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答申書(令和3年度答申第21号)

2023年2月17日

ページ番号:566097

諮問番号:令和3年度諮問第8号
答申番号:令和3年度答申第21号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求は棄却されるべきである。

第2 審査請求に至る経過
1 令和2年9月15日、審査請求人は、大阪市〇〇区長(以下「処分庁」という。)に対し、住民票の写しの交付の申出(以下「本件申出」という。)を行った。
2 令和2年9月18日、処分庁は、審査請求人に対し、令和2年9月15日付け本件申出について、交付しないことを決定した旨の通知を行った。
3 令和2年11月18日、審査請求人は、大阪市長(以下「審査庁」という。)に対し、処分庁が行った本件処分を取り消し、請求した住民票の写しの交付を求める審査請求を行った。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1  審査請求人の主張
 審査請求の趣旨は、本件処分を取消すとともに住民票(除票)の写しの交付を求めるものであり、その理由は次のとおりである。
 被請求人(本件申出の対象とされた者。以下同)は、平成〇年に地裁判決で命じられた支払いを行っておらず、審査請求人は、上記判決の原告である依頼人より、正当な権利を実行するために強制執行等の裁判手続きを委任された者である。
 被請求人は、上記判決の支払い義務を免れるために、ドメスティック・バイオレンス等の被害に遭っているという虚偽申告をしている。よって、ドメスティック・バイオレンス等の被害に遭っているというのは、不交付決定の理由にはならない。
 また、審査請求人は、住民票の写しの交付請求を弁護士業務として行っているものであり、知り得た情報を外部に漏洩する恐れはなく、ドメスティック・バイオレンス等の状況は生じ得ない。
2  処分庁の主張
 本件処分の判断の根拠は、被請求人が住民基本台帳法事務処理要領に定める「住民基本台帳の一部の閲覧及び住民票の写し等の交付並びに戸籍の附票の写しの交付におけるドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の保護のための措置」における支援対象者として、住民票の写し等の交付が制限されているためである。
 審査請求人は、ドメスティック・バイオレンス等の被害申告は虚偽であると主張しているが、処分庁は、「大阪市住民基本台帳事務処理要領」に則り、支援措置の必要性を確認している以上、支援措置申出者の身の危険を最優先して速やかに支援措置を決定したところである。
 審査請求人が申し出た住民票の写しの利用目的は「強制執行申立」とされているが、平成30年12月3日付け総務省通知によれば、「加害者に対しては、住民票の写し等を交付することができないこと、及び住民票の写し等が交付されない場合の対応方法について、裁判所において被告等の住所に関する調査嘱託を受けられることを説明した上で、具体的な手続きについては裁判所に相談するよう案内すること」となっており、本件の利用目的は裁判所に提出すれば達することができるので、審査請求人への住民票の写しの交付は必要ない。
3  審理員意見書の結論
 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4  審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 「住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付に関する省令の一部を改正する省令及び戸籍の附票の写しの交付に関する省令の一部を改正する省令について(通知)」(平成16年5月31日付総行住第212号。以下「平成16年通知①」という。)と、これに伴う「住民基本台帳事務処理要領の一部改正について(通知)」(平成16年5月31日付総行市第213号・法務省民一第1581号。以下「平成16年通知②」という。)により、ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等の被害者の保護のための支援措置の制度が実施されることとなった。
イ その後、「住民基本台帳事務処理要領の一部改正について(通知)」(平成24年9月26日付総行住第88号・法務省民一第2441号。以下「平成24年通知」という。)に基づき、平成24年10月1日より、ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等に加え、児童虐待、その他これらに準ずる行為の被害者の支援措置を行うこととなっている。
ウ 上記アおよびイに基づき、「大阪市住民基本台帳事務処理要領」(以下「市要領」という。)で、「ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為及び児童虐待等の被害者の保護のための支援措置」に関する取り扱いを定めている。
 同要領では、交付請求における支援措置として、加害者からの請求がなされた場合に、不当な目的があるものとして拒否をすると規定されている。ただし、加害者等から訴訟手続きで被害者の住民票の写し等交付請求があった場合は、裁判所において手続の教示を受けられることを説明した上で、具体的な手続については裁判所に相談するよう案内することとされている。
エ また、住民基本台帳法(昭和42年7月25日法律第81号。以下「法」という。)第12条の3第2項で、市区町村長は、特定事務受任者から、受任している事件又は事務の依頼者から住民票の写し等が必要である旨の申し出があり、当該申し出を相当と認める時は、当該特定事務受任者に当該住民票の写し等を交付することができる、と規定されている。(なお、特定事務受任者とは、法第12条の3第3項で、弁護士などが規定されている。)
オ 「ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の保護のための住民基本台帳事務における支援措置に関する取扱いについて」(平成30年3月28日付総行住第58号。以下「平成30年通知①」という。)で、法第12条の3第2項の規定により、受任している事件又は事務の依頼者が加害者である特定事務受任者から住民票の写し等の交付の申出があった場合、加害者本人から当該申出があったものと同視する、とされている。
カ 「ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の保護のための住民基本台帳事務における支援措置に関する裁判所との連携について(通知)」(平成30年12月3日付総行住第199号。以下「平成30年通知②」という。)で、加害者(代理人を含む)から、裁判所に提出する必要があるとの理由により被害者に係る住民票の写し等の交付の請求又は申出があった場合の取扱いとして、市区町村においては、裁判所からの調査嘱託に対応する方法によることとし、加害者に対しては、住民票の写し等を交付することはできないこと及び裁判所において手続の教示を受けられることを説明した上で具体的な手続については裁判所に相談するよう案内すること、とされている。
(2) 本件の住民票の写しの交付請求が「不交付」の要件に該当するか否かについて
 上記4(1)アの平成16年通知①及び平成16年通知②で、ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等の被害者の保護のための支援措置の制度が実施されることとなり、支援の必要性が確認された者は、加害者から住民票の写し等の交付請求があった場合に、不当な目的があるものとして請求を拒否することとされている。なお、上記4(1)イの平成24年通知により、支援措置の対象者として、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者が追加されている。
 今回、提出された住民票の写しの交付請求における被請求人は、「その他、ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為並びに児童虐待に準ずるケース」として支援措置申出書を提出し、支援の必要性が確認された者であり、処分庁は、本件交付請求(令和2年9月18日)以前の令和2年〇月〇日付けで、当初受付市町村長(被請求人からの支援措置の実施を求める旨の申出を受け付け、支援措置を決定した者。以下同)よりその旨の通知を受けている。
 本件交付請求の請求人は、支援措置申出書において加害者とされている者が弁護士に依頼している、いわゆる「第三者請求」である。
 処分庁は、不交付決定について、
・ドメスティック・バイオレンス等の被害申告については、市要領に則り、支援の必要性を確認していること。
・住民票の写しの利用目的が「強制執行申し立て」とあるが、平成30年通知②に基づき、加害者に対しては住民票の写し等を交付することはできないこと。依頼元が加害者や加害者が依頼した職務上請求であって、訴訟手続きを目的とする場合は、裁判所からの調査嘱託により回答することとなるので、裁判所に相談するよう案内を行うこと。
と、弁明書および回答書で述べているが、それぞれの対応は、同要領や平成24年通知、平成30年通知①及び平成30年通知②に基づいたとおりのものであり、適切な対応である。審査請求人は、反論書において、「確認の具体的な内容については明らかにしておらず、確認の事実そのものを認めることはできない。処分庁は確認をしていないと言わざるを得ない」としているが、処分庁は、当初受付市町村長からの通知を受け、相談機関の意見を受けた支援申し出であることを確認している以上、申出者の身の危険を最優先してすみやかに支援することを決定したのは、妥当な判断と言える。
 また、審査請求人が請求理由6に挙げている、「請求人は弁護士業務として本件交付請求を申請したものであり、外部に漏洩する恐れはない」と主張しているが、処分庁が回答書で示す「依頼元が加害者である場合は、住民票の写しの交付はできない」という対応は、平成30年通知①の「受任している事件又は事務の依頼者が加害者である特定事務受任者からの住民票の写し等の交付の申し出は、加害者本人から当該申出があったものと同視」するというものを根拠としていると言えることから、請求理由6を理由に、審査請求人が不交付決定を取り消すことを是とは言えない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  令和3年10月8日 諮問書の受理
  令和3年11月12日 審査庁からの主張書面の収受
  令和3年11月12日 審査請求人からの主張書面の収受
  令和3年11月26日 調査審議
  令和3年12月14日 審査庁からの主張書面の収受
  令和3年12月17日 調査審議
  令和4年1月18日 調査審議(審査請求人の口頭意見陳述)
  令和4年2月14日 調査審議
  令和4年3月10日 調査審議

第5  審査会の判断
1 本件に係る法令等の規定について
 前記第3、4、(1)の記載に加えて、以下のような規定がある。
(1) 住民基本台帳法
(除票の写し等の交付)
第15条の4
1~2 (略)
3 市町村長は、前2項の規定によるもののほか、当該市町村が保存する除票について、次に掲げる者から、除票の写しで除票基礎証明事項(第7条第1号から第3号まで及び第6号から第8号までに掲げる事項その他政令で定める事項をいう。以下この項において同じ。)のみが表示されたもの又は除票記載事項証明書で除票基礎証明事項に関するものが必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該申出をする者に当該除票の写し又は除票記載事項証明書を交付することができる。
一 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために除票の記載事項を確認する必要がある者
二 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある者
三 前2号に掲げる者のほか、除票の記載事項を利用する正当な理由がある者
4 市町村長は、前3項の規定によるもののほか、当該市町村が保存する除票について、第12条の3第3項に規定する特定事務受任者から、受任している事件又は事務の依頼者が前項各号に掲げる者に該当することを理由として、同項に規定する除票の写し又は除票記載事項証明書が必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該特定事務受任者に当該除票の写し又は除票記載事項証明書を交付することができる。
5 (略)
(2) 住民基本台帳事務処理要領(昭和42年10月4日法務省民事甲第2671号・保発第39号・庁保発第22号・42食糧業第2668号(需給)・自治振第150号。以下「法務省要領」という。)
第5 その他
10 住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付並びに戸籍の 附票の写しの交付におけるドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等の被害者の保護のための措置
(略)
ア 申出の受付
(ア)申出者
 市町村長は、その備える住民基本台帳に記録又はその作成する戸籍の附票に記載されている者で、次に掲げる者から、コに掲げる支援措置の実施を求める旨の申出を受け付ける。
A 配偶者暴力防止法第1条第2項に規定する被害者であり、かつ、暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれがあるもの
B ストーカー規制法第6条に規定するストーカー行為等の被害者であり、かつ、更に反復してつきまとい等又は位置情報無承諾取得等をされるおそれがあるもの
C 児童虐待防止法第2条に規定する児童虐待を受けた児童である被害者であり、かつ、再び児童虐待を受けるおそれがあるもの又は監護等を受けることに支障が生じるおそれがあるもの
D その他AからCまでに掲げるものに準ずるもの
(イ)(略)
(ウ)他の市町村に係る申出
 最初に申出を受けた市町村長(以下「当初受付市町村長」という。)は、申出者が、当該申出者に係る住民票、除票、戸籍の附票及び戸籍の附票の除票を保存する他の市町村に対して、併せて支援措置を実施することを求める場合にはその申出について、併せて申出書に記載することを求める。
 なお、当初受付市町村長は、申出者が住所地で住民登録した後に、2回以上、申出者の本籍が一の市町村から他の市町村に転籍している場合であって、申出者が、2つ以上前の本籍地であった市町村に対して、併せて支援措置を実施することを求める場合には、その申出に係る支援を求める事務及び当該2つ以上前の本籍地であった市町村を併せて申出書の備考等に記載することを求める。
(エ)~(オ)(略)
イ 支援の必要性の確認
(ア)申出者
 当初受付市町村長は、申出者が、ア-(ア)に掲げる者に該当し、かつ、加害者が、当該申出者の住所を探索する目的で、住民基本台帳の閲覧等を行うおそれがあると認められるかどうかについて、警察、配偶者暴力相談支援センター等の意見を聴取し、又は裁判所の発行する保護命令決定書の写し若しくはストーカー規制法に基づく警告等実施書面等の提出を求めることにより確認する。
 この場合において、市町村長は、上記以外の適切な方法がある場合には、その方法により確認することとしても差し支えない。
(イ)(略)
ウ (略)
エ 他の市町村長への転送
 イにおいて支援の必要性があることを確認した当初受付市町村長は、申出者が、他の市町村に対して、併せて支援措置を実施することを求める場合には、ア-(ウ)に基づき当該申出について併せて記載された申出書の写しを、当該他の市町村長に対して転送する。
オ 他の市町村における支援の必要性の確認及び確認結果の連絡
 エの転送を受けた他の市町村長は、当初受付市町村長を経由して申出がなされたものとして、イの例により、支援の必要性を確認する。
 なお、この場合、当該他の市町村長においては、原則として、当初受付市町村長が支援の必要性があることを確認したことをもって、当該他の市町村長における支援の必要性もあることとする取扱いとして差し支えない。
 また、支援の必要性がないことを確認した場合には、その結果を、申出者に連絡する。
カ~ケ (略)
コ 支援措置
(ア)住民基本台帳の一部の写しの閲覧の申出に係る支援措置
A 市町村長は、支援対象者に係る住民基本台帳の一部の写しの閲覧について、以下のように取り扱う。
(A)~(B) (略)
(C)その他の第三者から申出がなされた場合
 加害者が第三者になりすまして行う申出に対し閲覧させることがないよう、十分留意して厳格に本人確認を行うことが適当である。
 加害者の氏名が変更している場合、加害者が旧氏や通称を用いて申出を行う場合、被害者が加害者を旧氏や通称のみをもって把握しており、かつ、加害者が旧氏や通称を変更している場合等があり得るため、住民基本台帳ネットワークシステムの本人確認情報を利用して申出者が加害者であるかを確認することが適当である。
 また、加害者の依頼を受けた第三者からの閲覧に対し閲覧させることがないよう、利用の目的等について十分留意して厳格な審査を行うことが適当である。
 なお、加害者が国又は地方公共団体の機関の職員になりすまして閲覧を請求することも考えられるため、法第11条に基づく請求であっても、閲覧者については、十分留意して厳格に本人確認を行うことが適当である。
B (略)
(イ)住民票の写し等及び戸籍の附票の写し等の交付の請求又は申出に係る支援措置
 市町村長は、支援対象者に係る住民票(世帯を単位とする住民票を作成している場合にあっては、支援対象者に係る部分。また、消除された住民票及び改製前の住民票を含む。)の写し等及び戸籍の附票(支援対象者に係る部分。また、消除された戸籍の附票及び改製前の戸籍の附票を含む。)の写しの交付について、以下のように取り扱う。
(A)加害者が判明しており、加害者から請求又は申出がなされた場合
 不当な目的があるものとして請求を拒否し、又は法第12条の3第1項各号、第15条の4第3項各号、第20条第3項各号若しくは第21条の3第3項各号に掲げる者に該当しないとして申出を拒否する。
 ただし、(ア)-A-(C)に準じて請求事由又は利用目的をより厳格に審査した結果、請求又は申出に特別の必要があると認められる場合には、交付する必要がある機関等から交付請求を受ける、加害者の了解を得て交付する必要がある機関等に市町村長が交付する、又は支援対象者から交付請求を受けるなどの方法により、加害者に交付せず目的を達成することが望ましい。
(B)~(C)(略)
サ (略)
(3) 大阪市住民基本台帳事務処理要領
第7章 その他
8 ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為及び児童虐待等(以下「DV等」という) の被害者の保護のための支援措置
 DV等の被害者及び加害者について、申出に基づきあらかじめ把握することで、加害者が、住民票の閲覧や写し等の交付並びに戸籍附票の写し等の交付制度を不当に利用して、被害者の住所の(ママ)探索することを防止し、もって被害者の保護を図ることを目的とするものである。
(1)~(6) (略)
(7) 支援措置
① (略)
② 交付請求(申出)における支援措置
ア 加害者からの請求がなされた場合
A 住民票の写し等の交付申出には、法第12条の3第1項の各号に掲げる者(法第20条3(ママ)の附票の写しの交付申出について同じ)に該当しないものとして、法第12条第6項(これを準用する法第20条1項に係る附票の写しの交付請求についても同じ)に基づき、不当な目的によるものとして拒否をする。
B ただし、請求(申出)に特別の必要があると認められる場合には、交付する必要がある機関等からの直接請求を受ける、加害者の了解を得て交付する必要がある機関等に直接交付することとする。
C 加害者等から訴訟手続きで被害者の住民票の写し等交付請求があった場合 は、裁判所において手続の教示を受けられることを説明した上で、具体的な手続については裁判所に相談するよう案内する。裁判所から、訴訟の被告に関する民事訴訟法第151条若しくは第186条又は家事事件手続法第62条に基く、被告の住所に関する調査嘱託があればこれに回答する。
イ~ウ (略)
③ (略)
(4) ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等及び児童虐待等の被害者支援にかかる住民基本台帳事務処理マニュアル(令和2年4月1日改正。以下「市マニュアル」という。)
5 他の市町村から住民登録地(従前の住民登録地を含む)へ申出書の送付がなされた場合
(1) (略)
(2) 支援の必要性の確認
 送付を受けた区は、当初の申し出を受けた市町村が支援措置の必要性を確認したことをもって、支援措置の必要性を確認したこととする。
(3)~(4) (略)
2 争点について
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は次のとおりである。
(1) 法務省要領、市要領は合理的か否か(争点1)
(2) 上記要領に従い不交付とした判断に違法又は不当な点があるか否か(争点2)
3 争点に係る審査会の判断について
(1) 争点1について
ア 法務省要領について
 住民票等の交付事務に関しては、法に則り自治事務として行われているところであり、法務省要領が直接的に大阪市の行う住民基本台帳事務の裁量基準となるわけではない。しかし、「国は、市町村に対し、住基法の目的を達成するため、同法の規定により市町村が処理する事務について、必要な指導を行うものとするとされている(同法第31条第1項)ところ、支援措置の運用に関しては、国により事務処理要領が定められているのであるから、各市町村長は、その定めが明らかに法令の解釈を誤っているなど特段の事情がない限り、これにより事務処理を行うことが法律上求められているといえる」(大阪高裁平成29年(行コ)第158号同30年1月26日判決・判時2375・2376号182頁)と判示されており、加えて、処分庁の弁明書や審査庁の諮問資料等によれば、大阪市としても、法務省要領に従って運用することとしていることから、まず、裁量基準たる法務省要領が合理的か否かが問題となる。
 本事件において法務省要領が問題となるのは、第5‐10のア、イ、及びコの部分であり、これらは一体として、住民票等を交付するかどうかの判断基準としての性質を有していると考えられる。これに関し、本件処分の適用法条たる法第15条の4第3項(弁明書においては第12条の3第2項が適用条項とされているが、後述のとおり第15条の4第3項が適当と考える。)は、「市町村長は、前2項の規定によるもののほか、当該市町村が保存する除票について、次に掲げる者から、除票の写しで除票基礎証明事項(第7条第1号から第3号まで及び第6号から第8号までに掲げる事項その他政令で定める事項をいう。以下この項において同じ。)のみが表示されたもの又は除票記載事項証明書で除票基礎証明事項に関するものが必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該申出をする者に当該除票の写し又は除票記載事項証明書を交付することができる。」(傍点審査会)と規定しているところ、法務省要領では、DV等の加害者やその依頼者から申出があった場合、仮に当該人が同項各号該当を主張しても、「不当な目的があるものとして請求を拒否し、又は法第12条の3第1項各号、第15条の4第3項各号、第20条第3項各号若しくは第21条の3第3項各号に掲げる者に該当しないとして申出を拒否する。」(第5‐10‐コ‐(イ)‐(A)、傍点審査会)とされている。
 この点、法は、第三者が権利行使等のために住民票の写し等の交付を求める権利を認めているところであるが、無制限に認められるものではなく、請求に係る者(交付請求において請求の対象となっている者。以下同)の保護法益を理由に一定の制限がなされることはやむを得ないところである。
 そして、法務省要領は、「配偶者暴力防止法第1条第2項に規定する被害者であり、かつ、暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれがあるもの」(第5‐10‐ア‐(ア)‐A)等、住所等が知られると支援措置申出者に身の危険が生じる場合に限って、受付市町村長が支援の必要性を確認の上支援措置を行うこととしており、無限定に制限を行うものではなく、住民票等の「請求又は申出に特別の必要があると認められる場合には、交付する必要がある機関等から交付請求を受ける、加害者の了解を得て交付する必要がある機関等に市町村長が交付する、又は支援対象者から交付請求を受けるなどの方法により、加害者に交付せず目的を達成することが望ましい。」(第5‐10‐コ‐(イ)‐(A))として、代替手段を設けることにより、住民票等を必要とする請求者の目的を達成する方途を残している。
 よって、法務省要領の上記部分は、住民に関する記録の適正な管理を図り、住民のプライバシー保護に配慮するという法の目的に合致するとともに、国及び地方公共団体は、配偶者暴力防止法に基づきDV被害者の適切な保護を図る責務を果たす(同法第2条、第9条)という観点からも合理的なものといえる(大阪高裁平成29年(行コ)第158号同30年1月26日判決・判時2375・2376号182頁参照)。
 なお、平成30年通知①において、「DV等支援措置に関し、住民基本台帳法(昭和42年7月25日法律第81号)第12条の3第2項の規定により、受任している事件又は事務の依頼者が加害者である特定事務受任者から住民票の写し等の交付の申出があった場合、加害者本人から当該申出があったものと同視」する旨通知されているが、「一般に加害者の代理人に被害者に係る住民票等の写しを交付した場合、代理人を通じて被害者の住所が加害者に知られるおそれがあることは否定できないことからすれば、加害者の代理人からの申出も、原則として加害者本人からの申出に準じた処理がされるのもやむを得ない」(大阪高裁平成29年(行コ)第158号同30年1月26日判決・判時2375・2376号182頁参照)ところである。
 この点について、審査請求人は、審査請求書等において、知り得た情報について外部に漏洩する恐れはない旨主張しているが、請求人が請求に係る者の住民票等の写しの交付を受けた場合、意図してではなくとも、強制執行手続きを行う中で被請求人の住所が加害者たる依頼者に伝わってしまうリスクを完全に排除することができない。
 よって、依頼者が加害者とされる者である場合、特定事務受任者からの申出であっても、原則として法第15条の4第3項各号に該当しないとする上記解釈は不合理ではない。
イ 市要領について
 市要領の法的な位置付けについては、処分庁や審査庁から明確な主張がなされているわけではないが、本要領が公表されており、処分庁は本要領に従い事務を行っていることが窺われることから、いわゆる「審査基準」と考えられ、市要領の合理性について検討する(なお、法第32条が行政手続法(平成5年法律第88号)第2章及び第3章の規定を適用除外としているため、審査基準の制定・公表義務はなく、本件処分の審査基準がいかなるものか対外的には明らかにされているものではない。)。
 市要領では、「加害者からの請求がなされた場合」の対応として、「A 住民票の写し等の交付申出には、法第12条の3第1項の各号に掲げる者(法第20条3の附票の写しの交付申出について同じ)に該当しないものとして、法第12条第6項(これを準用する法第20条1項に係る附票の写しの交付請求についても同じ)に基づき、不当な目的によるものとして拒否をする。B ただし、請求(申出)に特別の必要があると認められる場合には、交付する必要がある機関等からの直接請求を受ける、加害者の了解を得て交付する必要がある機関等に直接交付することとする。C 加害者等から訴訟手続きで被害者の住民票の写し等交付請求があった場合は、裁判所において手続の教示を受けられることを説明した上で、具体的な手続については裁判所に相談するよう案内する。裁判所から、訴訟の被告に関する民事訴訟法第151条若しくは第186条又は家事事件手続法第62条に基く、被告の住所に関する調査嘱託があればこれに回答する。」(第7章‐8‐(7)‐②‐ア)とされている(Aの「法第12条第6項に基づき、不当な目的によるものとして」の部分は、後述付言のとおり、法第12条の3の適用に際し法第12条第6項は準用されないことから誤記と思われる。)。
 これについて、加害者とされる者から交付申出があれば、B又はCの対応を取りつつ、Aのとおり拒否するということであるから、法務省要領と矛盾するところはなく、合理的である(なお、明示されてはいないが、法第15条の4第3項、第4項に基づく申出にも適用されるものと考える。)。
(2) 争点2について
 前提として、審査請求人は、職務上請求書において、「住民票の写し」を求めているが、処分時点で被請求人は既に大阪市から転出しており、大阪市において交付できるものは住民票ではなく除票(法第15条の2第1項において、「住民票(世帯を単位とする住民票にあっては、その全部)を消除したとき、又は住民票を改製したときは、その消除した住民票又は改製前の住民票(以下「除票」と総称する。)」とされている。)となる。よって、法第15条の4の適用が問題となり、以下、同条の適用にあたって違法又は不当な点がないか検討する。
 まず、審査請求人は、弁護士として依頼を受けて住民票の写しの交付の申出を行っていることから、法第15条の4第4項の「特定事務受任者」に該当する。
 そこで、次に、法第15条の4第4項の「受任している事件又は事務の依頼者が前項各号に掲げる者に該当する」か否かが問題となる。
 この点、職務上請求書によれば、利用目的は「強制執行予定」であり、依頼者は被請求人に対して債権を有していることが確認できることから、依頼者が法第15条の4第3項第1号の「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために除票の記載事項を確認する必要がある者」に該当しているようにも見受けられる。
 しかし、依頼者が、法務省要領の第5‐10‐ア‐(ア)のA~Dに該当するとして支援措置の申出を行った者との関係で、加害者とされる者であるなら、上記(1)のとおり、当該支援措置申出者を請求に係る者とする限りにおいて、法第15条の4第3項第1号には該当しないこととなる。
 そこで、本件の依頼者と被請求人の関係について検討すると、依頼者が「加害者とされる者」に該当することは、処分庁が当初受付市町村長から支援措置申出書の写しの転送を受けることにより確認しており、当該申出書の写しから、相談機関等が、被請求人について、依頼者を加害者とする「A 配偶者暴力防止法、B ストーカー規制法、C 児童虐待防止法に準ずるケース」(D)に該当すると判断したことが認められる。
 この点、審査請求人は、依頼者による加害行為について立証されていないことを主張しているため、処分庁においてどの程度の確認を要するかについて検討する。
 これに関して、法務省要領によれば、「エ(支援措置申出書)の転送を受けた他の市町村長は、当初受付市町村長を経由して申出がなされたものとして、イ(支援の必要性の確認)の例により、支援の必要性を確認する。なお、この場合、当該他の市町村長においては、原則として、当初受付市町村長が支援の必要性があることを確認したことをもって、当該他の市町村長における支援の必要性もあることとする取扱いとして差し支えない。」(第5‐10‐オ。括弧内審査会で補足)とされており、市マニュアルによれば、「送付を受けた区は、当初の申し出を受けた市町村が支援措置の必要性を確認したことをもって、支援措置の必要性を確認したこととする。」(5‐(2))とされている。
 これらのとおり、運用基準上、必ずしも処分庁自らが支援の必要性を確認することとはされておらず、現に本件においても、事件記録からは、処分庁自ら「D その他AからCまでに掲げるものに準ずるもの」(市マニュアル2‐(1))に該当すると確認した事実は認められない。
 この点に関し、法務省要領によれば、支援の必要性は、そもそも、「警察、配偶者暴力相談支援センター、児童相談所等の意見を聴取」(第5‐10‐イ‐(ア))すること等により確認することとされており、それによって一定の客観性が担保されているといえる。
 よって、処分庁としては、原則として、転送を受けた支援措置申出書の写しにより、相談機関等が、「A 配偶者暴力防止法第1条第2項に規定する被害者であり、かつ、暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれがあるもの、B ストーカー規制法第6条に規定するストーカー行為等の被害者であり、かつ、更に反復してつきまとい等又は位置情報無承諾取得等をされるおそれがあるもの、C 児童虐待防止法第2条に規定する児童虐待を受けた児童である被害者であり、かつ、再び児童虐待を受けるおそれがあるもの又は監護等を受けることに支障が生じるおそれがあるもの、D その他AからCまでに掲げるものに準ずるもの」(法務省要領第5‐10‐ア‐(ア))のいずれかへの該当を認めていることを確認すれば、事実認定において違法又は不当の問題を生じることはない。
 なお、他の手段によっては住民票等を入手できず、住民票等の入手なくしては権利の実現等が困難となるような特別の事情があり、処分庁がそのような事情を看過して漫然と不交付とした場合には、個別事情考慮義務に反するとして、違法又は不当の余地が存するところである。
 そこで、本件において特別の事情が認められるか否かについて検討すると、職務上請求書によれば本件における住民票の利用目的は「強制執行予定」とのことであり、そうであれば、裁判所に送付嘱託を申し立てることによって目的は達成可能であるといえる。
 したがって、審査請求人の「受任している事件又は事務の依頼者」は法第15条の4第3項各号のいずれにも該当せず、特別の事情も認められないことから、審査請求人に対して法第15条の4第4項に基づき除票の写しを交付することはできないとした処分庁の判断に、違法又は不当な点は認められない。
4 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 結論
 よって、本件審査請求に理由はないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。
6 付言
(1) 市要領第7章‐8‐(7)‐②‐ア‐Aの記載について
 市要領の標記部分に、「住民票の写し等の交付申出には、法第12条の3第1項の各号に掲げる者(法第20条3の附票の写しの交付申出について同じ)に該当しないものとして、法第12条第6項(これを準用する法第20条1項に係る附票の写しの交付請求についても同じ)に基づき、不当な目的によるものとして拒否をする。」とあるが、第三者からの申出の場合の適用条項として、以下の理由から正しくないと思われる。
 市要領は、法第12条第6項に基づき不当な目的によるものとして拒否するとあるが、同条は、本人等から請求があった場合の規定であり、本人等以外の者からの交付申出の規定である法第12条の3は、法第12条第6項を準用していない。この点、法務省要領には、「加害者が判明しており、加害者から請求又は申出がなされた場合」に「不当な目的があるものとして請求を拒否し、又は法第12条の3第1項各号、第15条の4第3項各号、第20条第3項各号若しくは第21条の3第3項各号に掲げる者に該当しないとして申出を拒否する。」(傍点審査会。法務省要領は、法にあわせて、「請求」と「申出」を使い分けている。)とあり、本人等請求の場合には、「不当な目的があるものとして請求を拒否し」(住民票の場合法第12条第6項。住民票の除票の場合法第15条の4第5項において、戸籍の附票の場合法第20第5項において、戸籍の附票の除票の場合法第21条の3第5項において、それぞれ法第12条第6項を準用。)、本人等以外の者からの交付申出の場合には、対象物が住民票の場合(法第12条の3)、除票の場合(法第15条の4)、戸籍の附票の場合(法第20条)、戸籍の附票の除票の場合(法第21条の3)に分けて、それぞれ、主体的要件(法第12条の3第1項各号等)非該当により拒否することとされている。また、このような解釈は、大阪高裁平成29年(行コ)第158号同30年1月26日判決・判時2375・2376号182頁も合理性を有するものと認めているところである。
 よって、大阪市として、国と異なる解釈を採るのでない限り、法務省要領と平仄を合わせるよう改善されたい。
 また、現状、市要領の「ア 加害者からの請求がなされた場合」(この部分も、厳密には、「請求(申出)」とするのが適切と思われる。)として、法第12条の3と法第20条の適示しかないが、上記のとおり、加害者からの請求・申出の条文は、本件の法第15条の4を含めて他にもあるので、法務省要領のように該当し得る条文を網羅するよう修正されたい。
(2) 市要領第7章‐8‐(7)‐②‐ア‐Cの記載について
 市要領の標記部分に、「加害者等から訴訟手続きで被害者の住民票の写し等交付請求があった場合は、裁判所において手続の教示を受けられることを説明した上で、具体的な手続については裁判所に相談するよう案内する。 裁判所から、訴訟の被告に関する民事訴訟法第151条若しくは第186条又は家事事件手続法第62条に基く、被告の住所に関する調査嘱託があればこれに回答する。」とあるが、住民票の写し等が必要な場面は、「強制執行」を目的とする本件がまさにそうであるように、訴訟手続きに限られるものではない。
 よって、平成30年通知②の記載のとおり、「訴訟を提起する場合等」、「被告等」のように、強制執行手続きのような訴訟手続きとは言い切れない手続きも含む表現とするよう改善されたい。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第2部会
 委員(部会長) 榊原和穂、委員 畠田健治、委員 海道俊明

答申書(令和3年度答申第21号)

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