等割額及び所得割額の合算額によって、市町村民税は市町村内に住所を有する個人に対しては均等割額及び所得割額の合算額によって課する(法第24条第1項第1号及び第294条第1項第1号)。
イ 道府県内に住所を有する個人とは、住民基本台帳法の適用を受ける者については、その道府県の区域内の市町村の住民基本台帳に記録されている者(法第294条第3項の規定により当該住民基本台帳に記録されているものとみなされる者を含み、同条第4項に規定する者を除く。)をいう(法第24条第2項)。
ウ 市町村内に住所を有する個人とは、住民基本台帳法の適用を受ける者については、当該市町村の住民基本台帳に記録されている者をいう(法第294条第2項)。
エ 市町村は、当該市町村の住民基本台帳に記録されていない個人が当該市町村内に住所を有する者である場合には、その者を当該住民基本台帳に記録されている者とみなして、その者に市町村民税を課することができる。この場合において、市町村長は、その者が他の市町村の住民基本台帳に記録されていることを知ったときは、その旨を当該他の市町村の長に通知しなければならない(同条第3項)。
オ 上記エの規定により市町村民税を課された者に対しては、その者が記録されている住民基本台帳に係る市町村は、上記ウの規定にかかわらず、市町村民税を課することができない(同条第4項)。
(2) 個人の市民税及び府民税の賦課徴収について
 個人の道府県民税の賦課徴収は、法第2章第1節第2款に特別の定めがある場合を除くほか、当該道府県の区域内の市町村が、当該市町村の個人の市町村民税の賦課徴収の例により、当該市町村の個人の市町村民税の賦課徴収と併せて行うものとする(法第41条第1項)。
(3) 個人の市民税及び府民税の賦課期日について
 個人の市民税及び府民税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の1月1日とする(法第39条及び第318条)。
(4) 書類の送達等について
 地方団体の徴収金の賦課徴収又は還付に関する書類は、郵便若しくは信書便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所、居所、事務所又は事業所に送達する(法第20条第1項)。
 通常の取扱いによる郵便又は信書便によって当該書類を発送した場合には、法に特別の定めがある場合を除き、その郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第3項に規定する信書便物は、通常到達すべきであった時に送達があったものと推定する(同条第4項)。
(5) 繰上徴収について
 地方団体の長は、納税者の財産につき滞納処分、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続又は破産手続が開始されたときは、既に納付又は納入の義務の確定した地方団体の徴収金でその納期限においてその全額を徴収することができないと認められるものに限り、その納期限前においても、その繰上徴収をすることができる(法第13条の2第1項第1号)。
 地方団体の長は、上記の規定により繰上徴収をしようとするときは、その旨を納税者に告知しなければならない。この場合において、既に納付の告知をしているときは、納期限の変更を告知しなければならない(同条第3項)。
(6) 市民税及び府民税の督促及び滞納処分について
ア 納税者が納期限までに市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しない場合においては、市町村の徴税吏員は、納期限後20日以内に、督促状を発しなければならない。ただし、繰上徴収をする場合においては、この限りでない(法第329条第1項)。
イ 市町村民税に係る滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る地方団体の徴収金を完納しないとき、又は、滞納者が繰上徴収に係る告知により指定された納期限までに市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しないときは、市町村の徴税吏員は、当該地方団体の徴収金につき、滞納者の財産を差し押さえなければならない(法第331条第1項)。
 地方団体の徴収金の滞納処分については、徴収法に規定する滞納処分の例による(同条第6項)。
ウ 市町村は、個人の市町村民税に係る地方団体の徴収金について督促状を発し、及び滞納処分をする場合においては、法に特別の規定がある場合を除くほか、当該個人の道府県民税に係る地方団体の徴収金についてあわせて督促状を発し、及び滞納処分をするものとする(法第334条)。
(7) 差押禁止財産について
 滞納者及びその者と生計を一にする配偶者その他の親族の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具等の財産は差し押さえることができない(徴収法第75条第1項)。
(8) 給料等の差押禁止額について
ア 給料、賃金、俸給、歳費、退職年金及びこれらの性質を有する給与に係る債権(以下「給料等」という。)については、次に掲げる金額の合計額に達するまでの部分の金額は、差し押さえることができない(徴収法第76条第1項前段)。
(ア) 所得税法の規定によりその給料等につき徴収される所得税に相当する金額(同項第1号)
(イ) 法の規定によりその給料等につき特別徴収の方法によって徴収される道府県民税及び市町村民税に相当する金額(同項第2号)
(ウ) 健康保険法その他の法令の規定によりその給料等から控除される社会保険料に相当する金額(同項第3号)
(エ) 滞納者(その者と生計を一にする親族を含む。)に対し、これらの者が所得を有しないものとして、生活保護法に規定する生活扶助の給付を行うこととした場合におけるその扶助の基準となる金額で給料等の支給の基礎となった期間に応ずるものを勘案して政令で定める金額(同項第4号)
(オ) その給料等の金額から上記(ア)から(エ)までに掲げる金額の合計額を控除した金額の100分の20に相当する金額(その金額が(エ)に掲げる金額の2倍に相当する金額を超えるときは、当該金額)(同項第5号)
イ 徴収法第76条第1項第4号に規定する政令で定める金額は、滞納者の給料等の支給の基礎となった期間1月ごとに100,000円(滞納者と生計を一にする配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)その他の親族があるときは、これらの者一人につき45,000円を加算した金額)とする(国税徴収法施行令第34条)。
(9)社会保険制度に基づく給付の差押禁止について
 社会保険制度に基づき支給される退職年金、老齢年金、普通恩給、休業手当金及びこれらの性質を有する給付(確定給付企業年金法第38条第1項の規定に基づいて支給される年金、確定拠出年金法第35条第1項(同法第73条において準用する場合を含む。)の規定に基づいて支給される年金その他政令で定める退職年金を含む。)に係る債権は給料等とみなして、徴収法第76条の規定を適用する(徴収法第77条第1項)。
 上記に規定する社会保険制度とは、厚生年金保険法、国民年金法等に基づく保険、共済又は恩給に関する制度その他政令で定めるこれらに類する制度をいう(同条第2項)。
(10)  差押調書について
 滞納者の財産を差し押さえたときは、差押調書を作成し、その財産が次に掲げる財産であるときは、その謄本を滞納者に交付しなければならない(徴収法第54条)。
ア 動産又は有価証券
イ 債権(電話加入権、賃借権、徴収法第73条の2の規定の適用を受ける財産その他取り立てることができない債権を除く。以下同じ。)
ウ 徴収法第73条又は第73条の2の規定の適用を受ける財産
(11)  債権の差押えについて
 債権の差押えは、第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行う(徴収法第62条第1項)。
 差押えの効力は、債権差押通知書が第三債務者に送達されたときに生ずる(同条第3項)。
(12)  納期限後に納付する延滞金について
ア 納期限後に納付する市民税及び府民税の延滞金について
 納期限後にその税金を納付する場合には、当該税額に、その納期限の翌日から納付の日までの期間の日数に応じ、年14.6パーセント(各納期限の翌日から1月を経過するまでの期間は年7.3パーセント)の割合を乗じて計算した金額に相当する延滞金額を加算して納付しなければならない(法第41条第1項及び第326条第1項)。
イ 延滞金の割合等の特例について
 上記アにおける延滞金の割合については、法附則において特例が定められている(平成25年法律第3号による改正前の地方税法附則第3条の2第1項及び第4項並びに法附則第3条の2第1項及び第5項)。
ウ 延滞金の減免について
 市町村長は、納税者が各納期限までに納付しなかったことについてやむを得ない理由があると認める場合には、延滞金額を減免することができる(法第45条及び法第326条第4項)。
 市長は、納税者が納期限までに税金を納付しなかったことについてやむを得ない理由があると認める場合には、申請に基づき、延滞金額を減免することができる(大阪市市税条例第14条第8項)。
2 審理の対象について
 行政不服審査法第2条において、行政庁の処分に不服があるものは、同法第4条及び第5条第2項の定めるところにより、審査請求をすることができるとされており、処分に不服がある者とは当該処分について不服申立てをする法律上の利益がある者をいうとされている(最高裁判所昭和53年3月14日第三小法廷判決)。
 ここで審査請求をする法律上の利益が認められるためには、行政庁による処分が現に存在していることが必要であるところ、本件処分1については、平成31年○月○日付けで処分庁によって取立てが行われたことにより既に消滅している。
 したがって、本件審査請求1のうち本件処分1の取消しを求める部分については、審査請求人はその取消しを求める法律上の利益を有しないため、不適法なものであると認められる。
 よって、当審査会は、本件審査請求1のうち本件処分2に係る部分及び本件処分3について、以下、審理を行うものとする。
3 争点等について
(1) 本件処分2について
 本件処分2においては、作業報奨金に対する支払請求権が差押財産となっており、処分庁はこの点について、作業報奨金に対する支払請求権については、法、徴収法及び刑事収容施設法において差押禁止財産である旨の規定はなく、適法である旨主張している。
 作業報奨金については、刑事収容施設法第98条第1項において、「刑事施設の長は、作業を行った受刑者に対しては、釈放の際(その者が受刑者以外の被収容者となったときは、その際)に、その時における報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金を支給するものとする」とされている。
 また、作業報奨金は、受刑者の釈放の際に、その時点での計算上の金額である報奨金計算額と同額の金額で確定することにより、はじめて受刑者の具体的な権利(作業報奨金支払請求権)として発生する法的性質を有するものである。したがって、釈放前の段階では、作業報奨金の支給を受ける権利というものを観念する余地はなく、刑事収容施設法第100条の手当金の支給を受ける権利とは異なり、その譲渡し、担保提供、差押えも観念し得ないと解される(林眞琴ほか「逐条解説刑事収容施設法[第3版]」484頁(平成29年・有斐閣)参照)。
 したがって、本件処分2に係る差押財産である作業報奨金の支払請求権については、あくまでも釈放前の段階では観念する余地はなく、本件処分2に係る差押処分時においては未だ発生しておらず存在しないものであるから、本件処分2は適法であるとはいえず、取り消されるべきである。
(2) 本件処分3について
ア 本件先行処分について
 審査請求人は、自主的に大阪市に住民登録をしていたわけではなく、実態は平成14年頃から東京に住んでおり、本件先行処分である平成21年度市民税及び府民税の賦課決定処分に疑義があり、当該市民税及び府民税の滞納により発生した延滞金について、大阪市に対して支払う義務はないことを理由として、本件処分3の取消しを求めている。
 しかしながら、課税処分と滞納処分とは、前者が租税確定手続であり、後者が租税徴収手続であって、両者はそれぞれ別個の法律効果の発生を目的とする別個独立の処分であるから、課税処分の違法は、滞納処分に承継されず、仮に課税処分に瑕疵があったとしても、当該課税処分が当然無効であるか、権限のある者によって取り消されない限り、滞納処分の効力に影響を及ぼすものではない。
 これを本件についてみると、審査請求人は平成21年度の市民税及び府民税の賦課期日である平成21年1月1日時点、大阪市において住民基本台帳に記録されていたこと、また、大阪市以外の市町村において審査請求人に対して法第294条第3項の規定に基づき市町村民税が課税されていたとの事実も認定できないことからすると、本件先行処分に当然無効となり得る瑕疵があると認めるに足りる事情はなく、また、本件先行処分は権限のある者によって取り消された事実もない。
 したがって、上記審査請求人の主張は採用することができない。
イ 納期限変更告知書について
 審査請求人は、平成14年頃から東京に在住していたことや取引銀行とのトラブルがあったことにより、納期限変更告知書を受け取っていない旨主張している。
 上記1(4)のとおり、地方団体の徴収金の賦課徴収に関する書類は郵便若しくは信書便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所、居所、事務所又は事業所に送達するとされており、通常の取扱いによる郵便又は信書便により地方団体の徴収金の賦課徴収に関する書類を発送した場合には、当該書類は、通常到達すべきであった時に送達があったものと推定するとされているところ、その送達の事実がなかったとの反証があれば、当該推定は覆されると解される。
 これを本件についてみると、処分庁は納期限変更告知書について、当時、住民基本台帳に記録されていた審査請求人の住所に送付しており、一方、審査請求人は納期限変更告知書を受け取っていないと主張するものの、送達の事実がなかったと認めるに足りる証拠を提出しておらず、送達の事実がなかったという反証をしていないことからすると、納期限変更告知書については、通常到達すべきであった時に審査請求人に送達されたものと推定することが相当である。
 なお、審査請求人は平成23年12月6日付けの交付要求通知書及び平成27年○月○日付けの債権現在額申出書についても受け取っていない旨主張しているが、それらの書類については、本件処分3の効力発生要件ではない。
 したがって、審査請求人の主張は採用することができない。
ウ 差押要件の該当性について
 審査請求人は、督促状が届いていないのにいきなり差し押さえられた旨及び処分庁は5年6ヶ月の間、審査請求人の所在を知りながら、1度も督促状を送付しておらず、差押えに至るまでのプロセスが一切ない旨主張している。
 上記1(6)アのとおり、繰上徴収をする場合においては、督促状を送達する必要がなく、また、上記1(6)イのとおり、繰上徴収に係る告知により指定された納期限までに地方団体の徴収金を完納しないときには、市町村の徴税吏員は滞納者の財産を差し押さえなければならないとされている。
 これを本件についてみると、平成21年10月19日付けで繰上徴収がされていることから、本件処分3を行うにあたっては督促状を送達する必要はない。
 また、本件徴収金については、平成23年○月○日の審査請求人に係る破産手続開始決定以降、平成24年3月16日及び平成25年4月16日に審査請求人が所有する不動産の任意売却により平成21年度市民税及び府民税(普通徴収)に係る本税の一部が納付され、平成27年○月○日に当該破産事件に係る弁済又は配当により当該本税の残額及び延滞金の一部の取立てが行われ、さらに、平成29年7月4日付け領置金差押処分及び平成29年8月14日付け預金差押処分により延滞金の一部の取立てが行われてもなお、繰上徴収に係る告知により指定された納期限までに完納されていないことが認められる。
 したがって、本件処分3については法令に規定する差押えの要件を充足しており、審査請求人の主張は採用することができない。
エ 差押禁止額について
 審査請求人は、出所後の生活費を年金で賄う以外方法はなく、出所後に仕事につき収入を得られる可能性は極めて低い状況で年金を差し押さえられては生活できない旨主張している。
 しかしながら、本件差押財産3については、徴収法第75条に規定する差押禁止財産には該当しない。
 また、上記1(9)のとおり、社会保険制度に基づき支給される退職年金、老齢年金等に係る債権は、給料等とみなして、上記1(8)の徴収法第76条の規定を適用するとされており、徴収法第76条では、給与収入が一般の給与生活者の生計に占める重要性を考慮し、給与生活者の最低生活の維持等に充てられるべき金額に相当する給与の差押えが禁止されているところ、本件処分3において、処分庁は当該規定に則り、審査請求人が支払いを受けるべき平成31年○月支給分以降の○○○○・○○年金のうち徴収法第76条第1項各号に掲げる金額を控除した金額の支払請求権を差し押さえたことが認められる。
 したがって、処分庁が差押禁止の範囲を超えて違法に差し押さえた事実は認められず、また、本件処分3が不当となる事情は見当たらないため、審査請求人の主張は採用することができない。
オ 債権の差押えの手続について
 審査請求人は、差押通知書が第三債務者へ送達され、差押調書(謄本)が審査請求人へ送達されたことに関し、全て差押えした後の事後報告である旨主張している。
 しかしながら、上記1(10)イ及び(11)のとおり、滞納者の財産を差し押さえた時は、差押調書を作成し、その謄本を滞納者に交付しなければならないとされ、また、債権の差押えは、第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行うとされており、本件処分3については、これら法令の規定に従い、適正に行われていることが認められる。
 したがって、審査請求人の主張は採用することができない。
(3) その他の審査請求人の主張について
ア 延滞金の金額について
 審査請求人は、平成22年から延滞金の率が3倍以上になっている旨及び延滞金について利息に利息がつき膨らんだ金額だとすればその額による差押えが不当である旨主張している。
 しかしながら、延滞金の割合については、上記1(12)ア及びイのとおり、法の定めるところであり、また、別紙徴収金明細記載の延滞金の金額については、処分庁において法の定めるところに基づき適正に計算を行っていることが認められる。
イ 延滞金の減免について
 審査請求人は、平成20年度までの納税実績を鑑みれば、延滞金は免除されるべきである旨主張している。
 上記1(12)ウのとおり、市長は、納税者が納期限までに税金を納付しなかったことについてやむを得ない理由があると認める場合には、申請に基づき、延滞金額を減免することができるとされているが、審査請求人から減免申請書が提出された事実は認められないため、審査請求人の主張は採用することができない。
4 審査請求に係る審理手続について
 本件各審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 結論
 よって、本件審査請求1のうち、本件処分1に係る部分については不適法であり、本件処分2に係る部分については理由があるため本件処分2は取り消されるべきものであること、また、本件審査請求2については理由がないことから、当審査会は、第1記載のとおり答申する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会税務第1部会
 委員(部会長)佐藤善恵、委員 永井秀人、委員 秋山利元

別紙徴収金明細 省略

答申書(令和元年度答申第13号)

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