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答申第206号

2019年9月9日

ページ番号:622723

大個審答申第206
令和6年3月29

大阪市長 横山 英幸 様

大阪市個人情報保護審議会
会長 金井 美智子

答申書

 大阪市個人情報の保護に関する法律の施行等に関する条例(令和5年大阪市条例第5号)附則第3項の規定によりなお従前の例によることとされた同条例による改正前の大阪市個人情報保護条例(平成7年大阪市条例第11号。以下「旧条例」という。)第45条に基づき、大阪市長(以下「実施機関」という。)から令和3年12月1日付け大住吉住第160号により諮問のありました件について、次のとおり答申いたします。

第1 審議会の結論
 実施機関が令和3年1029日付け大住吉住第132号により行った利用停止不承認決定(以下「本件決定」という。)は、妥当である。

第2 審査請求に至る経過
1 利用停止請求
 審査請求人は、令和3年9月30日に、旧条例第36条第1項の規定に基づき、実施機関に対し、「令和2年1013日付け大大正窓第151号の戸籍謄本等の交付請求に対する不交付決定に係る審査請求について(報告)のうち、甲(請求者)が提出した別紙、戸籍謄本等交付請求書を同意なく無断で、抹消され追記されている。」「(1)令和2年7月26日日曜、住吉区役所に甲が提出した別紙「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)等交付請求書」を甲の同意なく無断で抹消され追記改ざんされている。①甲の戸籍謄本等請求した正当な理由が抹消されている。②そのため、戸籍謄本等の交付が受けられない。(2)改ざんされた同交付請求書の消去及び利用・提供の停止。(3)上記期日に甲が提出した原本請求書に差し替えを求める。」と表示して保有個人情報の利用停止を求める請求(以下「本件請求」という。)を行った。
2 本件決定
 実施機関は、本件請求に係る保有個人情報を「令和2年7月26日から同月30日にかけて作成され、同日、当庁へ提出された、「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)等交付請求書」」(以下「本件保有個人情報」という。)と特定したうえで、本件保有個人情報の利用を停止しない理由を次のとおり付して旧条例第40条第2項の規定に基づき、本件決定を行った。

 本件請求者が利用の停止等を求めている保有個人情報(以下「本件保有個人情報」という。)は、本件請求者が作成した「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)等交付請求書」(以下「請求書」という。)を実施機関が収受することにより収集し、また、本件請求者から確認した内容に基づき実施機関が業務を委託した事業者の従業員が補記した情報である。
 本件請求者は、本件保有個人情報が、本件請求者の同意なく無断で抹消され、追記改ざんされたと述べており、その内容は次の各号のとおりであるが、これらについての経緯等は当該各号のとおりであり、改ざんなどではなく、戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)等交付(以下「戸籍等交付」という。)事務の目的の範囲内での修正であることは明らかである。
 このことから、大阪市個人情報保護条例第10条第1項に違反して保有個人情報を実施機関の内部で利用し又は実施機関以外のものに提供しておらず、同条例第36条第1項第1号及び同項第2号に該当しないため。
(1) 戸籍等交付請求の理由欄にある当初記述の内容が抹消され、「別紙添付」と追記されている点
 当該理由欄から抹消されている当初記述の内容は、令和2年7月26日に本件請求者が戸籍等交付請求のために住吉区役所へ来所し、請求書を作成した際に、本件請求者から確認した内容に基づき実施機関が業務を委託した事業者の従業員が補記した情報である。同日の戸籍等交付請求については、不交付となる内容の請求である旨を住吉区役所において説明し、本件請求者は請求書を持ち帰っている。
 その後、同月30日に改めて、同月26日に作成されていた請求書に、新たに理由書を添えて、本件請求者から戸籍等交付請求が行われたものであり、「別紙添付」は当該理由書のことを示している。
 実施機関は、当該理由書の内容を確認したうえで、これが当初記述の内容を改めて詳細に説明したものとなっていると判断したことから、実施機関が業務を委託した事業者の従業員により当初記述を抹消し、「別紙添付」と追記をしたものである。
(2) 紙面右上の「受付NO」欄の番号が「879」から「840」となっている点
 令和2年7月26日に本件請求者が住吉区役所へ戸籍等交付請求に訪れた際の受付番号が「879」であった。その後、前述の経過により、同月30日に改めて戸籍等交付請求に訪れた際の受付番号が「840」であったため、これに修正をしたものである。
(3) 紙面左上に「7/26」と追記されている点
 請求書の情報は住吉区役所へ提出された後、本籍のある大正区役所へ引き継がれている。
 その後、同区役所から大阪法務局に対し、請求書の情報を提供する際、本件請求者が戸籍等交付請求のために最初に来所した日を書面上明らかにするために、同区役所において補記したものである。
3 審査請求
 審査請求人は、令和3年11月9日、本件決定を不服として、実施機関に対して、行政不服審査法(平成26年法律第68号)に基づき審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。

第3 審査請求人の主張
 審査請求人の主張は、おおむね次のとおりである。
1 審査請求書における主張
(1) 戸籍事務目的の範囲での修正したというが戸籍法令の根拠を示していない。
 甲本人の同意なく請求書の文字を修正するには法令根拠をしめす必要がある。
(2) 実施機関以外に提供しておらずと言いつつ、大阪法務局に請求書を補記して甲の個人情報を提供したと矛盾する理由の記載は理由不備である。
(3) 条例第10条1項2号甲本人の同意なく提供している。非違行為である。
(4) 甲の請求書持ち帰りについては理由不備である。
 戸籍事務取扱準則制定基準・戸籍事務取扱準則第31条の届書類(※請求書)について不受理したときは、その届書類(※請求書)を届出人等(※甲)に返戻し、不受理処分整理簿に処分(※戸籍等不交付)及び返戻の年月日(※令和2年7月26日)、事件の内容並びに不受理の理由(※不交付となる内容の請求であるとの理由、戸籍法第10条1項に定める者に該当しないと理由説明する。)を記載しなければならない。
 なお、届書類とは同第23条(届書類の受理照会)、届書類(届書、申請書、その他の書類(※請求書を含む)をいう。以下同じ)の受理について疑義が生じたときは、その受理について(※大阪法務局長に)照会しなければならない。処分庁は、戸籍事務を適正に行っていたなら、同整理簿の文書を示し不承認の理由を記載するが、この準則すら知らず理由不備である。
(5) 甲の7月26日請求が7月30日請求に期日が無断修正されている。
 処分庁は、甲が7月30日に26日提出した請求書に理由書を添えて、請求したものと理由記載するが、そうであるなら不交付決定書に記載する請求日は7月30日であるはずだが、大大正戸発第123号決定書には7月26日と大正区長が記載している。理由不備である。
(6) 当初記述を抹消したのは業務委託職員ではなくA係長であるから理由不備である。
ア 実施機関(住吉区役所住民情報戸籍グループA係長等)は、7月30日に甲が提出した理由書内容を確認のうえ、当初記述内容の詳細説明になっていると判断したから、当初記述を抹消した理由記載する。
イ そして、住吉区役所が業務委託した事業者従業員、つまり1階で戸籍業務を行う嘱託職員により当初記述を抹消したと理由記載する。
ウ しかし、甲は7月29日月曜にA係長から戸籍法10条の2、必要とする正当な理由書があれば交付する旨の教示を受け、7月30日火曜に同月26日原本請求書とともに理由書を1階戸籍係の窓口に提出した。
エ 甲は、後日に電話で住吉区役所戸籍係りに交付諾否の照会をしたところ、折り返しA係長から不交付決定との電話を聞き、7月26日当日と同じく再度、書面での不交付決定書の交付を求めたものである。
オ 以上のことから、甲が理由書を提出した嘱託職員は、甲が記述抹消することを知らず、さらに記述抹消に同意していないことから、甲理由書と請求書の内容が重複していることを確認して抹消したことになる。その嘱託職員の職名・氏名を記載していない。
カ 戸籍事務は、戸籍法の戸籍事務取扱準則第5条の規定により戸籍事務を取扱う補助者を大阪法務局長に報告しなければならない。そして、その補助者だけが請求書の補記、修正、抹消等の戸籍事務を行える。ただし、請求者甲の同意を得てのちに、請求書の文言を抹消、修正することができる。
キ そうすると、抹消の指示を出したのは誰か、A係長である。
 嘱託職員が独自の判断で抹消することは絶対ない。しかるに指示しておきながら、甲請求の4日後に、他の嘱託職員が抹消したと記載する。赤木ノートと同じように改ざんした者に責任を負わせる卑怯な記載である。
ク 「別紙添付」と記載した筆跡は誰か、請求書に当初記述した筆跡と別人である。嘱託職員ではない。
ケ そして、修正、抹消していなければ、甲は請求する正当な理由により、戸籍謄本等の交付を受けていたものである。なぜなら、甲が、父の死亡を父の妹である叔母に知らせるため戸籍謄本等を請求することは、正当な理由に相当するからである。
(7) 請求書に補記した文書を請求者の同意なく抹消、修正は非違行為に該当する。処分庁は、甲が受け取れる戸籍等謄本の交付を妨害した。
(8) 7月26日の受付番号879を抹消し、7月30日の受付番号840に修正した記載は非違行為に該当する。
(9) よって、利用停止不承認決定の取消しを求める。
2 令和5年9月25日付け「[大住吉住132]の大住吉住29号弁論書に対する反論書における主張
(1) 処分庁がした請求書の一部抹消、追記、修正は明らかな非違行為です。
(2) その非違行為を下記法令等により明らかにする。
ア 法務省民一第317号「戸籍事務を民間業者に委託することが可能な業務の範囲について(通知)平成25年3月28日付け」(抜粋)
(ア) 業務委託従業員は、事実上の行為又は補助的行為の業務だけを行える
①請求書受領の本人確認、②請求書記載の確認、③添付書面の確認
④戸籍謄本の作成及び引渡し、⑤請求書の整理。以上の項目ができる。
(イ) 委託従業員は、判断が必要となる業務ができない。
請求の要件が妥当かを確認したうえでの交付又は不交付の決定等を判断することはできない。
イ 処分庁は、下記通知により戸籍事務を取扱う住吉区業務委託従業員(以下「委託従業員」という。)に裁量の余地がないことを知得していた。
①戸籍事務の民間事業者に委託することが可能な範囲について、
②戸籍事務の民間委託に関するQ&A(別紙)が通知されている。
(3) 「戸籍事務の民間委託に関するQ&A」から非違行為を指摘する。(要約)
ア Q&A(1-1)民間委託に対して委託できる事務か否かの基準では、民一第317号通知に、住吉区長又は大正区長の判断が必要となる業務は委託することができない。区長の判断を要しない事実上の行為又は補助的行為が委託範囲になる。
イ Q&A(1-2)区長の判断が必要となる業務は、その判断そのものは職員が自ら行う必要がある。委託従業員に委託できない。
ウ Q&A(2-1)委託従業員に、個別の事務処理に疑義が生じた場合に、住吉区の職員に助言又は指示を求め、これを踏まえて甲事務処理してよいか、回答は処理すべきでない。
エ Q&A(2-3)委託従業員に適切な処理がなされなかったことを区の職員が確認した場合に、甲請求事案について区の職員が委託従業員に、甲の請求書に修正を求めることができるか。修正方法を追記・抹消修正箇所を具体的に示して修正を求めると、助言又は指示を行うことになり偽装請負となる。(からできない。)
オ Q&A(3-1)戸籍法施行規則第11条の2第3号により、請求する甲に、戸籍の記載事項について説明を求めるなどの方法により本人確認することを委託従業員に委託してよいか。
(注)法務省令同法11条の2(戸籍謄本の交付請求における本人確認の方法)
第3号:戸籍法10条の2第1項直系親族以外の者甲が請求する場合。
甲の請求を受けた区長は、質問内容の設定、質問に対する答え振りや挙措動作の確認、これを受けた再質問内容の設定等、聴き取りの状況に即応した裁量的判断が求められることから、甲の本人確認をすることは、区長の判断が必要となる業務であり、委託従業員はできない。
カ Q&A(3-2)委託従業員が、甲請求書の記載の漏洩や、添付書面不足を発見し、甲に指摘することは補助的行為に該当する。但し、記載の漏洩等が明白ではない場合には、甲請求書を受取り職員に引き継ぐ。
 裁量的判断を要するか否か、判断を要する場合は、区長の判断が必要となる業務となり、委託従業員が、甲請求書の記載が不十分であることを指摘できない。
 委託従業員が、甲請求書の記載に遺漏があることや、添付書面の不足等を理由として、甲請求書等を返戻することは、住吉区又は大正区の職員が判断して行うべき不交付処分を、委託従業員が実質的に行ったものと評価される。
キ Q&A(3-2―2)戸籍法10条1項の直系親族以外の者甲が戸籍謄本等の交付請求する場合に、請求主体に該当するか否かを確認することを委託従業員に委託できない。
ク Q&A(3-2―4)戸籍法10条の4、甲請求者に必要な説明を求めることを委託従業員に委託できない。
 甲は、7月26日日曜の住吉区1階記入台でフロアマネージャーの委託従業員と、戸籍事務の窓口処理業務を行う受付カウンター内の戸籍事務委託従業員に1時間近く口頭で説明していた。
(4) そして、上記委託従業員らは、請求書の記載に遺漏等が明白でない場合は、指摘することができない。
 しかし、委託従業員は甲に指摘し、甲は指摘のとおりに請求書に「父死亡の手続き」「父の妹を探している」「持参戸の続き」と書いた。
(5) また、甲請求書の「受付」「交付」において、裁量的判断を要する場合は、区長の判断が必要となる業務となり、委託従業員は、指摘することができない。
 しかし、7月26日の日曜は住吉区職員がおらず、裁量的判断ができないにもかかわらず、委託従業員は、甲の請求書を受付け、審査し、交付しないと判断し、甲に交付できないと教示した。(実体は不交付処分です。)
 なお、甲は戸籍法の規定により請求書の返還を求め取得していたが、住吉区は、請求書をコピーせず、委託従業員は受付番号「879」を破棄した。
(6) 委託従業員は、請求書の記載一部を抹消できない。
 請求書の「父死亡の手続き」「父の妹を探している」「持参戸の続き」「879」「3月09分」「身障手」「す」を二重線で書き抹消した。
(7) 委託従業員は、請求書に追記の記載ができない。
 しかし、委託従業員が請求書枠内に「別紙添付」と追記していた。
(8) 委託従業員は、「不交付内容の請求書である旨」と説明できない通知だが、委託従業員は甲に交付できないと説明した。職員が自ら行うべきものです。
(9) 委託従業員は、受付番号を修正できない。
 委託従業員は「879」を「840」に修正した。
 そもそも、大正区は7月26日の請求書に対して不交付決定を行っており、住吉区が7月30日に「840」受付とすると、甲に交付した不交付決定書は、記載不備となり無効とする。
 だから、委託従業員は、委託業務の範囲を超えて「879」を抹消し、「840」に修正することができない。
(10) 以上のように、委託従業員らが、戸籍法等の法令により、戸籍事務の取扱いにおいて、甲請求書の一部を抹消、追記、修正ができません。
 そのことを、区長及び区の戸籍グループ職員並びに資料及び市民局長らは、法務省・総務省からの通知により、十分に知得していました。
(11) そうすると、甲請求書が、処分庁が目的の範囲をこえ、すでに処分庁外の法務省法務局等に提供されていることから、実施機関内で訂正請求をすることができず、保護条例第36条に該当することから、利用停止等の請求をすることができます。
(12) 利用停止不承認決定は、甲に保障されている利用停止請求権の侵害です。
(13) よって、甲は、処分庁に対して、上記1ないし12までの甲反論について、諾否を求めるものです。
(14) また、審議会において、上記法令に基づき、委託従業員が修正した請求書が、保護条例36条1項及び2号に該当することの検証を求めます。
(15) さらに、処分庁がした弁明書提出期限の怠り、職務専念義務の怠り、審議手続きの妨害行為について認容を、処分庁に求めます。
ア 処分庁は、本庁行政課の情報公開グループ○○氏から令和3年1110日付けメールにて諮問書提出の依頼を受け、2年前の令和3年12月1日付け諮問書を審議会に提出していた。
イ ところが、処分庁は同○○氏から、「審査請求書受理後から4カ月以内の令和4年1月10日までに弁明書案をメール送付するよう」依頼を受けていたが、処分庁は21カ月後に、弁明書を審議会に提出し甲に送付した。
ウ まさに、処分庁横山市長は、行審法、保護条例に違反して、弁明書提出の職務を怠ったものです。
(16) そこで、甲は、審議会に以下の事実確認を求めます。
ア 弁明書提出が指定期限を大幅に遅延した事実をその怠りを確認すること。
イ 審議会が文書又はメールで、再三に渡り弁明書提出を求めたことの確認。
ウ 処分庁から弁明書を提出しない、できない理由書等の受取文書の確認。
エ 審議会が、処分庁が提出しない場合の審議会規則等の通知書の確認。
(17) 行審法38条に基づき、審議会に以下の文書の提出を求めます。
ア 処分庁に弁明書提出の依頼書及び再依頼書。
イ 甲に弁明書送付遅延状態の通知書。
ウ 甲及び処分庁に審議手続きに係る通知文書一式。
エ 審議会事務局等の事務手続きの怠りに係る文書。
(18) よって、甲は、処分庁横山市長に、行審46条1項に基づき審査請求を認容し、利用停止不承認決定の取消しを求めます。
3 令和6年2月25日付け「[大住吉132号]について意見陳述及び質問申立」における主張
 令和5年平野区役所戸籍課に出向き、祖父の相続人を確定するため…叔母の除籍謄本を取得することができました。だから、審査請求人が令和2年7月26日日曜に住吉区役所に出向いた際、委託職員が、審査請求人の戸籍謄本請求書を訂正、削除しなければ、月曜には謄本の交付を受けていたのです。また、26日日曜の委託職員が「日曜なので、担当職員がいないので、交付していいか判断できません。」と説明し「平日に来るよう」との説明を怠ったのです。よって、委託職員が加筆、訂正、削除した審査請求人の謄本請求書について行った審査請求の「利用停止不承認決定」を取消し、請求書原本を再現することを求めます。

第4 実施機関の主張
1 本件保有個人情報が記録された公文書について
 本件請求が行われた令和3年9月30日の時点で住吉区役所(以下「住吉区」という。)において保有する本件保有個人情報が記録された公文書は、審査請求人から令和2年7月26日から同月30日にかけて作成され、同日、住吉区へ提出された、「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)等交付請求書」である。
2 本件保有個人情報の利用の妥当性(保護条例第10条第1項違反の有無)について
 審査請求人は、本件保有個人情報が同人の同意なく当庁により改ざん等され、また、外部へ提供されているとして本件請求及び本件審査請求を行っていることから、本件保有個人情報が保護条例第10条第1項の規定に違反して目的外で内部利用され、又は実施機関以外のものに提供されているかどうかが争点と考えられるため、この点について検討する。
 当庁では「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(平成18年法律第51号)及び「戸籍事務を民間事業者に委託することが可能な業務の範囲について(通知)」(平成25年3月28日付法務省民事局民事第一課長通知)に基づき、交付請求書の受領、本人確認、請求書への記載及び添付書面の確認等の受付業務に関して民間事業者へ委託をしている。
 これにより、請求書への記載内容に不足がある場合等は、当庁が業務を委託した事業者の従業員が受付業務を行う中で、請求人への聞取り及び請求書への補記等を行っているものである。
 また、本件審査請求の端緒となった、令和2年7月の審査請求人による戸籍等交付請求を含む、戸籍法第10条の2第1項(自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するための戸籍の記載事項を確認する必要がある場合)に基づく請求においては、請求者は権利又は義務の発生原因及び内容並びに当該権利を行使し、又は義務を履行するために戸籍の記載事項の確認を必要とする理由を明らかにして請求しなければならないとされており、また戸籍法第10条の4では、当該請求がなされた場合において、請求者が明らかにしなければならない事項が明らかにされていないと認めるときは、請求者に対し必要な説明を求めることができるとされている。
 本件請求に至る経過として、審査請求人は令和2年7月26日に住吉区へ来庁し、「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)等交付請求書」を提出し、その際当該請求書に、窓口処理用の受付番号「879」の記載や、審査請求人からの確認内容をもとに理由欄に「父の妹をさがしている」等の補記(以下「当初記述」という。)がなされたが、その請求理由では交付できない旨を住吉区において説明し、審査請求人は請求書を持ち帰っている。
 その後、審査請求人は住吉区へ電話をし、正当な理由が示されれば交付可能である旨の教示を受けて同月30日に再度来庁し、持ち帰った当該請求書に理由書を添えて提出した。また、この電話の際に、審査請求人は、不交付の旨を口頭で説明するだけでなく、不交付決定を行うことを希望していた。
 以上の経過及び当該理由書の内容を踏まえ、当庁は、審査請求人が、住吉区からの教示を受けて、戸籍等交付の請求者が明らかにしなければならない事項として、同月26日の当初記述の内容を当該理由書にて詳細に説明し、その正当性を主張してきたものと判断したため、窓口の委託事業者の職員の処理により、窓口処理用の受付番号は同月30日時点の「840」に改めたうえで、理由欄の当初記述を抹消し、当該理由書を指して同欄に「別紙添付」と追記し決定に向けて受付を行ったものである(決定の処理は、本籍のある大正区役所が行う。)。
 これらのことから、当該請求書上の上記修正は、根拠法令に基づき戸籍等交付請求を受け付け、これに対する決定を行うにあたっての修正にすぎず、審査請求人の主張する改ざんなどには当たらない。また、審査請求人は、受け取れるはずの戸籍等の交付を当庁の上記修正により妨害された旨も主張するが、当該理由書の内容が、当初記述の内容を詳細に説明したものとなっていることは明らかであり、上記修正は何ら審査請求人の主張するような妨害要因とはなっていない。
 よって、上記修正は事務の目的の範囲を超えた本件保有個人情報の内部利用ではない。
 次に、外部提供について。審査請求人が行った上記の戸籍謄本等の交付請求に対する不交付決定に対し、審査請求人が大阪法務局長に行った行政不服審査法に基づく審査請求にかかり、審査請求人の本籍があり、不交付決定の事務処理を行った大正区役所から、本件保有個人情報を大阪法務局へ提供している。
 行政不服審査法第32条第2項は「処分庁等は、当該処分の理由となる事実を証する書類その他の物件を提出することができる」としており、これに基づき大阪法務局に提出したものであり、保護条例第10条第1項ただし書き第1号に該当する。
 以上のことから、保護条例第10条第1項の規定に違反して保有個人情報を内部で利用し又は外部に提供した事実は認められない。
3 本件審査請求における審査請求人の主張について
 審査請求人は、当庁が本件決定にあたり、改ざんなどではなく事務の目的の範囲内での修正であることは明らかであると示したことに対し、法的根拠を示すよう主張するとともに、当該修正により審査請求人は戸籍等の交付を妨害されており、当該修正や大阪法務局への外部提供は非違行為である等として、本件決定の取消を求めているものである。
 保護条例第36条は、個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な限度で、保護条例に違反して保有個人情報を収集しているとき、利用しているとき、又は保有しているとの事実があると認めるときは当該保有個人情報の利用を停止し、また保護条例に違反して提供されているときは、当該保有個人情報の提供を停止することを規定しているところ、本件決定の取消を求めた審査請求人の主張は、保護条例に違反して保有個人情報を利用又は提供していることについての理由に該当しないものであり、本件決定の正当性を覆すものではない。

第5 審議会の判断
1 基本的な考え方
 旧条例の基本的な理念は、第1条が定めるように、市民に実施機関が保有する個人情報の開示、訂正及び利用停止を求める具体的な権利を保障し、個人情報の適正な取扱いに関し必要な事項を定めることによって、市民の基本的人権を擁護し、市政の適正かつ円滑な運営を図ることにある。したがって、旧条例の解釈及び運用は、第3条が明記するように、個人情報の開示、訂正及び利用停止を請求する市民の権利を十分に尊重する見地から行わなければならない。
2 争点
 実施機関は、本件請求について本件決定を行ったのに対し、審査請求人は、本件決定を取り消し、利用停止することを求めて争っている。
 したがって、本件審査請求における争点は、本件保有個人情報について、実施機関が利用停止を行う義務の有無である。
3 保有個人情報の利用停止請求について
 旧条例第36条第1項は、実施機関における個人情報の適正な取扱いを確保する趣旨から、何人に対しても、実施機関が保有する自己を本人とする保有個人情報の利用の停止、消去又は提供の停止(以下「利用停止」という。)を請求することができるとともに、利用停止請求の要件を定めている。そのうち、同項第1号は、自己に関する個人情報の違法収集、自己に関する保有個人情報の事務の目的の範囲を超えた保有及び利用について、当該保有個人情報の利用停止を請求する権利を保障することを明らかにしたものである。
 自己に関する個人情報の違法収集とは、適正かつ公正な手段による収集の規定(旧条例第6条第1項)、思想、信条その他の個人情報の原則収集禁止の規定(同条第2項)、本人収集の原則の規定(同条第3項)に違反して個人情報を収集している場合や、事務の目的の明示(第7条第1項)を怠って個人情報を収集している場合をいう。
 また、自己に関する保有個人情報の事務の目的の範囲を超えた保有及び利用とは、旧条例第10条第1項が許容する事務の目的の範囲を超えて当該保有個人情報を利用している場合や、旧条例第13条第3項の規定に違反して、事務の目的の達成に必要な範囲を超えて当該保有個人情報を保有している場合をいう。
 さらに、旧条例第36条第1項第2号は、旧条例第10条第1項の規定に違反して提供されているときにおいて、当該保有個人情報の提供の停止を求めることができる旨を定めたものである。そして、旧条例第10条第1項の規定に違反して提供されているときとは、同項が許容する限度を超えて、実施機関以外のものに当該保有個人情報を提供している場合をいう。
4 本件決定の妥当性について
(1) 保有個人情報の利用停止義務について
 旧条例第38条は、実施機関は利用停止請求があった場合において、当該利用停止請求に理由があると認めるときは、当該実施機関における個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な限度で、当該利用停止請求に係る保有個人情報の利用停止を行わなければならない旨を規定している。
 「個人情報の適正な取扱いを確保する」とは、旧条例第36条第1項各号に該当する違反状態を是正することをいい、「必要な限度で」とは、利用停止請求に係る保有個人情報について、当該利用等の全部が違反していれば全部を、当該利用等の一部が違反していれば一部の利用停止を行う必要があるものと解される。
(2) 本件保有個人情報の利用停止義務の有無について
 本件保有個人情報は、別件審査請求に係り実施機関から大阪法務局に提出された書類にある、審査請求人が令和2年7月に実施機関に提出した戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)等交付請求書である。審査請求人は本件請求において、当該交付請求書が改ざんされたものであると主張し、かかる交付請求書を大阪法務局へ提出することは旧条例第10条第1項に反するものであると主張する。
 当該交付請求書を当審議会で見分したところ、双方の主張する修正が行われていることが確認できた。当該交付請求書の各修正箇所のうち、太枠記載欄内の記載の修正(戸籍等交付請求の理由欄にある当初記述の内容が抹消され、「別紙添付」と追記されている点)については、実施機関の説明によると審査請求人に返却された請求書を審査請求人が再度提出した際に請求の理由を説明する「理由書」を添付することにしたことによるものとの実施機関の説明に不自然・不合理な点はなく、また、当該「理由書」を見分したところ、審査請求人が作成したものであると認められた。これらを踏まえると、審査請求人は少なくとも当該修正がなされていることを認識したうえで、再度の申請を行ったものと認められるため、改ざんと評価されるものではない。また、その他の修正については、実施機関の戸籍等請求事務処理の必要から申請書に追記されたものであり、戸籍等交付申請の内容に関わるものでもないため、改ざんと評価される余地はないものと考えられる。
 また、審査請求人は戸籍法に違反した事務が行われている旨を縷々主張するものの、保有個人情報の利用停止請求は旧条例第36条第1項各号に該当する違反状態の是正を求めるものであるところ、審査請求人の主張する戸籍法違反は、旧条例第36条第1項各号の規定のいずれにも当てはまらないものであり、本件決定の妥当性を左右するものではないため検討しない。
 その他、実施機関の本件保有個人情報の収集、利用、提供及び保管について、旧条例第第6条第1項から第3項まで及び第7条第1項、第10条第1項並びに第13条第1項に違反している事情は認められず、実施機関は、旧条例第38条の利用停止義務を負わないものと認められる。
5 結論
 以上により、第1記載のとおり、判断する。
6 付言
 審査請求人は、令和6年2月25日付け「[大住吉132号]について意見陳述及び質問申立」において、審査請求人が本件審査請求を行って実施機関が弁明書を提出するために長期間を要したことを指摘している。この点については、令和3年11月9日付けの本件審査請求に対して、弁明書が提出されたのは、661日後の令和5年9月1日であることが認められ、弁明書を提出するまでに長期間を要した理由については、審査請求人から背景事情が共通する審査請求がなされたため、事務局においてその進捗状況を踏まえたスケジュール管理を行っていたことが原因であるとの説明があった。確かに、同一の者から関連性のある多数の審査請求が連続してなされた場合に弁明書の提出に相当の期間が必要となることは理解できるが、本件においては、弁明書の提出までに約1年10か月もの期間を要しており、弁明書の提出が遅延したものと評価せざるを得ない。
 本件の審議経過に照らせば、結果として弁明書の提出の遅延が審議の遅延につながったものとはいえないが、本来、行政不服審査法第1条の「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定める」との規定に照らせば、かかる書面提出の遅延はあってはならないことは言うまでもない。今後は、事務局及び実施機関においては、弁明書を含む審査請求に係る各種書類の提出にあたっては、行政不服審査制度の趣旨を踏まえ、迅速な審理が行えるよう適切にスケジュール管理を行うよう強く要請する。

 (答申に関与した委員の氏名)
 委員 金井 美智子、委員 岡澤 成彦、委員 塚田 哲之、委員 野田 崇

 (参考)調査審議の経過 令和3年度諮問受理第63
 略

答申第206号

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