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令和5年2月28日付け裁決(答申第9号)

2023年2月17日

ページ番号:595070

裁決書

事件番号  令和4年度財第2号
裁決日  令和5年2月28日

審査請求人   〇〇〇〇
処分庁   大阪市長

 審査請求人〇〇〇〇が令和4年8月12日に提起した処分庁大阪市長(以下「処分庁」という。)による地方税法(以下「法」という。)第24条第1項第1号及び第294条第1項第1号に基づく令和4年5月20日付け令和4年度市民税・府民税賦課決定処分(以下「本件処分」という。)に係る審査請求(以下「本件審査請求」という。) について、次のとおり裁決する。

主文
 本件審査請求を棄却する。

第1 事案の概要
 本件は、処分庁が審査請求人に対して令和4年5月20日付けで行った本件処分に対し、審査請求人が、法第313条第13項に規定される特定配当等に係る所得(以下「特定配当等所得」という。)を含めた計算を行うことが相当であると主張して、処分の一部取消しを求めた事案である。

第2 事実関係
1 関係法令等の定め(本件処分に係る根拠法令等)
(1) 道府県民税及び市町村民税は、市町村内に住所を有する個人に対しては均等割額及び所得割額の合算額によって課するとされている(法第24条第1項第1号及び第294条第1項第1号)。
(2) 道府県民税及び市町村民税の申告について
ア 市町村内に住所を有する個人(給与所得以外の所得又は公的年金等に係る所得以外の所得を有しなかった者で一定の要件に該当する者を除く)は、3月15日までに総務省令の定めるところにより、前年の総所得金額や控除額等を記載した申告書(以下「住民税申告書」という。)を賦課期日現在における住所所在地の市町村長に提出しなければならないこととされている(法第45条の2第1項及び第317条の2第1項)。
イ 住民税申告書を提出する義務のある者が、前年分の所得税について、所得税法第2条第1項第37号の確定申告書を提出した場合には、当該確定申告書が提出された日に住民税申告書が提出されたものとみなし(法第45条の3第1項及び法317条の3第1項)、当該確定申告書に記載された事項のうち住民税の申告事項に相当するもの及び附記された事項(法第45条の3第3項及び第317条の3第3項の規定により附記されたもの、後記(9)参照)は、住民税申告書に記載されたものとみなすこととされている(法第45条の3第2項及び法317条の3第2項)。
 ただし、当該確定申告書が提出された日前に住民税申告書が提出された場合は、この限りではない(法第45条の3第1項及び法317条の3第1項)。
ウ 1月1日現在において給与の支払をする者で、当該給与の支払いをする際所得税法第183条の規定によって所得税を徴収する義務がある者は、同月31日までに、総務省令の定めるところによって、当該給与の支払いを受けている者についてその者に係る前年中の給与所得の金額その他必要な事項を当該給与の支払いを受けている者の1月1日現在における住所所在の市長村別に作成された給与支払報告書に記載し、これを当該市町村の長に提出しなければならないとされている(法第317条の6第1項)。
(3) 特定配当等とは、租税特別措置法(以下「措法」という。)第8条の4第1項に規定する上場株式等の配当等をいうとされている(法第23条第15号)。
(4) 特定株式等譲渡所得金額とは、措法第37条の11の4第2項に規定する源泉徴収選択口座内調整所得金額をいうとされている(法第23条第17号)。
(5) 所得割の課税標準
ア 個人の道府県民税及び市町村民税の所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とされ(法第32条第1項、第313条第1項)、これらの総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、原則として所得税法における計算の例によって算定するものとされている(法第32条第2項、第313条第2項)。
イ 特定配当等所得について
(ア) 特定配当等所得を有する者に係る総所得金額は、当該特定配当等所得の金額を除外して算定するものとするとされている(法第32条第12項及び第313条第12項)(申告不要)。
(イ) 前記(ア)の規定は、特定配当等所得が生じた年の翌年の4月1日の属する年度分の特定配当等申告書(道府県民税及び市町村民税の納税通知書が送達される時までに提出された次に掲げる申告書をいう。以下同じ。)に特定配当等所得の明細に係る事項等の記載があるとき(特定配当等申告書にその記載がないことについてやむを得ない理由があると市町村長が認めるときを含む。)は、当該特定配当等所得の金額については、適用しないものとされている(法第32条第13項及び第313条第13項本文)(総合課税)。
 そして、上記の適用にあたっては、次のA及びBに掲げる申告書がいずれも提出された場合には、これらの申告書に記載された事項その他の事情を勘案して決定することとされている(法第32条第13項及び第313条第13項ただし書)。
A 法第45条の2第1項及び法第317条の2第1項の規定による住民税申告書
B  法第45条の3第1項及び法第317条の3第1項に規定する確定申告書(同条同項の規定により住民税申告書が提出されたものとみなされる場合における当該確定申告書に限る。)
ウ 特定株式等譲渡所得について
(ア) 特定株式等譲渡所得金額に係る所得(以下「特定株式等譲渡所得」という。)を有する者に係る総所得金額は、当該特定株式等譲渡所得の金額を除外して算定するものとするとされている(法第32条第14項及び第313条第14項)(申告不要)。
(イ) 前記(ア)の規定は、特定株式等譲渡所得金額が生じた年の翌年の4月1日の属する年度分の特定株式等譲渡所得金額申告書(道府県民税及び市町村民税の納税通知書が送達される時までに提出された住民税申告書又は確定申告書をいう。以下同じ。)に特定株式等譲渡所得の明細に関する事項等の記載があるとき(特定株式等譲渡所得金額申告書にその記載がないことについてやむを得ない理由があると市町村長が認めるときを含む。)は、当該特定株式等譲渡所得の金額については、適用しないものとされている(法第32条第15項及び第313条第15項本文)(総合課税)。
 そして、上記の適用にあたっては、住民税申告書又は確定申告書がいずれも提出された場合には、これらの申告書に記載された事項その他の事情を勘案して決定することとされている(法第32条第15項及び第313条第15項ただし書)。
(6) 所得割の税率
 個人の道府県民税及び市町村民税の所得割の額は、課税総所得金額、課税退職所得金額及び課税山林所得金額の合計額に、道府県民税にあっては100分の2の、市町村民税にあっては100分の8の標準税率によって定める率を乗じて得た金額とするとされている(法第35条第1項及び314条の3第1項)。
(7) 上場株式等に係る配当所得等に係る課税の特例
 納税義務者が措法第8条の4第1項に規定する上場株式等の配当等を有する場合には、当該上場株式等の配当等に係る利子所得及び配当所得については、前記(5)ア及び(6)にかかわらず、他の所得と区分し、前年中の当該上場株式等の配当等に係る利子所得の金額及び配当所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額に対し、道府県民税については当該金額の100分の1、市町村民税については当該金額の100分の4に相当する金額に相当する所得割を課するとされている(法附則第33条の2第1項及び第5項)。
 上記のうち、措法第8条の4第2項に規定する特定上場株式等の配当等に係る配当所得に係る部分は、道府県民税及び市町村民税について当該所得につき上記規定の適用を受けようとする旨の記載のある特定配当等申告書を提出した場合に限り適用するものとされている(法附則第33の2第2項及び第6項)(申告分離課税)。
(8) 上場株式等に係る譲渡所得等に係る課税の特例
 納税義務者が前年中に措法第37条の11第1項に規定する上場株式等に係る譲渡所得等を有する場合には、当該上場株式等に係る譲渡所得等については、前記(5)ア及び(6)にかかわらず、他の所得と区分し、前年中の当該上場株式等に係る譲渡所得等の金額として政令で定めるところにより計算した金額(前記(5)ウ(ア)により総所得金額から除外して算定される特定株式等譲渡所得は除く。)に対し、道府県民税については当該金額の100分の1、市町村民税については当該金額の100分の4に相当する金額に相当する所得割を課するものとされている(法附則第35の2の2第1項及び第5項)(申告分離課税)。
(9) 確定申告書の附記事項について
 前記(2)イの法第45条の3第3項及び第317条の3第3項の規定により確定申告書に附記しなければならない事項として、前年の特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得の全部について法第32条第12項及び第313条第12項の規定又は法第32条第14項及び第313条第14項の規定(前記(5)イ(ア)又は前記(5)ウ(ア))の適用を受けようとする場合(前年分の所得税において申告不要の制度の適用を受けた場合を除く。)はその旨と定められている(法施行規則(「以下「規則」という。)第2条の3第2項第10号)。
 具体的には、確定申告書第二表の「住民税に関する事項」の欄に「全部の申告不要」の欄が設けられており、この欄に「〇」を記載して申告することで、上記附記が行われたものとされ、法第32条第13項及び15項並びに第313条第13項及び15項の住民税申告書の提出は不要となる。
2 処分の内容及び理由
(1) 処分庁は、審査請求人の給与支払者から令和4年1月26日付けで大阪市に提出のあった令和4年度分給与支払報告書及び審査請求人が令和4年2月22日付けで〇〇税務署長あてに提出した「令和3年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書(以下「令和3年分確定申告書」という。)」の金額に基づき、令和4年5月20日付けで本件処分を行い、審査請求人に対し、令和4年度給与所得等に係る市民税・府民税特別徴収税額の決定・変更通知書(以下「税額決定通知書」という。)により、特別徴収義務者を経由して通知した。
(2) 処分庁は、本件処分にあたり、令和3年分確定申告書に記載の特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得の金額については、令和3年分確定申告書第二表の「住民税・事業税に関する事項」における「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄に「〇」の記載があることから、法第32条第12項及び第313条第12項並びに法第32条第14項及び第313条第14項に基づき、総所得金額から除外して算定した。
3 審理員による審理手続及び調査審議の経過
 令和4年8月12日、審査請求人は、行政不服審査法第2条に基づいて、令和4年5月20日に処分庁によって行われた本件処分に対する審査請求を行った。
 令和4年9月1日、審理員が指名された。
 令和4年9月28日、処分庁より弁明書が提出された。
 令和4年10月7日、処分庁より審理に係る書類が提出された。
 令和4年10月18日、審査請求人より反論書が提出された。
 令和4年10月26日、審理員の質問に対し、処分庁より回答書の提出があった。
 令和4年11月21日、審理員より審理員意見書が提出された。
 令和4年12月6日、審査会において審議を行った。
 令和4年12月20日、審査会において審議を行った。
 令和5年1月13日、審査会において審議を行った。
 令和5年1月30日、審査会において審議を行った。
 令和5年1月31日、審査会より答申書が提出された。

第3 審理関係人の主張の要旨
1 審査請求人の主張の要旨
 審査請求人は、本件処分に関し、特定配当等所得を含めた計算を行うことが相当であるとして、その理由を次のとおり主張している。
(1) 審査請求人の目的
 審査請求人の目的は、特定配当等所得が総合課税として課税され(特定株式等譲渡所得を総合課税とすることは望んでいない。確定申告書も、特定配当等所得だけ総合課税するよう提出している。)、税額が増額となることで、ふるさと納税に係る市民税及び府民税(以下「市府民税」という。)の減額対象額が増額されることにある。これによって令和4年度の市府民税は現決定より低額になると思慮する。
(2) 次の経過が、法第313条第13項の救済条文を適用するに値すると考え、令和4年度給与所得等に係る市民税・府民税特別徴収税額を、特定配当等所得を含めたものに再計算することを求める。
ア  令和3年3月6日、〇〇市税事務所に令和3年度分市民税・府民税申告書を提出した。その内容は、特定配当等所得を総合課税されるよう申告したものであり、特定株式等譲渡所得は総合課税にしていない。
 この点について、審理員が職権で調査したところ、審査請求人は、令和3年度分市民税・府民税申告書において、特定配当等所得を所得税とは異なる方式である申告分離課税を選択して申告しており、特定株式等譲渡所得については、対象となる所得がなかったため申告していなかった。
イ  令和3年度分市民税・府民税申告書に対して、〇〇市税事務所の担当者より電話があり、証券会社から発行された特定口座年間取引報告書の提出を求められ、郵送にて提出した。
ウ イの1週間程度後に、〇〇市税事務所の担当者より郵便物の受理と処理に関する電話があった。
 その際に、「申告不要」と「所得税と異なる課税方式」の相違について確認したところ、本件申告の場合、申告者が国民健康保険の加入者でないから、どちらでも同じとの回答を得た。
 この回答を受け、「申告不要」を選択しても、特定配当等所得は合算されると理解した。特定口座年間取引報告書を提出し、特定配当額所得の話をしているのだから、上記のとおり理解するのは自然な理解であると思慮する。
エ 令和4年2月22日に〇〇税務署に令和3年分確定申告書を提出した。当該年度より住民税に関する申告方法が変更になり、確定申告書に「申告不要」のチェック欄が設けられていたため、前年度の申告の際の〇〇市税事務所の回答(前記ウ)に基づき、「申告不要」を選択しても令和3年度の市府民税と同様の計算がされるものと考え、「申告不要」を選択した。
 なお、申請手続のシステムにおいても、手続方法が変更になっているにも関わらず十分な説明がなかった。
(3) 処分庁の弁明書に対する反論について
 処分庁の弁明書の最終段落に記載された「なお」書きの部分の記載は、あたかも請求人の主張が認められても税額が増額になり、請求人に得なことはないと誤認をさせるような記載であり不適切である。
 ついては、審理において、ふるさと納税に係る市府民税の減額対象額の増額による効果も含めた、最終的な令和4年度の市府民税の税額を正確に算出したうえで、判断していただきたい。
2 処分庁の主張の要旨
(1) 事実の経緯
 処分庁は、令和4年1月26日付けで給与支払者から処分庁に提出のあった令和4年度分給与支払報告書及び審査請求人が令和4年2月22日付けで〇〇税務署に提出した令和3年分確定申告書に基づき、令和4年5月20日付けで本件処分を行い、審査請求人あて税額決定通知書により、特別徴収義務者を経由して通知した。
 本件処分に当たって、令和3年分確定申告書第二表の「住民税・事業税に関する事項」の「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄に「〇」の記載があり、住民税において申告不要制度を適用する意思表示があったため、法第32条第12項及び第14項並びに法第313条第12項及び第14項に基づき、確定申告書に記載の特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得の金額を除外して、総所得金額を算定した。
 審査請求人は、税額決定通知書を特別徴収義務者から受理した後、令和4年6月20日に〇〇市税事務所への電話により特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得を合算する旨の申出をされたが、税額決定通知書が送達されるまでに令和4年度分市民税・府民税申告書の提出がなされなかったため、法第32条第13項及び第15項並びに法第313条第13項及び第15項に基づき、審査請求人の申し出に応じなかったものである。
(2) 法令上の取扱い
 特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得については、原則、申告を要しない所得として、法第32条第12項及び14項並びに法第313条第12項及び第14項の規定により、それぞれ総所得金額の算定から除外するとされており、法第32条第13項及び第15項並びに法第313条第13項及び第15項の規定により、それぞれ納税通知書が送達されるまでに、特定配当等所得の明細に関する事項その他総務省令で定める事項(所得割額から控除する配当額割及びその他参考となるべき事項)、特定株式等譲渡所得の明細に関する事項その他総務省令で定める事項(所得割額から控除する株式等譲渡所得割額及びその他参考となるべき事項)を記載した確定申告書又は住民税申告書が提出された場合は、法第32条第12項及び14項並びに法第313条第12項及び第14項の規定を適用せずに、総所得金額に算入するとされている。
 また、確定申告書の提出に際して、規則第2条の3第2項第10号の規定により確定申告書の附記事項とされている「特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得の全部について法第32条第12項及び第313条第12項の規定又は法第32条第14項及び第313条第14項の適用を受けようとする旨」を附記した場合(具体的には上記に記載している、確定申告書第二表の住民税・事業税に関する事項の「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄に「○」を記載した場合)には、法第32条第13項及び第15項並びに法第313条第13項及び第15項の規定にかかわらず、特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得は総所得金額の算定から除外される。
(3) 処分の判断
 審査請求人は、処分庁からの回答に基づき、特定配当等所得については、申告不要制度の適用の有無にかかわらず、総所得金額に算入されるものとの理解により申告手続きを行うこととなった経過を受けて、法第313条第13項の救済条文を適用するに値すると主張している。
 審査請求人が主張する法第313条第13項の救済条文とは、同項前段の規定中、「特定配当等所得の明細に関する事項その他総務省令で定める事項の記載があるとき(特定配当等申告書にその記載がないことについて、やむを得ない理由があると市町村長が認めるときを含む。)」を指しているものと解するが、やむを得ない理由があるか否かについては、客観的事実に基づく必要があり、かつその理由に合理性が求められるところ、審査請求人が主張する処分庁との経過は、そもそも客観的事実に基づくものではないため、処分庁からの回答内容の如何にかかわらず、やむを得ない理由があるとは認められない。また、提出された令和3年分確定申告書においては、「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄への「○」の記載により、申告不要制度を適用する意思が明確であるため、申告書上の記載からやむを得ない理由があると認める余地もない。
 以上のことから、本件処分は適正である。
 なお、参考ではあるが、仮に法第32条第13項及び第313条第13項が適用された場合は、提出された令和3年分確定申告書に基づき、特定配当等所得は総合課税として課税されることになり、法附則第33条の2第1項及び第2項並びに第5項及び第6項に基づき、特定配当等所得を分離課税として課税することはできないため、本件処分における税額から増額の課税処分となる。

第4 論点整理
1 特定配当等所得について
 本件処分のうち、特定配当等所得については、総所得金額から除外して算定されているところ、審査請求人は、本件処分より税額が減額となることを期待して、特定配当等所得を総所得金額に含めた計算を行うことが相当であるとして争っているので、特定配当等所得の算定に係る適法性及び妥当性について判断する必要がある。
 なお、特定配当等所得を総所得金額に含める計算方法としては、前記第2、1のとおり、総合課税による場合(本件においては所得税と同じ課税方式)と、申告分離課税による場合(本件においては所得税と異なる課税方式)があるが、審査請求人がいずれの課税方式による計算を求めているかについては、審査請求書及び反論書の記載からは明らかとはいえない。
 この点について、審理員が職権により処分庁に確認した内容に基づいて試算したところ、特定配当等所得について、申告不要が選択されず、総合課税を選択した申告があったものとして計算した税額は、本件処分における税額と比較すると13,500円の増額となり、申告分離課税を選択した申告があったものとして計算した場合には、18,900円の減額となることが確認できる。
 したがって、行政不服審査法の趣旨等を考慮すると、審査請求人は、特定配当等所得について、所得税と異なる課税方式である申告分離課税を選択して申告したとした計算を求めているものと解される。
2 特定株式等譲渡所得について
 審査請求人は、令和3年分確定申告書において、特定配当等所得に加え、特定株式等譲渡所得を有しており、処分庁は、令和3年分確定申告書第二表における「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄の「〇」の記載という1つの事実に基づき、特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得について、いずれも申告不要が選択されたとして、総所得金額から除外して算定している。
 以上のことから、前記1で述べた特定配当等所得の算定に係る適法性及び妥当性の判断を行うにあたっては、併せて特定株式等譲渡所得の算定に係る適法性及び妥当性についても判断する必要がある。
 なお、仮に、申告不要が選択されず、特定配当等所得と併せて特定株式等譲渡所得についても申告があったとした場合の税額を試算したところ、特定配当等所得のみを申告した場合より2,600円多い21,500円の減額となることが確認できる。

第5  裁決の理由
1 認定した事実
(1) 審査請求人の給与支払者は、令和4年1月26日付けで審査請求人に係る令和4年度分給与支払報告書を提出した。
(2) 審査請求人は、令和4年2月22日付けで令和3年分確定申告書を提出し、当該確定申告書において、特定配当等所得について総合課税を、特定株式等譲渡所得について申告分離課税を選択して申告した。
 また、当該確定申告書の第二表「住民税・事業所税に関する事項」の「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄に「○」を記載した。
(3) 処分庁は、令和4年5月20日付けで本件処分を行い、審査請求人あて税額決定通知書により、特別徴収義務者を経由して通知した。その際、特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得については、総所得金額から除外して課税した。
2 論点に対する判断
 特定配当等所得については、原則、総所得金額から除外して算定されるが(前記第2、1(5)イ(ア)、申告不要)、住民税の納税通知書が送達されるまでに、特定配当等所得の明細に関する事項等の記載のある住民税申告書又は確定申告書の提出があった場合には、上記の規定は適用しないものとされている(前記第2、1(5)イ(イ)、総合課税)。なお、課税の特例として、住民税申告書又は確定申告書に、併せて法附則第33の2第1項及び第5項の適用を受けようとする旨(申告分離課税を選択する旨)の記載がある場合には、特定配当等所得を他の所得と区分し、所得割を課するとされている(前記第2、1(7)、申告分離課税)。
 特定株式等譲渡所得についても、原則、総所得金額から除外して算定されるが(前記第2、1(5)ウ(ア)、申告不要)、住民税の納税通知書が送達されるまでに、特定株式等譲渡所得の明細に関する事項等の記載のある住民税申告書又は確定申告書の提出があった場合には、上記の規定は適用しないものとされ(前記第2、1(5)ウ(イ)。)、かかる場合には常に、課税の特例として、特定株式等譲渡所得を他の所得と区分し、所得割を課するとされている(前記第2、1(8)、申告分離課税)。
 そして、上記の特定配当等所得又は特定株式等譲渡所得を総所得金額に含める場合の法第32条第13項及び第313条第13項本文又は法第32条第15項及び第313条第15項本文(前記第2、1(5)イ(イ)及びウ(イ))の規定の適用にあたり、住民税申告書及び確定申告書がいずれも提出された場合には、これらの申告書に記載された事項その他の事情を勘案して決定すると規定されていることから、原則、所得税と異なる課税方式を選択する場合には、確定申告書とは別に、住民税申告書により申告をすることが必要とされる一方で、申告不要を選択する場合には、規則第2条の3第2項第10号において確定申告書の附記事項とされている「特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得の全部について法第32条第12項及び第313条第12項の規定又は法第32条第14項及び第313条第14項の適用を受けようとする旨」の附記を行うことで申告不要の選択を完結することができるものとされている。具体的には、確定申告書第二表の「住民税・事業税に関する事項」における「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄に、「〇」の記載をすることとされている。
 本件においては、令和3年分確定申告書が提出され、特定配当等所得が総合課税として、特定株式等譲渡所得が分離課税として申告されている一方で、当該確定申告書第二表の「住民税・事業税に関する事項」における「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄に、「〇」の記載があり、上記確定申告書の外に申告書の提出は認められない。
 したがって、所得税において申告されている特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得について、市府民税においては、「特定配当等所得及び特定株式等譲渡所得の全部について法第32条第12項及び第313条第12項の規定又は法第32条第14項及び第313条第14項の適用を受けようとする旨」の附記があったと認められ、法第32条第12項及び第313条第12項並びに法第32条第14項及び第313条第14項に基づき、総所得金額から上記各所得を除外して算定した本件処分に違法又は不当な点はない。
 なお、審査請求人は、令和3年分確定申告書第二表の「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」欄に「〇」の記載をした理由について、前年度の市府民税の申告手続の際に処分庁担当者に行った質問に対する当該担当者の回答により、「申告不要」を選択すれば、当該所得が総所得金額に合算されるものと理解したからであるとして、かかる事情を考慮し、市府民税において上記各所得を総所得金額に含めるべきである旨主張している。
 しかしながら、この点について、答申書においても、法第313条第13項の「やむを得ない理由」には、関係法令の不知や誤解を含むものではなく、客観的な理由であることが必要であるとして、審査請求人の主張によったとしても、本件において、法第313条第13項の「やむを得ない理由」は認められないと判断されている。また、上記のとおり、課税方式の選択は、必要事項を記載した確定申告書又は住民税申告書を提出することにより行うものとされており、市町村長は、提出された申告書の記載内容をもとに課税方式を決定することから、審査請求人の上記主張は採用することができない。
 また、特定配当等所得については、前記第4、1のとおり、審査請求人が求める税額の減額という効果をもたらす算定が行われるためには、所得税で選択した課税方式(総合課税)と異なる課税方式である申告分離課税を選択した申告が必要となるところ、仮に審査請求人が主張するように申告不要の選択がなされなかったものと認められたとしても、納税通知書の送達までに、令和3年分確定申告書とは別に、令和4年度市民税・府民税申告書に、特定配当等所得の明細に関する事項等の記載及び申告分離課税を選択する旨(法附則第33の2第1項及び第5項の適用を受けようとする旨)の記載をして提出することが必要であったということになる(法附則第33条の2第2項及び第6項)。しかしながら、本件においては、上記のとおり、令和3年分確定申告書の外に申告書の提出は認められず、申告分離課税として課税することはできない。

第6 結論
 以上のとおり、本件審査請求には理由がないことから、行政不服審査法第45条第2項の規定により、主文のとおり裁決する。

令和5年2月28日
審査庁  大阪市長 松井 一郎

裁決書(令和4年度答申第9号)

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