ページの先頭です

答申書(令和3年度答申第5号)

2023年2月17日

ページ番号:543236

諮問番号:令和2年度諮問第12号
答申番号:令和3年度答申第5号

答申書

第1 審査会の結論
 本件審査請求は棄却されるべきである。

第2  審査請求に至る経過
1 平成23年3月8日、大阪市〇〇区保健福祉センター所長(以下「処分庁」という。)が審査請求人に対し、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)による保護を開始した。
2 平成29年〇月〇日、〇〇氏(以下「知人」という。)から、A信用金庫の審査請求人名義の口座に、〇〇円の入金(以下「本件入金」という。)があった。
3 平成29年9月26日、審査請求人が平成26年〇月から平成29年〇月までの間に知人から受け取った金銭から一部控除した残額の〇〇円について、処分庁が法第63条に基づく返還金決定に関する処分を行った。
4 平成29年10月12日、審査請求人が処分庁に対し、平成29年〇月から〇月まで収入がない旨の収入申告書を提出した。
5 平成30年4月5日、処分庁がA信用金庫に対し、審査請求人の預貯金に 関する法第29条に基づく照会を行った。
6 平成30年4月19日、処分庁がA信用金庫から、審査請求人名義の口座の出入金記録に関する法第29条に基づく調査に対する回答を受理した。
7 平成30年6月7日、処分庁が法第78条に基づく徴収金決定に関する処分(〇〇第〇〇号。以下「本件処分」という。)を行った。
8 平成30年7月13日、審査請求人が大阪市長(以下「審査庁」という。)に対し、本件処分の取消しを求める審査請求をした。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1  審査請求人の主張
 審査請求の趣旨は、本件処分の取消しを求めるものであり、その理由は次のとおりである。
 本件入金は、知人が審査請求人の母(以下「母」という。)から借りたお金の返済である。審査請求人の口座へ振り込まれたのは、審査請求人が母へ返すための窓口となっているからであり、即座に母へ現金を渡している。
 自らの収入になっていないお金を支払わなければならない必要はなく、本件処分は不当である。
 また、家族である母とのやりとりであるため、母への送金の客観的資料は必要ないと把握していた。でなければ、公にしている銀行口座に送金などしてもらわない。
 なお、A信用金庫通帳の最終頁のコピーのみが提出されたとあるが、ケースワーカーがATMの操作で通帳全ページのコピーができる旨の話をしたので試したところ、そのような機能はなかったため最終ページをコピーしたのであり、隠蔽など行っていない。
 収入申告義務については、あまり深い説明はなかったため、理解していなかった。
2 処分庁の主張
 弁明の趣旨は、「審査請求人の審査請求を棄却する」との裁決を求めるものであり、その理由は次のとおりである。
 処分庁は審査請求人に対し、保護開始時等に収入申告義務に関する説明を行っており、本件処分の前提として、審査請求人が収入申告義務について理解していたものと認識している。
 審査請求人から提出された収入申告書には、本件入金の記載はない。また、審査請求人は、資産申告時に、A信用金庫の通帳の最終ページのコピーだけを提出しているが、当該資料では、本件入金記録を確認することはできなかった。
 さらに、本件入金に関しては、査察指導員とケースワーカーが審査請求人宅を訪問し、送金者からの入金が返還対象となり得ることを説明した翌日に、それまでの送金とは異なる審査請求人の口座へ行われており、また、入金日と同日に入金額と同額が引き出されていたことからすると、審査請求人が、同日に、本件入金を把握していたものと考えられる。
 これらの事実を踏まえ、処分庁は、審査請求人が、送金者からの入金が返還対象となり得ること及び送金者からの入金の事実を認識していながら、あえて申告をしなかったものと考え、審査請求人が、「不実の申請その他不正な手段により保護を受けた」ことに該当すると判断したものである。
 なお、本件入金について、審査請求人より、母への送金が確認できる客観的な資料の提出はないことから、審査請求人名義の口座に入金記録がある以上、審査請求人の収入として判断せざるを得ない。
3 審理員意見書の結論
 本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4 審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 法第4条は、生活保護制度における基本原理の一つである「保護の補足性」について規定しており、その第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めている。また、法第5条は、「この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基いてされなければならない。」と定めている。
イ 法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と定めている。
 これは、生活保護制度により保障されるべき最低限度の生活は、生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)によって、要保護者各々について具体的に確定され、その保護の程度は、保護の基準によって測定された需要と要保護者の資力(収入)とを対比し、その資力で充足することのできない不足分について扶助されることを定めているものである。
ウ 法第28条及び第29条で保護の実施機関には積極的な調査権限が付与されているが、併せて、法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と規定し、被保護者に対し、届出の義務を課している。
エ 法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。
オ 生活保護法による保護の実施要領について(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)第8-3-(2)-ア-(ア)において、「恩給、年金、失業保険金その他の公の給付(中略)については、その実際の受給額を認定すること。」とされている。
 また、次官通知第8-3-(2)-エ-(イ)において、「不動産又は動産の処分による収入、保険金その他の臨時的収入(中略)については、その額(受領するために交通費等を必要とする場合は、その必要経費の額を控除した額とする。)が世帯合算額8,000円をこえる場合、そのこえる額を収入として認定すること。」とされている。
 なお、次官通知第8-3-(3)において、収入として認定しないものが限定的に列記されている。
カ 生活保護行政を適正に運営するための手引について(平成18年3月30日社援保発第0330001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)で提示されている「生活保護行政を適正に運営するための手引」のⅣ-4-(1)の注)において、「『不実の申請その他不正な手段』とは、積極的に虚偽の事実を申し立てることはもちろん、消極的に事実を故意に隠蔽することも含まれる。刑法第246条にいう詐欺罪の構成要件である人を欺罔することよりも意味が広い。」と示されている。
キ 生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下「課長通知」という。)の「2 法第78条に基づく費用徴収決定について」では、「法第63条は、本来、資力はあるが、これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある要保護者に対して保護を行い、資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図るために、当該被保護者に返還を求めるものであり、被保護者の作為又は不作為により保護の実施機関が錯誤に陥ったため扶助費の不当な支給が行われた場合に適用される条項ではない。被保護者に不当に受給しようとする意思がなかったことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるときや、保護の実施機関及び被保護者が予想しなかったような収入があったことが事後になって判明したとき等は法第63条の適用が妥当であるが、法第78条の条項を適用する際の基準は次に掲げるものとし、当該基準に該当すると判断される場合は、法第78条に基づく費用徴収決定をすみやかに行うこと。」と述べたうえで、法第78条の条項を適用する際の基準について、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」と示されている。
 よって、法第78条の適用にあたっては、保護費を不当に受給しようとする意思があることが求められるとともに、課長通知における各基準はその客観的事情を示しているものと解され、かかる解釈に不合理な点はない。
ク 生活保護問答集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡)の問13-22の答において、法第78条による「徴収額は、不正受給額を全額決定するものであり、法第63条のような実施機関の裁量の余地はないもの」とされており、また、問13-23の答の「(3)法第78条を適用する場合」において、「意図的に事実を隠蔽したり、収入の届出を行わず、不正に保護を受給した者に対しては、各種控除を適用することは適当ではなく、必要最小限の実費を除き、全て徴収の対象とすべきである。」と示されている。
 さらに、問13-25の答において、「法第78条に基づく費用の徴収は、いわば損害追徴としての性格のものであり、法第63条や法第77条に基づく費用の返還や徴収の場合と異なり、その徴収額の決定に当たり相手方の資力(徴収に応ずる能力)が考慮されるというものではない。」と示されている。
(2) 本件処分について
ア まず、本件入金の性質について検討すると、本件入金は、借主である知人からの、貸主である審査請求人に対する、平成23年〇月〇日付け金銭借用証書に基づく返済金であると認められる。
 審査請求人は、母に借りて知人に貸したものであり、全額母に返金しているため、審査請求人の収入ではないと主張しているが、金銭借用証書に基づき借主から貸主に返済された金銭が貸主以外に帰属するとは認め難く、審査請求人の収入と認めざるを得ないとした処分庁の判断には、一定の合理性があると認められる。
イ また、処分庁は、母への送金が確認できない本件入金については、審査請求人の収入と判断せざるを得ないと主張する。
 この点について、審査請求人を通して分割で返金されている母からの申立はあるものの、本件入金について、母の預金口座へ振込により送金した事実を証するものはなく、領収書等の提出もないことから、母へ返金したとする審査請求人の主張は、信憑性を欠くものと言わざるを得ない。
 さらに、仮に知人からの本件入金の全額を母へ送金している事実があったとしても、保護受給中の収入を、保護開始前の母からの借金の返済に充てることは本来認められないものである。
ウ 次に、本件に対する法第78条の適用について検討すると、平成23年3月24日に、生活保護制度に関する説明を受け、(生活保護の)「しおり」を受け取ったことに関する審査請求人の署名・押印がなされた事実が認められる。さらに、平成26年11月13日には、収入申告に関する説明を受け、理解したことに関する審査請求人の署名・押印がなされた事実が認められる。
エ よって、審査請求人は、法第61条に定められた「収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき」の届出の義務を理解していたものと認められるところ、平成29年〇月〇日の知人からの〇〇円の入金に関し、平成29年10月12日に提出した収入申告書において、申告していなかったのであるから、課長通知2-④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当するとして、法第78条の条項を適用した処分庁の判断に、違法又は不当な点は認められない。
オ 以上のとおり、知人からの返済金を審査請求人の収入と認定したうえで行った本件処分に違法又は不当な点があるとは認められない。
(3) 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。

第4  調査審議の経過
当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
 令和2年12月21日 諮問書の受理
 令和3年2月22日 調査審議(審査庁による口頭説明・処分庁による陳述)
 令和3年3月4日 審査庁からの主張書面の収受
 令和3年3月16日 調査審議
 令和3年4月19日 調査審議
 令和3年5月25日 調査審議
 令和3年6月17日 調査審議
 令和3年7月12日 調査審議

第5 審査会の判断の理由
1 本件に係る法令等の規定について
 前記第3、4、(1)に記載のとおりと認められる。
2 争点について
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は次のとおりである。
(1) 本件入金は収入認定すべき収入に該当するか否か(争点1)
(2) 審査請求人は保護費を不当に受給しようとする意思をもって、申告すべき収入を申告していなかったと認められるか否か(争点2)
3 争点1に係る審査会の判断について
(1) 収入認定すべき収入について
 前記第3、4、(1)、アのとおり、保護の補足性について定めた法第4条第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と規定されている。そして、かかる法の規定からすると、収入認定すべき収入にあたるか否かは、その金銭を得たことにより、被保護者の最低限度の生活の維持のために活用可能な資産が増加したか否かの観点から検討すべきこととなる(札幌地裁平成18年(行ウ)第10号同20年2月4日判決・裁判所ウェブサイト参照)。
(2) 収入認定すべき収入の該当性について
 そこで、まず、本件入金の性質について検討すると、本件入金が知人から振り込まれたものであることは、争いのないところである。
 次に、それがどのような目的で振り込まれたのかが問題となるが、この点、審査請求人は、審査請求書において、「請求人の口座へ振り込まれたのは、請求人が母へ返すための窓口となっているからであり、即座に母へ現金を渡している」と主張している。
 これに関し、処分庁は、弁明書において、「送金者(知人のことを指す。)に貸した〇〇円についても母のものであると認めることとする」と述べており、審査庁も、審査会あて主張書面において、「『仮に本件の知人への貸金が、保護開始前に審査請求人の母親から審査請求人に貸与されたものが知人に転貸されたものである』場合、知人からの入金について審査請求人が母親へ返金しており、その事実を証するものがあれば、審査請求人の収入になっていないことは明らかであるため、収入認定は行わないことになると考える。」と述べている。
 また、事件記録によれば、審査請求人の口座に振込を行った知人も、審査請求人の母から金銭を借りた旨述べていることから、本件入金については、知人が審査請求人を通じて母に返済すべく振り込まれたものと認められる。
 そこで、次に、審査請求人の口座に振り込まれた後、当該金銭が審査請求人から母に返金されたか否かが問題となる。
 これに関して、審査請求人の口座記録によれば、本件入金と同日の平成29年〇月〇日に、現金自動支払機による同額の引出しが確認できる。これについて、審査請求人は、審査請求書において、「私は即座、母に現金を渡しており」と主張するが、本審査会における調査審議に至るまで領収書等そのことを示す証拠が提出されていない。
 なお、審査請求人は、反論書において、「母への送金の客観的資料など必要無い物と把握しておりました。なぜなら、家族同士のやりとりですから、人目など意識していなかったからです。」と主張している。
 しかし、事件記録によれば、審査請求人は、本件入金の前日の平成29年〇月〇日に、知人からの返済金が返還対象となり得る旨、処分庁の補助機関職員から説明を受けており、また、その少し前の平成29年3月22日には、処分庁の補助機関職員から本件入金以前の知人からの返済金に関して母への振込明細の提出を求められていることから、本件入金に関しても母への返金記録の提出が求められることは、容易に想定できたことである。それにもかかわらず、本件入金を受けて引き出した金銭について、母に返金した客観的な証拠が提出されなかったのであるから、処分庁が本件入金について母への返金の事実を認めなかった点に不合理な点はないといえる。
 そして、母への返金の事実が認められなかった以上、本件入金の金銭を得たことにより、審査請求人の最低限度の生活の維持のために活用可能な資産が増加するといえることから、「収入認定すべき収入」に該当するといえる。
(3) 争点1の結論について
 以上から、本件入金について、収入認定すべき収入に該当するとした処分庁の判断に不合理な点はないというべきである。
4 争点2に係る審査会の判断について
(1) 法第78条の適用について
 法第78条第1項の趣旨は、保護の不正受給を防止し、生活保護制度が悪用されることを防止しようとすることにあると解される。そして、同項が適用されると、当該不正受給額の全部が必要的に徴収される上、その4割以下の額が制裁として徴収され得ることに加え、犯罪として懲役刑を科される可能性もあるものである。これに対し、法第63条は、「その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額」の返還で足り、裁量により、当該未申告分の収入の一部の返還で足りるものとされている。
 このような法第78条第1項の趣旨、同項と法第63条の要件及び効果の差異、特に、法第78条第1項の要件と刑罰法規である法第85条第1項本文の構成要件とが同一文言によって規定されていることからすれば、法第78条第1項は、被保護者の収入未申告等の行為が、生活保護制度の悪用と評価できる行為に当たる場合にのみ適用すべきであり、そうでない場合には、法第63条を適用すべきものと解するのが相当である。そして、被保護者の収入未申告等の行為が前記のように評価できる行為に当たるかどうかは、申告等に当たり明らかに作為を加えた場合や、保護の実施機関又はその職員から申告等の不審について説明を求められたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったような場合のように、行為そのものが持つ不正な性質が明確で、前記のとおりの評価が直ちにできる行為がある一方、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらずそれに応じなかった場合や、保護の実施機関の課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書の内容が虚偽であることが判明したときのように、行為そのものが持つ不正な性質が明確とはいえないものについては、当該行為が行われた際の具体的状況や、行為者の目的等の主観的事情をも判断要素として考慮に入れて、当該行為が法第78条第1項を適用すべき生活保護制度の悪用と評価できる行為といえるかどうかを客観的に判断すべきものと解するのが相当である(神戸地裁平成28年(行ウ)第30号同30年2月9日判決・賃金と社会保障1740号17頁参照)。
 上記を踏まえ、本件収入未申告が法第78条第1項の適用に値すると言えるためには、そもそも、未申告者に収入申告義務の認識が必要であることから、下記(2)において、審査請求人に収入申告義務の認識があったか否かを検討し、次に、(3)において、処分庁が主張するように、課長通知2-④「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当するか否かを検討し、最後に、(4)において、不正に受給しようとする意思が認められるか否かについて検討する。
(2) 収入申告義務の認識の有無について
 まず、審査請求人が収入申告義務について認識していたか否かについて検討すると、事件記録によれば、審査請求人は平成23年3月24日と平成26年11月12日に、処分庁の補助機関職員から収入申告義務についての説明を受けていたことが認められる。よって、本件入金があった時点では、審査請求人には、なんらかの収入があれば収入申告の必要があることの認識があったとの処分庁の認定に不合理な点は認められない。
 次に、審査請求人に収入申告義務の認識があったとして、審査請求人が本件入金について収入申告すべき収入に該当すると認識していたかが問題となる。
 この点、審査請求人は、本件入金が収入にあたらない旨一貫して主張しているところである。しかし、事件記録によれば、審査請求人は、本件入金があった前日の平成29年〇月〇日に、処分庁の補助機関職員から、知人からの返済金が返還対象となりうる旨の説明を受け、平成29年9月26日には、実際に本件入金以前の知人からの返済金について法第63条に基づく返還決定を受けたことが認められる。
 そうであれば、審査請求人が本件入金について収入と考えていたかどうかはともかく、処分庁が、母への返金の証拠がない限り知人からの返済金が収入申告すべき収入に該当すると考えていることは、遅くとも、平成29年9月26日時点で認識し得たといえる。
 また、そもそも、審査請求人が、本件入金があったことを認識していたかが問題となるが、事件記録から、審査請求人は、本件入金があった同日に入金額と同額を引き出していることが認められることから、本件入金があった事実についても認識していたことが認められる。
 以上から、返還決定を受けた翌月の平成29年10月12日に行った平成29年〇~〇月分の収入申告の際には、審査請求人において、当該入金が収入申告すべき収入に該当する旨の認識はあったといえる。
(3) 課長通知2-④の該当性について
 次に、課長通知2-④の該当性について検討すると、平成29年10月12日付けの平成29年〇月~〇月分の収入申告書には本件入金が記載されておらず(以下「本件未申告」という。)、本件入金の事実は処分庁による法第29条に基づく調査により判明したという点については、争いのないところである。
 そして、上記(2)で検討したとおり、審査請求人には、収入申告を行った時点で、本件入金が収入申告すべき収入であるとの認識も認められるところである。
 よって、課長通知2-④「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当するとした処分庁の判断に不合理な点は認められない。
(4) 不正に受給しようとする意思が認められるか否かについて
 最後に、本件未申告が行われるに至った状況や、審査請求人の目的等の主観的事情について検討する。
 事件記録によれば、審査請求人は、本件入金以前、知人からの返済について、審査請求人のB銀行口座への振込によって受け取っていたことが認められる。しかし、処分庁の補助機関職員から知人からの返済金が返還対象となり得る旨の説明を受けた翌日の本件入金については、審査請求人のA信用金庫の口座に振込まれているところである。
 この点、事件記録によれば、審査請求人の主張は、「氏(知人のことを指す。)からの入金が返還の対象になるかもしれないと聞いた為、氏にBへの入金を止めて欲しいと伝えたが、氏は(主)の意図を取り違えて、以前から氏に伝えていたA信用金庫へ入金された」とのことである。しかし、「入金を止めて欲しい」との言に対し、仮に口座番号を知っていたとしても、指定されていない口座へ振込を行うことは通常考えがたい。
 さらに言えば、以前とは異なるA信用金庫への振り込みがあったのが、審査請求人が知人からの入金が返還対象となりうる旨の説明を処分庁から受けた翌日であったこと、また、その入金について、審査請求人は、同日に引き出しを行っていること、前記のとおり、入金を止めて欲しいという要望に対して、指定もされていない銀行口座に振り込むことは通常あり得ないことからすれば、審査請求人が、知人に対して振込口座を別の金融機関に変更して振込むことを依頼し、その振込を確認次第、引き出しを行ったものと考えられる。
 よって、審査請求人の上記一連の行動を、知人からの返済金を隠蔽するためにとった行動と評価した処分庁の判断に不合理な点はないといえる
 また、審査請求人が、平成30年3月7日の資産申告書の提出の際、本件入金の振込先口座であるA信用金庫の通帳のうち、本件入金の記録が記載されていない最終ページのコピーのみ提出したことは、争いのないところである。
 この点、最終ページのみの提出となった事情が問題となるが、審査請求人の反論書での主張によれば、「(ケースワーカーが、)『ATMの操作で通帳全ページのコピーが出来る』とおっしゃったので、試しましたが、その様な機能はありませんでした。なので、最終ページだけをコピーした」とのことである。しかし、通帳のコピーは、必ずしもATMにて行う必要はなく、また、仮にコピーができなければ資産申告時に当該通帳を持参すればよかったことである。
 よって、審査請求人の当該行動を、本件入金の事実を隠蔽するためにとった行動と評価した処分庁の判断に不合理な点はないといえる。
(5) 争点2に関する結論について
 以上、本件未申告が行われるに至った状況や、審査請求人の目的等の主観的事情をも判断要素として総合的に考慮すると次のとおりである。
 審査請求人は、本件入金に係る知人からの返金について、知人に口座の変更を依頼して隠蔽を試みるとともに、平成29年10月12日に行った平成29年〇月~〇月分の収入申告について、収入申告をすべき収入があると認識していたにもかかわらず収入なしとして虚偽の申告をしたことが認められる。加えて、収入申告後においても、平成30年3月7日の資産申告時、A信用金庫の通帳そのものの持参あるいはその写しの提出を求められていることを認識していたにもかかわらず、最終ページのコピーのみを提出して本件入金記録部分のコピーを提出しなかった点について、本件入金があった事実を隠蔽しようとしたものと認められる。
 よって、結論として、課長通知2-④「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当し、保護費を不正に受給しようとする意思をもって、申告すべき収入を申告していなかったことが認められるとした処分庁の判断に不合理な点は認められない。
5 小括
 したがって、審査請求人に係る本件入金を未申告収入として法第78条の規定を適用した本件処分に違法又は不当な点は認められない。
6 審査請求に係る審査手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
7 結論
 よって、本件審査請求は理由がないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第2部会
 委員(部会長) 榊原和穂、委員 畠田健治、委員 海道俊明

答申書(令和3年度答申第5号)

Adobe Acrobat Reader DCのダウンロード(無償)別ウィンドウで開く
PDFファイルを閲覧できない場合には、Adobe 社のサイトから Adobe Acrobat Reader DC をダウンロード(無償)してください。

SNSリンクは別ウィンドウで開きます

  • Facebookでシェア
  • Xでポストする
  • LINEで送る

探している情報が見つからない

このページの作成者・問合せ先

大阪市総務局行政部行政課法務グループ
住所: 〒530-8201 大阪市北区中之島1丁目3番20号(大阪市役所4階)
電話: 06-6208-7443 ファックス: 06-6229-1260

メール送信フォーム

このページへの別ルート

表示