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答申書(令和2年度答申第12号)

2023年2月17日

ページ番号:531561

諮問番号:令和2年度諮問第2号
答申番号:令和2年度答申第12号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求は認容されるべきである。

第2  審査請求に至る経過
1 令和元年〇月〇日、審査請求人から身体障がい者手帳の交付申請書が提出され、同日付けで、大阪市長は、審査請求人に、障がい名がA障がい(〇〇)(B級)の身体障がい者手帳を交付した。
2 令和元年〇月〇日、審査請求人は、大阪市長に対し、身体障害者手帳交付申請に係る処分に対する審査請求(以下「別件審査請求」という。)を行った。
3 令和元年10月10日、大阪市C区保健福祉センター(以下「保健福祉センター」という。)において、審査請求人は、電動車椅子を申請する補装具とする補装具費支給申請書を処分庁あて提出した。
4 令和元年10月11日、大阪市C区保健福祉センター所長(以下「処分庁」という。)は、審査請求人に対し、補装具費支給に関する却下処分(令和元年10月11日付〇〇第〇〇号。以下「本件処分」という。)を行い通知した。
5 令和元年10月22日、審査請求人は、大阪市長に対し、本件審査請求を行った。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1 審査請求人の主張
 本件審査請求の趣旨は、本件処分が、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号。以下「法」という。)第76条第1項の規定に違反し違法であることから、本件処分を取り消すとの裁決を求めるものである。審査請求人の主張の概要は、以下のとおり。
(1) 本件処分の判断過程及び手続の瑕疵
 処分庁による本件処分は、大阪市の身体障がい者更生相談所である大阪市立心身リハビリテーションセンター(以下「本市更生相談所」という。)への判定依頼が行われなかった結果、十分な判定がされておらず、また、審査請求人への判定通知書の送付もされずに処分されたことは、判断過程及び手続に瑕疵がある。
(2) 違法又は不当な判断基準に基づく本件処分
 本件処分の基準となった大阪市電動車椅子の補装具費支給基準(以下「市基準」という。)は、存否すら不明であったことや、運用状況を計り知ることができない違法又は不当なものである。かかる市基準に全面的に依拠して行った本件処分は、行政手続法に違反する。
(3) 身体状況等の考慮不尽
 本件処分は、福岡地裁平成24年(行ウ)第78号同27年2月9日判決・賃金と社会保障1632号45頁(以下「福岡地裁判決」という。)において、あらゆる補装具費支給の要否を判断するに当たり考慮すべき事情とされている、「当該身体の状態により当該障害者が日常生活又は社会生活を自立して営むことがどれ程困難となっているかといった観点から、当該障害者の生活状況等」は、障がいの状況及び級別にかかわらず、遍く適用されるべきであるのに、その考慮がなされていない。
(4) 却下理由の不備
 補装具費支給等却下通知に記載された本件処分理由は、一般的かつ広汎な理由を述べるにとどまっており、具体性を欠くために、行政手続法第8条第1項に違反する。
2 処分庁の主張
 処分庁の主張は、本件処分は、関係法令等に基づき適法に行ったものであり、本件審査請求を棄却するとの裁決を求めるものである。処分庁の主張の概要は、以下のとおり。
(1) 本件処分の判断過程及び手続並びに判断基準の適正性
 本件処分を行う際に、本市更生相談所における医学的判定を求める理由は認められなかったため、判定依頼を行わなかったものであり、判断過程及び手続については、違法又は不当な点はない。また、本件処分は、その成立及び内容について適正を欠くことのない市基準に基づいて行われたものである。
(2) 身体状況等の考慮
 福岡地裁判決は、心臓機能障がいのため身体障がい者手帳1級を所持する原告に対する電動車椅子の支給が却下されたことについて争われたものであり、審査請求人とは障がいの等級及び内容が異なり、同様の基準で判断することはできない。
(3) 却下理由の具備
 申請時、審査請求人に対し、口頭により市基準に該当しない旨を説明した上で、市基準の写しを手渡しており、審査請求人に対し具体的な説明がなされており、却下理由に不備はない。
3 審理員意見書の結論
 本件処分に違法又は不当な点は認められないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、本件審査請求は棄却されるべきである。
4 審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 補装具の定義は、法第5条第25項に規定されており、「補装具とは、障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつ長期間にわたり継続して使用されるものその他の厚生労働省令で定める基準に該当するものとして、義肢、装具、車いすその他の厚生労働大臣が定めるものをいう」と定められている。
イ 法第5条第25項に規定された補装具に係る「厚生労働省令で定める基準」については、同法施行規則第6条の20に規定されており、次の各号のいずれにも該当することとされている。
一 障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつ、その身体への適合を図るように製作されたものであること。
二 障害者等の身体に装着することにより、その日常生活において又は就労若しくは就学のために、同一の製品につき長期間にわたり継続して使用されるものであること。
三 医師等による専門的な知識に基づく意見又は診断に基づき使用されることが必要とされるものであること。
ウ 補装具費の支給については、法第76条に規定されており、市町村は、障がい者から申請があった場合、当該申請に係る障がい者の障がいの状態からみて必要と認めるとき、補装具費を支給することが定められている。
エ 補装具の種目や費用額の算定基準は、「補装具の種目、購入等に要する費用の額の算定等に関する基準」(平成18年9月29日厚生労働省告示第528号)に規定されている。
オ 補装具費の支給に係る事務取扱については、地方自治法第245条の4の規定に基づく技術的助言として、「補装具費支給事務取扱要領」の制定について(平成30年3月23日障企自発0323第1号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室長通知)が発出されており、当該通知の別紙として「補装具費支給事務取扱要領」が示されている。
カ 補装具費の支給に係る事務取扱については、同様に、地方自治法第245条の4の規定に基づく技術的助言として、「補装具費支給事務取扱指針について」の制定について(平成30年3月23日障発0323第31号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)が発出されており、当該通知の別紙として「補装具費支給事務取扱指針」(以下「国指針」という。)が示されている。国指針においては、補装具は、身体障がい者等の失われた身体機能を補完又は代替し、かつ、長期間にわたり継続して使用される用具であり、身体障がい者等の職業その他日常生活の効率の向上を図ること等を目的として使用されるものとされている。
キ 電動車椅子の支給については、電動車椅子に係る補装具費の支給について(平成30年3月23日障発0323第32号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)が発出されており、当該通知の別紙として「電動車椅子に係る補装具費支給事務取扱要領」(以下「電動車椅子に係る事務取扱要領」という。)が示されている。電動車椅子に係る事務取扱要領では、電動車椅子に係る補装具費支給基準の対象者は、学齢児以上であって、①重度の下肢機能障がい者等であって、電動車椅子によらなければ歩行機能を代替できないもの、又は、②呼吸器機能障がい、心臓機能障がい、難病等で歩行に著しい制限を受ける者又は歩行により症状の悪化をきたす者であって、医学的所見から適応が可能なものとされている。
ク 本市では、電動車椅子の補装具費支給基準として、市基準(平成25年4月1日制定)を定めており、本市の電動車椅子の補装具費の支給に際しては、この市基準を医学的判定依頼の要否を判断する目安として用い、支給決定を行っている。
ケ 身体障害者更生相談所の設置及び業務については、身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)第11条に規定されている。また、国指針において、更生相談所は、補装具費支給制度における技術的中枢機関及び市町村等の支援機関として、補装具の専門的な直接判定の他に、市町村への技術的支援、補装具費支給意見書を作成する医師に対する指導、補装具業者に対する指導を行うこととされている。
(2) 審理関係人の主張の検討
ア 市基準について
 本件において、処分庁は、市基準を判断のよりどころとして本件処分を行っていることが明らかであるところ、審査請求人の主張のとおり、市基準が違法又は不当なものであれば、本件処分にも大きな影響を及ぼすものと考える。したがって、まず、市基準について検討を加える。
 処分庁の主張によると、市基準の性格は、国指針の別表1に示された電動車椅子に係る補装具費の支給対象者、重度の下肢障がいがあり電動車椅子によらなければ歩行機能を代替できない者とする要件について、本市更生相談所による医学的見解として具体的な障がい状況を示唆したものであるという。
 更生相談所が担う業務については、身体障害者福祉法第11条に規定されており、補装具判定に関しては、同法第10条第1項第2号ニにおいて、必要に応じ、法第5条第25項に規定する補装具の処方及び適合判定を行うことと定められており、また、先述した国指針における更生相談所の役割からも、医学的判定の必要性について、本市更生相談所が一定の指標を示すことについては、当然に是認されるものであると思われる。
 したがって、市基準は、本市更生相談所の医学的判定の一部を成すものと言うことができ、国指針及び電動車椅子に係る事務取扱要領に示された医学的専門家による判定結果として運用しうるものと考えることができる。
 本市では、市基準に基づき処分庁が支給の要否を判断する運用を行っており、かかる運用については、関係法令に定める更生相談所及び処分庁の権限を逸脱するものではないと考える。
 また、市基準は、処分庁の主張するとおり、業務を所管する部局において決裁され、平成25年4月1日より施行されているものである。
 以上のことから、市基準について、違法又は不当な点は認められない。
イ 身体状況等の考慮について
 審査請求人は、令和元年12月25日付け反論書(以下「反論書1」という。)において、自身の障がいについて、A障がいD級、かつ、E障がいF級とするのが妥当と主張し、また、令和2年3月6日付け反論書(以下「反論書3」という。)において、自身の障がいについて、A障がいD級、かつ、E障がいC級を認定すべきと主張している。
 しかしながら、審査請求人の障がいは、令和元年〇月〇日に審査請求人が行った身体障がい者手帳の交付申請に基づき、障がい等級に係る審査が行われた結果、A障がいB級と認定されている限りである。この点については、主治医診断書も同様の判定である。
 処分庁は、この身体障がい者手帳の等級審査結果に基づき、審査請求人の障がい状況を確認し、本件処分を行っているが、具体的な身体状況等の考慮を行っているか否かについて検討する。
 審査請求人は、反論書1において、1本杖を用いて100m程度歩行することは可能と主張しているが、反論書1の資料として添付されている「身体障がい者診断書・意見書(肢体不自由用)」において、杖や補装具なしで休まずに歩ける距離を100mとした記載があり、医師の診断結果と主張が相違している。
 審査請求人が引用している福岡判決は、心臓機能障がいのため身体障害手帳1級の原告に対し、電動車椅子に係る補装具費の支給を却下したことについて争われたものである。この原告は、電動車椅子によらなければ歩行を代替できず、通学や買い物等の日常生活に著しい困難があったが、そうしたことが考慮されていないことを一因として、処分は取り消されるべきとした判断が示されたものである。
 市基準では、呼吸器機能障がいや心臓機能障がいが1級で、歩行に著しい制限を受ける場合は電動車椅子の支給対象としており、仮に、福岡判決の原告から電動車椅子に係る補装具費の支給申請があった場合は、本市更生相談所での医学的判定の対象となる。
 審査請求人が福岡判決から引用している一部、電動車椅子に限らず全ての補装具について、当該障がい者の生活状況等についても考慮すべきとする点については、審査請求人が主張するとおりである。
 先述のとおり、市基準は、医学的判定において、生活状況等斟酌すべき事情を考慮しうる指標となっていることからすると、市基準に依拠して判断を行ったということは、この点について考慮すべき点についても一定の考慮を行ったということができるように考える。
 以上のことから、処分庁は、審査請求人の身体状況等の考慮を行ったということができ、違法又は不当な点は認められない。
ウ 判断過程及び手続について
 審査請求人は、本件処分が国指針に基づき本市更生相談所に対して判定依頼がなされなかったこと、申請人に対する判定結果通知書の送付がなされなかったことを踏まえて、電動車椅子に係る事務取扱要領に基づく電動車椅子の支給に係る判定の過程として経るべき本市更生相談所での医学的判定が行われなかったことについて、判断過程及び手続に瑕疵があると主張している。
 電動車椅子を補装具費とする支給費決定に際しては、国指針及び電動車椅子に係る事務取扱要領によれば、電動車椅子に係る申請があった場合において、実施機関は、更生相談所に対して支給の要否につき判定の依頼を行うとともに、同更生相談所における医師等の医学的専門家による十分な協議とその結果としての判定を踏まえ、電動車椅子を補装具費として支給の対象にするのかについて決定をするものとされている。
 さらに、本市では、市基準に基づき処分庁が支給の要否を判断する運用を行っていることについては先述したとおりである。
 ところで、市基準においては、電動車椅子の補装具費支給の目安は、次の5つの条件を全て充たすものとされている。
1 対象者
 学齢児以上であって、次の(1)から(3)のいずれかに該当する障がい者であること。
(1) 下肢障がいが1級又は2級の者(体幹機能障がい・脳原性移動機能障がいを含む。)で上肢障がいが7級以上の手帳を有する者。かつ、電動車椅子によらなければ歩行機能を代替できない者。
(2) 呼吸器機能障がい、心臓機能障がいが1級であり、歩行に著しい制限を受ける者であって、医学的所見から適応が可能なもの。必ず当該障がいに関する主治医からの診療情報提供書が必要である。
 ただし、これらの障がいの3級については、他の障がい等を考慮し、電動車椅子補装具費支給判定会議(以下、「判定会議」という。)にて判定する。
(3) 障害者総合支援法施行令第1条に規定する特殊疾病であって、電動車椅子によらなければ歩行機能を代替できない、或いは歩行に著しい制限を受ける又は歩行により症状の悪化をきたす者であって、医学的所見から適応が可能なもの。必ず当該特殊疾病に携わる専門医からの診療情報提供書が必要である。
 ただし、身体の状況等により判定会議に諮る場合がある。
2 使用者条件
 次のいずれにも該当する障がい者であること
(1) 日常生活において、視野・視力、聴力等に障がいを有しない者又は障がいを有するが電動車椅子の安全運行に支障がないと判断されるもの。この場合においては、自動車運転免許の交付基準に準じて判断する。
(2) 歩行者として、必要最小限度の交通規則を理解・遵守することが可能なもの。
3 安全に電動車椅子を操作できるもの。
4 電動車椅子の保管場所があること。
5 判定医師が必要と認めるもの。
(以上、市基準より抜粋)
 本件処分に当たっては、処分庁は、審査請求人が下肢障がい等級に該当しないこと、上肢障がいが7級以上の者には該当しないこと及び電動車椅子によらなければ歩行を代替できない者には該当せず、市基準の要件を充たさないことを確認した上で本件処分を行った。
 この点について、審査請求人は、反論書1において、「自動車と一本杖を用いて来庁したことのみを以って「電動車椅子以外での歩行機能の代替えが可能」と評価した処分庁の判断は考慮不尽というほかにない」と主張しているが、処分庁は、このことのみをもって本件処分の判断に至ったわけではなく、市基準の要件を充たさないことを確認したことを踏まえて本件処分の判断に至ったものと考える。
 そうすると、処分庁が本市更生相談所の医学的判定の一部である市基準に則り、本件処分を行った判断過程において、審査請求人が主張するような、違法又は不当な点は認められない。
 また、令和元年10月10日に審査請求人が保健福祉センターにおいて、電動車椅子の補装具費支給申請に訪れた際、処分庁職員は、審査請求人の障がい状況について、市基準に示された下肢障がい等級に該当しないこと、また、上肢障がい等手動車椅子の操作を困難とする要素もないことから、電動車椅子によらなければ歩行を代替できない者には該当しないことを確認し、審査請求人に対し、その旨の説明を行っている。
 加えて、処分庁職員は、審査請求人の求めに応じて、その場で本市更生相談所に架電し、審査請求人の障がい状況等を説明した上で、医学的判定の対象となるかどうかについて確認し、本市更生相談所からは医学的判定の対象外であるとの回答を得ている。
 以上のとおり、処分庁は、市基準で支給対象者に該当しない審査請求人にも説明を行い、かつ、審査請求人の求めに応じて本市更生相談所にも確認を行っている。これらの事情に鑑みると、処分庁の判断過程及び手続において違法又は不当な点は認められない。
エ 本件処分における理由の記載の程度について
 審査請求人は、本件処分において示された却下の理由が、具体性を欠いており、行政手続法第8条第1項に違反すると主張している。
 本件処分に係る却下通知書(以下「本件通知書」という。)では、却下の理由について、「給付(修理)要件に該当しないため」と示され、当該通知書の別紙「補装具費支給の却下決定について」(以下「本件通知書別紙」という。)において、却下と決定した理由を「大阪市電動車椅子の補装具費支給基準に該当しないため。」と示している。
 処分庁が通知書等に示した理由は、審査請求人が主張するとおり、具体的とは言い難い面もあるが、理由付記の趣旨は、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えることと解されている。
 申請時、処分庁は、審査請求人に対して市基準について説明し、審査請求人の障がい状況が、市基準の要件に該当しないことを説明していること、また、その際、処分庁は、審査請求人に対し、書面により市基準を交付していることから、実質的には具体的な理由の説明がなされていることからすると、審査請求人が理由を全く知り得ないとまではいえないものと考える。
 そうすると、審査請求人の主張のような違法又は不当があるとまでは認められないものと考える。
(3) 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 本件処分について、他に違法又は不当な点は認められない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  令和2年7月1日 諮問書の受理
  令和2年8月4日 審査庁からの主張書面の収受
  令和2年8月13日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和2年8月18日 調査審議(審査庁の口頭説明、処分庁の陳述)
  令和2年8月26日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和2年9月7日 審査庁からの主張書面の収受
  令和2年9月14日 調査審議
  令和2年10月12日 調査審議
  令和2年10月12日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和2年10月27日 審査庁からの主張書面の収受
  令和2年11月10日 調査審議
  令和2年12月8日 調査審議
  令和3年2月3日 調査審議

第5 審査会の判断の理由
1 本件に係る法令等の規定について
 上記第3の4(1)のとおりである。
 また、法第76条第第3項において、「市町村は、補装具費の支給に当たって必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、身体障害者更生相談所その他厚生労働省令で定める機関の意見を聴くことができる。」と規定されており、また、同法施行規則第65条の8第1項において、「市町村は、補装具費の支給に当たって必要があると認めるときは、身体障害者福祉法第9条第7項に規定する身体障害者更生相談所及び次条に定める機関(次項において「身体障害者更生相談所等」という。)の意見を聴くことができる。」と規定されている。
 さらに、電動車椅子に係る事務取扱要領の「第1 基本的事項」の1において、「電動車椅子に係る補装具費の支給は、重度の歩行困難者の自立と社会参加の促進を図ることを目的として行われるものであることから、身体障害者、身体障害児及び難病患者等(以下「障害者等」という。)の身体の状況、年齢、職業、学校教育、生活環境等の諸条件を考慮し、その是非を判断すること。」と規定されている。
2 争点について
 本件審査請求における争点は、以下の3点である。
(1) 本件処分にあたって付された処分理由が、行政手続法第8条に反し、違法又は不当となるか(以下「争点1」という。)。
(2) 市基準が、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に反し、違法又は不当となるか(以下「争点2」という。)。
(3) 市基準をもとに行った本件処分に違法又は不当な点があるか否か(以下「争点3」という。)。
3 争点に係る審査会の判断について
(1) 争点1について
ア 本件処分に付された処分理由について
 令和元年10月11日付け本件通知書では、本件処分の理由として「給付(修理)要件に該当しないため」と記載され、また、令和元年10月11日付け本件通知書別紙では、「大阪市電動車椅子の補装具費支給基準に該当しないため。」と記載され、両文書は、あわせて被処分者に提示することにより本件処分の理由を伝える趣旨と解される。加えて、事件記録によれば、処分庁は、申請時の同年同月10日に、「口頭により本市基準に該当しない旨の説明を行い、本件処分に係る根拠である本市基準についても写しを書面にて手渡しており、本市基準に基づくと申請が却下になる理由は伝えている」とのことである。
 上記事情も踏まえて、行政手続法第8条の理由付記の程度が十分といえるか、以下検討する。
イ 行政手続法の解釈について
 一般に、法規が行政処分に理由を付すべきものとしている場合において、その趣旨とするところは、行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにあるものと解されるが(最高裁昭和36年(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁参照)、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合に、申請者に対し当該処分の理由を示すべき旨を規定する行政手続法8条1項本文も、これと同一の趣旨に出たものと解するのが相当である。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る審査基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである(最高裁昭和57年(行ツ)第70号同60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁、最高裁平成21年(行ヒ)第91号同23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。
ウ 本件処分における理由の記載の程度について
 まず、本件処分についてみると、本件処分の根拠法令たる法第76条第1項は、第3の4(1)ウのとおり極めて抽象的であり、同項は、後述のとおり処分庁に裁量を認める趣旨と解される。他方で、支給すべきか否かを判断するための基準たる審査基準は、第3の4(2)ウのとおり市基準として一応具体的に定められ、処分庁によれば、求めがあれば申請者にこれを交付しているとのことである。もっとも、後述するとおり、法の趣旨に照らせば、処分庁はその裁量権に基づき、日常生活及び社会生活状況に係る個別具体的な諸般の事情をも考慮して支給決定をすべきか否かの判断を行う必要があり、市もそのような運用を現に採用しているところ、この点は市基準には明確には記載されていない。
 以上を総合考慮すれば、本件処分にあたっては、いかなる事実に基づき、いかなる法規及び審査基準を適用して当該処分を行ったのかを、上記諸般の事情の考慮の内容・程度等をも含めて、申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならないと考える。
 これを本件についてみると、本件では、市基準の本件該当条項である1(1)には身体障がいに係る条件の記載しかないが、後述のとおり、処分庁は審査請求人の身体状況のみならず、日常生活や社会生活の状況も考慮の上本件処分を行ったとのことである。それであるにもかかわらず、事件記録によれば、申請時、処分庁は審査請求人に「本市基準に規定した支給要件に該当しないため」に、「電動車椅子の支給対象外である」とのみ説明したとのことである。
 つまり、審査請求人としては、市基準において定める身体障がいの程度(以下「身体要件」という。)に自身が該当しないことは、市基準及び処分庁担当者による説明から理解できたとしても、身体要件に形式的に該当しなくても補装具費が支給される場合がありうること、また、自身については日常生活及び社会生活の状況も考慮の上検討がなされたが認められなかったということについては、処分庁の説明を合わせ考慮しても理解できなかったといえる。
 よって、処分庁が行った理由付記については、以上の検討からすると特に詳細な理由付記が求められるにもかかわらず、処分庁の説明をあわせ考慮しても身体要件非該当としかわからないものであり、「行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制する」との観点からも、「処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える」との観点からも、法の趣旨に反するものであるといえる。
 したがって、本件処分の理由付記の程度は、行政手続法第8条の要求する理由提示としては十分でないといわざるを得ず、同条の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分といえる。
(2) 争点2について
 まず、前提として、市基準については、本市における電動車椅子に係る補装具費支給申請についての審査基準(行政手続法第2条第8号ロ)と解され、それに依拠して判断がなされたことにつき、行政手続法上の違法は認められない。
 その上で、仮に、市基準に違法又は不当な点があれば、当該市基準に照らし行った決定についても、違法又は不当となり得るので、以下、まず市基準の違法性、不当性について検討する。
 ここで、補装具費に係る法令等の規定は、上記第3の4(1)のとおりであり、補装具費支給の要否の判断に当たり基準とすべき障がいの状態や補装具の必要性の程度について何ら具体的な基準を定めていない。
 よって、補装具費の支給に係る審査基準が違法又は不当となるのは、当該基準が法の趣旨に反し、不合理となる場合といえる。
 この点、市基準は、国の通知たる電動車椅子に係る事務取扱要領を踏まえ、更生相談所において医学的見地からの検討を行った上、制定されたものであり、その制定過程に不合理な点はない。
 次にその内容について検討すると、電動車椅子に係る事務取扱要領では、対象者について、第3の4(1)キのとおりとされており、市基準の1はそれをさらに具体化したものといえる。また、同要領の基本的事項では、「身体の状況、年齢、職業、学校教育、生活環境等の諸条件を考慮し、その是非を判断すること」とされているが、後述のとおり、本市の運用としては、身体の状況だけでなく、職業や生活環境についても考慮していることが認められることから、運用まで含めて考えるとその点でも同要領に反するとまではいえない。
 よって、市基準の内容について、電動車椅子に係る事務取扱要領を逸脱するようなところはなく、不合理な点は認められない。
(3) 争点3について
 法第76条第1項は、補装具費の支給要件について、「当該申請に係る障害者等の障害の状態からみて、当該障害者等が補装具の購入、借受け又は修理を必要とする者であると認めるとき」と規定するのみで、市町村が補装具費の支給の要否を決定するについて検討するべき障害の状態や補装具の必要性の程度につき何ら具体的な基準を置いていない。このような法の規定に照らすと、同法は、障害者に対し補装具費を支給するか否かの判断については、市町村の合理的裁量に委ねているものと解するのが相当である。そうであれば、市町村が行った処分が違法となるのは、判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合と解される(福岡地裁判決参照)。
 そこで、以下、処分庁が行った身体要件、日常生活及び社会生活状況についての考慮に違法又は不当な点があった否か、また、決定にあたっての判断過程に違法又は不当な点があったか否かについて検討する。
ア 身体要件について
 これについて、審査請求人は、反論書1において、「A障害D級、E障害3級とするのが妥当」と、また、反論書3において、「A障害D級且つE障害G級を認定すべき」と主張する。
 しかし、事件記録によれば、審査請求人が申請時に有していた身体障がい者手帳において認定されているのは、A障がいB級のみである。
 そうであれば、審査請求人の障がいについて、A障害B級であることを前提に市基準を適用した点について、事実誤認は認められない。
イ 日常生活及び社会生活状況について
 上記アのとおり、本件は市基準の身体要件を充たさないが、福岡地裁判決によれば、障がい者の身体の状態のみならず、当該身体の状態により当該障がい者が日常生活又は社会生活を自立して営むことがどれ程困難となっているかといった観点から生活状況等についても考慮すべきである。
 この点について、審査庁が審査会あて提出した資料によれば、処分庁が決定にあたってそれらを考慮したとのことであるので、以下検討する。
 まず、日常生活の状況については、生活保護の開始面談での聴き取り内容により、審査請求人が自動車を保有し自ら運転の上クリニックに通院していることから、電動車椅子がなければ日常生活が困難をきたす事情はないとの処分庁による判断は不合理とはいえない。
 次に、社会生活の状況については、生活保護の開始面談での聴き取り内容により、現に就労しておらず、また、就労指導は困難とされていることから、電動車椅子がなければ社会生活が困難をきたす事情はないとの処分庁による判断は不合理とはいえない。
 なお、これらの事実については、処分庁の担当者自ら審査請求人に確認したものではなく、生活保護担当者から聴き取りを行ったとのことであり、審査請求人本人に電動車椅子を必要とする事情を確認していない点で十分に事実を把握できたか疑いを差し挟む余地なしとはいえない。この点、審査会が審査請求人に文書で、審査請求人に車椅子ではなく電動車椅子が必要である理由を尋ねたため、当該回答についても検討する。
 上記質問に対する審査請求人の回答は、「軽い労作後でも、以降24時間以上に渡って極度の疲労感が継続し症状の悪化をきたすために、移動の困難を軽減するには『車椅子』ではなく『電動車椅子』が必要であると結論付ける。」とのことであり、また、「審査請求人は『車椅子』を継続的に自走させる握力をはじめとする筋力がなく、進行を補助する介護人も存しないことから、『車椅子』は利用することができず不適格である。」とのことであった。
 また、審査請求人は、審査会あて主張書面において、H県の主治医への月一回の通院の際には、公共交通機関を使用しているとのことであった。
 当該事実については、審査会段階で明らかになった事実であり、処分庁が上記事情を考慮したか定かではないが、単に疲労感があるのみでは電動車椅子が必要とまではいえず、また、審査請求人は自動車を保有しているため目的地の近辺までは自動車での移動が可能であることから、自走型車椅子を長時間操作するまでの握力は必要ないと考える。また、月一回のH県への通院のみのために電動車椅子を支給することも社会通念上必要とまではいえない。よって、仮に処分庁が当該事実を考慮していなかったとしても、不支給との判断について不合理とまではいえない。
 したがって、処分庁が日常生活及び社会生活の状況も考慮して、不支給と決定した判断に違法又は不当な点は認められない。
ウ 決定にあたっての判断過程について
 審査請求人が主張するように、本件処分は、更生相談所の判定を経ずに決定がなされていることから、その点、違法又は不当となるか以下検討する。
 まず、法第76条第3項は、第5の1のとおり、「市町村は、補装具費の支給に当たって必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、身体障害者更生相談所その他厚生労働省令で定める機関の意見を聴くことができる。」と規定しており、更生相談所の意見を聴くか否かについて、市町村の判断に委ねているといえる。
 また、市基準の1(1)の該当性の判断については、「下肢障がいが1級又は2級の者(体幹機能障がい・脳原性移動機能障がいを含む。)で上肢障がいが7級以上の手帳を有する者」との判断については、身体障がい者手帳の確認で事足り、医学的判定を要するものではなく、また、当該身体の状態により当該障がい者が日常生活又は社会生活を自立して営むことがどれ程困難となっているかという点についても、必ずしも、医学的判定を要するとまではいえないことから、更生相談所の判定を経ずに決定を行ったことについて不合理とはいえない。
 したがって、本件処分について、更生相談所の意見を聴かずに決定がなされたことについて、違法又は不当な点は認められない。
 なお、更生相談所の判定を経ずに申請を却下することが否定されるものではないことは上述のとおりであるが、市基準1(1)は、誰が判断主体かが不明確であり、下記付言の通り改善が望まれる。
4 その他
 本件処分に関し、上記3で触れている点以外について、違法又は不当な点は認められない。
 また、本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 結論
 よって、本件審査請求は理由があると認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。
6 付言
 市基準では、「下肢障がい1級または2級の者(体幹機能障がい・脳原性移動機能障がいを含む)で上肢障がい7級以上の手帳を有する者」との身体要件のみ規定されており、電動車椅子に係る事務取扱要領の基本的事項や日常生活や社会生活を踏まえた運用を行っていることについて、必ずしも明確でない。運用の実態が市基準に明確に反映されないままでは、「申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」(行政手続法第2条第8号ロ)との趣旨から望ましくないと思われる。よって、その点市基準のみによって明らかとなるよう検討されたい。
 また、市基準1(1)については、それぞれの要件判定にあたり、いかなる場合に更生相談所による医学的判定が必要とされるか明確にされているとはいえない。そのため、上記生活状況等からの電動車椅子の必要性も含め、更生相談所による医学的判定の要否の基準につき市基準で明らかとなるよう検討されたい。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第2部会
 委員(部会長) 榊原和穂、委員 畠田健治、委員 海道俊明

答申書(令和2年度答申第12号)

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