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答申書(令和3年度答申第23号)

2023年2月17日

ページ番号:566168

諮問番号:令和3年度諮問第18号
答申番号:令和3年度答申第23号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求は棄却されるべきである。

第2 審査請求に至る経過
1 令和2年9月29日、審査請求人は、大阪市A区保健福祉センターへ審査請求人の子ども(〇歳児)(以下「申込児童」という。)の「子どものための教育・保育給付保育認定(変更)申請書兼保育施設・事業利用調整申込書」(以下「保育施設・事業利用調整申込書」という。)を提出した。(以下「本件申請」という。)
 本件申請では、第1希望をB、第2希望をC、第3希望をDとする旨の記載があった。
 大阪市A区保健福祉センターの担当者は、同日に面接を行った。
2 令和3年度保育施設等一斉利用申込1次調整の締切(令和2年10月15日)後に、大阪市A区保健福祉センター所長(以下「処分庁」という。)は、大阪市保育施設等の利用調整に関する事務取扱要綱(以下「利用調整要綱」という。)及び同利用調整要綱に定める利用調整要綱別表「保育利用調整基準」(以下「保育利用調整基準」という。)に基づき、利用申込者全員の希望施設・事業について利用調整を行った。
 利用調整の結果、申込児童については入所保留と決定(以下「本件処分」という。)し、令和3年1月6日付け「保育施設・事業利用調整結果通知書兼保育所入所保留通知書」(以下「本件保留通知書」という。)を同年1月25日に審査請求人に送付した。
 なお、本件保留通知書には、「先に申し込みのありました保育施設・事業の利用について、利用調整の結果、次の理由により利用ができませんので、通知します。」との記載とともに、「利用できない理由」として、「利用申込をされた保育施設・事業については、利用可能数を上回る申込みがあったため、保育利用調整基準に基づく利用調整を行った結果による。」との記載があった。
3 令和3年1月29日、審査請求人は、大阪市長(以下「審査庁」という。)に対し、本件処分の取消しを求める審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。

第3 審理関係人の主張の要旨
1  審査請求人の主張
 下記を理由に、本件処分の取消しを求めている。
(1) いかなる審査基準によって入所の承諾・保留の審査をしているのか明らかでない(行政手続法(平成5年法律第88号)第5条違反)。
(2) 申込児童についていかなる具体的理由で入所保留となったのか明らかでない(行政手続法第8条違反)。この点、3項の処分にかかる通知書には、抽象的な理由の記載しかない。
(3) 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第24条第3項にいう「やむを得ない事由」がないのに保留としている(児童福祉法第24条第1項本文違反)
(4) 申し込み児童は「保育に欠ける」児童であるのに入所保留となると、保育を受ける権利を侵害され、入所承諾された児童との間で不平等が生じる。また、異議申立人らも保育所を利用する権利を侵害され、就労が困難になるなどして困窮する。(憲法第13条、憲法第14条、憲法第25条及び児童福祉法第24条第1項本文違反)。
(5) 入所保留としているにもかかわらず、申込児童について「適切な保護」(児童福祉法第24条第1項但し書き)すらしようとしていない。(児童福祉法第24条第1項但し書き違反)
(6) 請求人の入所決定順位及び点数の公開を求める。
(7) 請求人の希望するBの入所点数順位の公開を求める。
(8) 自営業が何故減点なのか納得のいく説明を求める。
2  処分庁の主張
 弁明の趣旨は、「審査請求人の審査請求を棄却する」との裁決を求めるものであり、その理由は次のとおりである。
(1) 1(1)について
 児童福祉法第24条第3項及び附則第73条において、市町村は、保育所、認定こども園又は家庭的保育事業等(以下「保育所等」という。)の利用について調整を行うものと規定されており、児童福祉法施行規則(昭和23年厚生省令第11号)第24条において、保育施設等の利用調整を行う場合には、保育を受ける必要性の高い児童が優先的に利用できるよう調整するものとされているところ、利用調整要綱を制定し、保護者の保育を必要とする事由及び保育必要量をもとに保育の必要性を点数化したうえで保育の必要性の高い児童から優先的に利用できるように調整するものとしている。
(2) 1(2)について
 保育施設一斉利用申込の1次調整においては、約〇名に対し、保留通知を送付する必要があり、通知に記載している利用できない理由「利用申込された保育施設・事業については、利用可能数を上回る申し込みがあったため、保育利用調整基準に基づく利用調整を行った結果による。」をそれぞれの状況に応じて記載するとなると、結果通知が遅れてその後の利用調整(2次調整)ができなくなり、かえって保育の確保に欠くこととなる。そこで、理由の概略のみを記載し、問い合わせをいただいた場合に理由の詳細を説明することとすることで、速やかに通知を行い、次の利用調整を行う現状の対応が妥当と考えている。
(3)1(3)について
 本件処分は、B、C、Dのいずれも利用可能数を上回る申込みがあり「保育利用調整基準」に基づく利用調整の結果、やむをえず希望する保育施設等を4月1日から利用することができないとする旨の決定を行ったものである。
(4)1(4)について
 本件処分は、保育施設等における保育を不承諾としたものではなく、児童福祉法第24条第3項及び利用調整要に基づいて利用調整を行った結果、当初希望どおりの保育施設等の利用はできないとするものであり、申込のあった児童の受入れをできる保育施設等の利用枠の確保はなされ、利用調整も続けていることから、適法であると考えている。また、本件処分後の保育の確保にかかる対応もなされているものと考えている。
(5) 1(5)について
 本件処分の通知を行うにあたっては、4月1日から空きのあるA区内の保育施設等の一覧を添付し、さらに大阪市のウェブサイト上に利用枠に空きのある大阪市内の保育施設等の情報を掲載したうえで、2月12日までにこれらの施設を希望すれば処分庁は再度利用調整(2次調整)を行うようにしており、さらにその後も毎月同様の情報提供及び利用調整を行うようにしている。
(6)1(6)、1(7)、及び1(8)について
 審査請求人の世帯については、提出された証明書類をもとに下記枠内の内容で〇点とした。(1)基本点数は、保育の必要性の事由、例えば就労なら、労働日数や時間とそれに見合う収入があるかに基づき設定している。(2)調整指数の就労状況で、家庭内での終了や雇用主が保護者の配偶者又は三親等以内の親族であり、かつ扶養控除等の対象となっている場合等は減点となる場合があるが、本件審査請求人が主張する自営業という理由での減点はない。
(1)基本点数
父:〇点(〇〇〇〇。)
母:〇点(〇〇〇〇。)
(2)調整指数
〇点(〇〇〇〇) 
※〇〇〇〇の〇〇
(3)合算点数 〇点
 審査請求人が第1希望としたBは〇歳児の利用可能数が〇名のところ、同園を希望した〇歳児の利用申し込みが〇名あり、審査請求人の世帯より点数が高かった〇世帯のうち〇点以上の〇名を入所決定とした。
 審査請求人が第2希望としたCは〇歳児の利用可能数が〇名のところ、同園を希望した〇歳児の利用申し込みが〇名あり、そのうち利用調整要綱第7条の2の保育士の児童の優先の規定により〇名を入所決定としたうえで、その他審査請求人の世帯より点数が高かった〇世帯のうち〇点以上の〇名を入所決定とした。
 審査請求人が第3希望としたDは〇歳児の利用可能数が〇名のところ、同園を希望した3歳児の利用申し込みが〇名あり、審査請求人の世帯より点数が高かった〇世帯のうち〇点以上の〇名を入所決定とした。

第4  審理員意見書の要旨
1 結論
 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
2  理由
(1) いかなる審査基準によって保育施設等の利用可否の審査をしているかが明らかにされているかどうかという点について
 保育施設等の利用調整については、児童福祉法第24 条第3項及び附則第73条において、市町村は、保育所、認定こども園又は家庭的保育事業等(以下「保育所等」という。)の利用について調整を行うものと規定されており、児童福祉法施行規則第24条において、保育施設等の利用調整を行う場合には、保育の必要性の程度及び家族等の状況を勘案し、保育を受ける必要性の高い児童が優先的に利用できるよう調整するものとされている。
 これら規定に基づく利用調整の判断にあたっては、行政手続法第5条の規定により審査基準を定めてこれを適当な方法により公にする必要があるところ、利用調整要綱第4条及び別表において、保護者の保育を必要とする事由及び保育必要量をもとに保育の必要性を点数化したうえで保育の必要性の高い児童から優先的に利用できるように保育所等の利用調整にかかる審査基準を定めている。
 また、この基準は、保育施設・事業利用調整申込書とともに配布している冊子「令和3年度保育施設・保育事業利用の案内」に掲載されているほか、大阪市ホームページにも掲載され、適切な方法により公にされていることから、違法又は不当とは言えない。
(2)いかなる具体的理由で保育の利用が不可となったかが明らかにされているかどうかという点について
 行政手続法第8条における申請により求められた許認可等を拒否する処分の理由の提示の程度については、いかなる事実に基づき、いかなる法令及び審査基準により申請が拒否されたかを、申請者が読み取れるものでなければならないと解される。
 本件処分においては、保育施設・事業利用調整申込書とともに配付されている「令和3年度保育施設・保育事業利用の案内」において利用調整要綱に基づいて利用調整をする旨及び利用調整要綱別表に定める保育利用調整基準が掲載されており、保育利用調整基準には、「『(1)基本点数表』により、世帯の保育の必要性に応じ基本点数を設定する。また、『(2)調整指数表』により、該当する内容に応じて加点・減点を行い、基本点数及び調整指数の合計点数の高い世帯から利用が可能となる。同一点数で並んだ場合は、『(3)順位表』に規定する順位により、優先順位を決定する。」とされ、各々の表においてその内容が詳細に規定されている。
 そのなかで、処分庁が審査請求人に対し「利用申し込みをされた保育施設・事業については、利用可能数を上回る申し込みがあったため、保育利用調整基準に基づく利用調整結果を行った結果による。」とする理由を示した本件処分にかかる通知書を交付しており、これをもって、いかなる事実に基づき、いかなる審査基準により申請が拒否されたかは十分に読み取ることができる。
 一方で、本件処分の理由をさらに具体的に記載するとなると、その性質上、他の児童や保護者の状況等のプライバシーに関する具体的事情との比較が問題とならざるを得ず、同一の保育所等を希望する他の利用希望者が相当に近くに居住する者が多いことに照らして、更にその具体的事情まで踏み込んで本件通知書に記載することは、処分庁としては困難を伴うものというべきであり、一定の抽象化した内容となることはやむを得ないものと解される。
 以上のことから、違法又は不当とは言えない。
(3)児童福祉法第24条第3項に規定する「やむを得ない事由」があるかどうかという点について
 児童福祉法第24条第3項の規定中に「やむを得ない事由」という規定はないが、本件処分が同項に違反するかどうかを検討する。
 児童福祉法附則第73条において読み替えられた同法第24条第3項において、市町村は、保育所、認定こども園又は家庭的保育事業等(以下「保育所等」という。)の利用について調整を行うものと規定されていることは(1)で述べたとおりである。弁明書によると、処分庁は、「第2 審理関係人の主張の要旨」「2 処分庁の主張」「1(2)(3)について」のとおり、この利用調整の具体的な基準を定める児童福祉法施行規則(審理員意見書では「細則」となっているが、誤記と思われる。)第24条及び利用調整要綱に基づいて適正に利用調整を行った結果、利用保留と決定するに至っており、審査請求人においてこれを覆す主張もなされていないことからすると、本件処分は、児童福祉法第24条第3項に反するものとは言えない。
(4)審査請求人の児童が保育に欠けるにもかかわらず利用保留となることが、保育を受ける権利の侵害(児童福祉法第24条第1項)や法の下の平等(憲法第14条)に欠くものとなるかどうかという点について
 児童福祉法第24条第1項及び第2項においては、市町村は、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、認定こども園又は家庭的保育事業等により必要な保育を確保するための措置を講じるほか、当該児童を保育所において保育しなければならない旨が規定されている。その一方で、児童福祉法第24条第3項において、市町村は、保育の需要に応ずるに足りる保育所等が不足し、又は不足するおそれがある場合その他必要と認められる場合には、保育所等の利用について調整を行うものとする規定がなされており、同項の規定は、希望する保育所等の利用可能数を上回る利用申込みがあった場合に、利用調整の結果として保育の必要性がありながら保育所等の利用が認められない児童が生じることを想定して置かれたものと解され、児童福祉法第24条第1項の規定が、このような場合も含めて希望どおりの保育所等の利用の権利を保障したものではないと解される。
 本件処分は、児童福祉法附則第73条によって読み替えられた同法第24条第3項の規定に基づいて適正に利用調整した結果、利用保留に至ったものであり、児童福祉法第24条第1項に反するものとは言えない。
 なお、審査請求人は、保育に欠ける児童が利用保留となると、利用承諾された児童との間で不平等が生じ日本国憲法第14条違反となることを主張しているが、憲法第14条第1項は、合理的理由のない差別を禁止するものであり、児童福祉法及び児童福祉法施行規則において保育の必要性が高いと認められる児童から優先的に利用できるように利用調整を行うことと規定している以上は、これら規定に基づく利用調整の結果として利用承諾された児童と利用保留となる児童が生じたとしても、法令に基づく合理的な差に過ぎないことから、これをもって憲法第14条に反するとは言えない。
(5)利用保留となった審査請求人の児童に児童福祉法第24条第1項但し書きに規定する「適切な保護」をしておらず違法であると言えるかどうか。
 現行の児童福祉法第24条第1項但し書きには「適切な保護」との規定はなく、本件処分が、同項に違反するものでないことは(4)で述べたとおりである。
 なお、処分庁は、本件処分にかかる通知を行うにあたって、本件処分を含む令和3年4月からの利用にかかる利用調整(1次調整)を経て、なお令和3年4月からの利用枠に空きが残っているA区内の保育施設等の一覧を同封したうえで、2月12日までにこれら利用枠に空きが残っている保育施設等を希望した場合は再度利用調整(2次調整)を行うこととしており、その後も毎月空き枠の情報提供及び利用調整を行うようにしており、保育の確保にかかる対応をしていると言える。
(6)自営業を減点の対象とすることの妥当性
 利用調整要綱別表に定める保育利用調整基準には自営業を減点する規定は設けられておらず、自営業であることを理由に減点はされていない。

第5  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  令和3年12月13日 諮問書の受理
  令和4年1月13日 審査庁からの主張書面の収受
  令和4年1月24日 調査審議
  令和4年2月22日 審査庁からの主張書面の収受
  令和4年2月28日 調査審議
  令和4年3月18日 調査審議

第6  審査会の判断
1 本件に係る法令等の規定について
(1) 児童福祉法及び児童福祉法施行規則
ア 児童福祉法第24条第1項において、「市町村は、この法律及び子ども・子育て支援法の定めるところにより、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、次項に定めるところによるほか、当該児童を保育所(認定こども園法第3条第1項の認定を受けたもの及び同条第11項の規定による公示がされたものを除く。)において保育しなければならない。」と規定されている。
イ 児童福祉法第24条第2項において、「市町村は、前項に規定する児童に対し、認定こども園法第2条第6項に規定する認定こども園(子ども・子育て支援法第27条第1項の確認を受けたものに限る。)又は家庭的保育事業等(家庭的保育事業、小規模保育事業、居宅訪問型保育事業又は事業所内保育事業をいう。以下同じ。)により必要な保育を確保するための措置を講じなければならない。」と規定されている。
ウ 児童福祉法第24条第3項において、「市町村は、保育の需要に応ずるに足りる保育所、認定こども園(子ども・子育て支援法第27条第1項の確認を受けたものに限る。以下この項及び第46条の2第2項において同じ。)又は家庭的保育事業等が不足し、又は不足するおそれがある場合その他必要と認められる場合には、保育所、認定こども園(保育所であるものを含む。)又は家庭的保育事業等の利用について調整を行うとともに、認定こども園の設置者又は家庭的保育事業等を行う者に対し、前項に規定する児童の利用の要請を行うものとする。」と規定され、同法附則第73条第1項の規定により「市町村は、保育所、認定こども園(子ども・子育て支援法第27条第1項の確認を受けたものに限る。以下この項及び第46条の2第2項において同じ。)又は家庭的保育事業等の利用について調整を行うとともに、認定こども園の設置者又は家庭的保育事業等を行う者に対し、前項に規定する児童の利用の要請を行うものとする。」と読み替えられる。
エ 児童福祉法施行規則第24条において、「市町村は、法第24条第3項の規定に基づき、保育所、認定こども園(子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号)第27条第1項の規定による確認を受けたものに限る。)又は家庭的保育事業等の利用について調整を行う場合(法第73条第1項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)には、保育の必要の程度及び家族等の状況を勘案し、保育を受ける必要性が高いと認められる児童が優先的に利用できるよう、調整するものとする。」と規定されている。
(2) 利用調整要綱、保育利用調整基準
ア 児童福祉法附則第73条によって読み替えられた同法第24条第3項の利用調整についての大阪市の審査基準を定めるため、利用調整要綱を制定しており、同要綱第4条において、「保健福祉センター所長は、利用調整を行うにあたっては、利用調整会議を開催し、別表「保育利用調整基準」に基づき保育の必要性の高い児童から順に利用調整を行うものとする」と規定されている。
イ 保育利用調整基準において、「利用調整にあたっては、『(1)基本点数表』により、世帯の保育の必要性に応じ基本点数を設定する。また、『(2)調整指数表』により、該当する内容に応じて加点・減点を行い、基本点数及び調整指数の合算点数の高い世帯から利用が可能となる。同一点数で並んだ場合は、『(3)順位表』に規定する順位により、優先順位を決定する。」と規定されている。
(3) 行政手続法
ア 行政手続法第5条第1項において、「行政庁は、審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)を定めるもの」と規定され、同条第3項において、「行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。」と規定され、同条第2項において、「行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。」と規定されている。
イ 行政手続法第8条第1項において、「行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。」と規定されている。
2 争点等について
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は次のとおりである。
(1) 本件処分の審査基準は、行政手続法第5条の規定に反するか否か(争点1)
(2) 本件保留通知書に記載された処分理由が、行政手続法第8条第1項の規定に反するか否か(争点2)
3 争点等に係る審査会の判断について
(1) 争点1について
 審査請求人は、審査請求書において、「いかなる審査基準によって入所の承諾・保留の審査をしているのか明らかでない(行政手続法第5条違反)」と主張している。
 行政手続法第5条第1項は、行政庁は、審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準)を定めること、同条第2項は、当該審査基準は、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならないこと、同条第3項は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされる機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならないことを定めているところ、本件処分の審査基準において同条違反があるか否かを検討する。
ア 審査基準の定め
 処分庁は、児童福祉法附則第73条第1項の規定により読み替えて適用する同法第24条第3項の規定に基づく利用調整に係る審査基準として、利用調整要綱を定めている。
イ 審査基準の具体性
 審査基準に求められる具体性の程度は、覊束性の強い処分にあっては、一義的な判断が可能な程度までできる限り具体化されることが望ましいが、一方で、行政庁に広範な裁量が認められている許認可等については、法が行政庁に個々の案件に応じた適切な判断を期待して裁量を与えた趣旨からすれば、審査基準が行政手続法第5条第2項の規定に照らし具体的であるかについては、当該許認可等の性質に照らして、これを判断するのが相当と解される。
 そして、児童の保育を受ける必要性の高さを判断するという利用調整の性質に照らせば、本件処分に係る審査基準として定められている利用調整要綱によって、保育所について利用可能数を上回る申込みがある場合に考慮される世帯の状況の優先順位を客観的指標によって示すことができるのであれば、利用調整要綱は本件処分の審査基準として、同項の規定に適うものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、まず、利用調整要綱第4条において、保健福祉センター所長は、利用調整を行うにあたっては、利用調整会議を開催し、保育利用調整基準に基づき保育の必要性の高い児童から順に利用調整を行うものとするとされている。
 次に、利用調整要綱の別表において保育利用調整基準を定めているところ、当該保育利用調整基準は「利用調整は、本表に基づき行うものとする。」とし、利用調整にあたっては、まず、各世帯の保護者の保育の必要とする事由及び保育必要量をもとに保育の必要性に応じ基本点数を設定している『(1)基本点数表』、該当する内容に応じて加点・減点を設定する『(2)調整指数表』にあてはめ、該当する内容に応じて加点・減点を行い、基本点数及び調整指数の合算点数の高い世帯から利用が可能となるとし、同一点数で並んだ場合には、同一点数で並んだ場合の順位を設定する『(3)順位表』により、優先順位を決定し、利用調整の申込に係る児童について利用調整順位を判断する旨定めている。そして、この「(1)基本点数表」、「(2)調整指数表」及び「(3)順位表」は、申請者が提出する保育施設・事業利用調整申込書およびその添付書類の記載に基づき、画一的に当てはめて、当該申し込みに係る児童の基本点数及び調整指数等を客観的指標によって示すことが可能と言える基準であるから十分具体的であると言える。
ウ 審査基準の公表
 審査基準の公表は、申請しようとする者あるいは申請者に対して、審査基準を秘密にしないという趣旨であると解するのが相当であるところ、審査基準たる利用調整要綱の内容は、保育施設・事業利用調整申込書とともに配布している冊子(本件においては「令和3年度保育施設・保育事業利用の案内」)に掲載されているほか、大阪市ホームページにも掲載され、ホームページ上での閲覧も可能となっており、審査基準は適当な方法により公表されていると言える。
 以上から、本件処分の審査基準において、行政手続法第5条の規定に反する点は認められない。
(2) 争点2について
 審査請求人は、審査請求書において、「申込児童についていかなる具体的理由で入所保留となったのか明らかでない(行政手続法第8条違反)。この点、3項の処分にかかる通知書には、抽象的な理由の記載しかない。」旨主張する。
 当該処分理由の記載について、以下、行政手続法第8条第1項の規定に反しないかを検討する。
 そこで、行政手続法第8条の解釈及び保育所入所保留処分における理由の記載の程度を検討する必要があるところ、この点の判断については、大阪市行政不服審査会平成29年度答申第12号「第5 審査会の判断」における「3 争点に対する判断」と同旨であり、次のとおりである。
 行政手続法第8条の規定は、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されることから、一般論として、理由の記載は、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して申請が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に拒否の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知りうるような場合を別として、理由付記として十分でないと言うことになる(最高裁昭和57年(行ツ)第70号同60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁参照)。
 また、「一般に、法律が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである。」(最高裁昭和36年(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁)とされている。
 しかし、保育所入所保留処分における処分理由をより具体的に記載するとなると、保育施設等の利用調整の性質上、他の児童の具体的な養育状況、各家庭における保護者の勤務状況等のプライバシーにわたる具体的な事情との比較が問題とならざるを得ず、更に各申込者が相当に近くに居住する者であると推測されることに照らしても、具体的な事情まで踏み込んで保留通知書に記載することは、処分庁としては困難を伴うと言うべきである(大阪高裁平成25年(ネ)第516号同年7月11日判決・月刊「保育情報」No.453・75頁)。そうすると、他の申請者との関係で処分結果が決まる保育所入所保留処分の場合には、その理由の程度は抽象的にならざるを得ないと言える。
 さらに、保育施設等の利用調整の際に考慮される世帯の状況の事由については、保育利用調整基準の「(1)基本点数表」中の「1.就労」のようにその認定に係る裁量が狭い事由と、「13.その他」のように保健福祉センター所長が専門的知見によって児童の要保護性を判断するようにその認定に係る裁量が広い事由とが混在しており、この点を踏まえると、利用調整基準上の合計点数等を保留通知書に記載することは処分庁としては困難を伴うため、その方法を採用しないことが明らかに不合理であるとは言えない。
 この点、保育施設等の利用調整に係る審査基準は公表されているため、これを用いて自らの世帯の合計点数を一定程度算定することは可能であるから、合計点数を知ることができないことが、被処分者にとって不服申立てを行う上での大きな支障となるとは言い難く、また、他の申込者との競合の結果により入所保留となったということがわかれば、不服申立てを行うか否か判断することは可能である。
 よって、「利用申込をされた保育施設・事業については、利用可能数を上回る申込みがあったため、保育利用調整基準に基づく利用調整を行った結果による。」との記載がなされていれば、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して申請が拒否されたかを、その記載自体から了知しうるものであると認めるのが相当であるから、本件保留通知書の処分理由の記載については、法の要請する理由付記の程度の最低限の要請は充たしていると言え、行政手続法第8条第1項の規定に照らして違法とまでは言えない。
 以上から、本件処分に、行政手続法第8条第1項の理由付記の違法はない。
 (3) また、審査請求人は、上記争点1及び争点2以外にも、審査請求書において「申込児童は「保育に欠ける」児童であるのに入所保留となると、保育を受ける権利を侵害され、入所承諾された児童との間で不平等が生じる。また異議申立人らも保育所を利用する権利を侵害され、就労が困難になるなどして困窮する。(憲法第13条、憲法第14条、憲法第25条及び児童福祉法第24条第1項本文違反)」旨主張しているが、本件処分が憲法に反するかどうかの判断は審査庁の権限外であり、ゆえに当審査会の調査審議の対象にはならない。行政不服審査法による審査請求については、審査庁は、当該審査請求に係る処分が法令の規定に従った適法かつ妥当なものであるかを審理判断するものである点を踏まえ審査請求人の主張について検討する。
 この点、児童福祉法第24条第1項、同第2項及び第3項の規定によれば、同法は、市町村が保育所の利用について定員を上回る需要がある場合には、保育の必要性を基準に利用調整を行い、その結果として保育の必要性がありながら保育所への入所が認められない児童が生じ得る事態を想定しているものと解するのが相当であるから(東京高裁平成28年(ネ)第4173号同29年1月25日判決・賃金と社会保障1678号64頁参照)、利用調整の結果として、入所が承諾された児童と入所保留となった児童が生じ、さらに両者の間に事実上の差が生じたとしても、その結果だけをもって直ちに不合理とまでは言えず、不平等であるとも言えない。また、保育利用ができなかったことと就労が困難になり影響を被ることには、事実上一定程度の因果関係があるとしても、本件処分による間接的な影響であり、法律上の因果関係は認められず、また、法令の適正、公平な適用から派生する結果であるから、直ちに不合理なものと言うこともできず、本件処分の違法性及び不当性の判断を左右するものとは言い難い。
 さらに、上記以外にも、「児童福祉法第24条第3項にいう「やむを得ない事由」がないのに保留としている(児童福祉法第24条第1項本文違反)」や「入所保留としているにもかかわらず、申込児童について「適切な保護」(児童福祉法第24条第1項但し書き)すらしようとしていない(児童福祉法第24条第1項但し書き違反)」等と主張するが、いずれも現行の児童福祉法の改正前の旧規定を言うものであり、少なくとも、本件処分に係る適法性・妥当性に係る主張として受け入れられないものである。
(4) なお、審査請求人から処分庁に提出された保育施設・事業利用調整申込書及び添付資料に従い、審査請求人の世帯の状況を利用調整基準に当てはめると、審査請求人の世帯については基本点数〇点、調整指数〇点であり、基本点数と調整指数の合算点数は〇点である。
 そして、処分庁の弁明書によると、審査請求人が第1希望としていたB、第2希望としていたC、第3希望としていたDのいずれについても、入所内定した世帯の児童のうち最も順位の低い者の基本点数及び調整指数の合算点数は、審査請求人の世帯についての基本点数及び調整指数の合算点数の〇点より高いものである。
 したがって、申込児童につき入所内定に至らなかったとする判断について不合理な点は見受けられない。
 加えて、審査請求人は、審査請求書において、「自営業がなぜ減点なのか納得のいく説明を求める」旨主張するが、利用調整基準をみるに、自営業であることのみをもって減点する規定は設けられておらず、自営業を理由に減点をしたとする事実は確認できなかった。
(5) 以上により、本件処分について、違法又は不当な点は認められない。
4 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 結論
 よって、本件審査請求に理由はないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。
6 付言
 本件保留通知書の処分理由の記載について、審査庁は、「利用申込をされた保育施設・事業については、利用可能数を上回る申込みがあったため、保育利用調整基準に基づく利用調整を行った結果による」との記載によって、被処分者において処分理由を了知するものとしているが、保育施設・事業利用調整の結果である保育所入所保留処分が申込をした児童及びその保護者に与える影響の大きさに鑑み、保育所入所保留処分における被処分者に対する処分理由の伝え方については、以下の項目に関する点を踏まえつつ、一層改善の検討を進めていくことが望ましいと思料する。
(1) 利用申込者自身の基本点数及び調整指数
 利用申込者自身の基本点数及び調整指数は、利用調整基準に従い保育所等利用申込者の児童ごとに個別に算定されるものであるが、利用調整基準は公表されており、利用申込者は自身の世帯の状況等を利用調整基準に画一的に当てはめることで当該児童の基本点数及び調整指数を確認できるものである。
 処分理由の提示の趣旨の一つが、処分理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与えることであることを踏まえると、これらの事項を明示しないと、利用申込者の認識とは異なる基本点数及び調整指数が算定されていた場合に不服申立の機会を奪われ得ることになり、その趣旨に反するほか、仮に算定された基本点数及び調整指数に誤りがあった場合、その状態が放置され、利用調整が適切に行われないこととなるおそれがある。そのため、これらの事項については、一般的には、保留通知書に明記する等、適当な方法により処分と同時に利用申込者に明示することが望ましいと思われる。一律的に形式的にその明記が困難である場合には、少なくとも保留通知書に「個別の基本点数等についての詳細はお問い合わせください」などの記載をすることも適当な方法として考え得るものである。
(2) 申込みをした保育所等ごとの募集人数、申込者数及び内定者数
 理由提示の程度については、いかなる事実関係に基づきいかなる審査基準を適用して当該処分がされたのかが、その記載自体から了知しうるものでなければならないと解されることに鑑みれば、申込みをした保育所等ごとの募集人数、申込者数及び内定者数は、処分の前提となる事実関係であることから、本来、処分理由として明示することが望ましいと思われるが、これらの事項は、申込みをした多数の保育所等ごとに異なるため、保育所等利用調整のように一時に大量の処分を行わなければならない場合、利用保留となった全ての申込者に対し、申込みに係る全ての保育所等について個別に記載することは、事務処理上相当な困難を伴うものと考えられる。
 そのため、これらの事項は、例えば、処分庁のホームページで公表した上で、保留通知書にその旨を記載する等の方法により示すことも考え得るものである。
(3) 申込みをした保育所等ごとの利用申込者自身の児童の順位並びに入所内定した世帯の児童のうち最も順位の低い者の基本点数及び調整指数の合算点数
 申込みをした保育所等ごとの利用申込者自身の子どもの順位並びに入所内定した世帯の児童のうち最も順位の低い者の基本点数及び調整指数の合算点数は、利用調整の結果、保育所等の利用保留とされた場合に、どのような事由によってその保育所等に入所する児童が決定されたか、また、その保育所等の利用調整の中で利用申込者自身の児童の位置を把握できるという点で、いかなる事実関係により処分がされたかを知るために有益な情報であると言える。
 これらの事項を処分理由として明示した場合、保育所等の利用調整の性質上、他の申込者の児童の具体的な養育状況、各家庭における保護者の勤務状況等のプライバシーに係る事項が推認される場合もあり得るため、具体的な事情まで踏み込んで保留通知書に記載することは、困難を伴うものであり、処分理由として一律に記載することには問題があるものの、プライバシーや個人情報への配慮を前提としつつ、提供内容や提供方法の工夫について検討をすることが望ましい。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第1部会
 委員(部会長) 井上武史、委員 北川豊、委員 常谷麻子

答申書(令和3年度答申第23号)

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