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答申書(令和3年度答申第9号)

2023年2月17日

ページ番号:552887

諮問番号:令和3年度諮問第3号
答申番号:令和3年度答申第9号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求は棄却されるべきである。

第2 審査請求に至る経過
1 令和2年6月3日、大阪市〇〇区長(以下「処分庁」という。)は、審査請求人に対し、令和2年5月27日届出の住民異動届(世帯分離)に関する不受理処分(以下「本件処分」という。)を決定し通知した。
2 令和2年6月19日、審査請求人は、大阪市長(以下「審査庁」という。)に対し、処分庁が行った本件処分の取消しを求める審査請求をした。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1  審査請求人の主張
 審査請求の趣旨は、本件処分の取消しを求めるものであり、その理由は次のとおりである。
 審査請求人夫婦は同一の住所地で生活しているが、夫婦別産制をとっている。このため世帯分離を申請したが不受理とされた。不受理は日本国憲法第22条及び第24条に反し、不当である。世帯とは実質的な概念であり、認定は生活の実質的関係に基づき、具体的に判断されるべきである。
 また、処分庁が弁明書において主張する処分理由は、処分決定時の理由とは異なっている。
2  処分庁の主張
 弁明の趣旨は、「審査請求人の審査請求を棄却する。」との裁決を求めるものであり、その理由は次のとおりである。
 審査請求人と審査請求人の妻は同居しており、今後も別居の予定はない。また、婚姻関係が続いており、今後も離婚の予定はない。
 審査請求人と審査請求人の妻は同じ建物に起居しており、名義は共有名義であり、区分所有ではない。
 外見上玄関は共有であり、電気・ガス等のメーターも分かれていない。
 これらの事から、審査請求人と審査請求人の妻は、生計を別にしている実態が客観的に明らかでないとして住民異動届(世帯分離)を不受理とした。
 本件処分は住民基本台帳法(昭和42年7月25日法律第81号。以下「法」という。)上の世帯認定に関しての処分であり、同一の家屋に起居している審査請求人と審査請求人の妻が、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められない場合における法第25条に規定する世帯変更届(世帯分離)の不受理処分であり、何ら違法又は不当な点は存在しない。また、本件処分は、審査請求人が主張する、憲法第22条及び憲法第24条が保障する権利の侵害をしているものとはいえないため、審査請求人の主張は失当である。
3  審理員意見書の結論
 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4  審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 法第1条で、この法律の目的として住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他住民に関する事務の処理の基礎とする旨が規定されている。
イ 法第3条第1項で、市町村は、常に、住民基本台帳を整備し、住民に関する正確な記録が行われるよう努めるとともに、住民に関する記録の管理が適正に行われるよう努めなければならないことが規定されている。
ウ 法第3条第3項において、「住民は、常に、住民としての地位の変更に関する届出を正確に行うよう努めなければならず、虚偽の届出その他住民基本台帳の正確性を阻害するような行為をしてはならない。」と規定されている。
エ 法第4条において、(住民の住所に関する法令の解釈)として、「住民の住所に関する法令の規定は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第10条第1項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならない。」とされ、総務省において定めている住民基本台帳事務処理要領(昭和42年10月4日自治省行政局長通知)では、住所の認定にあたっては、客観的居住の事実を基礎とし、これに当該居住者の主観的居住意思を総合して決定するとされている。
オ 法施行令第11条において、市町村長は、世帯変更等の届出があったときは、当該届出の内容が事実であるかどうかを審査して、第7条から第10条までの規定による住民票の記載、消除又は記載の修正(以下「記載等」という。)を行わなければならないとされている。
(2) 本件の世帯が法の「世帯」の要件に該当するか否かについて
 法第6条で、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならないとされている。この世帯について、住民基本台帳事務において、大阪市住民基本台帳事務処理要領(以下「要領」という。)では、「世帯は居住と生計を共にする社会生活上の単位である」とされている。
 また、審査請求人が主張する夫婦別産制とは、民法第762条第1項で「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産はその特有財産とする」との定めによるものと考える。
 今回、提出された審査請求人夫婦の住民異動届(世帯分離)は、住民基本台帳に係る届出であることから、処分庁は、住民基本台帳の考え方に基づき、「居住」と「生計」の観点により、当該夫婦が同一世帯であるか否かを認定することとなる。このうち「生計」について、夫婦は、民法第752条における扶助義務があるため、特段の事情が客観的に明らかに認められる場合を除き、生計を一とする状態であると考えられる。
 更に、今回、処分庁は、同居中の審査請求人とその妻についての世帯分離届が提出されたことを受け、審査請求人が反論書中でも述べているとおり、審査請求人夫婦の住居や電気・ガスの契約等の実態調査も行っているが、生計が別であることが確認できていないことから、住民票上同一世帯であると主張しているが、これは要領の記載と一致している。処分庁が審査請求人の世帯分離届を不受理とし、住民基本台帳事務の扱いとして同一世帯とみなすことが、憲法第22条でいう居住、移転の自由及び職業選択の自由を保障・阻害していると言えず、憲法第24条でいう両性の平等を阻害しているとは言えない。
 また、反論書で、審査請求人は、処分庁が世帯分離の届出を不受理とした理由を、不受理決定通知においては、民法第752条違反とし、弁明書では民法第762条に基づいており、当初決定と弁明書の処分根拠に矛盾があると主張するが、処分庁は弁明書において、審査請求人とその配偶者が採用していると主張する「夫婦別産制」の説明のため民法第762条を引用しているに過ぎない。また、処分庁による住居、電気、ガス等契約の確認は、1つの世帯である婚姻中の夫婦が住民基本台帳事務において、別世帯とみなすことができるかを、居住実態から確認したものであり、不受理の処分根拠が変わったとは言えない。
 前述のとおり、処分庁は世帯分離届の不受理決定理由は変更していない。審査請求人とその配偶者は婚姻関係を今後も維持する意思を確認している。民法第752条による夫婦の扶助義務から、原則として婚姻中の夫婦は生計が同一と考えるべきとする処分庁の判断を是認できる。さらに、処分庁による居住の実態調査において同居していることを確認したところ、生計を別にしている特殊な事実を確認できなかったことから、審査請求人と配偶者の世帯分離を不受理とした判断は妥当である。審査請求人が言う、当初処分と弁明書における処分理由の差し替えの事実は前述のとおり認められず、世帯分離の不受理決定を取り消す理由も、世帯の実態からはなく、制度の整合性を欠く点は見当たらない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  令和3年6月9日 諮問書の受理
  令和3年7月2日 審査庁からの主張書面の収受
  令和3年7月2日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和3年7月12日 調査審議
  令和3年7月21日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和3年7月30日 審査庁からの主張書面の収受
  令和3年8月17日 調査審議(審査庁による口頭説明・処分庁による陳述)
  令和3年9月6日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和3年9月6日 審査庁からの主張書面の収受
  令和3年9月9日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和3年9月27日 調査審議(審査請求人の口頭意見陳述)
  令和3年10月6日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和3年10月14日 審査庁からの主張書面の収受
  令和3年10月25日 調査審議
  令和3年11月26日 調査審議

第5  審査会の判断
1 本件に係る法令等の規定について
 前記第3、4、(1)の記載に加えて、法第6条第1項に「市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならない。」とあり、また、法第32条に「この法律の規定により市町村長がする処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。」とある。
2 争点について
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は、審査請求人とその妻が居住と生計をともにしているか否かである。
3 争点に係る審査会の判断について
 法第6条第1項によれば、「市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならない。」とされ、ここでいう世帯は、行政解釈により、「世帯とは、居住と生計をともにする社会生活上の単位である。」(総務省の住民基本台帳事務処理要領p.6参照)とされている。
 ここで、審査請求人とその妻が居住をともにしていることは、審査請求人自身も認めるところである。そうであれば、審査請求人と審査請求人の妻の間で世帯分離が認められるためには、審査請求人と審査請求人の妻が別生計である必要がある。
 そこで、まず、生計の意味が問題となるが、生計をともにするとは、つまり、世帯員がくらしを立てるためのてだてをともにすることを意味する。これについては、生活するための費用をともにすることはもちろん、生活に必要な家具や家事労働等を恒常的にともにすることと解される。
 この点、婚姻関係にある場合には、夫と妻の間に相互に扶助義務が発生することから(民法第752条)、上記でいうところの生計の同一が推定され、世帯を分離するには、「生計を別にしている」ことが認められる必要がある。
 そこで、生計を別にしているか否かについての審査請求人の主張を検討すると、審査請求人は、①健康保険の種類が審査請求人とその妻で異なること、②配偶者控除を夫婦間で相互に適用していないこと、③夫婦別産制をとっていることをもって生計を別にしている根拠であるとする。
 しかし、①については生活実態とは関係なく、②についても税額計算にあたっての所得控除の適用の問題に過ぎず、③についても財産の所有関係と使用関係は異なることから財産が別であることをもって生計が別である証左とはならない。
 むしろ、処分庁が弁明書で主張するところによれば、外見上も玄関は共有であり、電気・ガス等のメーターも分かれていないとのことであるから、住居や生活インフラを共同使用していることを示すものである。
 これらの処分庁の主張事実について審査請求人は否定しておらず、審査請求人とその妻が生活をともにしていることを示すものである。
 以上から、処分庁が世帯分離の届出について不受理とした判断に違法又は不当な点は認められない。
 なお、審査請求人は、処分庁の主張する不受理の理由が変遷していることをもって瑕疵がある旨主張しているが、不受理決定通知の理由が誤っているとはいえず、また、弁明書等での処分庁の主張は不受理決定通知の理由を補うものであり、違法な変遷ないし追完とは言えない。また、そもそも、法第32条により、不受理決定においては行政手続法第2章の規定は適用除外とされていることから、本件における理由の提示は行政運用上のものに過ぎず、違法又は不当の問題を生じさせない。
 とはいえ、被処分者に対し処分理由について誤解を与えることは望ましいことではないことから、処分庁におかれては、運用上、世帯分離に係る不受理決定通知に理由を記載する場合には、下記付言の通り改善が望まれる。
 その他、審査請求人は、本件処分の違法性及び不当性について縷々主張するが、いずれも採用することはできない。なお、審査請求人は、処分庁が民法第752条を援用したとしてその無効を主張しているが、上記のとおり、民法第752条は夫婦の生計状況を推定する根拠として用いられているに過ぎないのであり、そのような私法関係を踏まえて世帯認定を行うことは当然のことであることから、違法・無効な点はない。
4 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 結論
 よって、本件審査請求に理由はないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。
6 付言
 本件処分に関し処分庁が不受理決定通知に付した理由は、「同一の住所地で生活している夫婦については、民法第752条により夫婦間の扶助義務があるため。」とのことである。民法第752条により同一生計が推定されることからこれ自体誤った記載でないことは上記のとおりであるが、そもそもの前提たる「世帯とは、居住と生計をともにする社会生活上の単位である。」という行政解釈を記載し、それに加えて、「審査請求人は妻と居住をともにしており、妻との間で生計を別にしている実態が認められない。」旨記載すれば、審査請求人としても、処分庁が「世帯」についてどのように考え、今回世帯分離が認められなかったのはどの点が理由になっているのかより良く理解できたものと思われる。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第2部会
 委員(部会長) 榊原和穂、委員 畠田健治、委員 海道俊明

答申書(令和3年度答申第9号)

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