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答申書(令和3年度答申第2号)

2023年2月17日

ページ番号:539028

諮問番号:令和2年度諮問第5号
答申番号:令和3年度答申第2号

答申書

第1 審査会の結論
 本件審査請求のうち、指定障害福祉サービス事業者の指定取消処分、訓練等給付費に係る返還金徴収決定処分及び訓練等給付費返還に係る加算金徴収決定処分について取り消されるべきであり、その他の部分については却下されるべきである。

第2 審査請求に至る経過【概要】
1 審査請求人は、大阪市長から、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号。以下「法」という。)第29条第1項に基づく指定障害福祉サービス事業者の指定を受けた。
2 大阪市長は、審査請求人に対して、法第48条第1項に基づく監査を実施した。
3 審査請求人の代表社員が大阪市に廃止届を持参した。
4 大阪市長から審査請求人に対し聴聞通知を発出した。
5 審査請求人から大阪市長に対して、不利益処分に係る資料閲覧請求がされた。
6 大阪市長から審査請求人に対し情報開示(不利益処分に係る資料閲覧)が実施された。
7 大阪市福祉局職員による審査請求人の代表社員に対する聴聞(以下「本件聴聞」という。)が行われ、法50条第1項第8号に基づく法第29条第1項の指定障害福祉サービス事業者の指定取消処分の決定が相当である旨の報告書が大阪市長に提出された。
8 審査請求人から大阪市長に対して、聴聞調書等閲覧請求がされ、同日閲覧が実施された。
9 大阪市長(以下「処分庁」という。)は、審査請求人に対して、法第50条第1項に基づく法第29条第1項の指定障害福祉サービス事業者の指定取消処分(以下「本件処分1」という。)の通知書を交付した。その際、処分庁の職員(福祉局運営指導課職員)は、審査請求人に対し、通知書を提示し、口頭にて事業所名及び事業種別、処分内容、その原因となる事実、処分日、教示の内容を説明した。
10 同日、処分庁の職員(福祉局障がい支援課職員)は、審査請求人に対して、法第8条第2項に基づく訓練等給付費に係る返還金徴収決定処分(以下「本件処分2」という。)及び法第8条第2項に基づく訓練等給付費返還に係る加算金徴収決定処分(以下「本件処分3」という。)の通知書を提示し、口頭にて返還金及び加算金の請求原因、根拠法令、返還金額、納付方法、納付期限、教示の内容を説明したうえ、通知書を交付しようとしたところ、審査請求人の代表社員が受け取りを拒否したため、後日本件処分2及び本件処分3の通知書を発出した。
11 審査請求人は、大阪市長(以下「審査庁」という。)に対し、本件処分1、本件処分2及び本件処分3の取消し等を求める本件審査請求をした。

第3  審理手続における関係人の主張の要旨【概要】
1 審査請求人の主張の要旨
 本件処分1、本件処分2及び本件処分3の取消しを求める。
 また、市ホームページにて本件処分1、本件処分2及び本件処分3が審査請求手続において取り消されたことを周知し、当該処分時になした手段と同様の手段において報道機関にその旨の周知をし、元利用者に対して通知し謝罪せよ。
 本件処分1、本件処分2及び本件処分3の取消しを求める理由は、次のとおりである。
(1) 適正な手続きを欠いている
ア 処分に際して開催された聴聞手続きにおいて適正な時期に十分な証拠が開示されなかったこと
イ 本件聴聞での応答の不備
ウ 聴聞調書の不備
エ 処分通知書ではどのような事実認定がなされたのかが読み取れないこと
 本件聴聞において審査請求人主張に対する処分庁の判断が行政処分通知書から読み取れず当該処分は違法となるべきである。
オ すでに事業廃止している事業者に対してなされた処分であること
(2) 事実認定における誤認
(3) 事実だとしても過大な処分である
(4) 訓練等給付費の返還金及び加算金について
ア 基となる指定取消し処分が取り消される処分であり、不当に利得したものがないこと
 指定取消し処分自体が取り消されるべきものであるため、これを前提とした返還決定も事実の基礎を失い、無効となる。
イ 指定取消し処分が適法であったとしても、サービスの提供はしていたこと
 受領した報酬のすべてにおいて不当に利得したものではない。(京都地方裁判所平成18年9月29日判決参照)
2 処分庁の主張の要旨
 「本件審査請求を棄却する。」との裁決を求める。

第4 審理員意見の結論及び理由
 審理員意見の結論及び理由については、別紙審理員意見書記載のとおりである。

第5 審査会における関係人の主張の要旨【概要】
1 審査庁の主張の要旨
 審査庁の主張は審理員意見と同旨であるが、当審査会の審理において追加の主張書面が提出され、追加で主張された点はおおむね以下のとおりである。
(1) 追完の可否について
 指定障害福祉サービス事業者に係る指定(以下「事業者指定」という。)について、原則として、追完は認められないと考える。
(2) 加算金徴収決定の裁量について
 加算金を徴収すべきでない考慮すべき事情が認められた場合に、加算金を徴収しないことになる。本件では、処分庁は、審査請求人にそのような考慮すべき事情が認められなかったことから加算金の徴収を決定したものである。
(3) 本件処分2及び本件処分3の理由提示について
 当審査会からの本件処分2及び本件処分3の理由提示に係る点についての主張の求めに対して、審査庁の主張は下記のとおりである。
 処分基準が単純なもので、示された事実関係により、処分の相手方が処分基準の適用関係を容易に理解できるような場合には、処分基準の適用関係が明示されていなくても違法ということにはならないと解すべきである。
 本件では、本件処分2及び本件処分3に関しては法第8条第2項の条文を引用する形で処分基準を定め、処分庁のホームページ上等で公表しており、当該処分基準自体の要件は、「指定を受けた事業者等が、偽りその他不正の行為により、各種給付費の支給を受けたとき」というものであり、不利益処分の内容の重大性は否定できないが、その内容は単純であり、複雑なものとはいえない。
 本件のように、訓練等給付費に係る返還金等の決定と、その原因となる事実関係を共通にする事業者指定取消処分が同時にされる事案においては、被処分者からすると、これら両処分を一連一体のものとして認識することが通常であると思われ、また、処分庁がそのように考えることが不合理なものとは思えない。
2 審査請求人の主張の要旨
 当審査会の審理において追加の主張書面が提出され、追加で主張された点は以下のとおりである。
(1) 審理員の審理手続違反について
 本件の極めて重大な関心事について、互いの認識に対する反論の機会を与えないことは、行政不服審査法の趣旨を全く没却しており、そのような手続違背が認められる審理員手続きは違法である。
(2) 廃止届について
 処分庁は、審査請求人が平成〇年〇月〇日に提出しようとしたのは大阪府知事宛文書とするが、大阪市長宛てであり、これをもって廃止届を不受理とすることは明確に違法な対応である。
 廃止にあたってはその1カ月前に廃止届の提出が法律上義務付けられているが、そのような期限がある手続きにおいて法的に求められていない資料の提出を必須とすること自体が違法であり、片や明記していない事項の提出を求め、片や再提出がなかったことをもって不提出の事実を基礎とすることは、違法と評価せざるを得ない。
 また、廃止届を提出しに行った際には利用者一覧及び利用者の全員である〇人分の引継状況等報告書を示したところであるが、審査請求人において、平成29年7月28日付け厚生労働省社会・援護局「指定障害福祉サービス事業者の事業廃止(休止)に係る留意事項等について」の通知で示されている利用者の引継ぎについては、審査請求人の責任において全て完遂していることから、審査請求人は法が要求している廃止届において必要な手続はすべて履行しており、何ら手続的不備はないものであるから、廃止届を受理しない理由はない。
(3) 加算金徴収決定の裁量について
 特段の事情がない限り加算金を徴収するのではなく、特段の事情が認められるから加算金を徴収するのであるから、本件については特段の事情が認められないので、加算金は徴収できない。
(4) 本件処分2及び本件処分3の理由提示について
 根拠法令・基準の文言自体は平易なものであるかもしれないが、事実等について真っ向から意見が衝突し、かつ、様々な要素を総合考慮して最終的な判断をしたとする本件のような事案においては、当該総合考慮がどのようになされたのかが明らかにならない限り、法の趣旨は全うされているとはいえない。

第6 調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  令和2年8月31日 諮問書の受理
  令和2年10月28日 調査審議(審査庁による口頭説明・処分庁による陳述)
  令和2年11月4日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和2年11月16日 審査庁からの主張書面の収受
  令和2年11月19日 調査審議
  令和2年12月7日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和2年12月23日 調査審議
  令和3年1月19日 審査庁からの主張書面の収受
  令和3年1月25日 調査審議
  令和3年2月1日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和3年2月24日 調査審議
  令和3年3月5日 調査審議
  令和3年3月29日 調査審議
  令和3年4月21日 調査審議

第7 審査会の判断の理由
1 本件に係る法令等の規定について
 下記のとおりである。
(1) 法第29条第1項
 市町村は、支給決定障害者等が、支給決定の有効期間内において、都道府県知事が指定する障害福祉サービス事業を行う者から当該指定に係る障害福祉サービスを受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該支給決定障害者等に対し、当該指定障害福祉サービスに要した費用について、訓練等給付費を支給する。
(2) 法第29条第2項
 指定障害福祉サービス等を受けようとする支給決定障害者等は、厚生労働省令で定めるところにより、指定障害福祉サービス事業者に受給者証を提示して当該指定障害福祉サービス等を受けるものとする。ただし、緊急の場合その他やむを得ない事由のある場合については、この限りでない。
(3) 法第8条第2項
 市町村は、第29条第2項に規定する指定障害福祉サービス事業者が、偽りその他不正の行為により訓練等給付費の支給を受けたときは、当該事業者に対し、その支払った額につき返還させるほか、その返還させる額に百分の四十を乗じて得た額を支払わせることができる。
(4) 法第46条第2項
 指定障害者サービス事業者は、当該指定障害福祉サービスの事業を廃止しようとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、その廃止の日の一月前までに、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
(5) 法施行規則第34条の23第4項
 指定障害福祉サービス事業者は、指定障害者福祉サービス事業の廃止の届出について、当該指定障害福祉サービスの事業を廃止しようとするときは、その廃止の日の一月前までに、次に掲げる事項を当該指定障害福祉サービス事業者の事業所の所在地を管轄する都道府県知事に届け出なければならない。
 ①廃止しようとする年月日
 ②廃止しようとする理由
 ③現に当該指定障害福祉サービスを受けている者に関する次に掲げる事項
 ア 現に当該指定障害福祉サービスを受けている者に対する措置
 イ 現に当該指定障害福祉サービスを受けている者の氏名、連絡先、受給者証番号及び引き続き当該指定障害福祉サービスに相当するサービスの提供を希望する旨の申出の有無
 ウ 引き続き当該指定障害福祉サービスに相当するサービスの提供を希望する者に対し、必要な指定障害福祉サービスを継続的に提供する他の指定障害福祉サービス事業者の名称
(6) 法第50条第1項
 都道府県知事は、「指定障害福祉サービス事業者が、不正の手段により第29条第1項の指定を受けたとき」(同項第8号)に該当する場合においては、当該指定障害福祉サービス事業者に係る法第29条第1項の指定を取り消し、又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる。
(7) 法第106条
 この法律中都道府県が処理することとされている事務に関する規定で政令で定めるものは、指定都市及び中核市においては、政令で定めるところにより指定都市若しくは中核市が処理するものとする。この場合においては、この法律中都道府県に関する規定は、指定都市等に関する規定として指定都市等に適用があるものとする。
(8) 行政手続法第14条第1項
 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
(9) 行政手続法第37条
 届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。
2 争点について
 本件審査請求における争点は以下の3点である。
 (1) 審査請求人が法第29条第1項の指定を受けたことについて法第50条第1項第8号の「不正の手段により第29条第1項の指定を受けたとき」に該当するといえるか否か(以下「争点1」という。)
 (2) 審査請求人が平成〇年〇月〇日に処分庁に持参した廃止届は法第46条第2項に基づく廃止の届出として有効といえるか否か(以下「争点2」という。)
 (3) 本件処分2及び本件処分3が、行政手続法第14条に反し、違法又は不当となるか(以下「争点3」という。)
3 争点に係る審査会の判断について
(1) 争点1について【概要】
 第50条第1項第8号の「不正の手段」については指定の取消事由であることから、指定障害福祉サービス事業に係る指定制度に照らして申請者の申請に係る行為として許容されない行為態様が「不正の手段」に該当する場合といえる。
 本件事情のもとで、審査請求人による反証の機会が与えられていない証拠については当審査会の判断における認定の基礎にはできないものであるから、証拠として採用できない以上、当会では、処分庁の事実認定については客観的に判断できず、他にこの点を補充しうる証拠資料もないことから、処分庁の認定を是認することはできない。
 したがって、審査請求人について指定障害福祉サービス事業者に係る法第29条第1項の指定を受けたことについて法第50条第1項第8号の「不正の手段により第29条第1項の指定を受けたとき」に該当するとして本件処分1を決定した処分庁の判断及びこの事実認定を基礎として法第8条第2項の「偽りその他不正の行為により訓練等給付費の支給を受けたとき」に該当するとして本件処分2及び本件処分3を決定した処分庁の判断はいずれも妥当ではなく、いずれの処分も違法である。
(2) 争点2について
ア 本件では、審査請求人が廃止届を処分庁に持参した平成〇年〇月〇日の1カ月後の同年〇月〇日より後の同年〇月〇日に本件処分1、本件処分2及び本件処分3がなされている。
イ 法46条第2項は、廃止又は休止する旨を事業の廃止又は休止の日の1カ月前までに届け出なければならないと規定しているが、その趣旨は、事業者が不利益な処分を免れる(いわゆる「処分逃れ」)を防止するという点にある。とすれば、当該届出による廃止の効果は、届出提出の1カ月後に生じると解するのが合理的であり、当該期間を過ぎた後は、当然に指定された事業が存在していない以上、行政庁は指定取消処分を行うことはできないものと言わざるを得ない。
 そして、徴収金決定処分が指定取消処分を前提としてなされている以上、当該指定取消処分を行うことができない場合は、徴収金決定処分についても行うことはできないものというべきである。
ウ  そこで、審査請求人が平成〇年〇月〇日に処分庁に持参した廃止届が法第46条第2項に基づく廃止の届出として有効であるか否かが問題となる。
 当審査会では、審査請求人と処分庁の間でこの点について主張が対立していることに鑑み、廃止届の有効性についてもなお検討する。
 法に基づく廃止の届出として有効といえるためには、いかなる要件を具備した届出であればよいかについては、行政手続法及び法に基づく届出である必要があることから、以下行政手続法、法の順に検討する。
(ア) まず、行政手続法第37条は、「届出書の記載事項に不備がなく、届出書に必要な書類が添付されており、その他法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたもの」とする旨規定する。
 ここにいう、届出とは、一定の事柄を公の機関に知らせることであって、行政庁の諾否の応答が予定されている申請とは基本的に性格を異にするものであるところ、法令に定められた届出の形式上の要件に適合している届出がなされたときは、当該届出義務者がなすべき届出行為が完了することについて、行政庁の意思や判断が介在するような余地は本来ないものであるから、行政庁の側において、届出を受け付けない等、届出をなすべき義務の履行に関して行政庁の意思や判断が働くかのような不適切な取扱いは排除されるべきものである。
 行政手続法第37条が上記のように規定したのは、上記のような行政庁の側における不適切な運用を排除するために、届出が法令に定められた届出の形式上の要件に適合しているときは、届出義務者が法令上なすべき当該通知行為は行政庁の意思や判断に関わりなく、到達時に完了するという届出の本来の法的性格を明らかにすることにより、届出に関する行政庁の不適切な扱いを防止し、その公正な処理の確保を図るところに趣旨があるというべきである。
(イ) 次に、法においては、指定障害者福祉サービス事業の廃止の届出について、当該指定障害福祉サービスの事業を廃止しようとするときは、その廃止の日の一月前までに、①廃止しようとする年月日、②廃止しようとする理由、③現に当該指定障害福祉サービスを受けている者に関する次に掲げる事項(当該事項とは、現に当該指定障害福祉サービスを受けている者に対する措置、現に当該指定障害福祉サービスを受けている者の氏名、連絡先、受給者証番号及び引き続き当該指定障害福祉サービスに相当するサービスの提供を希望する旨の申出の有無、引き続き当該指定障害福祉サービスに相当するサービスの提供を希望する者に対し、必要な指定障害福祉サービスを継続的に提供する他の指定障害福祉サービス事業者の名称の各事項)を当該指定障害福祉サービス事業者の事業所の所在地を管轄する都道府県知事に届け出なければならないとされており(法第46条2項、同法施行規則第34条の23第4項)、以上の記載事項が、廃止の届出義務者に求められている法定の届出要件であるといえる。
(ウ) 以上からすると、指定障害福祉サービス事業の廃止の届出を受けた行政庁は、届出義務者において外形上届出の意思が明確であり、届出について形式的要件の不備がない限り、上記でいう法の届出要件を充足した届出については手続上の義務は履行されたとみるべきであり、届出による法的効果が認められるべきものである。
(エ) ⅰ これを本件についてみると、事件記録によれば、
・平成〇年〇月〇日に審査請求人が廃止届を持参したうえで処分庁に来庁し、処分庁の担当職員と面談し、当該廃止届及び審査請求人の事業所の利用者の引継ぎに関する資料(以下「引継ぎ関係資料」という。)を担当職員に提示していること
・審査請求人は、処分庁の庁舎に来庁の上、長時間やりとりを行い、廃止届の様式を持参した上で担当者に対しても事業を廃止したい旨の説明を続けていたこと
・本件審査請求の審理の中で、一貫して処分庁は、廃止する年月日、廃止する理由、現に指定障害福祉サービス等を受けている者に対する措置の各記載に関して審査請求人が持参した廃止届において当該記載がなかった又は不備があったとする主張はしていないこと
については争いがない。
ⅱ 以上の争いのない事実からすれば、まず、審査請求人において廃止の意思は明確であったといえる。この点、処分庁は「請求人は廃止届を持ち帰り」と説明するが、届け出の様式を持ち帰ったことについては、処分庁が持参した廃止届を受け取らなかったことから、やむを得ず審査請求人は持ち帰ったものであり、この一事をもって審査請求人において廃止の意思なしとはいえない。
ⅲ そして、少なくとも同日に審査請求人が処分庁に来庁し持参したうえで提出の意思表示を行った廃止届には、廃止する年月日、廃止する理由、現に指定障害福祉サービス等を受けている者に対する措置の各記載がなされており、同じく審査請求人が処分庁に持参したうえで提示した引継ぎ関係資料には現に指定障害福祉サービス等を受けている者に対する具体的な措置の記載がなされていたことから、廃止の届出における法定の各届出事項の記載はなされていたものと認めるのが自然であり、また、処分庁が後述の廃止届の宛名に関する点以外にはなんら廃止届の不備について具体的な主張をしていないことに鑑みると、形式的な不備はなかったといわざるを得ない。
 この点、処分庁は、廃止届をする事業者に対しては不正な請求がないかの確認をしたうえで廃止届を受理するために請求関係書類を提出するよう求めており、〇月〇日に来庁した際に請求に関する記録等を持参していなかった審査請求人に対しても、担当職員が請求関係書類とともに改めて廃止届を提出するよう求めたものであると主張するところ、処分庁のこの対応については、審査請求人が〇月〇日当日において請求関係書類を提出しなかったことで廃止の届出の要件を欠いているものであるとの理解に基づくものであるといえる。
 しかし、行政手続法その他の法令中に、当該請求関係書類を廃止の届出の要件とする規定は確認できない。従って、当該請求関係書類を廃止の届出における法定の要件であると解することはできない。
 このように、請求関係書類については法定された廃止の届出の要件ではないにもかかわらず、処分庁は請求関係書類がないことを理由に廃止届を受け取らないとしたものであり、これは廃止の届出に係る法の規定からみても妥当ではなく、行政手続法の届出の規定の趣旨から逸脱した届出の拒否であるといわざるを得ないことから、請求関係書類を持参していないことを理由に廃止の届出の要件を欠いているものということはできない。
ⅳ 以上から、法定の要件を充たしている本件の審査請求人が提出した事業廃止の届出は有効であったと認められるのであり、そうすると、少なくとも審査請求人が廃止届を処分庁に持参した〇月〇日の1カ月後の〇月〇日の時点で、審査請求人における障害福祉指定サービス事業については廃止の効果が生じていたものと考えるのが妥当である。
 なお、廃止届の宛名について大阪府知事であったか大阪市長であったかについては審査請求人と処分庁の間で争いがあるが、仮に宛名について大阪府知事であったとしても、審査請求人の代表社員は現に大阪市に当該届出書を持参しており、大阪市へ提出する意思も明確であったといえ、そのような記載は明白な誤記であって、付記又は修正によって直ちに補正できる軽微なものであり、上記の廃止届出が有効であるとする結論を左右するものではない。
エ よって、審査請求人からの廃止届については有効な届出とはしなかったこと、及びこの判断に基づいて指定取消処分及び徴収金決定を審査請求人に対して行えるとした処分庁の判断はいずれも妥当ではなく、本件処分1、本件処分2及び本件処分3のいずれの処分も違法である。
(3) 争点3について
 返還金決定及び加算金決定については不利益処分であることから、行政手続法第14条の不利益処分の理由提示が必要であるところ、本件返還金及び加算金決定に係る通知書(以下「徴収金決定通知書」という。)には根拠法令、金額、期限の記載のみがある。
 この点、返還金決定、加算金決定の理由提示について、行政処分における理由提示の重要性に鑑み、審査請求人から主張がないところであるが、審査会の職権探知の権能を踏まえて、理由提示についてもなお検討する。
 まず、徴収金決定通知書における根拠法令、金額、期限の記載のみでは形式的に処分についての理由の記載があったとは言い難いといえる。
 この点、審査庁は、指定取消処分と徴収金決定処分について、指定取消処分の通知において処分原因となる事実を具体的に提示しているところ、徴収金決定とその原因となる事実関係を共通にする指定取消処分が同時にされる事案においては、被処分者からすると、これら両処分を一連一体のものと認識することが通常であると思われ、また、処分庁がそのように考えることが不合理なものとはいえないとする。
 確かに、指定取消処分と徴収金決定処分においてその処分の原因となる事実関係について処分庁の側が審査請求人の指定申請に関する行為について問題としているという意味では処分原因は共通しているといえる。
 しかし、法には指定取消処分と徴収金決定処分の間に先後関係や相関関係を定める規定はなく、指定取消処分と徴収金決定処分はそれぞれ独立した処分であり、両処分を受ける被処分者において両処分を一連一体のものとして認識することが社会通念上妥当であるとまではいえず、両処分を一連一体とする審査庁の主張は妥当とはいえない。そうすると、被処分者に対して指定取消処分において指定取消処分の原因となる事実を具体的に提示していることをもって徴収金決定処分に係る理由提示があったとはいえない。
 よって、本件処分2及び本件処分3は、行政手続法第14条の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分といえる。
4 その他
(1) 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
(2) 審査請求人の処分の取消し以外の請求について
 なお、審査請求人は、本件処分1、本件処分2及び本件処分3の取消しを求めるほか、市ホームページにて本件処分1、本件処分2及び本件処分3が審査請求手続において取り消されたことを周知し(以下「ホームページでの周知」という。)、当該処分時になした手段と同様の手段において報道機関にその旨の周知(以下「報道機関による周知」という。)をし、元利用者に対して通知し謝罪(以下「元利用者への通知及び謝罪」という。)することを本件審査請求において求めているが、これらは、いずれも審査請求の対象である「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政不服審査法第2条及び第3条)に該当せず、審査請求の対象とはなり得ない。
 よって、本件審査請求のうち、ホームページでの周知、報道機関による周知、元利用者への通知及び謝罪に係る請求については、審査請求の対象とすることができない事項について審査請求をするものであるから、審査請求として不適法である。
5 結論
 よって、本件審査請求のうち、本件処分1、本件処分2、本件処分3の取消しを求めるものについては理由があると認められるので、審査会は、第1記載のとおり判断する。
6 付言
(1) 理由の提示について
 書面によって不利益処分を行うに際しては、行政手続法第14条第1項で理由の提示が求められているところ、同条同項が行政処分に理由を付すべきものとする趣旨は、行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を処分の名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるためと解される(最高裁平成21年(行ヒ)第91号同23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。また、不利益処分を書面でするときは、その理由を書面により示さなければならないとされている(行政手続法第14条第3項)。
 これに反して、不利益処分の通知書において処分の理由の記載がなされていない場合や、同一の処分の名宛人に対する複数の個別の不利益処分の通知書があるにもかかわらずそれぞれの通知書ごとに理由の記載がなされていない場合は、たとえ口頭で説明を行ったとしても、行政手続法第14条第1項に反する違法な処分となるので、通知書への理由の記載を徹底されたい。
 なお、不利益処分に提示すべき理由は、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、処分の名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。単に根拠規定を示すのみで、前述の要件を満たさない理由提示は、適法なものとはいえない。
 特に、不利益処分をするか否かにつき行政庁の裁量判断が認められている場合においては、処分の名宛人が裁量判断の理由についても了知できるよう、判断にあたり依拠した処分基準のほか、その判断を支える主要な根拠事実を示されるよう、理由提示の内容についても十分なものとなるようにされたい。
(2) 審査請求人のいうホームページでの周知、報道機関による周知に関して【概要】
 法51条の規定によると、法50条第1項の規定により指定障害福祉サービス事業者の指定を取り消したときは、都道府県知事(本件では市長)はその旨を公示しなければならないとされており、審査請求人に係る指定障害福祉サービス事業者の指定の取消しについてはその旨が公示され、また処分庁のホームページにおいて公表されている。
 本件処分1、本件処分2及び本件処分3が取り消される場合には、審査請求人が請求の趣旨で求めているホームページでの周知、報道機関による周知の方法を採用するか否かについては別としても、上記の点を踏まえ、既に実施している指定取消に係る公示及び公表に係る適切な対応等を検討されることが望ましいと思料する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第1部会
 委員(部会長) 井上武史、委員 北川豊、委員 常谷麻子

 

別紙

審理員意見書

令和2年6月30日
大阪市長 松井 一郎 様
審理員 〇〇 〇〇   

 行政不服審査法(平成29年法律第4号)第42条第2項の規定に基づき、〇〇年〇月〇日に提出された、〇〇〇〇(以下「請求人」という。)からの大阪市長が行った指定障害福祉サービス事業者に係る障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)(以下「障害者総合支援法」という。)第29条第1項の指定取消処分及び同法第8条第2項に基づく訓練等給付費に係る返還金等の決定(以下「本件処分等」という。)に対する審査請求の裁決に関する意見書を提出する。

【以下、省略】

答申書(令和3年度答申第2号)

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