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答申書(令和4年度答申第6号)

2023年2月17日

ページ番号:590778

諮問番号:令和4年度諮問第2号
答申番号:令和4年度答申第6号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求は棄却されるべきである。

第2 審査請求に至る経過
1 平成29年2月7日、大阪市A区保健福祉センター所長(以下「処分庁」という。)が審査請求人に対し、生活保護法(昭和25年法律第144号。以下「法」という。)による保護を開始した。同日、審査請求人は処分庁に資産申告書を提出した。
2 (以下、弁明書より)令和元年8月21日付け、審査請求人の世帯の世帯主(以下「世帯主」という。)は処分庁に資産申告書を提出した。同日、処分庁がB銀行に対し、審査請求人名義の預貯金に関する法第29条に基づく照会を行った。
3 令和元年9月30日付け(弁明書より)、処分庁がB銀行から、審査請求人名義の預貯金に関する法第29条に基づく調査に対する回答を受理した。当該回答により、処分庁は、審査請求人名義のカードローン口座(以下「本件口座」という。)が開設されていること、本件口座に係る平成30年5月1日以降の取引履歴として出入金があることを確認した。
4 令和元年11月20日、処分庁がB銀行から、審査請求人名義の預貯金に関する法第29条に基づく調査に対する回答を受理した。当該回答により、本件口座に係る審査請求人の保護開始日以降の取引履歴として出入金があることを確認した。
5 令和2年1月6日、処分庁がB銀行から、審査請求人名義の預貯金に関する法第29条に基づく調査に対する回答を受理した。当該回答により、本件口座の出入金に利用された各支払機の設置場所を確認した。
6 令和2年3月3日付け(弁明書より)、処分庁は「Xさんのカードローンの口座からの出金について収入申告を行わず、不実の申請その他不正な手段により保護を受けたと認められるため」との理由で2,507,000円につき、法第78条第1項に基づく徴収金決定に関する処分(以下「本件処分」という。)を行った。
7 令和2年5月22日、審査請求人は、大阪市長(以下「審査庁」という。)に対し、本件処分の取消しを求める審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。

第3 審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1 審査請求人の主張
 審査請求の趣旨は、本件処分の取消しを求めるものであり、その理由は次のとおりである。
 本件処分において決定された返還金2,507,000円(以下「本件金員」という。)については、自分で使ったものではなく、本件処分に納得がいかない。
 また、なぜ今言われたのか、もっと早く言ってくれなかったのか。
2 処分庁の主張
 弁明の趣旨は、「審査請求人の審査請求を棄却する」との裁決を求めるものであり、その理由は次のとおりである。
(1) 本件処分について
 法第61条において、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」とされており、生活保護の被保護者は、保護の実施機関へ収入を届け出る義務があり、法第78条第1項において、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することが出来る」とされている。
 また、法第78条の条項を適用する際の基準に関しては、生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)の3の④において、「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」とされている。
 この点、審査請求人は、収入があった際には申告をしなければならないと説明を受けたうえで、その内容を理解している旨署名捺印を行っている。
 そして、審査請求人名義のカードローンにより金銭貸借が行われていれば、それが、明らかに他人が行ったと考えられるような特段の事情がある場合を除けば、審査請求人が行ったと判断するのが妥当であり、審査請求人への聞き取り内容をもって、特段の事情があったとは認定できず、よって、審査請求人自身が行った金銭貸借と認定したうえで、一か月あたりの借入額から返済額を減じた金額を当該月の未申告収入と認定し、その金額に相当する支給済保護費について、法第78条による徴収決定を行った本件処分に違法、不当な点は存在しない。
(2) 審査請求人の主張について
 審査請求人は、カードローンの名義は確かに審査請求人であるが、実際に使用していたのは、そのカードを貸与していた友人であるため、審査請求人自身に収入は発生していない旨を主張する。しかし、審査請求人がその主張を裏付けるために、令和元年10月28日に、カードを貸与した友人と共に来所した際に処分庁が聞き取った内容によると、「友人はC地に拠点をおいて就労しており、大阪に戻って来ることもある」との事であったが、この点につき処分庁が金融機関に当該カードローンの出金場所について改めて照会したところ、そのほぼ全ては大阪であり概ねA区内の審査請求人宅付近において行われている事を確認した。これは、前述の聞き取り内容から考えて不自然であり、審査請求人自身がカードローンを使用していない旨の主張を裏付ける結果とはなり得ていない。
 また、審査請求人は、処分庁がもっと早く調査をしていれば、返還金も多額にはならなかったのであるから、返還決定を行うのであれば、処分庁の調査以降の収入に対して行われるべきである旨主張するが、保護の実施要領上、資産については、毎年書面での申告を受け、挙証資料の提出を受ける必要があるため、被保護者自身から、口座残高の提示が受けられない場合は、金融機関に対し口座の照会を行っているが、審査請求人の場合は、携帯端末の画面提示により口座残額の提示を受けていたため、金融機関への照会を実施していなかったものである。
 なお、収入については法第61条において届出が義務付けられており、全ての被保護者に対して収入の確認のために金融機関に照会を行っている訳ではないが、一般的に、資産申告に伴い預貯金通帳の提示を受けている場合が多く、それにより収入の状況の確認も行っているところ、審査請求人においては、通帳の提示を受けたことが無いため、収入の確認が数年間にわたり行えていないことから、念のために金融機関に対し照会を行い、その結果、カードローンの利用について発覚に至ったものである。したがって、処分庁が必要な調査を怠っていたような事実は存在せず、当該主張は失当である。
3 審理員意見書の結論
 本件審査請求には理由がないから、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4 審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア.法第4条は、生活保護制度における基本原理の一つである「保護の補足性」について規定しており、その第1項において、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定めている。また、法第5条は、「この法律の解釈及び運用は、すべてこの原理に基いてされなければならない。」と定めている。
イ.法第8条第1項は、「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と定めている。
 これは、生活保護制度により保障されるべき最低限度の生活は、生活保護法による保護の基準(昭和38年4月1日厚生省告示第158号。以下「保護の基準」という。)によって、要保護者各々について具体的に確定され、その保護の程度は、保護の基準によって測定された需要と要保護者の資力(収入)とを対比し、その資力で充足することのできない不足分について扶助されることを定めているものである。
ウ.法第28条及び第29条で保護の実施機関には積極的な調査権限が付与されているが、併せて、法第61条では、「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と規定し、被保護者に対し、届出の義務を課している。
エ.法第78条第1項は、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。」と規定している。
オ.生活保護法による保護の実施要領について(昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知。以下「次官通知」という。)第8-3-(2)-イ-(ア)において、「他からの仕送り、贈与等による金銭であって社会通念上収入として認定することを適当としないもののほかは、すべて認定すること。」とされている。
カ.生活保護行政を適正に運営するための手引について(平成18年3月30日社援保発第0330001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)で提示されている「生活保護行政を適正に運営するための手引」のⅣ-4-(1)の注)において、「『不実の申請その他不正な手段』とは、積極的に虚偽の事実を申し立てることはもちろん、消極的に事実を故意に隠蔽することも含まれる。刑法第246条にいう詐欺罪の構成要件である人を欺罔することよりも意味が広い。」と示されている。
キ.生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて(平成24年7月23日社援保発0723第1号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。以下「課長通知」という。)の「3 法第78条に基づく費用徴収決定について」では、「法第63条は、本来、資力はあるが、これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある要保護者に対して保護を行い、資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図るために、当該被保護者に返還を求めるものであり、被保護者の作為又は不作為により保護の実施機関が錯誤に陥ったため扶助費の不当な支給が行われた場合に適用される条項ではない。被保護者に不当に受給しようとする意思がなかったことが立証される場合で、保護の実施機関への届出又は申告をすみやかに行わなかったことについてやむを得ない理由が認められるときや、保護の実施機関及び被保護者が予想しなかったような収入があったことが事後になって判明したとき等は法第63条の適用が妥当であるが、法第78条の条項を適用する際の基準は次に掲げるものとし、当該基準に該当すると判断される場合は、法第78条に基づく費用徴収決定をすみやかに行うこと。」と述べたうえで、法第78条の条項を適用する際の基準について、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき、②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき、③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき、④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」と示されている。
 このように、法第78条の適用にあたっては、保護費を不当に受給しようとする意思があることが求められ、課長通知における各基準はその客観的事情を示している。
ク.生活保護問答集について(平成21年3月31日付け厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡)(以下「問答集」という。)の問13-22の答において、法第78条による「徴収額は、不正受給額を全額決定するものであり、法第63条のような実施機関の裁量の余地はないもの」とされており、また、問13-23の答の「(3)法第78条を適用する場合」において、「意図的に事実を隠蔽したり、収入の届出を行わず、不正に保護を受給した者に対しては、各種控除を適用することは適当ではなく、必要最小限の実費を除き、全て徴収の対象とすべきである。」と示されている。
 さらに、問13-25の答において、「法第78条に基づく費用の徴収は、いわば損害追徴としての性格のものであり、法第63条や法第77条に基づく費用の返還や徴収の場合と異なり、その徴収額の決定に当たり相手方の資力(徴収に応ずる能力)が考慮されるというものではない。」と示されている。
(2) 本件処分について
ア.本件金員の算出について
 まず、本件金員の算出について検討する。
 本件金員は、以下の手順で算出したものと認められる(返還金出入金算出書)。
① 平成29年2月から令和元年10月までの間について、月ごとに本件口座から出金された額(借入金額)と本件口座に入金された額(返済金額)を比較する。
② 借入金額が返済金額を上回る月(平成29年2月、同年5月、同年7月、同年8月、同年11月、平成30年1月、同年3月、同年5月、同年7月、同年11月、令和元年5月、同年7月、同年8月及び同年10月。以下これらを「対象月」という。)において、その差額(以下「対象額」という。)を算出する。
③ 対象額がその月の扶助費を上回る場合にあっては、その上回る部分に相当する金額を翌月以降の対象月における対象額に合算し、それにより得た金額を当該対象月における対象額とする。
④ 対象額を合算することにより、本件金員を算出する。
 この点、処分庁は、借入と返済が頻回に繰り返されるカードローン取引の性質に鑑み、審査請求人の収入について上記のような方法により算出することとしたと思料されるところ、少なくとも返済額を上回る借入れを行った月については、その差額(対象額)を収入として保有していたことが認められる。
 よって、対象額を合算して本件金員を算出した上記方法には一定の合理性が認められる。
イ.本件金員を自身が使用していないとする審査請求人の主張及びこれに対する処分等の判断について
 審査請求人は、本件金員に関し、審査請求書において「自分で使っていない」と主張しており、令和元年10月28日付けケース記録票に記載のある審査請求人の申し出(要約すると、C地を拠点に仕事をする友人の兄に本件口座に関するキャッシュカードを貸したものであるというもの)が、かかる主張を具体的に述べたものと思料される。
 これに対し、処分庁は、審査請求人名義のカードローンにより金銭貸借が行われていれば、審査請求人自身が行ったと推認するのが妥当であるとし、審査請求人から他人が行ったものであることを証明するものは示されておらず、むしろ、本件口座の出入金が概ね大阪市内で行われていたというような審査請求人の申出内容と相反するような事実が認められた(B銀行d支店回答書(令和2年1月6日受付分))ことをもって、本件金員は審査請求人自身が行った金銭賃貸による収入と認定したのであるが、審査請求人の主張を裏付ける客観的事実が存しない本件においては、かかる判断には、一定の合理性があると認められる。
 なお、処分庁の弁明書に対する請求人からの反論はなかった。
ウ.本件に対する法第78条の適用について
 本件に対する法第78条の適用について検討すると、平成29年1月13日に、生活保護制度に関する説明を受け、「生活保護のしおり」を受け取ったことに関する審査請求人の署名・押印がなされた事実が認められ、さらに、平成29年2月7日には、収入申告に関する説明を受け、理解したことに関する審査請求人の署名・押印がなされた事実が認められる。
 よって、審査請求人は、法第61条に定められた「収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき」の届出の義務を理解していたものと認められる。
 にもかかわらず、審査請求人は、平成29年2月から令和元年10月までの間に得た本件金員に関し、収入申告書において、申告していなかったのであるから、課長通知3-④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当するとして、保護費を不当に受給しようとする意思を認め、法第78条の条項を適用した処分庁の判断に、違法又は不当な点は認められない。
エ.審査請求人のその余の主張について
 審査請求人は、本件処分について、審査請求書において「なぜ今言われたのか、もっと早くいってくれなかったのか。」と主張する。
 この点、審査請求人は、B銀行の他の口座等は資産申告していたが、本件口座については資産申告を行っておらず、B銀行への法第29条に基づく調査の回答により、その存在が発覚したものであるところ、法第61条に照らせば、本来は審査請求人自身が本件口座について申告すべきものである以上、「なぜ今言われたのか、もっと早くいってくれなかったのか。」との審査請求人の主張は本件処分の適否を左右するものとはいえない。
オ.小括
 以上のとおり、本件金員を審査請求人の収入と認定したうえで行った本件処分に違法又は不当な点があるとは認められない。
(3) 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 他に本件処分に違法又は不当な点は認められない。

第4 調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  令和4年5月31日 諮問書の受理
  令和4年7月7日 調査審議
  令和4年8月3日 調査審議
  令和4年8月19日 審査庁からの主張書面の収受
  令和4年8月26日 調査審議(審査庁による口頭説明・処分庁による陳述)
  令和4年9月29日 調査審議
  令和4年10月27日 調査審議
  令和4年11月22日 調査審議

第5 審査会の判断
1 本件に係る法令等の規定について
 第3、4、(1)の記載に加えて、以下のような通達の規定がある。
(1) 次官通知第8-1-(2)において、「収入に変動があるときの申告については、あらかじめ被保護者に申告の要領、手続等を十分理解させ、つとめて自主的な申告を励行させること。」とされている。
(2) 次官通知第8-1-(3)において、「収入に関する申告は、収入を得る関係先、収入の有無、程度、内訳等について行わせるものとし、保護の目的達成に必要な場合においては、前記の申告を書面で行わせること。なお、その際これらの事項を証明すべき資料があれば、必ずこれを提出させること。」とされている。
(3) 次官通知第8-3-(2)-エ-(イ)において、「不動産又は動産の処分による収入、保険金その他の臨時的収入(中略)については、その額(受領するために交通費等を必要とする場合は、その必要経費の額を控除した額とする。)が世帯合算額8,000円(月額)をこえる場合、そのこえる額を収入として認定すること。」とされている。
(4) 問答集第8において、収入の認定は「調査による収入の実態の把握と、これを基にして収入充当額を算定する過程」と示されている。
2 本件処分の被処分者について
 本件処分の決定通知書には被処分者ではない世帯主の氏名のみ表記されており、被処分者である審査請求人の氏名の表記はない。そのため、決定通知書において被処分者が明示的に示されていないことから、決定通知書を一見しても誰が被処分者であるのかが明らかではない。
 しかし、本件では、①審査庁の主張書面にあるように、「本件処分を行う際に、審査請求人に対し、本件処分に係る決定通知書について、送付先として審査請求人の妻である世帯主宛を記載しているが、本件処分による納入義務者は審査請求人であり、ゆえに納入通知書の宛先も審査請求人となることを説明し、審査請求人は、その点について了承していた」こと、②処分庁は審査請求人を納入義務者とする納入通知書を同人に交付していること、③処分庁は審査請求人が不正行為者との認識に基づいて同人に対して処分を行っていること、④処分庁が審査請求人に対して説明をしてきたこと、⑤審査請求人から処分後にすぐに審査請求がなされていること、という本件固有の事情が認められる。
 これらの事情に照らすと、処分庁は審査請求人を被処分者とする意思を有しており、審査請求人は本件処分については自らを特定してなされたものと認識していると言える。また、審査請求人が本件処分の被処分者であるという点について審査請求人と処分庁の間に争いのないところである。
 以上より、当審査会では、審査請求人が本件処分の被処分者であるという前提のもとに以下の判断を行うものである。
 ただし、本件処分の決定通知書における被処分者の記載について問題なしとは言えないことから、この点については、後の付言で述べる。
3 争点について
 審査請求人及び処分庁の主張を踏まえると、本件審査請求における争点は次のとおりである。
(1) 本件金員が法第61条の申告すべき「収入」に該当するか否か(争点1)
(2) 審査請求人は法第78条第1項の「不実の申請その他不正な手段により保護を受けた」と言えるか否か(争点2)
4 争点1に係る審査会の判断について
(1) 法第61条の申告すべき収入について
ア.法第4条第1項は「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」として保護の補足性を定め、また、法第8条第1項は「保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」と規定していることから、生活保護法による保護は、最低限度の生活需要を満たすのに十分であって、かつ、これを超えないものでなければならない。
 そして、法第4条第1項の「その利用し得る資産、能力その他あらゆるもの」、法第8条第1項の「その者の金銭又は物品」については特に限定がないことから、被保護者の資産、能力その他あらゆるものは、その呼称の如何を問わず、その最低限度の生活の維持のために活用されるべきことが原則となると解される。
 さらに、法第61条の規定は、被保護者に対して、収入等に関する処分庁への届出義務を課しているところ、この趣旨は、保護の実施機関が適正な保護実施のために行う被保護者の生計の状況等の調査だけでは把握しきれない部分を被保護者の届出によって補充し、もって当該調査と並行して適確な状況の把握に資するために行うものと言えるから、被保護者が行う収入の申告については、適正な保護の決定及び実施を円滑に行うことに資するよう、処分庁が収入を適確に把握できるようなものであるべきと解される。
 以上から、被保護者が法第61条の規定に基づき届出義務を負う収入とは、現実に増加している被保護者の最低限度の生活を維持するために活用可能な金銭等であれば、その法的性質や原因のいかんは問わないものと解するべきである。
イ.そして、将来返済が予定されている借入金についても、当該借入れによって、被保護者の最低限度の生活を維持するために活用可能な資産は増加するのであるから、保護受給中に被保護者が借入れをした場合、これも原則として届出義務を負う収入の対象とすべきであり(札幌地裁平成18年(行ウ)第10号同20年2月4日判決・裁判所ウェブサイト参照)、これはカードローンによる借入金であるからといって異なるところはない。
ウ.よって、カードローンによる借入金は、被保護者が得ることによって被保護者の最低限度の生活の維持のために活用可能な資産が増加するものであるから、本件金員は法第61条の申告すべき収入に該当する。
(2) 本件口座を第三者が利用したとする審査請求人の主張について
ア.ところで、本件事件記録によると、審査請求人は、本件口座が自己の名義であることについては争わないが、C地を拠点に仕事をする友人の兄(以下「第三者」という。)に本件口座に係るカードを貸しており、当該第三者が当該カードを利用して当該口座をしてカードローンより借入れを行ったものであることから、審査請求人本人は当該口座を利用してカードローンによる借入れを行ってはおらず、借入れによる金銭も得ていない旨主張する。
 これに対し、処分庁は、審査請求人名義のカードローンによって金銭貸借が行われていれば、審査請求人自身がカードローンを利用したと推認するのが妥当と主張する。
イ.カードローンによる金銭貸借は、カードローン口座の名義人と金融機関等間の金銭消費貸借契約に基づき、名義人が金融機関等から借入れを行うものである。
 そして、当該カードローンの規約等では、当該カードローンの不正利用防止の観点から、名義人にのみローンを利用する契約上の地位があること、名義人は名義人以外の者にローン用カードの貸与や譲渡、利用させることを禁じていること、名義人以外の者にカードの貸与・譲渡や利用させた場合には規約違反として期限の利益の喪失事項、カードローンの会員資格の取消事項としているものが通常であり、社会通念上、カードローンは名義人以外の者が利用することを想定しているものではない。そうであれば、金融機関の出金の記録上、カードローン口座より出金がされている場合には、名義人以外の者による利用についての反証が無いかぎり、当該名義人が利用したとする推認がはたらくものと言える。
ウ.これを本件についてみると、前記のとおり、本件口座から出金されているけれども、審査請求人本人は当該口座を利用してカードローンによる借入れを行ってはおらず、借入れによる金銭も得ていない旨供述し、本件事件記録によれば、当該第三者についても、C地を拠点に仕事をしているなかで、継続して当該口座をしてカードローンより借入れを行っていた旨供述している。
 しかし、処分庁の調査により金融機関から提出されている本件口座の出入金記録及び各出入金に利用された支払機の場所の記録から、ほとんどの出入金が大阪市内の審査請求人宅付近に設置されている支払機を利用したものであること、さらには、利用しているとする第三者が拠点をおくとするC地に設置されている支払機からの出入金記録は存在せず、D地方でいえば、E県の1回、そしてF地方でいえばG県の2回とそれ以外は全て大阪府内に設置されている支払機を利用したものであることが明らかである。
 加えて、審査請求人が処分庁に申告しているB銀行の口座(以下「申告済口座」という。)の出入金記録にある各出入金に利用された支払機の場所の記録と上記本件口座の出入金に利用された支払機の場所の記録とを照らし合わせたところ、大阪市内の同一の支払機において同一の時間帯において1分差で利用したとする記録が、少なくとも複数日において確認できる。
 そうすると、本件口座の出入金のほとんどが大阪市内の審査請求人宅付近において行われており、さらにそのうちの複数回において申告済口座の出入金に利用された支払機と同一の支払機において1分差で本件口座に出入金がされているということが明らかである以上、大阪から遠隔地であるC地に拠点をおいている第三者がこれらを行ったとする審査請求人及び第三者の供述は信用することはできず、むしろ、審査請求人が自ら利用したことが強く推認される。
 以上から、名義人以外の者による利用についての反証がなされているとはいえず、当該名義人が利用したとする推認がはたらくものと言えることから、本件金員は、審査請求人自身によるカードローンの借入金であるとした処分庁の判断には、合理性があると言える。
(3) 争点1の結論について
 以上から、本件金員について、法第61条の申告すべき収入に該当するとした処分庁の判断に不合理な点は認められない。
5 争点2に係る審査会の判断について
(1) 法第78条第1項の「不実の申請その他不正な手段」について
ア.前記4のとおり、本件金員は、申告すべき収入に該当し、審査請求人は法第61条に基づきこれを収入として申告する義務があった。にもかかわらず、平成29年2月分から令和元年10月分までの審査請求人の世帯に係る各収入申告書には本件金員は記載されておらず、審査請求人は届出義務に違反している(以下「本件未申告」という。)が、これが法第78条第1項の「不実の申請その他不正な手段」に該当するか。
イ.まず、法第78条第1項の「不実の申請その他不正な手段」とは、積極的に虚偽の事実を申告することのみならず、消極的に本来申告すべき事実を故意に隠蔽することも含まれると解される(前記第3、4、(1)、カ)。
 そして、「本来申告すべき事実を故意に隠蔽」したと言えるためには、当該被保護者において当該収入が法第61条の届出義務の対象となるべき収入に該当することを認識していた又は認識すべきであったにもかかわらずこれを申告しなかったという事実が認められなければならない。
ウ.ところで、法は、本来受けるべきではなかった保護費の返還に係る法第63条の規定をおき、さらに法第78条第1項の規定を設けている。
 この点、法第78条第1項の趣旨は、保護の不正受給を防止し、生活保護制度が悪用されることを防止しようとすることにあると解される。そして、同項が適用されると、当該不正受給額の全部が必要的に徴収される上、その4割以下の額が制裁として徴収され得ることに加え、犯罪として懲役刑を科される可能性もあるものである。
 これに対し、法第63条が適用されると、「その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額」の返還で足り、保護の実施機関の裁量により、当該未申告分の収入の一部の返還でも足りるものとされている。
 このような法第78条第1項の趣旨、同項と法第63条の要件及び効果の差異、特に、法第78条第1項の要件と刑罰法規である法第85条第1項本文の構成要件とが同一文言によって規定されていることからすれば、法第78条第1項は、被保護者の収入未申告等の行為が、生活保護制度の悪用と評価できる行為に当たる場合にのみ適用すべきと解するのが相当である。
 そして、悪用と評価できる行為と言えるためには、当該被保護者において、不当に受給しようとする意思が必要であり、当該意思があると認定できる場合には、法第78条第1項を適用することができるものであると解するのが相当である。
 そうすると、被保護者の収入未申告等の行為が前記のように評価できる行為に当たるか否か、すなわち、当該被保護者において、不当に受給しようとする意思があると認定できるか否かについて、行為そのものが持つ不正な性質が明確で、前記のとおりの評価が直ちにできる行為については、当該行為の存在を認定することで足りるものと言えるが、行為そのものが持つ不正な性質が明確とはいえないものについては、当該行為が行われた際の具体的状況や、行為者の目的等の主観的事情をも判断要素として考慮に入れて、当該行為が法第78条第1項を適用すべき生活保護制度の悪用と評価できる行為と言えるかどうかを客観的に判断すべきものと解するのが相当である(神戸地裁平成28年(行ウ)第30号同30年2月9日判決・賃金と社会保障1740号17頁(以下「神戸地裁判決」という。)参照)。
 なお、前記第3、4、(1)、キの課長通知によると、「①保護の実施機関が被保護者に対し、届出又は申告について口頭又は文書による指示をしたにもかかわらず被保護者がこれに応じなかったとき」、「②届出又は申告に当たり明らかに作為を加えたとき」、「③届出又は申告に当たり特段の作為を加えない場合でも、保護の実施機関又はその職員が届出又は申告の内容等の不審について説明等を求めたにもかかわらずこれに応じず、又は虚偽の説明を行ったようなとき」及び「④課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」の各事情をあげ、これらは不当に受給しようとする意思に係る客観的事情であるとされていることは、上記神戸地裁判決の考え方と同旨であると考えられる。
エ.以上を踏まえ、本件未申告が「不実の申請その他不正な手段」に該当するか否かについては、まず下記(2)において、本件未申告が積極的に虚偽の事実を申告した又は消極的に本来申告すべき事実を故意に隠蔽したと言えるかについて検討し、(3)において不当に受給しようとする意思が認められるかについて検討する。
(2) 積極的に虚偽の事実を申告した又は消極的に本来申告すべき事実を故意に隠蔽したと言えるか
ア.まず、本件事件記録からは審査請求人において、積極的に虚偽の事実を申告していたと言える事実は認められない。
イ.(ア)次に、消極的に本来申告すべき事実を故意に隠蔽したと言えるかを検討するにあたり、このように言えるためには、当該被保護者において当該収入が法第61条の届出義務の対象となるべき収入に該当することを認識していた又は認識すべきであったにもかかわらずこれを申告しなかったという事実が認められるかが問題となるところ、まず審査請求人において収入申告義務の認識があったか否かを検討しなければならない。
(イ)本件事件記録によれば、審査請求人は、平成29年1月13日に、処分庁の職員より生活保護制度に関する説明を受け、「生活保護のしおり」を受け取ったことに関して署名をした事実が認められる。そして、この「生活保護のしおり」には「保護費以外の収入があればどんな収入でも、詳しく、正しく、すみやかに届け出てください。」や、「借金も収入として認定されます。借金をするとその分生活保護費が減ってしまうので、借金はしないようにしてください。」との記載があることが認められる。
 さらに、審査請求人は、平成29年2月7日には、法第61条に基づく収入申告に関する説明を受け、理解したことに関する署名・押印をした事実が認められる。
 これらの事実から、被保護者として、保護費以外の収入があれば収入申告をする必要があること、申告する必要がある収入には借入金も含まれることを平成29年2月7日以降認識していたと言えるし、各収入申告書を提出していた時点においても審査請求人は認識していたとする処分庁の認定に不合理な点は認められない。
 そして、前記で認定したとおり、本件金員は審査請求人自身によるカードローンの借入金であることからすると、本件金員が法第61条の届出義務の対象となるべき収入に該当することを認識していたにもかかわらずこれを申告しなかったという事実が認められることから、審査請求人においては、消極的に本来申告すべき事実を故意に隠蔽したと言える。
(3) 不当に受給しようとする意思が認められるか
ア.処分庁は、審査請求人においては、課長通知3-④の「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」の事情に該当すると主張するところ、平成29年2月分から令和元年10月分までの審査請求人の世帯に係る各収入申告書には本件金員に関する記載は一切されておらず、本件金員の事実は処分庁による法第29条に基づく調査により判明したという点については、審査請求人も争わないところである。
 そして、上記(2)で検討したとおり、審査請求人には、収入申告を行った時点で、本件金員が収入申告すべき収入であるとの認識も認められるところである。
 よって、課長通知3-④「課税調査等により、当該被保護者が提出した収入申告書が虚偽であることが判明したとき」に該当するとした処分庁の判断に不合理な点は認められない。
イ.課長通知3-④の事情については、行為そのものが持つ不正な性質が明確とはいえないものであるから、課長通知3-④の事情の下において、不当に受給しようとする意思を認定するためには、当該行為が行われた際の具体的状況や、行為者の目的等の主観的事情をも判断要素として考慮に入れて、当該行為が法第78条第1項を適用すべき生活保護制度の悪用と評価できる行為と言えるかどうかを客観的に判断する必要がある。
 これを本件についてみると、本件金員が審査請求人自身によるカードローンの借入金であることを前提に、本件口座の出入金記録からは、審査請求人の保護開始後の平成29年2月から令和元年10月までの期間において、継続的かつ頻繁に利用している状況が認められ、また、借入れだけではなく返済も定期的に行い、かつ、利用していた金額も多額である。そうすると、借入金を保護の実施機関に申告した場合に、保護費が減るなどの措置がとられることが審査請求人においては容易に想定できた中で、本件口座及びその利用について保護の実施機関に発覚しないよう、資産申告書において本件口座に係る申告をしなかったものと言わざるを得ない。
 さらに、保護の実施機関の調査によって本件口座及び当該口座における出入金の事実の存在が発覚した後も、第三者にカードを貸していたと保護の実施機関に対して繰り返しなされている審査請求人の陳述については、第三者にカードを貸す合理的理由のない本件の事情のもとでは、収入申告書の提出時点において自身のカードローン口座の利用を保護の実施機関に発覚されないようにする意図を推認させるものであると言える。
 このように、本件未申告に係る具体的状況や、目的等の主観的事情を判断要素として総合的に考慮すると、本件未申告は審査請求人において本件口座の発覚を隠蔽するために行った行動で、保護費を不当に受給しようとする意思を認めることができるものであることから、生活保護制度の悪用と評価できる行為と言わざるを得ない。
(4) 争点2の結論について
 以上から、審査請求人は法第78条第1項の「不実の申請その他不正な手段により保護を受けた」と言えるとした処分庁の判断に不合理な点は認められない。
6 小括
 したがって、審査請求人に係る本件金員を未申告収入として法第78条第1項の規定を適用した本件処分に違法又は不当な点は認められない。
7 本件金員の算出方法について
 なお、処分庁が採用した本件金員の算出方法(前記第3、4、(2)、アに記載の①から④の手順で算出する方法)については、カードローン取引の性質に鑑みても、処分庁の合理的な裁量の範囲内であり不合理な点はなく、当該算出方法に基づき算出した本件金員の額について誤りは認められない。
8 審査請求に係る審理手続について
 本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
9 結論
 よって、本件審査請求に理由はないと認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。
10 付言
 本件処分については当初より有効に成立しているが、本件処分の決定通知書には被処分者ではない世帯主の氏名のみ表記されており、被処分者である審査請求人の氏名の表記はない。そのため、決定通知書において被処分者が明示的に示されていなことから、決定通知書を一見しても誰が被処分者であるのかが明らかではなく、個人を特定して行う法第78条第1項に基づく徴収決定処分における被処分者の特定という点で、形式上この特定がなされていたとは言い難い。この点、当審査会として看過できない点があることから以下付言を行う。
 本件処分は、不利益処分であるところ、不利益処分とは、行政庁が特定の者を名宛人として、直接に、当該者に義務を課し、又はその権利を制限するために、当該者を相手方として行う処分であって、その処分の直接の効果として当該者が義務を負い、又は当該者の権利が制限されることになる処分である(行政手続法第2条第4号の規定も参照)。
 行政処分は、法律に特別の定めがない限り、原則として、それが相手方に告知されたときにその効力が発生するものと解されており、不利益処分については、特殊な場合を除き、当該相手方に対する通知が必要であるものと考えられるところ、書面によって通知する場合には、処分の相手方(被処分者)の氏名を明記することが必要であり、このように、処分の相手方として行政庁によって名指しされた者が前述の名宛人に当たると理解されている。
 このような理解を前提とすれば、処分の通知書に被処分者の氏名を明記することについては、不利益処分を行うに際し、行政庁が個人を特定してその者に義務を課し、又はその権利を制限することを意図していることを正確に当該処分の相手方に知らしめるという意義があるとともに、不利益処分に対する不服申立ての便宜という点でも意義があると言える。
 そうすると、個人を特定して行う不利益処分の通知書に処分の名宛人が記載されずに行われた不利益処分は、上記の処分の通知書に被処分者の氏名を明記する意義が損なわれず、さらに、被処分者において不服申立ての手続に係る不利益が生じていないと言えない限り、手続上の瑕疵がある処分といえ、当該瑕疵についてはその手続の性質上、処分を取消しうべき重大な瑕疵であるとして、違法の評価は免れないものである。
 そして、当該瑕疵が治癒されていると言えるためには、行政庁によって被処分者とされている者において不服申立ての手続に係る不利益が生じていないと言えるような事情が認められなくてはならないと解される。
 本件においては、決定通知書に、被処分者以外の世帯主の氏名のみが記載され、被処分者の氏名は明示的に記載されていなかったことは明らかであり、形式上、処分時においては違法な処分であったと言える。
 しかし、本件では、前記第5、2中の①から⑤の本件固有の事情が認められるところ、これらの事情に照らすと、審査請求人においては、本件処分が審査請求人を被処分者として特定してなされたものであること、徴収金の納入義務が自己にあることを認識しており、これを理解した上で自己の救済の方法を行使することができているものといえ、結果として、審査請求人について手続上の瑕疵による不服申立ての手続に係る不利益は生じていないと言える。
 以上から、本件処分における手続上の瑕疵は、遅くとも本件審査請求が行われるまでに治癒されていると言える。
 ただし、本件固有の事情によって少なくとも本件審査請求が行われるまでに手続上の瑕疵が治癒されているとはいっても、本件のような決定通知書の記載による徴収決定処分については、事情の如何によっては、取消しうべき違法があると評価される場合があると言わざるを得ない。
 前述のとおり、不利益処分を行うに際し、処分の通知書に被処分者の氏名を明記することの意義は、行政庁が個人を特定してその者に義務を課し、又はその権利を制限することを意図していることを正確に当該処分の相手方に知らしめるという点及び不利益処分に対する不服申立ての便宜という点にあるということの再確認を強く望む。
 その上で、法第78条第1項に基づく徴収決定における決定通知書において被処分者が明示されない様式や、被処分者又は被処分者以外の者において誤解を生じさせるような表記方法が用いられているため、これらを直ちに改める、あるいは、これらを直ちに改められないとしても、何らかの方法で決定通知書に被処分者を明示する工夫をするなど、被処分者が誰であるか決定通知書の記載自体から認識できるよう徴収決定における被処分者の表記については、強く改善を求める。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第1部会
 委員(部会長) 北川豊、委員 常谷麻子、委員 丸山敦裕

答申書(令和4年度答申第6号)

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