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答申書(令和4年度答申第4号)

2023年2月17日

ページ番号:588568

諮問番号:令和3年度諮問第23号
答申番号:令和4年度答申第4号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求は棄却されるべきである。

第2 審査請求に至る経過
1 令和2年9月23日、審査請求人は、大阪市A区保健福祉センターにおいて、大阪市療育手帳交付規則(平成23年規則第106号。以下「規則」という。)第8条第1項に基づく療育手帳(以下「手帳」という。)の更新交付申請を大阪市長(以下「処分庁」という。)宛てに行った。
 同日、処分庁担当者は、大阪市A区保健福祉センターにて面談を実施した。
2 令和2年11月16日、処分庁は、知的障がいの程度の判定機関である大阪市心身障がい者リハビリテーションセンター(以下「リハビリテーションセンター」という。)において、発達検査実施・行動観察及び発育歴と現況の聴取を行い、大阪市療育手帳交付要綱(以下「要綱」という。)等に基づき判定手続きを行った。その結果、審査請求人(判定時a歳bか月)については、発達指数は71であり、社会生活上又は行動・医療保健面であまり介助を要しない者であったことから、軽度の知的障がいと判定した。
 当該判定を踏まえ、令和2年12月9日、処分庁は、障がい程度をB2として、手帳の交付(以下「本件処分」という。)を行った。
3 令和3年1月19日、審査請求人は、大阪市長(以下「審査庁」という。)に対し、本件処分の取消しを求める審査請求を提起した。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1  審査請求人の主張
 審査請求の趣旨は、本件処分を取り消すとの裁決を求めるものである。
 審査請求人の主張の理由の要旨は、以下のとおり。
 本人の言っていることをそのまま聞き入れて審査・判定したのではないか。本人は、発言力はあっても、発言したとおりの理解力は伴わず、親の言っていることも聞いてほしかった。
 また、本人ができると思いこんでいても、実際にはできないことも多く、全く違うことをしたり、普通では考えられないことをしたりする。短時間で本人の何を見て、何をわかったうえで、このような判定になったのか。
 検査の日、何らかのテスト(問題)があり、できていたかもしれないが、生活する中で、B2になり、不備なことにならないのか。本人は、現在、生活介護の作業所に通っており、生活介護の作業所が精一杯で、就労A・Bの作業所での活動はとてもではないが難しい状態である。
 今回、部分的にできていることがあるかもしれない。総合すればB2に判定されたと思うが、本人の理解力や行動はそれ以下である。今回の判定をB2でなくB1に見直すことを求める。
2  処分庁の主張
 処分庁の弁明の趣旨は、本件処分に違法又は不当な点はないことから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求めるものである。
 処分庁の弁明の理由の要旨は、以下のとおり。
 今回の手帳の更新交付申請に当たって、リハビリテーションセンターにおいて発達検査(新版K式発達検査2001)を実施したところ、検査結果は、発達指数71(発達年齢c歳dか月)であったため、知能の障がい程度を「軽度」と判定された。
 社会生活を営む能力(社会生活能力)の評価については、(中略)「中度域」にあるものと判断した。
 発揮できる能力に偏りがあったとしても、発達検査(新版K式発達検査2001)の結果は発達指数71(発達年齢c歳dヵ月)の軽度域であり、社会の考えや現実場面に即して習得した知識や経験を活用できる力を有していることとも、ほぼ相応するものであるが、社会生活能力については、総合的な評価として、「中度」が妥当であると判断した。
 また、「あまり介助・介護を要しない者」とする判定については、母からの聴き取りでは、本人に興奮や破衣があることの申し出があったが、それは「ストレスがかかった際に、ペンなどでシャツに穴をあけて、裂くまで続ける」という状態像であり、そのような行動が出現する場所や頻度は限定的なものであった。
 従って、母の主張は、「激しい器物破損(ガラス、家具、ドア、椅子、眼鏡などをこわし、着ている服を破ってしまう)」の程度において、「生活環境に対する極めて特異な不適応行動を頻回に示し、日常の生活に困難を生じている場合」に相当するものではないことから、行動・医療保健面等において、あまり介助・介護を要しない者と判定した。
 処分庁は、これらのことから、審査請求人からの申請について、リハビリテーションセンターにおける判定結果に基づき、当該療育手帳の等級についてB2との決定を行ったものであり、本件処分に違法又は不当な点は認められない。
3  審理員意見書の結論
 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4  審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 手帳制度は、厚生省通知「療育手帳制度について」(昭和48年9月27日発156号厚生事務次官通知。以下「通達①」という。)により定められた療育手帳制度要綱に沿って自治事務として実施されている。手帳交付対象者は、児童相談所又は知的障害者更生相談所において知的障がいであると判定された者となっており、実施主体は都道府県知事(指定都市にあっては、市長)となっている。
 大阪市においては、手帳事務の実施に当たり、規則及び要綱を制定しており、規則第6条及び要綱第3条別表において知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号)第11条第1項第2号ハの判定の基準が規定されている。
 規則第2条で手帳の交付対象者及び判定機関が、同第7条で手帳の交付に関する事項が、同第8条で手帳の更新に関する事項がそれぞれ規定されている。
イ 要綱別表に定められる判定の基準は、「標準化された知能検査で測定された指数」及び「社会生活を営む能力又は行動・医療保健面で介助・介護を要する程度」の観点から定められている。
(2) 判定基準について
 手帳制度については、規則に基づいて実施しており、18歳以上の対象者については、規則第2条第1項において、居住区を管轄するリハビリテーションセンターを判定機関としている。また、判定基準については、規則第6条第1項において「市長が別に定める基準」によると定められ、障がいの程度に応じて、重度である場合がA、中度である場合がB1、軽度である場合がB2と判定される。なお、「市長が別に定める基準」は、要綱別表において定められている。
 障がいの程度が軽度であるB2の判定基準は、「知能の障がいの程度が軽度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね51以上75以下に該当)であって、かつ社会生活を営む能力の障がい程度が軽度又は中度であって、行動・医療保健面等において、あまり介助・介護を要しない者。若しくは、知能の障がいの程度が中度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね36以上50以下に該当)であって、かつ社会生活を営む能力の障がい程度が軽度であって、行動・医療保健面において、あまり介助・介護を要しない者。」とされている。また、障がいの程度が中度であるB1の判定基準は、「知能の障がいの程度が中度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね36以上50以下に該当)であって、社会生活を営む能力の障がい程度が中度又は重度であって、行動・医療保健面等において、あまり介助・介護を要しない者。若しくは、知能の障がいの程度が軽度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね51以上75以下に該当)であって、かつ社会生活を営む能力の障がい程度が中度又は重度であって、行動・医療保健面等において相応の介助・介護を要する者。」とされている。
(3) 今回の判定について
ア 知能の検査法及び測定結果について
 令和2年11月16日にリハビリテーションセンターにおいて実施した知能の検査手法である「新版K式発達検査2001」は相談機関や医療機関で、特に児童の知的能力のアセスメントに用いられる代表的な検査法である。
 ①0歳児から成人にいたるまで適用可能である、②人の発達を「姿勢・運動」、「認知・適応」・「言語・社会」の3つの力に分類し測定できる、という特徴がある。
 とりわけ、適応力及び言語を中心としたコミュニケーション能力との差や偏りについても把握することができることから、発達障がいを重複する知的障がい者の支援を検討・助言する際にも有効とされ、全国の知的障害者更生相談所での判定に用いられている。
 このように標準化された発達検査を用いることで、公平かつ一貫した適正な評価ができると考えることから、大阪市の療育手帳判定では成人に「新版K式発達検査2001」が用いられる。
 今回、実施した検査についても、「新版K式発達検査2001」の検査技法に則り、適切に実施したところ、これによる検査結果は発達指数71(発達年齢c歳dヵ月)であったため、知能の障がい程度を「軽度」と判断した。
イ 社会生活を営む能力(社会生活能力)の評価について
 社会生活能力は、 (中略)についてそれぞれ評価を行い、総合的に軽度、中度、重度、最重度の4段階に区分している。社会生活能力の評価については、被評価者に日常的に接し、その状態をよく理解している親族や支援者により、客観的に評価してもらうことを基本としている。
 本件において、母による本人の評価によれば、「検査はできるけど、本人は生活のことは何もできない。」「出先では見知らぬ人に危害を加える可能性があるので、単独での外出はさせていない。」「身の回りのことも、気持ちが不安定な時は何一つできない。」「金銭管理なども不可である。」など、調査項目のほとんどにおいて「いいえ」(できない)との回答であった。これは、社会生活能力としては重度域から最重度域に相応するものであった。
 一方、本人による自己評価では、「洗濯を自力で行っている。」「外出や調理なども自力でできる。」「PCなどの操作が可能である。」など、「はい」(できる)との回答であった。社会生活能力としては、軽度域に相応するものであった。
 母と本人の評価において齟齬が生じたことから、本人の日常生活上の行動について具体的かつ客観的に評価できるよう、本人の同席の下で母と本人へ聴き取りを行った。母はこれまでの評価どおり、「本人は、自分がどれだけできるのか全く分かっていない。」「できないことでも、質問をすると『できる』と返事してしまう。」「言葉の意味も実際には分かっていない。」という旨の主張であった。そのなかで、本人もまた自己評価を変更することもあったことから、上記の母の主張を踏まえつつ、本人の自己評価について再度検討を行った。
 結果、社会生活能力は、(中略)にあると評価した。
 また、(中略)。それらを総合的に評価し、社会生活能力を「中度域」にあるものと判断した。
 発揮できる能力に偏りがあったとしても、発達検査(新版K式発達検査2001)の結果は発達指数71(発達年齢c歳dヵ月)の軽度域であり、社会の考えや現実場面に即しつつ、習得した知識や経験を活用できる力を有していることとも、ほぼ相応するものであるが、社会生活能力については、総合的な評価として、「中度」が妥当であると判断した。
ウ 行動・医療保健面において、あまり介助・介護を要しない者とする判定について
 「行動・医療保健面等において相応の介助・介護を要する者」と判定されるのは、(中略)がある場合に限られる。
 母からの聴き取りでは、本人に興奮や破衣があることの申し出があった。しかし、それは「ストレスがかかった際に、ペンなどでシャツに穴をあけて、裂くまで続ける」という状態像であり、そのような行動が出現する場所や頻度は限定的なものであった。
 従って、母の主張は、(中略)に相当するものではないことから、行動・医療保健面等において、あまり介助・介護を要しない者と判定した。
 これらを踏まえ、リハビリテーションセンターで療育手帳の更新判定をした結果、知能の障がいの程度が「軽度」であって、かつ社会生活を営む能力の障がい程度が「中度」であって、行動・医療保健面等において、「あまり介助・介護を要しない者」であったことから、療育手帳の障がい程度を「軽度(B2)」と判定した。
 処分庁は、当該判定結果に基づき、障がいの程度をB2とする手帳の交付決定をしたものであり、かかる処分庁の判断に、違法、不当な点は認められない。
(4) 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 本件処分に関し、他に違法又は不当な点は認められない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  令和4年3月1日 諮問書の受理
  令和4年3月16日 審査庁からの主張書面の収受
  令和4年3月22日 調査審議
  令和4年4月18日 調査審議
  令和4年5月31日 調査審議(審査庁による口頭説明・処分庁による陳述)
  令和4年6月21日 審査庁からの主張書面の収受
  令和4年7月25日 調査審議
  令和4年9月9日 調査審議
  令和4年10月18日 調査審議

第5  審査会の判断
1 本件に係る法令等の規定について
(1) 第3、4、(1)の誤りの指摘について
 本件に係る法令等の規定については、第3、4、(1)に記載のとおりであるが、「イ 要綱別表に定められる判定の基準は、『標準化された知能検査で測定された指数』及び『社会生活を営む能力又は行動・医療保健面で介助・介護を要する程度』の観点から定められている。」は、「イ 要綱別表に定められる判定の基準は、『標準化された知能検査で測定された指数』、『社会生活を営む能力の障がい程度』、『行動・医療保健面で介助・介護を要する程度』の観点から定められている。」と記載するのが適切であるため、裁決書において修正されたい。
(2) 第3、4、(1)への追加について
 また、第3、4、(1)の記載に加えて、以下のような法令等がある。
ア 法律
 知的障害者福祉法第2条第1項は、「国及び地方公共団体は、前条に規定する理念が実現されるように配慮して、知的障害者の福祉について国民の理解を深めるとともに、知的障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するための援助と必要な保護(以下「更生援護」という。)の実施に努めなければならない。」と規定している。
 知的障害者福祉法第11条第1項第2号ハは、「18歳以上の知的障害者の医学的、心理学的及び職能的判定を行うこと。」と規定している。
イ 通達
 第3、4、(1)、アの記載の通り、手帳制度は、通達①により定められた療育手帳制度要綱に沿って自治事務として実施されており、同要綱は、「第1 目的」として、「この制度は、知的障害児(者)に対して一貫した指導・相談を行うとともに、これらの者に対する各種の援助措置を受けやすくするため、知的障害児(者)に手帳を交付し、もって知的障害児(者)の福祉の増進に資することを目的とする。」と定め、その他、交付対象者、実施主体、手帳の名称及び記載事項、手帳の交付手続等を明らかにしている。
 加えて、厚生省児童家庭局長が同日付けで「療育手帳制度の実施について」(児発第725号。以下「通達②」という。)と題する通知を発出し、「第1 療育手帳の活用」として、「1 療育手帳のねらいの一つは、知的障害児及び知的障害者(以下「知的障害者」という)に対して、一貫した指導・相談等が行われるようにすることにあるので、指導・相談等を行う機関に対し、療育手帳の趣旨を十分徹底するとともに、指導・相談等を行った場合は、療育に参考となる事項を手帳に記録するよう指導されたい。あわせて、保護者等に対しても、指導・相談等を受ける場合は、必ず療育手帳を提示するよう指導されたい。 2 知的障害者に対する援助措置として次に例示するようなものがあるが、 これらの援助措置を受け易くすることも療育手帳のもう一つのねらいである。これらの援助措置を受ける場合には必ず療育手帳を提示するよう保護者等を指導するとともに、関係機関と十分協議のうえ療育手帳の提示があった時は、療育手帳により資格の確認等を行いすみやかにこれらの援助措置がとられるよう措置されたい。(以下略)」と示し、「第3 障害の程度の判定」として、「1 障害の程度は、次の基準により重度とその他に区分するものとし、療育手帳の障害の程度の記載欄には、重度の場合は「A」と、その他の場合は「B」と表示するものとする。 (1) 重度 18歳未満の者 平成24年8月20日障発0820第3号(「重度障害児支援加算費について」)の2対象となる措置児童等についての(1)又は(2)に該当する程度の障害であって、日常生活において常時介護を要する程度のもの 18歳以上の者 昭和43年7月3日児発第422号児童家庭局長通知(「重度知的障害者収容棟の設備及び運営について」)の1の(1)に該当する程度の障害であって、日常生活において常時介護を要する程度のもの (注)前記通知の解釈にあたっては、知能指数が50以下とされている肢体不自由、盲、ろうあ等の障害を有する者の身体障害の程度は、身体障害者福祉法に基づく障害等級が1級 2級又は3級に該当するものとする。 (2)その他 (1)に該当するもの以外の程度のもの 2 障害の程度の区分については、1に定める区分のほか中度等の他の区分を定めることもさしつかえないものとする。 3 障害の程度については、交付後も確認する必要があるので、その必要な次の判定年月を指定するものとする。なお、次の障害の程度の確認の時期は、原則として2年後とするが、障害の状況からみて、2年を超える期間ののち確認を行ってさしつかえないと認められる場合は、その時期を指定してもさしつかえないものとする。」と示している。その他、交付手続等の制度内容の詳細を示している。
ウ 裁判例
 療育手帳の認定に係る処分性の判断の中で、東京高裁平成13年(行コ)第49号同年6月26日判決・裁判所ウェブサイト(以下「東京高判」という。)は、「知的障害者に対して、その障害の程度に応じた合理的な援助措置を講じるためには、知的障害者の認定手続制度の存在は不可欠であるというべきであること、身体障害者、精神障害者については、いずれも法律に手帳制度が規定されているが、知的障害者の場合には、これを不要とする合理的な理由がないことに鑑みても、知的障害者福祉法は、知的障害者の認定手続の創設を行政機関に委ねたものと解すべき」であるとして、療育手帳制度要綱に基づく療育手帳制度について、「知的障害者福祉法が予定している知的障害者の認定制度である」と判示している。また、療育手帳制度要綱において、療育手帳制度は、「知的障害児(者)に対して 一貫した指導・相談を行うとともに、これらの者に対する各種の援助措置を受け易くするため、知的障害児(者)に療育手帳を交付し、もって知的障害児(者)の福祉の増進に資することを目的とする」とされているところ、東京高判は、療育手帳の交付について、「一旦療育手帳の交付を受ければ、個々の援助措置ごとに知的障害者である旨の認定を受ける必要がなく、知的障害者福祉法に基づく知的障害者としての地位、障害の程度が公証されるとともに、障害の程度に応じた統一的な援助措置を受けることができるという地位を付与されるもので、その意味で、療育手帳の交付は、諸々の福祉措置を知的障害者に付与するために必要な一連の手続のいわば要というべきものである」と判示している。
エ 内規
 内規として、「“はーとふる”ぷらざ業務マニュアル(抜粋)(第15版)」(以下「マニュアル」という。)がある。
 マニュアルについては、審査基準(行政手続法第5条)である要綱別表右欄の内容についてさらに具体化したものであるが、公開すると客観的かつ正確な判定が困難になるとして非公表とされているものである(なお、非公表との点について、付言(3)参照)。
 マニュアルには、以下のような記述が認められる。
 (以下略)
2 争点について
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は次のとおりである。
(1) 要綱及びマニュアルの合理性(争点1)
(2) 上記要綱及びマニュアルに従いB2とした判断に違法又は不当な点があるか否か(争点2)
3 争点に係る審査会の判断について
(1) 争点1について
 まず、前提として、療育手帳制度は、第3、4、(1)、ア及び第5、1、(2)の通り、知的障害者に対する援助等必要な保護の実施を行うことを求める知的障害者福祉法第2条第1項の趣旨に基づき、通達①により定められた療育手帳制度要綱に沿って自治事務として実施されている制度であり、実施するか否かや実施内容については、各自治体の裁量に委ねられているといえる。よって、処分庁には、当該自治体における療育手帳制度をどのような制度とするかについて広範な裁量が認められるのであり、要綱やマニュアルが、知的障害者福祉法の趣旨に反していたり(知的障がいとまったく関係のない事実を主たる考慮要素としているような場合に趣旨に反するといえる。)、これらが規則に反していたりした場合に不合理なものとなると解される。
 そこで、以下検討する。
ア 要綱について
 規則第2条では、「対象者」として、「知的障害があると判定されたもの」とされており、規則第6条第2項では、「障害の程度が重度である場合 A」、「障害の程度が中度である場合 B1」、「障害の程度が軽度である場合 B2」とされている。
 要綱別表は、規則の「障がいの程度」を「知能の障がいの程度」と「介助・介護の必要度」(中度B1/軽度B2については、さらに「社会生活能力」)から判定すると定めるもので、その内容は、通達②の「第3 障害の程度の判定」に準拠したものであり、制度趣旨や規則に反するものとはいえない。
 なお、通達②には「社会生活能力」についての記載はないが、「中等度の他の区分を定めることもさしつかえないものとする。」とされており、大阪市において、中度B1/軽度B2の判定のために、「社会生活能力」も加えて判断することは知的障害者福祉法の趣旨や規則に反するところはない。
 その他、要綱について、知的障害者福祉法の趣旨や規則に反するようなところはない。
 なお、要綱については、後記付言(1)において言及しているように、実務上、主として用いているとされる「発達検査」について記載を行うことが望ましいと考える。
イ マニュアルについて
 マニュアルは、心身障がい者リハビリテーションセンターが、要綱別表に基づき判定を行うための非公表の審査基準である(要綱第3条第3項)。
 マニュアルでは、(中略)、「療育手帳の障がい程度」を決定するとされている。
 この点、要綱別表においては、療育手帳の判定は、「知能の障がいの程度」と「介助・介護の必要度」(中度B1/軽度B2については、さらに「社会生活能力」)から判定するとされており、一見すると、上記アにより合理性が肯定されるところの要綱と齟齬があるようにも見える。
 そこで、審査会において職権で確認したところ、審査庁の口頭説明によれば、「要綱別表の療育手帳判定基準では、知能障がいの程度、社会生活能力、介助・介護の必要度による総合評価にて判定をすることと書かれており、業務マニュアルはその具体的な手順を示しているものにすぎない」とのことである。
 よって、上記の要綱との記載の相違は、判定に影響を与えるものではないといえる。
 その他、マニュアルについて、知的障害者福祉法の趣旨や規則に反するようなところはない。
(2) 争点2について
 まず、前提として、上記1、(2)、エの通り、手帳の等級については、(ア)標準化された知能(発達)検査の結果、(イ)社会生活能力、(ウ)介護度による修正により判定されていることが認められ、上記(1)で検討したとおり、その点に不合理な点はない。
 そこで、それぞれの判断過程について、事実誤認や評価の誤りがないか、以下検討する。
ア 標準化された知能(発達)検査の結果について
(ア)判定方法について
 本件では、知能(発達)指数を求めるため、審査請求人に対し、心身障がい者リハビリテーションセンターにおいて、「新版K式発達検査2001」を用いた発達検査が実施されたとのことである。
 そこで、「新版K式発達検査2001」が、「標準化された知能検査」として適当かが問題となるため、以下検討する。
 まず、「標準化」の点であるが、生澤雅夫ほか編『新版K式発達検査2001 実施手引書』1頁(京都国際社会福祉センター)によれば、「1970年代に入って、再標準化を含めて大規模な第5次改訂作業が計画された。1980(昭和55)年には、3カ月児から10歳までの尺度を備えた検査の標準化作業が完了し、『新版K式発達検査』(Kyoto Scale of Psychogical(ママ) Development)として公表された。」(なお、本件検査に用いられた「新版K式発達検査2001」では、適用年齢は成人まで拡張されている。)とされており、標準化されているといえる。
 次に、「知能検査」として、「新版K式発達検査2001」(傍点審査会)を用いたことが適切か問題となるが、高石浩一ほか編『心理学学習 応用編』(培風館)によれば、「K式発達検査」について、「発達検査のジャンルに入っているが、ビネー式と肩を並べるほど使用されることが多くなり、関西だけでなく全国的に広まりつつある。乳幼児に関しては知能検査と遜色ない結果を示すものとして、利用率が高い。」とされており、知能検査との代替性が認められることから、「新版K式発達検査」を用いたことをもって不適切とは言えない(なお、付言(1)参照)。
 以上より、適切な判定方法により、検査がなされたといえる。
(イ)本件判定の適否について
 本件では、令和2年11月16日に、心身障がい者リハビリテーションセンターにおいて、「新版K式発達検査2001」を用いた検査が行われており、処分庁陳述によれば、処分庁提出証拠として提出された記録は、検査者が、審査請求人の課題達成状況を確認し、記録したものであるとのことである。ここで、検査は通達①記載の判定機関にて行われており、その記録も、被検者に課題を行ってもらいそれができたか否かを、訓練を受けた検査者がそのまま記載したものであることから、事実誤認や評価誤りがあったとは考え難い。
 それを前提に「新版K式発達検査2001」の検査結果を見ると、(中略)、実施手引書の付表8にあてはめれば発達年齢は〇月となり、c歳dか月となる。対して、審査請求人の判定時の生活年齢はa歳bか月であり、それを実施手引書の付表9で換算すると、修正された生活年齢(なお、修正は実際の生活年齢が14歳7か月以上の場合になされる。)はe歳fか月となる。
 よって、発達年齢及び生活年齢(修正後)の算出に誤りは認められない。
 そうすると、発達指数は、
発達年齢÷生活年齢×100
で算出され、本件審査請求人の発達年齢c歳dか月、判定時の修正された生活年齢e歳fか月を代入すると、
〇÷〇×100≒71(小数点以下四捨五入)
となることから、知能(発達)検査の結果は、「51~75」に該当し、「軽度」となる。
 よって、知能の障がいの程度を「軽度」と判定したことは、適切であると言える。
イ 社会生活能力について
(ア)判定方法について
 社会生活能力については、マニュアルの社会生活能力表を用いて判定することとされており、その結果は「社会生活能力プロフィール(集計個票)」の通りである。「社会生活能力プロフィール(集計個票)」は、マニュアルの社会生活能力表をさらに具体化したものといえ、不合理な点はない。
(イ)本件判定の適否について
 まず、「社会生活能力プロフィール(集計個票)」における評価がどのように行われたかが問題となるが、処分庁陳述において、審査会が処分庁に確認したところ、「社会生活能力の評価は、評価対象者の行動をよく理解している親族等に評価してもらうことを基本としている。本件は、いったんは母親に評価してもらい、母親の評価は、調査項目のほとんどにおいて『いいえ』という回答であった。(中略)ただ、判定当日は、本人と面談する機会があり、本人の評価では『はい』という回答もあったので、判定機関としては、本人の日常生活の行動について、具体的かつ客観的に評価する必要があり、本人と母親同席のもと、再度、何ができていて、何がどんなふうにできていないかを聴取し直した。その再聴取の結果が、社会生活能力(集計個票)の結果となっている。」とのことであった。以上を前提とすると、一定程度慎重な方法によって事実を確認しており、事実認定やその評価について看過し難い誤りがあるとまでは認められない(なお、付言(2)に記載している通り、グループホーム職員の意見も聴取することが望ましかったと考える。)。
 その前提で内容を確認すると、
 (中略)
であり、合計評価点〇点となる。
 そうすると、社会生活能力の総合評価は(中略)に該当し、「中度」となる。
ウ 「知的障がいの程度」について
 上記1、(2)、エによれば、「知的障がいの程度」は、(中略)、IQ(DQ)「軽度」で、社会生活能力「中度」であり、(中略)、「知的障がいの程度」は(中略)となる。
エ 介護度による修正について
 介護度は、上記1、(2)、エ記載の通り、「行動面」と「医療・保健面」の両者の観点から判定されるものである。
 そこで、まず、行動面から検討すると、審査庁の主張書面によれば、本件では、「介護度を評定しなければならないような(中略)の特徴は、当日の面接を通じて全く見られなかった」とのことであるが、母の強い要望により評価を行うこととし、処分庁提出資料4-4-(7)を用いて、母親に聴取を行う方式で、臨床心理職員が検査を行ったとのことである。
 その内容についてマニュアルに照らし確認すると、(中略)、知的障がいの程度への加味は0に留まることになる。
 次に、医療・保健面であるが、審査請求人に(中略)があることは記録上認められない。
 以上より、処分庁が総合して、知的障がいの程度への加味なしと判定したことは、適切であると言える。
オ (略)
カ 総合判定について
 以上より、上記1、(2)、エの(中略)によれば、「介護度を加味した程度」は(中略)となることから、療育手帳の判定は「B2」となる。
(3) 小括
 以上より、処分庁が審査請求人にB2の手帳を交付したことについて、違法又は不当な点は認められない。
(4) 審査請求人の主張について
 審査請求人は、審査請求書において、「本人の言っていることをそのまま聞き入れて審査・判定したのではないか。本人は、発言力はあっても、発言したとおりの理解力は伴わず、親の言っていることも聞いてほしかった。」と主張するが、上記(2)記載のとおり、判定は母親からの聴取内容も踏まえてなされているところである。
 また、「本人ができると思いこんでいても、実際にはできないことも多く、全く違うことをしたり、普通では考えられないことをしたりする。短時間で本人の何を見て、何をわかったうえで、このような判定になったのか。」と主張するが、大阪市では一般的に療育手帳の判定は半日(2時間30分程度)の検査にて行っており、当日の様子でもって一定の判断を行うことは、判定を公平に行うという観点からやむを得ないものである。また、検査当日以外の行動については、本人及び母親からの聴取によって評価を行っており、短時間の様子のみによって判定を行っているわけでもない。
 また、「検査の日、何らかのテスト(問題)があり、できていたかもしれないが、生活する中で、B2になり、不備なことにならないのか。本人は、現在、生活介護の作業所に通っており、生活介護の作業所が精一杯で、就労A・Bの作業所での活動はとてもではないが難しい状態である。」と主張するが、上記の結論を左右するものではない。
4 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 結論
 よって、本件審査請求に理由はないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。
6 付言
(1) 要綱への発達検査の記載について
 本答申の時点の大阪市の要綱別表では、「知能の障がいの程度が中度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね36以上50以下に該当)」といった記載となっており、知能の障がいの程度は知能検査により測定を行うように読めるが、実際の運用としては、主として「新版K式発達検査2001」、つまり、発達検査により測定が行われているとのことである。
 「知能検査」に替えて「新版K式発達検査2001」を用いることそのものは、3、(2)、ア、(ア)記載の通り、不適切とは言えないが、一般的には、知能検査と発達検査は別の検査と考えられるものであり、市民に無用な誤解を与えないためにも、要綱別表への記載については、「標準化された知能検査又は発達検査で測定された指数が」とすることが望ましいと考える。
 なお、堺市療育手帳に関する要綱第7条に規定する判定基準では、「標準化された知能検査又は発達検査によって測定された知能指数又は発達指数が、おおむね35以下の者で、社会生活を営む能力が中度以上であって、行動及び医療保健などで若干の介助及び介護を要するもの。」等とされている点も参考にされたい。
(2) 生活状況等に係る聴取について
 記録から、本件審査請求人は、遅くとも令和2年9月末にはグループホームに入居し、以降そこで生活を行っていたことが窺われる。すると、本件の判定日である令和2年11月16日時点では、2か月程度をグループホームで過ごしていたことになる。
 そうであれば、当時審査請求人の状況を一番把握していたのはグループホームの職員とも思われ、正確な判定のために同職員になんらかの手段にて聴取を行うことが望まれる。
 なお、本件では、処分庁陳述によれば、「本人の生活状況等の聴取に際しては、本人の生活状況について適切に評価できる人に判定当日同行してもらえるよう事前に依頼したところ、母親がグループホームでの生活状況を含め、本人の生活状況について適切に理解・申述できる者として同行すると確認した」とのことであり、同職員に聴取を行わなかったことは違法・不当とは言えないが、上記3、(2)、イにある通り、本人と母親で認識の違いが認められたところであることから、第三者の意見として、グループホーム職員に重ねて確認すればより望ましかったと思われる。
(3) マニュアルについて
 本件の審査にあたって、当審査会が審査庁に対して行った主張書面又は資料の提出の求めに対し、審査庁からマニュアルが提出され、あわせて求めた行政不服審査法第81条第3項において準用する第78条第2項及び大阪市行政不服審査会運営要領第10条第2項に基づく意見として、「療育手帳は知能検査による知能指数あるいは発達検査による発達指数、社会生活を営む能力(社会生活能力)及び行動・医療保健面の介護度(介護度)を加味して判定している。社会生活能力及び介護度は保護者から聴き取った内容に基づいて評価しており、〔マニュアルに記載している〕社会生活能力及び介護度の評価に関する詳細な記述が閲覧された場合、保護者から基準等に合わせた報告がなされるおそれがあること、ひいては、判定機関において、客観的かつ正確な判定を困難にするおそれがあるため、大阪市情報公開条例第7条第1項第5号アに基づき、審査請求人への写し等の送付は適当でないと思料される。」(〔〕内審査会補足)と述べられている。
 しかし、マニュアルは、手帳の交付/不交付や交付する場合の等級を決定する際の基準となっており、行政手続法第2条第8号ロに該当することから、同法第5条第3項に基づき、「公にしておかなければならない」ものと考えられる。
 この点に関し、同項の「公にしておかなければならない」とは、一般財団法人行政管理研究センター編『逐条解説 行政手続法〔改正行審法対応版〕』136頁(ぎょうせい、平成29年)によれば、「申請をしようとする者の求めに応じ提示する」という方法も認められると解されており、周知のために「公表」(行政手続法第36条参照)することまでは求められていない。本件においては、申請時から現在に至るまで、申請者たる審査請求人から、処分庁たる大阪市長に対し、そのような求めはなされていない。他方で、行政不服審査法第81条第3項において準用する第78条第1項に基づく閲覧・交付請求がなされた場合、実質的には行政手続法第5条第3項の審査基準に係る上記「求め」がなされたものと評価し、審査会において、行政不服審査法第78条第2項に基づく審査庁の意見を聴いたうえで、なお必要と思料した場合には、職権により審査基準を含む資料の閲覧又は交付を行うことも可能と考える。しかしながら、本件においてはそのような閲覧・交付請求はなされていないことから、審査庁意見を踏まえて職権送付を行ってきた。本答申をするに当たっても、審査会として積極的にマニュアルの内容を明らかにすることまでは必要ないと考え、網掛け部分については黒塗りにした上で、行政不服審査法第81条第3項において準用する第79条に基づき、審査請求人に写しの送付を行うこととする(網掛け部分以外については、そもそも、「客観的かつ正確な判定を困難にするおそれがある」とは認められないと考える。)。
 もっとも、審査庁及び処分庁においては、今後、ガイドランが行政手続法第5条第3項の審査基準に該当するとの認識の下、申請者から上記求めがあった場合にはこれを提示する必要があること、不服審査手続においても閲覧・交付請求があった場合には、審査会において、黒塗りの処理をすることなく資料を送付する可能性があることに留意されたい。なお、行政手続法第5条第3項では、「行政上特別の支障があるときを除き」との例外要件が定められているが、高木光ほか『条解 行政手続法』166頁(弘文堂、第2版、平成29年)によれば、「単に行政がやり難くなるといった事情は含まれない」とされており、本件は上記例外要件に該当しないと思われる(大阪地裁平成10年(行ウ)62号・同12年(ワ)8897号同14年6月28日判決・裁判所ウェブサイト参照)。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第2部会
 委員(部会長) 榊原和穂、委員 畠田健治、委員 海道俊明

答申書(令和4年度答申第4号)

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