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答申書(令和4年度答申第8号)

2023年2月17日

ページ番号:593246

諮問番号:令和3年度諮問第25号
答申番号:令和4年度答申第8号

答申書

第1  審査会の結論
 本件審査請求の対象となった障がいの程度をB2として療育手帳を交付した処分は取り消されるべきであり、半年以内の再判定を求める請求は却下されるべきである。

第2 審査請求に至る経過
1 令和2年11月4日、審査請求人は、大阪市A区保健福祉センターにおいて、大阪市療育手帳交付規則(平成23年規則第106号。以下「規則」という。)第4条第1項に基づく、療育手帳(以下「手帳」という。)の新規交付申請を大阪市長(以下「処分庁」という。)宛てに行った。
2 令和2年11月20日、処分庁は、知的障がいの程度の判定機関である大阪市こども相談センター心理相談担当(以下「こども相談センター」という。)において、発達検査実施・行動観察及び発育歴と現況の聴取を行い、大阪市療育手帳交付要綱(以下「要綱」という。)に基づき判定手続を行った。その結果、審査請求人(判定時a歳bか月)については、発達指数は67であり、社会生活上又は行動・医療保健面であまり介助を要しない者であったことから、軽度の知的障がいと判定された。
 当該判定を踏まえ、令和2年12月21日、処分庁は、障がいの程度をB2として、手帳の交付(以下「本件処分」という。)を行った。
3 令和2年12月21日、審査請求人は、大阪市長(以下「審査庁」という。)に対し、本件処分を取り消し、障がいの程度をAと認定することを求める審査請求を提起した。

第3  審理員意見書の要旨
 本件審査請求についての審理員意見書の要旨は次のとおりである。
1  審査請求人の主張
 審査請求の趣旨は、本件処分を取り消すとの裁決を求めるものである。
 審査請求人の主張の理由の要旨は、以下のとおり。
 ①「コップ重ね、バイバイ、ちょうだい、危険予知等できていなかったのにできた事になってる」、②「言語〇、認知〇、運動〇のように発達のばらつきが大きい子は発達指数と知能指数は同じではない」、③「指さし、言語の理解、発語もなく、c才dか月に換算されるのはおかしい」、④「日常生活リスニングのすべての事象が子育ての中の困難さに含まれるのはおかしい」、⑤「a才の自傷他害が16才の子と比べたら力や影響力は違うが、16才の子を中心に考える訳ではない」、⑥「同じa才の子を比べた時に、皆目が離せず見守りが必要だが、a才児が皆、自傷、他害、危険行為を毎日する訳ではない。」、⑦「同じ年齢で見た時に、年齢を越えて、どのぐらい対人関係や行動に問題が生じているのか、医療、配慮、サポートが必要なのかを考慮して頂き再判定をして頂きたい。」ということから、療育手帳の判定B2ではなくAとの裁決及び、再検査、再判定を求める。
2  処分庁の主張
 処分庁の弁明の趣旨は、本件処分に違法又は不当な点はないことから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求めるものである。
 処分庁の弁明の理由の要旨は、以下のとおり。
 今回の手帳の新規交付に当たって、こども相談センターにおいて発達検査(新版K式発達検査2001)を実施したところ、検査で測定された発達指数は67であった。かつ、社会生活上又は行動・医療保健面であまり介助・介護を要しない者であったことから、総合的に障がいの程度が軽度であるB2と判定された。
 処分庁は、これらのことから、審査請求人からの申請について、こども相談センターにおける判定結果に基づき、当該児童における療育手帳の等級についてB2との決定を行ったものであり、本件処分に違法又は不当な点は認められない。
3  審理員意見書の結論
 本件審査請求には理由がないため、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第45条第2項の規定により、棄却されるべきである。
4  審理員意見書の理由
(1) 本件に係る法令等の規定について
ア 手帳制度は、厚生省通知「療育手帳制度について」(昭和48年9月27日発156号厚生事務次官通知。以下「通達①」という。)により定められた療育手帳制度要綱に沿って自治事務として実施されている。手帳交付対象者は、児童相談所又は知的障害者更生相談所において知的障がいであると判定された者となっており、実施主体は都道府県知事(指定都市にあっては、市長)となっている。
 大阪市においては、手帳事務の実施に当たり、規則及び要綱を制定しており、規則第6条及び要綱第3条別表(以下「要綱別表」という。)において児童福祉法(昭和22年法律第164号)第11条第1項第2号ハの判定の基準が規定されている。
 規則第2条で手帳の交付対象者及び判定機関が、同第7条で手帳の交付に関する事項が、同第8条で手帳の更新に関する事項がそれぞれ規定されている。
イ 要綱別表に定められている判定の基準は、「標準化された知能検査で測定された指数」及び「社会生活上又は行動・医療保健面で介助・介護を要する程度」の観点から定められている。
(2) 判定基準について
 療育手帳制度については、規則に基づいて実施しており、18歳未満の対象者については、規則第2条第1項において、居住区を管轄するこども相談センターを判定機関としている。判定基準については、規則第6条第1項において「市長が別に定める基準」によると定められ、障がいの程度に応じて、重度である場合がA、中度である場合がB1、軽度である場合がB2と判定される。なお、「市長が別に定める基準」は、要綱別表において定められている。
 障がいの程度が軽度であるB2の判定基準は、「知能の障がいの程度が軽度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね51以上75以下に該当)であって、社会生活上及び行動・医療保健面において、あまり介助・介護を要しない者。」とされている。また、障がいの程度が重度であるAの判定基準は、「重度障害児支援加算費について(平成24年8月20日障発第0820第3号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)2(1)又は(2)に該当する程度の障がいであって、日常生活において常時介護を要する程度の者。若しくは、知能の障がいの程度が中度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね36以上50以下に該当)であって、社会生活上又は行動・医療保健面において、かなりの介助・介護を要する者。」と定められ、2(1)は「知能指数がおおむね35以下の児童であって、次のいずれかに該当するもの。ア食事、洗面、排泄、衣服の着脱等の日常生活動作の介助を必要とし、社会生活への適応が著しく困難であること。イ頻繁なてんかん様発作又は失禁、食べられないものを口に入れる、興奮、寡動その他の問題行動を有し、監護を必要とするものであること。」(2)は「盲児(強度の弱視を含む。以下同じ。)若しくはろうあ児(強度の難聴を含む。以下同じ。)又は肢体不自由児であって、知能指数がおおむね50以下と判定されたもの。」とされている。
(3) 今回の判定について
 今回の療育手帳新規交付に当たっては、発達検査(新版K式発達検査2001)を実施し、検査で測定された発達指数は67であり、かつ、社会生活上及び行動・医療保健面において、あまり介助・介護を要しない者であったことから、障がいの程度が軽度であるB2と判定した。
ア 発達検査について
 令和2年11月20日にこども相談センターにおいて実施した新版K式発達検査2001は、相談機関や医療機関で児童の知的能力のアセスメントに用いられる代表的な検査法であり、近隣府市児童相談所での療育手帳判定を含め一般的に用いられる発達検査である。標準化された発達検査は、標準化された知能検査と同等に知能の程度を測定するものと考えられており、発達検査の中でも、新版K式発達検査2001は0歳から成人までと適応範囲が広い。この汎用性の高い発達検査を用いることで、公平かつ一貫した適正な評価ができると考えられることから、大阪市のこども相談センターでの療育手帳判定では、新版K式発達検査2001が用いられる。今回実施した検査内容や結果についても、新版K式発達検査2001の検査技法に則り適切に実施された。
イ 行動観察
 審査請求人は受付時には泣き叫んでいる。待合で待っているときは落ち着いて座っていたが、児童心理司(以下「心理司」という。)が挨拶して面接室へ移動しようとすると再び泣き叫んでいた。面接室に入ると、机の上の積木に興味を示して着席し、積木に手を伸ばして積み始める。検査を実施、検査道具には興味を示して取り組んでいた。興味が向かない課題では机の上に登って検査カバンを気にしているようであった。また、できたと感じた課題では心理司の方を見て手を叩いてアピールしていた。検査後は主に積木で遊ぶ。積木をたくさん積んだり、部屋内を走り回って過ごしている。検査中はほぼ発声がなかったが、検査後の自由遊びではキャッキャッと発声することも時折見られた。母から生育歴と現況を聴取している時に父と妹が来室し、バギーに乗っていた妹を父が膝に乗せると、それを見ていた審査請求人が父の所に寄って妹をどかそうとしていた。妹を母が抱っこするようにしたが、少しすると父の所から離れて遊び始めていた。結果説明を待つ間は、父のスマートフォンで動画を見ていた。再度面接室へ移動を促すために父がスマートフォンを取り上げると泣いて地面に寝転んで突っ伏して、面接室への移動は拒否していた。最終的に父が抱っこで入室するが、その際は特に癇癪を起してはいなかった。結果説明時は動画の続きをじっと見て待っている。動画が終わると、父をスマートフォンで叩いて次の動画を見せるように訴えていた。検査時は見られなかったが、時間がたつにつれて検査道具を口に入れることが見られるようになってきた。退室時はバギーに乗ることに抵抗はなく、面接室を出る際は、後ろにいる心理司の方を振り返って見ていた。
ウ 社会生活上又は行動・医療保健面で「あまり介助・介護を要しない者」とする判定について
 自閉症スペクトラム障がい等、他の精神障がいの診断を併せ持っているかどうかにかかわらず、知的障がいに加え、(中略)場合に「社会生活上又は行動・医療保健面において、かなり介助・介護を要する者」と判定される。
 また、知的障がいの水準を超える行動上の問題、対人関係に関する問題、その他情緒面の問題がみられるが、概ね日常的な支援によって対応できる状態の場合には「社会生活上及び行動・医療保健面において、あまり介助・介護を要しない者」と判定される。
 今回の判定における聴取から、(中略)と評価している。
 母からの令和2年11月20日の聴取内容及び令和2年11月24日に受理した意見書では、「多動性あり落ち着きがなくじっとしていられない、待っていられない」、「父母妹噛んだり頭突き、毛をつかんだり、顔体をつねる、首しめる、自傷行為(頭叩く、ヘッドバンギング)日常的」、「頭突きや噛んだりや叩いたり、つねったり、蹴ったり、髪をむしったり、首を絞めたり等の他傷行為があるため人とのかかわりが難しい。ひどいこだわりやパニック状態を繰り返し大暴れするため自分で頭を強打する。内反足で転倒しやすい。著しい多動や飛び出しなどの問題行動が絶え間なく危険察知能力も無いため常時目が離せない。毎日ヘッドバンギング等の自傷行為をするため日常生活が困難。偏食少食で環境が変わるとそれも一切受け付けなくなる。聴覚過敏でよく耳を塞いでいる。」とされている。
 ここでは、行動上の問題、対人関係上の問題、情緒面の問題が述べられており、支援が必要な状況であると考えられる。しかし、生活年齢a歳の児童は〇〇を含めて常時大人の監護を要するものであり、審査請求人の知能の障がいの程度としての発達検査結果が、発達年齢c歳dヵ月程度の水準であることを鑑みると、なおさら日常生活の上では常時大人の監護が必要となる。行動観察から、発達検査時の審査請求人と心理司、発育歴・現況聴取時及び結果説明時の審査請求人と保護者とのやり取りの状況を踏まえると、本児の問題行動は大人が通常の監護の対応をすることで止められる範囲であると考えられ、知的障がいの水準を超える行動上の問題、対人関係に関する問題、その他情緒面の問題がみられるが、概ね日常的な支援によって対応できる状態であると判断できることから、「社会生活上及び行動・医療保健面において、あまり介助・介護を要しない者」と判定した。
 以上より、本児は療育手帳B2該当と判定された。
(4) 審査請求人の主張理由にかかる見解について
 「コップ重ね、バイバイ、危険予知等できていなかったのにできた事になってる」について、「コップ重ね」、「バイバイ」は新版K式発達検査2001の検査項目にある(中略)と評価している。
 〇〇は、新版K式発達検査2001の認知・適応領域の(中略)となっている。
 「言語〇、認知〇、運動〇のように発達のばらつきが大きい子は発達指数と知能指数は同じではない」、「指さし、言語の理解、発語もなく、c才dか月に換算されるのはおかしい」については、上記(3)アにて述べたとおりである。
 「日常生活リスニングのすべての事象が子育ての中の困難さに含まれるのはおかしい」、「a才の自傷他害が16才の子と比べたら力や影響力は違うが、16才の子を中心に考える訳ではない」、「同じa才の子を比べた時に、皆目が離せず見守りが必要だが、a才児が皆、自傷、他害、危険行為を毎日する訳ではない。」については、(3)ウで述べたとおりである。
 「同じ年齢で見たときに、年齢を越えて、どのぐらい対人関係や行動に問題が生じているのか、医療、配慮、サポートが必要なのかを考慮して頂き再判定をして頂きたい。」については、上記(3)に述べたとおり、今回の療育手帳判定は、知能の障がいの程度、及び社会生活上及び行動・医療保健面での介助・介護の必要を評価した上での結果である。
(5) 再判定の実施について
 規則第8条第2項において、「手帳の交付を受けた者(以下「被交付者」という。)又はその保護者は、手帳の交付後、被交付者の知的障害の程度に著しい変化が生じたときは、手帳の更新の手続きを執ることができる」と定められている。知的障がいの程度の著しい変化とは、知能の障がいの程度の著しい変化及び社会生活上又は行動・医療保健面での介助・介護の必要の著しい変化が認められる場合と解される。
 社会生活上又は行動・医療保健面での介助・介護の必要については、養育者や環境との相互作用等によりその時々の状況に応じての変動が大きい。他方、児童の知能の障がいの程度は疾病上の状況や事故等の外的要因が新たに発生しない限りは頻繁に変動するものではなく、通常考えられるのは児童期の成長発達に伴う変化であるから、日々変動する可能性のある社会生活上又は行動・医療保健面での介助・介護の必要を知能の障がいの程度の変化の確認とともに適正に判定するためには、一定期間を経たのちに再判定を実施することが妥当であると考えられる。
 知能の障がいの程度の著しい変化の有無の判定、あるいは児童期の成長発達に伴う知能の障がいの程度の変化の有無の判定においては、判定の一貫性を担保するため、同じ発達検査を実施することを基本とする。保護者の希望に応じて検査の種類を変更することは、判断の公平性を欠くおそれがあることから原則行っていない。発達検査の中には、繰り返しの実施により練習効果がみられる可能性のある課題も含まれており、頻繁な発達検査実施は、発達指数の妥当性を下げるおそれがあるため望ましくない。以上の理由により、再判定の実施には、大阪市のこども相談センターでは、発達検査実施に1年以上の間隔をおくことが児童期の成長発達に伴う知能の障がいの程度の変化の有無を確認するために必要となる期間設定であるとの運用を行っている。これにより、判定の一貫性、公平性及び妥当性が確保されている。
 審査請求人の趣旨によれば、「障害悪化により1年後ではなく早期(半年以内)の再判定を求める」とされている。ここでいう「障害悪化」とは、添付資料より、社会生活上又は行動・医療保健面での介助・介護の必要が増大した状況を指しているものと解される。しかし、今回の判定時にすでに検討した社会生活上又は行動・医療保健面での介助・介護の必要の内容が、日々の環境との相互作用の中での変動と言い得る範囲で持続していると考えられることから、本児の成長発達に伴う知能の障がいの程度の変化の有無を確認するためには、再判定は発達検査実施日の1年後以降に行うという通常の運用での対応に合理性があると考えられる。
(6) 本件に係る障がいの程度の判定について
 本件は、審査請求人が規則第4条第1項に規定されている新規交付の申請を令和2年11月4日に行ったものである。
 申請に基づき、こども相談センターにおいて、審査請求人の発達検査(新版K式発達検査2001)を実施した。当該発達検査は、相談機関や医療機関で児童の知的能力のアセスメントに用いられる代表的な検査方法であり、近隣府市児童相談所での療育手帳判定を含め一般的に用いられる発達検査である。標準化された発達検査は、標準化された知能検査と同等に知能の程度を測定するものと考えられており、発達検査の中でも、新版K式発達検査2001は0歳から成人までと適用範囲が広い。この汎用性の高い発達検査を用いることで、公平かつ一貫した適正な評価ができると考えられることから、こども相談センターでの療育手帳判定では、新版K式発達検査2001が用いられている。
 併せて、こども相談センターにおいて、父母から審査請求人の行動観察及び発育歴と現況を聴取すると共に、審査請求人の行動観察を行っている。(略)と評価している。
 これらを踏まえ、こども相談センターは、審査請求人について知能の障がいが軽度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね51以上75以下に該当)であって、社会生活上又は行動・医療保健面であまり介助・介護を要しない者と認め、障がいの程度を軽度であるB2と判定した。
 処分庁は、当該判定結果に基づき、障がいの程度をB2とする手帳の交付決定をしたものであり、かかる処分庁の判断に、違法、不当な点は認められない。
(7) 上記以外の違法性又は不当性についての検討
 本件処分に関し、他に違法又は不当な点は認められない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は、本件審査請求について、次のとおり調査審議を行った。
  令和4年3月31日 諮問書の受理
  令和4年4月22日 審査庁からの主張書面の収受
  令和4年4月27日 調査審議
  令和4年6月7日 調査審議
  令和4年6月23日 調査審議
  令和4年6月30日 調査審議(審査庁による口頭説明・処分庁による陳述)
  令和4年7月25日 調査審議
  令和4年9月9日 調査審議
  令和4年9月30日 調査審議
  令和4年10月18日 調査審議
  令和4年10月31日 審査庁からの主張書面の収受
  令和4年11月15日 調査審議
  令和4年11月21日 調査審議(審査庁による口頭説明・処分庁による陳述)
  令和4年11月29日 調査審議
  令和4年12月20日 調査審議
  令和5年1月13日 調査審議

第5  審査会の判断
1 本件に係る法令等の規定について
(1) 第3、4、(1)への追加について
 第3、4、(1)の記載に加えて、以下のような法令等がある。
ア 法律
 知的障害者福祉法第2条第1項は、「国及び地方公共団体は、前条に規定する理念が実現されるように配慮して、知的障害者の福祉について国民の理解を深めるとともに、知的障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するための援助と必要な保護(以下「更生援護」という。)の実施に努めなければならない。」と規定している。
 児童福祉法第11条第1項第2号ハは、「児童及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を行うこと。」と規定している。
 行政手続法(平成5年法律第88号)第5条第3項は、「行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。」と規定している。
イ 通達
 第3、4、(1)、アの記載の通り、手帳制度は、通達①により定められた療育手帳制度要綱に沿って自治事務として実施されており、同要綱は、「第1 目的」として、「この制度は、知的障害児(者)に対して一貫した指導・相談を行うとともに、これらの者に対する各種の援助措置を受けやすくするため、知的障害児(者)に手帳を交付し、もって知的障害児(者)の福祉の増進に資することを目的とする。」と定め、その他、交付対象者、実施主体、手帳の名称及び記載事項、手帳の交付手続等を明らかにしている。
 加えて、厚生省児童家庭局長が要綱と同日付けで「療育手帳制度の実施について」(児発第725号。以下「通達②」という。)と題する通知を発出し、「第1 療育手帳の活用」として、「1 療育手帳のねらいの一つは、知的障害児及び知的障害者(以下「知的障害者」という)に対して、一貫した指導・相談等が行われるようにすることにあるので、指導・相談等を行う機関に対し、療育手帳の趣旨を十分徹底するとともに、指導・相談等を行った場合は、療育に参考となる事項を手帳に記録するよう指導されたい。あわせて、保護者等に対しても、指導・相談等を受ける場合は、必ず療育手帳を提示するよう指導されたい。 2 知的障害者に対する援助措置として次に例示するようなものがあるが、 これらの援助措置を受け易くすることも療育手帳のもう一つのねらいである。これらの援助措置を受ける場合には必ず療育手帳を提示するよう保護者等を指導するとともに、関係機関と十分協議のうえ療育手帳の提示があった時は、療育手帳により資格の確認等を行いすみやかにこれらの援助措置がとられるよう措置されたい。(以下略)」と示し、「第3 障害の程度の判定」として、「1 障害の程度は、次の基準により重度とその他に区分するものとし、療育手帳の障害の程度の記載欄には、重度の場合は「A」と、その他の場合は「B」と表示するものとする。 (1) 重度 18歳未満の者 平成24年8月20日障発0820第3号(「重度障害児支援加算費について」)の2対象となる措置児童等についての(1)又は(2)に該当する程度の障害であって、日常生活において常時介護を要する程度のもの 18歳以上の者 昭和43年7月3日児発第422号児童家庭局長通知(「重度知的障害者収容棟の設備及び運営について」)の1の(1)に該当する程度の障害であって、日常生活において常時介護を要する程度のもの (注)前記通知の解釈にあたっては、知能指数が50以下とされている肢体不自由、盲、ろうあ等の障害を有する者の身体障害の程度は、身体障害者福祉法に基づく障害等級が1級 2級又は3級に該当するものとする。 (2)その他 (1)に該当するもの以外の程度のもの 2 障害の程度の区分については、1に定める区分のほか中度等の他の区分を定めることもさしつかえないものとする。 3 障害の程度については、交付後も確認する必要があるので、その必要な次の判定年月を指定するものとする。なお、次の障害の程度の確認の時期は、原則として2年後とするが、障害の状況からみて、2年を超える期間ののち確認を行ってさしつかえないと認められる場合は、その時期を指定してもさしつかえないものとする。」と示している。その他、交付手続等の制度内容の詳細を示している。
ウ 裁判例
 療育手帳の認定に係る処分性の判断の中で、東京高裁平成13年(行コ)第49号同年6月26日判決・裁判所ウェブサイト(以下「東京高判」という。)は、「知的障害者に対して、その障害の程度に応じた合理的な援助措置を講じるためには、知的障害者の認定手続制度の存在は不可欠であるというべきであること、身体障害者、精神障害者については、いずれも法律に手帳制度が規定されているが、知的障害者の場合には、これを不要とする合理的な理由がないことに鑑みても、知的障害者福祉法は、知的障害者の認定手続の創設を行政機関に委ねたものと解すべき」であるとして、療育手帳制度要綱に基づく療育手帳制度について、「知的障害者福祉法が予定している知的障害者の認定制度である」と判示している。また、療育手帳制度要綱において、療育手帳制度は、「知的障害児(者)に対して 一貫した指導・相談を行うとともに、これらの者に対する各種の援助措置を受け易くするため、知的障害児(者)に療育手帳を交付し、もって知的障害児(者)の福祉の増進に資することを目的とする」とされているところ、東京高判は、療育手帳の交付について、「一旦療育手帳の交付を受ければ、個々の援助措置ごとに知的障害者である旨の認定を受ける必要がなく、知的障害者福祉法に基づく知的障害者としての地位、障害の程度が公証されるとともに、障害の程度に応じた統一的な援助措置を受けることができるという地位を付与されるもので、その意味で、療育手帳の交付は、諸々の福祉措置を知的障害者に付与するために必要な一連の手続のいわば要というべきものである」と判示している。
エ 内規
 内規として、療育手帳判定ガイドライン(18歳未満)(以下「ガイドライン」という。)がある。
 ガイドラインについては、審査基準(行政手続法第5条)である要綱別表の内容についてさらに具体化したものであるが、公開すると客観的かつ正確な判定が困難になるとして非公表とされているものである。
 ガイドラインには、以下のような記述が認められる。
 「1 療育手帳の判定」については、「1-1 知的機能の障がいの程度」として、「原則として標準化された知能検査により測定された知能指数または発達検査により測定された発達指数に基づいて評価する。」とされている。
 (以下略)
2 争点について
 審査請求人及び処分庁の主張と事件記録から認定できる事実や審査会が職権で調査した事実を踏まえると、本件審査請求における争点は次の通りである。なお、第3、「1 審査請求人の主張」の「審査請求の趣旨」では触れられていないが、審査請求人は、補正書の「審査請求人(ママ)の趣旨」にて、「療育手帳の判定B2ではなくAとの裁決及び、障害悪化により1年後ではなく早期(半年以内)の再判定を求める。」と記載している。
(1) 要綱及びガイドラインの合理性(争点1)
(2) 上記要綱及びガイドラインに従って行った判定手続に違法又は不当な点があるか否か(争点2)
(3) 上記要綱及びガイドラインに従いB2とした判断に違法又は不当な点があるか否か(争点3)
(4) 半年以内の再判定を行わないことの適否(争点4)
3 争点に係る審査会の判断について
(1) 争点1について
 まず、前提として、療育手帳制度は、第3、4、(1)、ア及び第5、1、(1)の通り、知的障がい者に対する援助等必要な保護の実施を行うことを求める知的障害者福祉法第2条第1項の趣旨に基づき、通達①により定められた療育手帳制度要綱に沿って自治事務として実施されている制度であり、実施するか否かや実施内容については、各自治体の裁量に委ねられていると言える(現に、審査会において確認したところにおいても、要件は自治体により異なる。)。よって、処分庁には、当該自治体における療育手帳制度をどのような制度とするかについて広範な裁量が認められるのであり、知的障害者福祉法の趣旨に反していたり(例えば、知的障がいとまったく関係のない事実を主たる考慮要素としているような場合に趣旨に反すると言える。)、これらが規則に反していたりした場合に不合理なものとなると解される。
 そこで、以下検討する。
ア 要綱について
 規則第2条では、「対象者」として、「知的障害があると判定されたもの」とされており、規則第6条第2項では、「障害の程度が重度である場合 A」、「障害の程度が中度である場合 B1」、「障害の程度が軽度である場合 B2」とされている。
 要綱別表は、規則の「障がいの程度」を「知能の障がいの程度」と「介助・介護の必要度」から判定すると定めるもので、その内容は、通達②の「第3 障害の程度の判定」に準拠したものであり、知的障害者福祉法の趣旨や規則に反するものとは言えない。
 その他、要綱について、知的障害者福祉法の趣旨や規則に反するようなところはない。
イ ガイドラインについて
 ガイドラインは、こども相談センターが、要綱別表に基づき判定を行うための非公表の審査基準である(要綱第3条第3項)。
 ガイドラインでは、「1-1 知的機能の障がいの程度」において、「原則として標準化された知能検査により測定された知能指数または発達検査により測定された発達指数に基づいて評価する。」とされている。
 この点、要綱別表においては、「標準化された知能検査で測定された指数」とあるのに対し、ガイドラインでは、「または発達検査により測定された発達指数」が追加されており、一見すると、上記により合理性が肯定されるところの要綱と齟齬があるようにも見える。
 そこで、審査会において、「大阪市において、知能検査ではなく発達検査を行っているのはなぜか。また、仮に、本件において知能検査を行っても、ほぼ同様の数値になるとの理解か。」と尋ねたところ、審査庁の口頭説明によれば、「標準化された発達検査によって測定される発達指数は、標準化された知能検査によって測定される知能指数と同等であると説明できること、また、0歳から18 歳未満のすべての対象児童に適用できるということで、一貫性・公平性を確保した療育手帳判定を可能とするため、発達検査を採用している。」とのことであり、高石浩一ほか編『心理学学習 応用編』(培風館)においても、「K式発達検査」について、「発達検査のジャンルに入っているが、ビネー式と肩を並べるほど使用されることが多くなり、関西だけでなく全国的に広まりつつある。乳幼児に関しては知能検査と遜色ない結果を示すものとして、利用率が高い。」とされているところである。
 よって、上記の要綱との齟齬は、ガイドラインの合理性を否定する根拠となるとまでは言えない。なお、後記付言(1)において言及しているように、ガイドラインで「発達検査により測定された発達指数」を許容している以上、その旨要綱に記載を行うことが望ましいと考える。
 その他、ガイドラインについて、知的障害者福祉法の趣旨や規則に反するようなところはない。
(2) 争点2について
 手続面について、審査請求人から違法又は不当との主張があったわけではないが、事件記録によれば、審査請求人は、判定時に、令和2年12月6日付けこども相談センター所長宛て質問票において(事件記録から、審査請求人よりこども相談センター宛てファクシミリにて送信され、こども相談センターが令和2年12月7日に受信したものと認められる。)、「⑲大阪市が定めている療育手帳判定基準において生活、行動、医療保健面全てにおいて重度Aに該当していると思われるが、軽度に判定された明確な判定基準があれば提示することはできるか?」との質問を行っており、これは審査基準の提示を求めているものと認められることから、その点について、以下職権にて検討を行うこととする。
ア 行政手続法に反する手続的瑕疵があったか否かについて
(ア)行政手続法第5条第1項違反があったか否かについて
 前提として、行政手続法第5条第3項は、「行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。」と規定しており、申請先行政庁が審査基準を公にする義務を定めている。
 ここで、まず、ガイドラインが審査基準に該当するか否かが問題となるが、審査基準に該当するか否かは作成者の意図にかかわらず客観的に判断されるものであり、上記(1)、イのとおり、本ガイドラインはこども相談センターが要綱別表に基づき知的障がいの程度の判定を行うために作成され、処分庁陳述によれば、現に判定にあたって用いられているとのことであるから、本ガイドラインは審査基準に該当すると言える。
 次に、審査請求人に対し、「公に」されたか否かが問題となるが、「公にしておかなければならない」とは、一般財団法人行政管理研究センター『逐条解説 行政手続法 改正行審法対応版』136頁(ぎょうせい、第3刷、平成29年)によれば、「申請をしようとする者あるいは申請者に対し、審査基準を秘密にしないとの趣旨である(対外的に積極的に周知することまで義務付けるものではない。)」とされている(東京高判平成13年6月14日判時1757号51頁も参照)。
 本件では、そもそも審査庁は、ガイドラインを審査請求人へ送付すること等の可否に関する当審査会からの求めに対する主張書面において、「ガイドラインが閲覧された場合、判定機関において客観的かつ正確な判定を困難にするおそれがあるため、大阪市情報公開条例第7条第1項第5号に基づき、審査請求人への写し等の送付は適当でない」と主張しており、審査請求人にガイドラインが提示されたとは認められない。
 最後に、本件ガイドラインを「公に」することについて、「行政上特別の支障があるとき」に該当するか否かが問題となるが、高木光ほか『条解 行政手続法』166頁(弘文堂、第2版、平成29年)によれば、「単に行政がやり難くなるといった事情は含まれない」とされている(大阪地裁平成10年(行ウ)62号・同12年(ワ)8897号同14年6月28日判決・裁判所ウェブサイト参照)。それを踏まえ、職権で、審査庁に主張書面を求めたり、審査庁説明・処分庁陳述において確認したりしたところ、「行政上特別の支障」について、審査庁からも、処分庁からも、「行政がやり難くなる」旨以上の主張は示されなかった。
 よって、判定時に、審査請求人から「軽度に判定された明確な判定基準があれば提示する」よう求められたにもかかわらず、審査基準であるガイドラインを定めていながら提示しなかったことは、行政手続法第5条第3項に違反し、本件処分には手続的瑕疵が認められる。
(イ)取消事由該当性について
 上記(ア)記載の通り、本件には行政手続法違反の手続的瑕疵が認められるが、次に当該瑕疵が処分に与える法的効力が問題となる。この点については、手続の重要性や違反の内容に照らして手続的瑕疵の程度を検討し、当該瑕疵が処分の取消事由に該当すると言えるか否かを判断する必要がある。
 この点、審査基準を設定し公にすることは、処分庁の実体的な判断の適正を確保する点、かつ基準通りの審査がされるものと考える申請者の信頼を保護し、もって申請者の手続的権利を保護する点に趣旨があり、極めて重要な手続といえる。一方、本件手続的瑕疵は、審査基準の提示を求められたにもかかわらず、これを公にしなかったというものであり、処分庁の判断にとってガイドラインが果たす役割の重要性に鑑みると、要綱が別途公表されていることを考慮してもなお、重要な手続に係る看過し難い違反と考えられる。したがって、原則として当該瑕疵をもって処分の取消事由に該当すると考えるべきである。
 もっとも、申請に対する審査に際し、公にしていなかった審査基準の内容に沿って適切な聞き取りがなされ、申請者としても十分な主張と証拠の提出の機会が保障されているような場合には、形式的には審査基準を提示していなくても、実質的にはこれを提示したものと解し、上記公にしなかった点の手続的瑕疵の程度が幾分低減すると解する余地もあると考えられる。そして、そのような場合には、審査基準を公にしなかったことが結果に影響を与える可能性があると認められる場合に、当該瑕疵は処分の取消事由に該当すると考えるべきである(最高裁昭和40年(行ツ)第101号同46年10月28日第一小法廷判決・民集25巻7号1037頁、最高裁昭和42年(行ツ)第84号同50年5月29日第一小法廷判決・民集29巻5号662頁参照。)。
 そこで、本件において、介助・介護の必要度の判定がどのような手続(聴取体制)でなされたかについて職権で確認したところ、処分庁の陳述によれば、「〔生活状況を聴取し判定を行っているが、ガイドラインの〕介護度の基準の項目そのものを〔検査対象者の保護者に〕ご質問するという形で生活状況聴取を行っておりません」(〔〕内審査会補足)とのことであった。
 よって、上記(ア)記載の瑕疵が低減されたとの事情も認められない。
イ 結論
 以上より、本件処分には重要な手続への違反が認められ、その手続的瑕疵の程度も著しいものと言わざるを得ず、本件処分は当該瑕疵を理由に取り消されるべきである。
 なお、仮に結果への影響の有無を検討するとしても、本件においては後述の通り、審査請求人がBに該当する可能性が全くなかったとは言えないのであり、ガイドラインを公にしたり、ガイドラインの項目に沿った適切な聴取体制を採ったりしていれば異なる結論に至った可能性は否定できない。したがって、取消事由該当性の判断方法についてどのように考えるとしても、本件処分は取り消されるべきと考える。
(3) 争点3について
 上記(2)のとおり、本件処分は、手続的瑕疵によって取り消されるべきものであるが、上記(2)、ア、(イ)の本件における介助・介護の必要度の判定に関する手続について、以下、実体面についても検討する。
 まず、前提として、上記1、(1)、エの通り、18歳未満の者に係る手帳の等級については、(ア)知的機能の障がいの程度、(イ)介助・介護の必要度及び(ウ)〇〇から判定されていることが認められ、上記3、(1)で検討したとおり、その点に不合理な点はない。
 そこで、本件で障がいの程度をB2とした判断過程についての適否について以下検討する。
ア 知的機能の障がいの程度について
(ア)判定方法について
 本件では、審査請求人に対し、新版K式発達検査2001を用いて発達検査がなされたとのことである。
 そこで、新版K式発達検査2001が「標準化」(検査を実施した結果得られた得点をその検査で測定している能力と結びつけて解釈できるように特定の集団を基準としてその中で相対的に位置づけられた尺度得点に変換して表わす手続をいう。以下同)されているか否かが問題となるが、生澤雅夫ほか編『新版K式発達検査2001 実施手引書』1頁(京都国際社会福祉センター)によれば、「1970年代に入って、再標準化を含めて大規模な第5次改訂作業が計画された。1980(昭和55)年には、3カ月児から10歳までの尺度を備えた検査の標準化作業が完了し、『新版K式発達検査』(Kyoto Scale of Psychogical(ママ) Development)として公表された。」(なお、本件検査に用いられた「新版K式発達検査2001」では、適用年齢は成人まで拡張されている。)とされており、標準化されていると言える。
 そこで、以下、本件判定が上記判定方法に則り、適切に評価されたかについて検討する。
(イ)本件判定の適否について
 本件では、令和2年11月20日に、こども相談センターにおいて、新版K式発達検査2001を用いた検査が行われたとのことであり、通達①記載の判定機関にて行われていることが認められる。また、その記録も、被検者に課題を行ってもらい当該課題ができたか否かを、訓練を受けた検査者が記載したものであることから、事実誤認や評価の誤りがあったとは考え難い。
 それを前提に、処分庁提出資料の中の新版K式発達検査2001の検査結果を見ると、(中略)にそれぞれ加算・減算すると、姿勢・運動は〇点、認知・適応は〇点、言語・社会は〇点となる。それらの合計点は〇点であり、実施手引書の付表8に当てはめれば発達年齢は〇日となり、それを付表6に当てはめればc歳dか月となる。
 よって、発達年齢の算出に誤りは認められない。
 審査請求人の生年月日から算出すると、審査請求人の判定時の生活年齢はa歳bか月である。
 そうすると、発達指数は、
発達年齢÷生活年齢×100
で算出され、本件審査請求人の発達年齢c歳dか月、判定時の生活年齢a歳bか月を代入すると、
〇÷〇×100=67(小数点以下四捨五入)
となることから、知的機能の障がいの程度は、「知能または発達指数51以上概ね75以下」に該当する。
イ 介助・介護の必要度について
(ア)判定方法について
 介助・介護の必要度は、上記1記載の通り、「行動面」と「医療・保健面」の両者の観点から判定されるものであり、審査請求人はeと判定されているところである。
 そして、介助・介護の必要度の「行動面」については、Bであるか否かが決め手となっており、Bであるか否かは、(中略)によって客観的に判定されるべきものである。
 そこで、以下、本件判定が判定方法に則り、適切に評価されたかについて検討する。
(イ)本件判定の適否について
 本件では、令和2年11月20日に審査請求人の行動観察がされ、母親から発育歴と現況についての聴取が実施されている。さらに、同月24日に母が持参した意見書を基に、12月1日に心理司による判定会議を実施し、介助・介護の必要について介護度はeと判定されている。
 審査会から、処分庁に対し「本件では、介助・介護の必要度はeとの判定であるが、どのような事実をもとに、どのような基準を当てはめてeと判定されたのか。」と確認したところ、処分庁陳述によれば、社会生活上および行動・医療保健面での介助・介護の必要度について、「上記の通り検討し、具体的には、(中略)、介助・介護の必要度はeと判断した。」とのことであった。また、審査会から処分庁に対しさらに確認したところ、上記(2)、ア、(イ)の通り、「〔生活状況を聴取し判定を行っているが、ガイドラインの〕介護度の基準の項目そのものを〔検査対象者の保護者等に〕ご質問するという形で生活状況聴取を行っておりません」(〔〕内審査会補足)とのことであった。
 しかし、前記イ、(ア)のとおり、Bであるか否かは、(中略)によって客観的に判定されるべきものである。そのため問題行動の頻度については、1か月にわたって直接行動観察を行うのでない限り、検査対象者本人あるいは、検査対象者の様子を把握している者に確認することが求められる。
 本件において審査請求人は、障がい児通所受給者証において、令和2年11月9日から令和3年8月31日の間で、Bによる加算が認められている。また、特別児童扶養手当認定診断書における「現症」の記載においても、(中略)との所見が示されている。療育手帳の判定においては、上記『障がい児通所受給者証』の決定内容については考慮対象としていない(処分庁陳述)としても、少なくとも上記所見等の事実から、審査請求人についてBに該当する可能性がうかがえる。このため、処分庁が、検査対象者の保護者等に対しガイドラインに沿った聴取をし問題行動の頻度等について確認をしていれば、異なる判定結果に至った可能性を捨てきれない。
 処分庁の本件判定においては、こども相談センターにおいて、検査対象者の保護者等に問題行動の頻度等についての確認を行っていなかったことにより、強度行動障がいの認定にかかる聴取は不十分であったといえ、適切な判定がなされたとは認められない。
ウ 障がいの程度について
 上記イの判定の適否に疑義が残る以上、審査請求人の「障がいの程度」は、「2-1 軽度」の「知能もしくは発達指数が51以上概ね75以下であって、(中略)と評価された児童を軽度とする。」に該当するとの処分庁の判断は、適切なものとは言い切れない。
エ 結論
 以上より、介助・介護の必要度の「行動面」についての処分庁の判定は、考慮すべき事項を十分に考慮したものとは言えない。
 よって、本件処分には考慮すべき事項を考慮していない違法があると言え、実体面からも取り消されるべきである。
(4) 争点4について
 まず、次回判定年月の法的位置付けが問題となるが、審査請求人に交付された手帳によれば、「次の判定年月」は、「令和05年08月」とされている。すると、次回判定年月は、手帳の有効期限を示す附款と考えられる。
 次回判定については、事件記録によれば、「1年後以降であれば早めの更新という形で検査の(ママ)予約していただくことは可能。基本的には今回同様、発達検査の結果に基づいて判断していくことになる。」とのことである。
 そうであれば、手帳の次回判定年月の記載は、附款であるとしても、それ以前の更新を否定するものではなく、判定の1年後以降に更新を申請しない場合の有効期限を示すものと考えられる。
 そこで、問題となるのが、「1年後以降」との点であるが、これについては、処分庁陳述において、審査会から「1年より早く再判定することはありうるのか」と確認したところ、「行っていない。〔頻繁な発達検査実施は、発達指数の妥当性を下げるおそれがあるため〕検査と検査の間を1年とするという運用。」(〔〕内審査会補足)とのことであった。
 この点については、規則第8条第2項の「手帳の交付を受けた者(以下「被交付者」という。)又はその保護者は、手帳の交付後、被交付者の知的障害の程度に著しい変化が生じたときは、手帳の更新の手続を執ることができる。」との関係が問題となる。
 しかし、本件においては、答申時点において、審査請求人の発達検査が実施された令和2年11月20日の1年後である令和3年11月20日を経過しているところであり、審査請求人が発達検査を申し出れば、再度の判定を受けることが可能である。
 よって、再判定を求める不服申立ての利益を欠くことから、その適否にかかわらず、却下が適当である。
4 その他
 本件処分に関し、上記3で触れている点以外について、違法又は不当な点は認められない。
 また、本件審査請求に係る審理手続について、違法又は不当な点は認められない。
5 結論
 よって、本件審査請求に理由があると認められるので、当審査会は、第1記載のとおり判断する。
6 付言
(1) 要綱への発達検査の記載について
 本答申の時点の大阪市の要綱別表では、「知能の障がいの程度が中度(標準化された知能検査で測定された指数が概ね36以上50以下に該当)」といった記載となっており、知能の障がいの程度は知能検査により測定を行うように読めるが、ガイドラインでは「原則として標準化された知能検査により測定された知能指数または発達検査により測定された発達指数に基づいて評価する。」とされ、実際の運用としては、主として「新版K式発達検査2001」、つまり、発達検査で測定が行われているとのことである。
 「知能検査」に替えて「発達検査」を用いることそのものは、当該発達検査が代替性を有する限り、上記3、(1)、イで述べた通り不合理とまでは言えないが、一般的には、知能検査と発達検査は別の検査と考えられるものであり、市民に無用な誤解を与えないためにも、要綱別表への記載については、「標準化された知能検査又は発達検査で測定された指数が」とすることが望ましいと考える。
 なお、堺市療育手帳に関する要綱第7条に規定する判定基準では、「標準化された知能検査又は発達検査によって測定された知能指数又は発達指数が、おおむね35以下の者で、社会生活を営む能力が中度以上であって、行動及び医療保健などで若干の介助及び介護を要するもの。」等と記載されている点も参考にされたい。
(2) ガイドラインの提示について
 ガイドラインについては、処分庁が審査請求人に提示すべきものであることは、上記3、(2)、アの通りであるが、審査庁からは、行政不服審査法第81条第3項において準用する第78条第2項及び大阪市行政不服審査会運営要領第10条第2項に基づく意見として、ガイドライン中の大部分について、大阪市情報公開条例第7条第1項第5号アに基づき「適当ではない」との意見が付されているところである。
 この点、審査基準の提示を行うか否かの1次的な判断権は処分庁にあると考える。
 そこで、本答申をするに当たっても、審査会からガイドラインの内容を明らかにすることは適当でないと考え、網掛け部分については黒塗りにした上で、行政不服審査法第81条第3項において準用する第79条に基づき、審査請求人に写しの送付を行うこととする(網掛け部分以外については、そもそも、「客観的かつ正確な判定を困難にするおそれがある」とは認められないと考える。)。
 なお、審査庁においては、行政不服審査法第50条第1項に基づき裁決をされる際には、上記3、(2)、アを踏まえ、本答申において網掛けを行った部分についても非公開とするのが適当か再度検討されたい。

(答申を行った部会名称及び委員の氏名)
 大阪市行政不服審査会総務第2部会
 委員(部会長) 榊原和穂、委員 畠田健治、委員 海道俊明

答申書(令和4年度答申第8号)

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