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答申第539号

2025年6月4日

ページ番号:653663

大情審答申第539
令和7年6月6日 

大阪市長 横山 英幸 様

大阪市情報公開審査会
会長 小谷 真理

 答申書

  大阪市情報公開条例(平成13年大阪市条例第3号。以下「条例」という。)第17条に基づき、大阪市長から令和4年3月23日付け大市民第1138号により諮問のありました件について、次のとおり答申いたします。

第1 審査会の結論
 大阪市長(以下「実施機関」という。)が令和4年2月16日付け大市民第973号により行った不存在による非公開決定(以下「本件決定」という。)は、結論において妥当である。

第2 審査請求に至る経過
1 公開請求
 審査請求人は、令和4年2月3日、条例第5条の規定に基づき、実施機関に対し、請求する公文書の件名又は内容として「令和3年12月6日に(一社)KIZUNAを相手方として契約した「令和3年度区民アンケート調査業務委託」(契約金額: 4,171,970円、事業担当:市民局)について、/1.実施決裁文書/2.業務委託契約書(仕様書の部分だけで結構です)/3.調査結果を取りまとめた資料/この業務委託契約は市政改革プラン2.0の成果指標測定のために平成29年度~令和元年度に行った区民アンケートを引き続き行うものですが、令和2年度実施分に係る住民監査請求において、実施機関は監査委員に対して次の通り説明を行っています。/市政改革プラン3.0に掲載されない「指標」における「〇〇と感じる区民の割合」の意味するところについて確認したところ、住之江区役所から次のとおり説明があった。/・アンケートにおいて回答された区民のうち、〇〇と感じていると回答された区民の割合を意味している。/市政改革プラン2.0に定められた指標のうち、「地域活動協議会を知っている区民の割合については、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援を評価するものであり、この点は令和3年1126日付不存在による非公開決定(大市民第727)において実施機関も認めています。/4.本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書/なお、上記決定では「令和3年8月30目付け大市民第517号通知により公開した区長会議資料以外には当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しない」とされていました。示された文書を確認しましたが、上記根拠に関する記載などはありませんでした。文書の特定を誤らないでください。/・無作為抽出をすれば元々考えていた、区同士の比較をする、経年で見るということでベースとしては問題がないと判断して進めてきた。/5.本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠が示された文書を公開してください。/上記の指標で言うと、本年度の調査結果の数値が昨年度より増加した→地域活動協議会を知っている区民の割合が増えた→認知度向上に向けた取り組みの支援に効果があったなどと判断できる根拠が示された文書です。/上記で請求する公文書について、これまでの公開請求で公開された文書や、既にホームページで公開されている情報は不要です。」(審査会にて原文中の改行箇所に「/」を挿入している。以下同じ。)と表示して公文書の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
2 本件決定
 実施機関は、本件請求に係る公文書(以下「本件請求文書」という。)を保有していない理由を次のとおり付して、条例第10条第2項に基づき、本件決定を行った。
・「1.実施決裁文書」については、令和3年1116日付け大市民第703号の部分公開決定通知により既に公開したもの以外には当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しないため。
・「2.業務委託契約書(仕様書の部分だけで結構です)」については、令和3年1116日付け大市民第703号の部分公開決定通知により既に公開したもの以外には当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しないため。
・「3.調査結果を取りまとめた資料」については、本調査は現在継続中であり、本件請求日(令和4年2月3日)時点で結果を取りまとめた資料は未作成であるから、当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しないため。
・「4.本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書」については、令和3年8月30日付け大市民第517号の公開決定通知により既に公開した区長会議資料以外には当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しないため。
・「5.本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠が示された文書」については、本調査は現在継続中であり、本件請求日(令和4年2月3日)時点で結果を取りまとめた資料は未作成であるから、当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しないため。
3 審査請求
 審査請求人は、令和4年2月21日、本件決定を不服として、実施機関に対し、行政不服審査法(平成26年法律第68号)に基づき審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。

第3 審査請求人の主張
 審査請求人の主張は、おおむね次のとおりである。
1 審査請求の趣旨
 「本件処分を取り消し、改めて文書の特定を行うこと。」との裁決を求める。
2 審査請求の理由
・「4.本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書」については、「令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した区長会議資料」が対象文書とのことであるが、市民局担当者が該当部分と主張する箇所は、「地域活動協議会の認知度向上に向けた支援」の評価を行うために、「地域活動協議会を知っている区民の割合」を指標として、その指標を「全区統一様式による区民アンケート(無作為抽出)」で測定することを決定したことが書かれているだけであり、公開請求した「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠」の記載はない。区長会を含む実施機関は「全区統一様式による区民アンケート(無作為抽出)」の結果により、「地域活動協議会の認知度向上に向けた支援」の評価が可能であると判断したからこそ、本件決定を行っているのであり、ここに判断の根拠がないはずはない。公開請求の趣旨と特定された文書が違っており、公開請求で求めるものが、不存在による非公開決定で言う「既に公開した文書」に記載されていない以上、改めて文書の特定を行うべきである。
・次に、5.の「本調査は現在継続中であり、本件請求日(令和4年2月3日)時点で結果を取りまとめた資料は未作成であるから、当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しない」について、実施機関は、「区同士の比較」や「経年でみる」ことが可能となるように区民アンケートを設計したはずであり、根拠はそこに記載されているはずである。成果物が作成されていない段階では「区同士の比較」や「経年でみる」ことが可能であるという事の根拠がないというのは、原因と結果の因果関係を誤っています。言葉を代えれば、どのようなアンケート調査を行おうが、「地域活動協議会の認知度向上に向けた支援」の評価ができるというはずはなく、「区同士の比較」や「経年でみる」ことが可能なデータを取得するためには、どのようなアンケート調査をしなければならないものであるかという事の検討は当然行っているはずである。そして、公開請求の趣旨である「根拠」はそこに記載されているはずである。
3 令和4年3月28日付け意見書(審査請求書の補足)
・令和2年度市政改革プラン2.0の成果指標測定のための区民アンケート結果報告書の2ページには、標本誤差等の説明が記載された「報告書を読む際の留意点(大阪市全体)」(文書1)があり、請求対象文書を文書1の記載の根拠が示された文書として行った公開請求では、市政改革室が作成した平成29年度世論調査結果報告書が特定され、同文書において文書1と同じ記載(文書2)が認められた。
・ここで、上記平成29年度世論調査結果報告書については、当初ホームページに掲載された際には誤差を求める式が誤って記載され、誤りは後に修正されている。この修正に関する公開請求では、「標準誤差」(後に「標本誤差」に修正)の式等が記載された文書(文書3)が特定された。
・文書3には、総務省統計局のホームページが引用されており、当該ページは、「意外なところに統計学」(文書4)であり、そこでは、調査に必要な対象者数についての説明がなされている。
・つまり、文書1の記載内容は、区民アンケートで得られた数値から母比率(「〇〇である区民の割合」)を推定する(観測比率をもって母比率とみなす)根拠が記載されたものであり、この記載の根拠が示された文書は文書3及び文書4である。
・なお、平成3年6月15日付け情報公開審査会第492号では、「当該アンケートは市民又は区民全体の状況を統計学的に推計できるよう設計されておらず、「市政改革プラン(区政編)の進捗状況(平成30年8月末時点)」に掲載した内容はあくまで各調査の回答者の回答状況にとどまるものであり、また実際に実施機関においてアンケート結果の数値をそのまま報告書やホームページに掲載していることが認められることから、当該アンケートについて統計学上必要とされる、信頼度、標本誤差の設定を行っている設計内容が記載された文書は存在しないとする実施機関の主張に特段不自然、不合理な点はないと認められる。」との情報公開審査会の認定も誤りだったということである。
4 令和4年8月29日付け意見書(併合審理された別事件の弁明書に対する反論。下記令和4年9月5日付け意見書に、本意見書も「合わせてご覧いただきますようお願いします。」との記載があったことから記載)
・実施機関の弁明書における主張は、審査請求人が、「統計学的な根拠が示された文書」を求めていることを前提にしているが、求めているのは、統計学に限らず根拠となる文書であり、実施機関の弁明書は、審査請求人の請求の趣旨の解釈を誤っている。
・実施機関が、根拠が記載されているとする部分には、「地域活動協議会の認知度向上に向けた支援」の評価を行うために、「地域活動協議会を知っている区民の割合」を指標として、その指標を「全区統一様式による区民アンケート(無作為抽出)」で測定することを決定したことが書かれているだけである。
・実施機関による情報公開審査会に対する「回答者の回答状況を表すにとどまる」(令和3年6月15日付大情審答申第492号参照)との説明は、得られたデータはそれ以上の意味を持たないということであるにもかかわらず、監査委員に対しては、「『②地域活動協議会の認知度向上に向けた支援』を評価」する上で意味のあるデータであると説明しており、両者に対する説明は完全に矛盾しており、公開請求はこの矛盾に対して説明を求めるものである。
・市政改革2.0(区政編)の24ページで、指標が「地域活動協議会を知っている区民の割合」と定められ、区長会において、測定手法を「全区統一様式による区民アンケート(無作為抽出)」と判断された根拠は、この「マーケティング・リサーチツールの手引き」をはじめとしたマーケティング・リサーチツール関係文書に記載されているのであり、請求対象文書はこれらであることは明らかである。
・実施機関が言うように「当該アンケートは市民又は区民全体の状況を統計学的に推計できるよう設計されておらず、『市政改革プラン(区政編)の進捗状況(平成30年8月末時点)』に掲載した内容はあくまで各調査の回答者の回答状況にとどまるもの」であるのであれば、区民アンケートの結果は、区民全体の状態とは全く無関係なのであり、そのようなデータでなぜ施策事業の評価ができる(具体的には「地域活動協議会を知っている区民」が増えているのかどうかが判断できる)のはなぜなのかという点について説明が必要となるのであり、公開請求はこの点についての説明を求めるものである。
・実施機関の弁明書では、「(区民アンケートに係る)調査報告書が公開対象となる」との記載の根拠は「連年、同じ条件で行っているもの」とされているが、言うまでもなくこれが根拠になるはずはない。
・実施機関は監査委員に対して「無作為抽出をすれば元々考えていた、区同士比較をする、経年で見るということでベースとしては問題がないと判断しすすめてきた。」と説明しているが、公開請求の趣旨は、なぜ「無作為抽出」をすれば、「区同士比較をする、経年で見る」ことが可能である(問題がない)と考えたのか、その根拠を求めたものであり、調査結果報告書に根拠が記載されているはずはなく、また、公開を受けた区長会資料にもこの根拠は記載されていない。
・「区同士の比較」については弁明書では全く触れられていないが、調査対象者は人口規模には関係なく一律に「各区2,000人」となっている。このような区ごとの人口規模の違いを無視した調査対象者数で、「区同士の比較」がなぜ可能であるのかについては、区長会の資料にも記載はなく、説明もなされていない。
・区長会の説明資料では、統計学を持ち出して「調査結果の正確性」を説明しようとしているが、統計学に関してはまるで無知であり、逆に信頼性のある調査ができないことが露呈してしまっている。
・実施機関は、区民アンケートを用いて市政改革プランに記載されている各取り組みの効果測定を行っているわけであるが、この取り組みが、「市民(区民)を〇〇の状態にする」というものである以上、その効果を検証するためには、市民(区民)全体の状態やその変化が測定する必要があることは言うまでもない。
・「回答者の回答状況を表すにとどまる」にすぎない調査結果で取り組みの効果測定ができるという点について、実施機関は文書を示して説明しなければならないはずである。
・区民アンケートの妥当性を、統計学を持ち出して説明しようとしているのは実施機関の方であり、そう主張するのであれば、統計学的根拠が記載された文書を特定すべきであり、また、統計学に基づくものではないと主張するのであれば、区民アンケートの妥当性や、区民アンケートの結果を用いた市政改革プランのマネージメントの合理性について説明できる文書を特定すべきである。
・もし仮に、請求対象文書が真に不存在であるということであれば、区民アンケートを用いた市政改革プランのマネージメントについて、その合理性や妥当性を、文書をもって説明できないということを意味するのであり、本来作成されるべき文書が作成されていないという事を意味するのであり、これは説明責任を果たすための公文書作成指針違反である。
5 令和4年9月5日付け意見書(弁明書に対する反論)
・弁明書では、処分理由の大きな柱として、この公開請求が、「アンケート調査の設計と指標の評価にあたっては統計学的見地に基づいた検証が必要であり、請求対象である区民アンケート調査においても統計学的見地に基づいた設計と指標の評価が行われているはずである」などと、当該区民アンケートについて、統計学的根拠が示された文書の公開を求めているものであるとして、「区民アンケート調査は統計調査には該当せず、統計学的見地に基づいた設計と指標の評価は行っていない。」、「統計学的根拠を示した文書はそもそも作成又は取得しておらず、実際に存在しない。」などとの理由で不存在であるとしている。しかし、令和4年2月3日付け公開請求や令和4年2月19日付け審査請求書の中でも、請求対象文書を「統計学的根拠が記載された文書」とはしていない。あくまでも、「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書」、「本契約により得られた結果により、『区同士の比較』、『経年でみる』が可能であるという根拠が示された文書」などとしているのであり、この根拠が統計学であろうがなかろうが、根拠が示された文書の公開を求めるものである。よって、「区民アンケート調査は統計調査には該当せず、統計学的見地に基づいた設計と指標の評価は行っていない」から請求対象文書が存在しないという主張は請求の趣旨の解釈を誤っている。
・実施機関の弁明書の「審査請求人に対する反論について」に、「本調査は、定点観測的な状況把握の観点から、無作為抽出した18歳以上の区民を対象に毎年調査しているものであるが、「区同士の比較」及び「経年比較」を行うためには調査結果報告書が必要であり、本件請求時点で対象文書は作成していない。よって、対象文書を既に作成又は取得しているはずであるとの主張は、審査請求人の一方的な期待に過ぎないものであり、実際に未作成又は未取得である。」との記載がある。この点、確かに調査結果に基づいて実際に比較などを行うためには調査の結果データが必要となることは間違いない。しかし、請求の趣旨は、「調査の結果データがなぜ比較可能性を持つのか」(「比較ができるという根拠はいかなるものか」あるいは「比較可能とするためにどのような調査設計を行ったのか」)ということについての説明を求めるものであり、弁明書の記載は明らかに論点をずらしている。調査の企画の段階で、「このような調査を行えば、比較が可能なデータが得られる」との判断を行っていることには疑う余地はない。そして、公開請求の趣旨は、この判断の根拠についての説明を求めるものである。文書が存在しないはずはなく、また、その文書は調査結果報告書ではない。
・実施機関の弁明書の「審査請求人に対する反論について」に、「上記のとおり統計学的見地に基づいて区民アンケート調査を設計したという事実はない中で、当庁としても可能な限り請求の趣旨に沿って対象文書を特定し、本件決定を行ったものである。よって、公開文書に統計学的根拠が記載されていないことから、当該文書がほかに存在するはずであるとの主張も、やはり審査請求人の一方的な期待に過ぎないものであり、当庁は、令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した「区長会議資料」以外に当該公文書を作成又は取得しておらず、同決定は請求の趣旨に適合しており、文書特定に誤りはない。」との記載がある。この点、「ほかに存在するはずである」としているのは、「統計学的根拠が記載されていない」からではない。公開された区長会議関係文書などには、請求対象である「根拠」そのものが記載されておらず、また、区民アンケートの実施の立案段階においては、区民アンケートの目的は、「経年で見る」、「区同士の比較」、「市政改革プランに記載された取り組みの進捗の評価」であったことは明らかであるため、区民アンケートの実施によりこれらの目的が達成されると考えた根拠がないはずはないからである。逆にこの根拠がなければ、公金を支出する根拠がなくなる。よって、文書特定は明白に誤っている。
・大阪市の行う区民アンケートをはじめとする社会調査事業については、平成23年度に世論調査などが市政改革室に移管されて以降、市政改革室が統括部署として実施されてきた。それ以前は政策企画室が、それ以前には市民局が所管していたが、市民局が所管していた頃には、世論調査、市政モニターは大学教授などの社会調査の専門家の参画を得て、統計調査として実施していた。しかし、特に市政改革室が所管するようになってからは、統計学的な理論的根拠が忘れ去られ、調査は形骸化してしまった。
・実施機関は区民アンケートの結果について、比較可能性を持つものであり、区民の状態を(ある程度は?)表しているものであるということについて、あたかも当然であるかのような主張を繰り返している。しかし、妥当な結論を得るためには、適切な調査設計が必要であることは、社会調査の常識である。実施機関が行う区民アンケートが、どのような理論的裏付けをもって妥当なものであるとするのか、実施機関は説明する責任があるはずで、できないのであればコンプライアンス違反である。
6 令和4年9月13日付け意見書(併合審理された別事件の弁明書に対する反論。下記令和7年4月4日付け意見書に、本意見書も「併せてご覧ください。」との記載があったことから記載)
・まず、不存在決定(令和4年2月9日付大市第40号)の不存在の理由として示されている「『記載例』に『区民モニターアンケートで「・・・・」と回答した割合 〇年度末までに□%以上』と記載した意図が確認できる文書及び『区民モニターアンケート』で『その状態を客観的に測定できるよう数値化した指標』の測定ができると考えた根拠が確認できる文書」については、マーケティング・リサーチ関連文書が該当する。
・市政改革室は市民の声の回答で、「マーケティング・リサーチにより母比率の推定を行うことを目的とした手法を説明したものではありません」とし、情報公開審査会に対しては「調査の回答者の回答状況をとどまるものと取り扱っている」との説明を行っている。マーケティング・リサーチ関連文書については、これらを根拠として該当しないものとして扱っているものであると思料されるが、「マーケティングリサーチツールの手引き」の「7 PDCAサイクルを意識した改善について」は、マーケティングリサーチツールを使用した運営方針のマネージメントについて記載されており、まさに上記請求対象文書に該当するものである。これは、区民アンケートの結果を「母比率の推定値」として扱っているのか、「あくまで当該調査の回答者の回答状況をとどまるもの」として取り扱っているのかは無関係であり、この点が文書の存否にかかる論点になるはずがない。
・そして、「当該文書をそもそも作成していたかどうかが不明」との点については、運営方針策定要領および運営方針の手引きの記載内容、特に請求内容である「区民アンケートでアウトカム指標が測定できると考えた根拠は何か」について、文書をもって説明できないという事態に陥っていることを如実に物語っており、明確に「説明責任を果たすための公文書作成指針」違反である。
・さらに「作成していたとしても、平成27年度以前であるため、保存年限(5年)が経過したために廃棄し、実際に存在しない」についても、保存年限が5年であるというのはどのようにして確認したものなのか。そして、仮に保存年限が経過したものであったとしても、説明責任を果たすうえで必要があるのは明白であり、現に審査請求人はこの点についての満足な説明を得られていない。この意味で保存年限を延長すべきものであり、この点についても公文書管理条例違反である。
・実施機関の弁明書では、区民アンケートの結果について、比較可能性や客観性などが述べられているが、はっきりした根拠は示されていません。
・そして、請求対象である「区民アンケートでアウトカム指標が測定できると考えた根拠は何か」という点については言及を避けている。問題はまさにこの点に集約されるのであり、区民アンケートがマーケティング・リサーチ関連文書に記載されているように標本調査として適切に実施されているものなのであれば、その結果をもって運営方針の評価を行うということについては問題がない。しかし、現実にはそうはなっておらず、マーケティング・リサーチ関連文書に記載されている内容すら満足に理解していない結果として、区民アンケートは標本調査として適切に実施されておらず、都島区役所が認めるように、回答者が偏り、精度は十分なものにはなっていない。
・そして、「アウトカム指標が既存データにより把握できない場合は、例えばアンケート調査等により区民・市民の意識等を測定することが考えられる」については、区民アンケートでアウトカム指標の測定ができるものであるとの前提で書かれているが、公開請求はまさにこの点、「そう考えるのはなぜか」についての説明を求めるものである。
・実施機関の弁明書には、「審査請求人は、令和4年2月15目付け審査請求書の中で、此花区役所の区民アンケート結果報告書及び各区の区民アンケートについて述べているが、市政改革室から区役所に対して世論調査をベースに区民(モニター)アンケートを実施するよう依頼した記録は存在しない。」とあるが、住吉区では民間ネット調査の手法で、その他の区では世論調査の手法で区民アンケートを行っていることは既に述べたが、これは各区役所も否定していない。単に事実関係を述べただけで、記載されているような依頼が市政改革室からあったなどとは一切記載していない。しかしながら、市政改革室が運営方針策定要領で、区民アンケートを用いたアウトカム指標の測定を例示し、マーケティング・リサーチツールの手引きにおいてマーケティング・リサーチツールを用いた運営方針のマネージメントについて説明していたことは客観的事実である。そして、各区役所も区民アンケートを用いて運営方針の評価を行っていることについては、運営方針策定要領が根拠であるとしている。
・実施機関の弁明書には、「審査請求人は、当該請求文書を廃棄していることについて「公文書作成指針違反」と指摘しているが、処分庁は、当該文書を作成していたとしても、公文書作成指針に基づき適切に管理・廃棄を行っていたものと認識している。」とあるが、審査請求人は、区民アンケートを用いた運営方針のマネージメントについて、その妥当性や根拠について、これまでのところ満足な説明を受けられていない。公開請求においてもこの妥当性や根拠に関するものは一切公開されず、市民の声の回答でも市政改革室は肝心な点についてはぐらかしてばかりで一切まともな説明を行っていない。
・市政改革室は市民の声の回答において、その内容をどんどん後退させることを余儀なくされた。そして、その結果だと思われるが、マーケティング・リサーチツールのすべてを廃止するに至った。その際に市政改革室が各所属に通知した文書の中で「既に一部の所属では、独自で『世論調査』を実施している」ことを理由として挙げているが、マーケティング・リサーチツールの目的についての説明が全くできなかったという事実は隠ぺいしている。その結果として区役所において区民アンケートが問題を抱えたまま継続されるという事態になってしまっている。
・情報公開条例解釈・運用の手引の4ページには第1条の説明として「本条は、この条例の解釈及び運用の指針となるものであり、各条文の解釈及び運用は、前文とともに本条及び第3条の規定に照らして、適正に行わなければならない」と説明されている。しかるに審査請求人はこれまでのところ、運営方針のマネージメントについての合理性、妥当性に関する説明を全く受けられておらず、「知る権利」、ひいては「市政に参加する機会」を不当に侵害されている。情報公開条例の趣旨にのっとった対応をお願いする。
7 令和4年1215日付け意見書(他の事件と共通の意見書)
・国立研究開発法人科学技術振興機構「地方自治体が実施する社会調査の深刻な問題」や日本学術会議の提言「社会調査をめぐる環境変化と問題解決に向けて」の現状認識や問題点の指摘は、現状の大阪市が行う調査にも完全に妥当するものである。
・調査を用いた運営方針のマネージメントについては、それが妥当で合理的であると判断したからこそ、そのように行っていることには疑いはなく、また、市民の声の回答でも「調査は妥当で合理的なものである」との主張になっているので、そのような判断や主張にいたる根拠についての説明を求めるものであり、その根拠が不存在であるはずがない。
・日本学術会議の提言「社会調査をめぐる環境変化と問題解決に向けて」の「社会調査は我々の社会の現状を的確に把握し、その時間的変化を追跡し、他の社会との比較をするために、さらにはエビデンスに基づいた政策立案をするために不可欠である。社会調査から得られる情報がなければ、民主社会の基盤が損なわれてしまう。」との記載は、大阪市の認識とも一致していると認められる。「マーケティング・リサーチツールの手引き」の「7 PDCAサイクルを意識した改善について」や、「運営方針の手引き」「運営方針策定要領」の記載内容について、その趣旨は提言の記載と同じであると認められる。
・また、日本学術会議の提言「社会調査をめぐる環境変化と問題解決に向けて」には、「社会の的確な実態を捉えるためには、適切な母集団を設定し、その母集団に対して代表性のある標本から情報を得る必要がある。このためには回収率が高くなければならないが、近年の社会調査ではこの回収率が低下する傾向にある。」との記載があるが、これに関して大阪市の説明は「母集団の代表になっているとは必ずしも言えないということを認識したうえで…」というものである。提言にあるように代表性のある標本でなければ社会の実態を的確にとらえることはできない。アウトカム指標は「めざす状態を数値化した指標」であるとされており、これを測定するためには、母集団たる区民全体などの実態を的確にとらえる必要があることは論を俟たない。そして、そのためには調査の標本は母集団に対する代表性を有するものでなければならないことは提言にある通りであるが、大阪市が行う調査に関しては、低回収率を起因として標本が偏り、代表性を有するものにはなっていない。
・「区民アンケートの結果は区民の状態を表すものではない」ということはいくつかの区の報告書に記載がある。大阪市はなぜこのような区民アンケートでこの測定ができる(アウトカム指標になりうる)と考えたのかを説明する責任があるはずである。そして、これに関しては、情報公開審査会に対しても「(調査結果は)調査の回答者の回答状況にとどまる」との説明になっている。しかし、「回答者の回答状況にとどまる」に過ぎない調査結果が、区民の状態を表す指標であるアウトカム指標になりうるのかという説明はなされておらず、昨年6月15日付けの情報公開審査会の答申にもこの点に関する記載はない(令和3年6月15日付け大阪市情報公開審査会答申第492号参照)。
・「標本の代表性」については、大阪市において正しく認識できてはいない。これは、マーケティング・リサーチツール関連文書のどこにも標本の偏りに関する言及がないこと、市政改革室の市議会での答弁においても、標本の偏りが説明されることはなく、「一定の精度」の根拠が回答者数のみであることなどからもわかる。
・市政改革室については、平成30年3月段階での市民の声の回答では調査について「母集団あるいはセグメントごとの傾向の把握を行うもの」と母集団の推計を行うものであることを認めていたにもかかわらず、その後の回答では「統計学によるものではない」「母比率の推定は行っていない」などと過去の回答を完全に無視した説明を行い、過去の説明との整合性については説明を行うことなく無視を決め込むといった信じられない対応を続けており、これについては明確に虚偽説明であると言わざるを得ない。また、市民局についても、調査において「分散分析」といった統計学に基づいた手法を用いた分析を行っていながら、同様に「統計学に基づくものではない」などとの説明を行っている。
・昨年6月の情報公開審査会答申に関して、これらの過去の回答や分散分析に関する資料、マーケティング・リサーチツール関連文書の内容については、実施機関から情報公開審査会に対する説明はなかったものと認められるが、これは「隠ぺい」とも評価できるものである(令和3年6月15日付け大阪市情報公開審査会答申第492号参照)。
・なお、提言の内容は、社会調査の実務現場からはやや「理想論」であるように見受けられる。今日、社会調査をめぐる環境には様々な問題点があり、すべてが理論通りに進むわけではない。しかし、調査により社会の状態を的確に把握するためにはどのような問題点があり、それを解決するためにはどのような方法が考えられるかということを検討するにあたっては、やはり社会調査に関する知見が求められることは言うまでもない。そして、調査の結果得られたデータを実務に活用するにあたり、どのような制約が生じているのか、すなわち「データを読む力」を養うためにもこれは求められるのであり、この知見を欠いたまま不適切な調査によって得られたデータを不適切に使用することは、行政があるべき姿からどんどん乖離してしまうという結果を招くことになる。社会調査の実務の現場では、社会調査をめぐる環境に存在する問題について、これを解決すべく様々な努力がはらわれている。行政だけが例外であるはずがない。大阪市が社会一般の水準に追いつくことを願っている。
8 令和5年1月11日付け意見書(各弁明書に対する共通の反論。なお、併合された他の事件の弁明書に対する意見も含まれるため、本事件に対してではない記載もある。)
・実施機関によれば、「2,000配れば400回収しようが600回収しようが、その信頼性は同じである。統計の入門書にも書いてありクリアできる。」の根拠は、「なるほど統計学園 調査に必要な対象者数」とのことであるが、当該ページのどこにも、「2, 000配れば400回収しようが600回収しようが、その信頼性は同じ」などと解釈できる記載はなく、明らかに実施機関の理解不足である。
・実施機関が統計学に基づいて、調査の信頼性や正確性を確保しようとしていたことは、区長会での説明や監査委員に対する説明、あるいは各種文書から明らかであるが、統計学に関する理解が極めて不十分であるために、誤った文書を作成したり、監査委員に対して統計学的には明白に誤っている説明を行ったりしている。
・実施機関は、監査委員に対しては調査の信頼性、正確性の根拠として統計学を持ち出しているにもかかわらず、市民の声の回答や情報公開請求の場面では、「統計調査ではない」などと説明しており、その場その場で説明が変遷している。
9 令和5年8月16日付け意見書(弁明書に対する求釈明)
・弁明書には、「アンケート調査の設計と指標の評価にあたっては統計学的見地に基づいた検証が必要であり、請求対象である区民アンケート調査においても統計学的見地に基づいた設計と指標の評価が行われているはずであるというのが(審査請求人の)主な主張である」、「(実施機関は、)統計学的根拠を示した文書はそもそも作成又は取得しておらず、実際に存在しない」、「区民アンケート調査において統計学的根拠に基づいた設計と指標の評価が行われているはずであるという主張は審査請求人の一方的な期待に過ぎないものである」と記載されている。しかし、公開請求には、「統計学的根拠が記載された文書」などとは一切記載していない。また、審査請求書にもこのような記載は一切行っていない。
・実施機関はどのような根拠で「アンケート調査の設計と指標の評価にあたっては統計学的見地に基づいた検証が必要であり、請求対象である区民アンケート調査においても統計学的見地に基づいた設計と指標の評価が行われているはずであるというのが主な主張である」などとの判断を行い、請求対象文書を「統計学的根拠が記載された文書」であるとし、「決定は請求の趣旨に適合しており、文書特定に誤りはない。」としているのか、説明を求める。
・仮にこの点を措くとしても、区長会での「調査結果の正確性(標本誤差)から、統計学上、1区あたり400弱のサンプル数(アンケート回答者数)が求められる。平成29年度は回答率が23%の区もあったため、予算事情等を加味し、各区2,000名を調査対象者数として設定する」との説明や、公開された文書である「代表性検証シート」はまさに「統計学的根拠が記載された文書」であり、また、監査に対する「2000 配れば400回収しようが600回収しようが、その信頼性は同じである。統計の入門書にも書いてありクリアできる。」との説明(大阪市情報公開審査会答申第536号参照。監査に対する説明について以下同)も統計学的根拠の存在を前提としたものであるが、これらについてはどう説明するのか。
・「4.本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書」について、令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した「区長会議資料」には、区民アンケート調査の設問項目のうち「地域活動協議会を知っている区民の割合」の測定にかかる統計学的根拠が記載されていないことから、同決定は請求の趣旨に適合せず、当該文書がほかに存在するはずであると主張している」と記載されているが、上記「区長会議資料」が請求対象文書ではないとしているのは「統計学的根拠が記載されていない」からではなく、公開請求に記した「地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠」そのものが全く記載されていないからである。実施機関はこの「区長会議資料」が請求対象文書であるとするのであれば、この文書のどこに「地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠」が記載されているというのか、説明を求める。
・区長会議での説明や、「代表性検証シート」が公開請求に記した「本契約により得られた結果により、『区同士の比較』、『経年でみる』が可能であるという根拠が示された文書」ではなく、監査に対する説明についても根拠が記された文書が存在しないというのであれば、それはなぜなのか、及び、いかなる根拠をもって「区同士比較をする、経年で見る」ということが可能であると考えているのかについて説明を求める。
・弁明書では「『3.調査結果を取りまとめた資料』及び『5.本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠が示された文書』については、令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書が対象文書となる」と記載されている。この令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書は、後日北区のものが公開されたが、そこには「『区同士の比較』、『経年でみる』が可能であるという根拠(調査結果報告書に記載された数値の比較に意味があるとする根拠)」など、どこにも記載されてはいなかった。実施機関は、この報告書のどの部分が「『区同士の比較』、『経年でみる』が可能であるという根拠」であるというのか、説明を求める。
・公開請求には、「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書」と記載し、さらに、「なお、上記決定では『令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した区長会議資料以外には当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しない』とされていました。示された文書を確認しましたが、上記根拠に関する記載などはありませんでした。文書の特定を誤らないでください。」と記載しているにもかかわらず、この「区長会議資料」のどこに上記「根拠」が記されているというのかについては全く示されないままである。請求対象文書をこの「区長会議資料」であるとするのであれば、どこに上記「根拠」が記されているというのかについて、説明を求める。
・弁明書では「区民アンケートの結果が経年比較できるものであるとする根拠が分かる文書」については、区民アンケートは施策の進捗状況など経年比較の参考のため、連年、同じ条件で行っているものであり、その調査報告書が公開対象文書となる」と記載されている。これも、公開請求には、「区民アンケートの結果が経年比較できるものであるとする根拠が分かる文書」と記載しているにもかかわらず、公開された区民アンケート調査報告書にはこれらの根拠(調査結果報告書に記載された数値の比較に意味があるとする根拠)は一切記載がない。この区民アンケート調査報告書が請求対象文書であるというのはいかなる根拠によるものなのか、また、この区民アンケート調査報告書のどこに根拠が記載されているというのか、説明を求める。
・令和元年度および令和2年度の区民アンケート結果報告書に、統計学的な説明が記載されていた。そして、対象文書をこの記載の根拠が記された文書として行った公開請求では、令和3年8月20日付け大市民第492号で市政改革室が作成した平成29年度世論調査結果報告書が対象文書として特定され、公開された。市政改革室が作成した「運営方針の手引き」、「運営方針策定要領」、「マーケティング・リサーチの手引き」をはじめとしたマーケティング・リサーチ関連文書には、世論調査を用いた「〇〇である市民の割合」などが説明されている。請求対象文書としてはこれらの文書が考えられるが、これらが公開対象として特定されていないのはなぜか。
10 令和5年8月21日付け意見書(弁明書に対する求釈明の追加)
・弁明書には、「区民アンケートの結果が経年比較できるものであるとする根拠が分かる文書」については、区民アンケートは施策の進捗状況など経年比較の参考のため、連年、同じ条件で行っているものであり、その調査報告書が公開対象文書となる」と記載されている。また、「「3.調査結果を取りまとめた資料」及び「5.本契約により得られた結果により、『区同士の比較』、『経年でみる』が可能であるという根拠が示された文書」については、令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書が対象文書となる」と根拠は明示されていないが「区同士の比較」が可能であるとの見解を示している。しかし、当該区民アンケートの回答率については、年度ごとあるいは区ごとに異なっている。この回答率の違いが回答傾向に影響を与えず、区民アンケートの結果の比較可能性に影響を与えないとする根拠についての説明を求める。
11 令和5年9月27日付け意見書(実施機関の令和5年9月15日付け意見書に対する反論等。なお、併合された他の事件に対する意見も含まれるため、本事件に対してではない記載もある。)
・実施機関は、監査に対しては、「無作為抽出をすれば元々考えていた、区同士比較をする、経年で見るということでベースとしては問題がないと判断しすすめてきた。」(令和3年1112日付け大監第9720ページ)と説明している。また、この区民アンケートを所管する区長会議人事・財政部会の今年度の事務局である旭区役所からの令和5年9月15日付け市民の声No.2301-10577-001-0lの回答でも、「『無作為抽出すれば』、『区同士比較する、経年で見るということでベースとしては問題がない』というのは、統計学的思考ではなく、単に無作為抽出をすれば、区民アンケート調査結果を見比べることで区同士や経年の比較が行えると考えているものです。」と回答している。これらの説明を行っている以上、このように考えるに至った根拠がないはずはない。「理論的に可能かについての検討は行っていない」にしても、何らかの根拠はあるはずである。
・区長会での説明にある「標本誤差」、「400弱の回答者数が求められる」や、監査に対する説明である「正確性は担保されている」、「信頼性」、「区同士の比較」、「経年での比較」の根拠は明らかに統計学に基づくものであり、そして、その根拠は市政改革室が作成した関係文書の記載の根拠と同じものである。ここから、請求対象文書は市政改革室が作成したこれら関係文書であることは明らかである。
・仮に文書が不存在であるために説明ができず、説明責任を果たせないということであれば、これは「説明責任を果たすための公文書作成指針」の精神とは著しく乖離しており、同指針違反である。
・区民アンケートの結果については、現実の区民の状態からは10%、15%もずれたものになっており、その「ずれ」自体も年度により大きく変動するものになっている。区民アンケートの結果データがこのような状態になっているにもかかわらず、区民アンケートにより施策事業の効果の測定ができ、また、「区同士の比較」「経年での比較」ができるというのはいかなる根拠によるものであるのか、明確に説明すべきである。
12 令和5年1010日付け意見書(令和5年9月27日付け審査請求人意見書の補足)
・区長会での説明において、統計学が調査の正確性や信頼性の根拠とされている点と、市民の声の回答で「本アンケートのサンプル数を決める際、あくまで参考として統計学上のひとつの考え方を引用している」と説明されている点については、完全に矛盾している。
・市民の声の冒頭では、「区民アンケートについては、調査全体が統計学上必要とされるような調査設計を行っているものではありません。ただし、本アンケートのサンプル数を決める際、あくまで参考として統計学上のひとつの考え方を引用しているもの」とし、統計学は、「本アンケートのサンプル数を決める際」に参考として引用しているものとの説明を行っているが、ここでは、「回答者の年代別構成や性別構成が実際の母集団のどの程度の差であれば許容範囲なのか」について、参考として引用しているものとの説明が行われており、如何にこれらの説明が場当たり的であるかを物語っている。
・「本アンケートのサンプル数を決める際、あくまで参考として統計学上のひとつの考え方を引用している」との説明に沿っていえば、区長会での説明である「400弱のサンプル数(アンケート回答者数)が求められる」との説明の前提が崩れるということであり、この意味でも調査の正確性や信頼性の前提が崩れるということであるが、理解していないようである。
・各公開請求については、区民アンケートで施策、事業の効果測定ができるという理論的根拠は何か、「区同士比較する、経年で見るということでベースとしては問題がない」などとする理論的根拠は何かなどについて説明を求めるものであるが、これまでのところ実施機関はこの説明が全くできていない。
13 令和6年1112日付け意見書(令和6年11月1日付けで実施機関より提出された資料に対する意見)
・実施機関が提出した「令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書」の補足として、「『公開請求書に記載の「本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠が示された文書」』を求められていますが、『本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」ことに用いるもの』として、上記資料を提出します。」との補足が付記されているが、実施機関の不存在決定(令和3年1126日付け大市民第727号)の不存在理由や弁明書(令和4年8月19日付け大市民第319号)と明白に矛盾するものである。これについて、実施機関は、どういうことなのか説明すべきである。
・審査会からの照会に対して、実施機関が令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した区長会議資料の根拠部分として示した箇所では、審査請求人が担当者に確認した際に該当箇所とされた部分が漏れている。また、ここに記載されているのは、「地域活動協議会を知っている区民の割合」との指標を、「全区統一様式による区民アンケート(無作為抽出)」により測定する旨だけであり、請求対象である「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠」などどこにも書かれていない。
・令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書について、実施機関は、「根拠が示された文書」としてではなく、「『区同士の比較』、『経年でみる』ことに用いるもの」として提出するとしているが、これは、実施機関の「資料の提出について」(令5年和9月15日付け大市民第400号)により提出された「令和2年度区民アンケート調査報告書」には、「⑥、⑧、⑪根拠部分が全体のため囲みなし」と付記されているのと明白に矛盾する。
14 令和6年1118日付け意見書(令和6年1112日付け意見書の補足)
・(実施機関が令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した区長会議資料について)情報公開審査会からは「根拠部分を四角囲み」と求められていたはずですが、実施機関が提出した資料では「地域活動協議会を知っている区民の割合」を指標として定めて全区統一様式による区民アンケートにより測定することが記載されている部分」として特定されており、「四角囲み(p.3の赤色で囲った部分)」された部分が根拠に該当するものであるのか否かが判然としない。仮に根拠に該当するものではないというのであれば、不存在理由の記載と矛盾する。この点、及び、特定された部分が根拠であるとするのであれば、ここには、「地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠」に該当すると判断される記載は確認できない点について、情報公開審査会から実施機関に質していただき、その回答は審査請求人に開示していただくようお願いする。
・(令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書について)ここでは、区民アンケート調査結果報告書について、「根拠が示された文書」としてではなく、「『区  同士の比較』、『経年でみる』ことに用いるもの」として提出する旨が記載されている。これは、「令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書」には根拠の記載がないということであると解されるが、この通りなのであれば、不存在理由の記載とは矛盾する。この点、及び、区民アンケート調査結果報告書には、「『区同士の比較』、『経年でみる』が可能であるという根拠」に該当すると判断される記載は確認できない点について、情報公開審査会から実施機関に質していただき、その回答は審査請求人に開示していただくようお願いする。
15 令和6年1120日付け意見書(令和6年1112日付け意見書の補足)
・(令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書について)には、報告書に記載されているものは「本アンケートの回答者における回答状況を集計したもの」に過ぎず、「区民全体の状況を表すものでは」ないと記載されている。実施機関は、情報公開審査会に対して、「当該アンケートは市民又は区民全体の状況を統計学的に推計できるよう設計されておらず、『市政改革プラン(区政編)の進捗状況(平成30 年8月末時点)』に掲載した内容はあくまで各調査の回答者の回答状況にとどまるもの」との説明(令和3年6月15日付け大情審答申第492号)を行っている。これら「回答者における回答状況を集計したもの」、「回答者の回答状況を表すにとどまる」との説明は、得られたデータはそれ以上の意味を持たないということである。つまり、例えば報告書5ページに記載されている「地域活動協議会を知っていますか」との設問の北区の結果39.5%は、この設問に回答した約607人の状況を表しているにとどまり、それ以上の意味を持たないということである。
・「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書」について、本件決定理由では、請求対象文書は区長会議資料であるとされているが、「地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価」を行うためには「区民全体の状況」を把握する必要があることは明白であり、「区民全体の状況を表すものでは」ないデータでこれが可能であるはずはない。原決定の不存在理由は明白に誤っている。
・「本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠が示された文書」について、本件決定理由では、請求対象文書は「結果を取りまとめた資料」(令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書)であるとされているが、「回答者における回答状況を集計したもの」に過ぎず、「回答者の回答状況を表すにとどまる」データで「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるはずがない。原決定の不存在理由は明白に誤っている。
16 令和6年12月9日付け意見書(令和6年1112日付け意見書及び令和6年1118日付け意見書の補足)
・審査請求人は、令和6年7月12日付けで、請求対象文書を「この区民アンケート(注『区政に関する区民アンケート』) についても、『年度ごとに同じ条件でアンケートを実施することで、同じ質問項目については、その回答結果を見比べることで経年の比較ができる』と考えた根拠がわかる文書」とした公開請求を行った。それに対し、実施機関は令和6年7月26日付け大市民第286号により不存在決定を行った。それに対して、審査請求人が審査請求を提起したところ、実施機関は弁明書(大市民第521号)において、「「弁明書(令和4年8月19日付け大市民第319 号)」や「意見書(令和5年1227日付け大市民第720号)」での区民アンケート報告書に関する記載において、「区民アンケートの結果が経年比較できるものであるとする根拠が分かる文書」の公開請求に対する公開対象文書が区民アンケート調査報告書であるとしていたのは、経年比較や区同士の比較を行うための参考として、区民アンケート調査報告書を活用していることから、そのデータの根拠が区民アンケート調査報告書であることを前提に説明していた。」との主張を行った。
・上記弁明書(大市民第521号)の記載では、区民アンケート報告書は「区民アンケートの結果が経年比較できるものであるとする根拠が分かる文書」ではないとされており、これは、原決定の「本契約により得られた結果により、『区同士の比較』、『経年でみる』が可能であるという根拠が示された文書」は結果を取りまとめた資料(区民アンケート報告書)であるとの記載と明白に矛盾していることから、原決定は取り消されるべきものである。
17 令和7年1月6日付け意見書
・平成16年度までに市民局広聴相談課で行われていた市政モニター、世論調査を基にして、各区で区民アンケートが行われるようになり、市政改革プラン2.0区政編に定められた指標の測定をこの区民アンケートで行うこととしたものである。また、市政モニター、世論調査の所管が平成24年度に市政改革室に移って以後、「マーケティングリサーチツール」として位置づけられ、関連文書が作成されたものである。
・このことは、市政改革室の令和4年3月29日付け付裁決書(大市第67号)の中の「処分庁の主張」の記載において、「本件各請求については、処分庁におけるマーケティングリサーチツールのひとつである区民アンケートに関する公文書を求めていることから、前記事案の概要の2のとおりこれまでの公開請求と同様に、審査請求人の主張と本市のマーケティングリサーチツールに対する考え方の相違から端を発する一連の公開請求を継続して行っているに過ぎず、本件各請求は権利の濫用に該当するものである。」とあることからも、区民アンケートについて「マーケティングリサーチツールのひとつ」であるとしていることが分かる。
・市政改革室は、不存在による非公開決定(令和5年7月14日付け大市第48号)において、「平成30年度世論調査『市政に関する市民意識』業務委託仕様書に記載された調査の目的について、当時の担当者に確認したところ、マーケティングリサーチの一般的な目的を記載しているもの」としている。そして、この認識を基に、「マーケティング・リサーチの手引き」には、「めざす状態」の記載例として「〇〇により□□ができる区民の割合を増やす」との記載が、「アウトカム(成果)指標」の記載例として「区民モニターアンケートで『・・・・・』と回答した割合」との記載が認められる。各区の区民アンケートがその結果を「区民の割合」としていたのは、これら運営方針関係文書、マーケティング・リサーチ関係文書などを基にしたものであり、また、世論調査の結果を市民、区民の割合としていたことに倣ったものである。
・市政改革室は、「母比率の推定は行っていない」などとの説明を行っているが、これは世論調査で市民、区民の割合がわかるのはなぜかという根拠の説明ができない挙句に言い出した詭弁であり、区役所が区民アンケートの結果を「と回答する割合」と書き換えたのも、諮問庁が区民アンケ ートに関し同様の説明を行っていることについても市政改革室と同様説明できないためである。
・そもそも各区において、当時既に市民局広聴相談課で制度設計が行われた世論調査をそのまま各区において「区民アンケート」として実施することとしたものであるため、根拠の確認などは市民局広聴相談課において完了しているものとして改めて各区での検討などは行われなかったものである。各区役所(及び市民局)において区民アンケートが統計調査(標本調査)であるとの認識が薄いのはこのためである(なお、市民局広聴相談課は平成17年度に廃止され、世論調査などは市民情報部に移管されました。)。そして、市政改革プラン2.0区政編に定められた指標の測定にあたっても、この区民アンケートをそのまま用いることとしたものであり、この時点でも改めての検討は行われなかったものである。
・実施機関は区民アンケートの結果が表すものは「区民の割合」であるとの認識の基で区民アンケートを実施しており、また、令和6年3月25日の区長会議くらし・安全・ 防災部会の資料では、「区民の割合」とされ、それに基づいて目標達成の判断がなされている。
・さらに、令和5年度の区民アンケートに関する令和6年3月25日の区長会議において、浪速区長は、「地域活動協議会の認知度が大きく下がっている。町会の加入に関する広報へとシフトしたことにより、地域活動協議会に関する広報が以前より少なくなったことが理由かとも推測される。各区において気に留めていただき、昨年度の実績値についても確認したうえで、地域活動協議会の認知度が向上するように引き続き力を入れて取り組んでほしい。」との発言を行っており、区民アンケートの結果を「地域活動協議会の認知度」であるとしている。
・区民アンケートを用いた取組のマネージメントは「施策により達成しようとしている目標が、区民全体の割合を目標値以上にすること」そのものであり、区民アンケートの目的は「区民全体の割合の把握のために調査が実施されている」そのものである。ただ、 回答率が低すぎることで結果的に「調査の結果についても、区民全体の割合を示すもの」ではなくなってしまっているというだけのことである。
・本件では、区民アンケートの実施に係る意思決定文書は作成されている。つまり、区民アンケートを実施するという意思決定はなされている。しかし、そこには区民アンケートの結果を指標であるとすることができる根拠や、目標達成判断ができるとする根拠に係る記載はない。これらは「意思決定の過程に関する事項であって意思決定に直接関係するもの」であると言え、これを作成する義務を実施機関が負うことは「公文書管理条例解釈・運用の手引」にも記載されている。なお、この「根拠」に係る文書が、市政改革室が作成した運営方針関係文書及びマーケティング・リサーチ関係文書であるということは上記のとおりである。
18 令和7年1月9日口頭意見陳述
・各区の区民アンケートは、モニター方式から無作為抽出方式に移行した。
・区民アンケートの所管が市政改革室に移ってから、市政改革室が区民アンケート、世論調査、市政モニターをマーケティング・リサーチと改めて位置付けており、祖先は一緒である。よって、マーケティング・リサーチ関連文書に基づき各区役所が区民アンケートを行っているのはその通りであるが、むしろ、既に各区で行われていた区民アンケートをマーケティング・リサーチツールと位置付けたという順序である。
・令和3年度区民アンケート調査報告書では統計学的な説明(報告書を読む際の留意点)が削除されているが、世論調査と区民アンケートは祖先が一緒であることから、マーケティング・リサーチ関連文書が想定したアンケート調査そのものである。
・市政改革プラン2.0ができる時に、区民アンケートが測定した値の想定しているところは「区民の割合」であるという認識ができあがっていたので、それに基づいて市政改革プラン2.0が組み立てられた。そして、そこで定められた指標を区民アンケートで測定しようとなったのが時系列の流れである。
・市民局が区民アンケートを行うにあたって理論的根拠の確認が行われなかったのは、当然の前提とされていたためである。
・市民局や市政改革室は理論的な説明に窮した結果統計調査ではないと主張しているが、その由来を辿れば、区民アンケートは統計調査である。
・令和2年度から令和5年度に至るまで、区長会議の(区民アンケートを所管している)人事・財政部会の構成区である都島区等のホームページにおいて、区民アンケートの結果は、「区民の割合」と表現されており、構成各区がそのような認識を有している以上、市民局や市政改革室の統計調査ではないという説明の方が嘘ということになる。
・区民アンケートに係る根拠を説明できないという点は、公文書作成指針の精神に反している。
・文書がないから説明できないというのは、公文書作成義務違反であり、公文書管理条例第4条違反である。
・実施機関に説明責任を果たすように、審査会から促してほしい。
19 令和7年2月4日付け意見書(令和7年1月27日付けで実施機関より提出された意見書及び資料に対する意見)
・実施機関は「区長会議(安全・環境・防災部会)において、どういったアンケートとするかについて、『無作為抽出』という以外に具体的な想定はなかった。」と回答している。しかし、まず、令和元年度の区民アンケートに関して区会長議人事・財政部会に「『市政改革プラン2.0(区政編)』の成果指標の測定について(別紙1) が提出されており、ここでは調査の正確性を担保するために「1区あたり400 弱のサンプル数(アンケート回答者数)」が必要であるとの説明が行われている。そして、この説明の根拠を明らかにするよう求めた市民の声に対し、当時の区長会人事・財政部会長であった浪速区から「一般的な調査に必要と考えられるサンプル数400弱を取得する」ことは、一般的に国などが行っている標本調査では、信頼水準95%として調査の設計をされており、その場合のサンプル数が400弱必要であることを参考とし、そのサンプル数を得ようとするため「各区2,000人」に対して調査を行うこととしたものです。」の回答(令和元年6月4日付け)があった。また、実施機関の意見書(令和5年1227日付け大市民第720号。審査会注:大情審答申第536号参照)には、令和2年度の区民アンケートに関する記載であるが、調査設計において信頼水準を95%に設定した旨が説明されている。さらに、監査に対しては、「サンプル数が400 弱必要」であり、(その条件は満たされていることから)「調査結果の正確性は担保されている」との説明が行われている。実施機関は、区長会において、1区「あたり400弱のサンプル数(アンケート回答者数)が求められる」と説明しており、この説明の根拠として「信頼水準95%」を持ち出している。区長会での説明にある「400弱」(384) は、標本誤差5ポイント、信頼水準95%という設定を行わないと算出されないものである。実施機関の「区長会議(安全・環境・防災部会)において、どういったアンケートとするかについて、『無作為抽出』という以外に具体的な想定はなかった。」との回答は明らかに事実ではない。
・実施機関の令和7年1月27日付け意見書において、実施機関は「『標本誤差』及び『母集団の代表性』に関する論理的根拠に関する記載がない」としている。しかし、これもマーケティング・リサーチ関連文書である「アンケートの作業工程別ポイント!! アンケート方法を検討編」には、「誤差±5%を確保するには約384標本(略)が必要となります。」との記載がある。また、実施機関が情報公開審査会に対して提出した意見書(令和5年8月8日付け大市民第320号。審査会注:大情審答申第536号参照)には、実施決議を行っている区長会議(所管は人事・財政部会)において、従前からアンケートにおいて回答された区民の割合を「区民の割合」とする共通認識が図られている」との記載がある。これに関して、市政改革室が作成した「運営方針策定要領」の「めざす状態」の記載例には「〇〇により□□ができる区民の割合を増やす」とあり、アウトカム指標には「区民モニターアンケートで『・・・・』と回答した割合」とある。つまりここでは区民(モニター)アンケートの結果は、文字通りの意味での「区民の割合」を表すものであるという前提での説明がなされている。「区長会議において、従前からアンケートにおいて回答された区民の割合を『区民の割合』とする共通認識が図られてい」たのは、これら市政改革室が作成した関連文書に基づいて区運営方針のマネージメントを行っていたことが背景にあるのであり、「区政に関する区民アンケート」の結果を「区民の割合」としたのも、これら関連文書に基づいたものであることは明らかである。これを証するように、これも市政改革室が作成した「マーケティング・リサーチの手引き」の連営方針のアウトカム指標のマネージメントについて説明された「7 PDCAサイクルを意識した改善について」では、区民アンケートの結果が表すものは「〇〇である区民の割合」として説明がなされている。また、区民アンケートの基となっている世論調査のデータを「既存の統計データ」であるとしており、世論調査は統計調査であることを示しており、世論調査に関して「市民全体の意向把握の客性観が高い」と記載されている。つまり、高い客観性をもって「〇〇である市民の割合」の測定ができるということである。
・そして、平成28年5月23日付け「マーケティング・リサーチ実務担当者学習会」資料では、世論調査に対して区の広報紙を「毎月必ず読んでいる」、「ほとんど毎月読んでいる」との回答割合が合わせて約1/3程度であることをもって、「市の最強ツールでさえ、1/3程度しか毎月閲覧されていない」のが市民の現状であり、「【必要】や【重要】など、知っておいてほしい情報を確実に伝達する手段は持てていないのが現状である」との結論を導いている。また、世論調査に対して市のHPを「過去に利用したことがある」、「見たことがない」、「インターネットを利用しない」との回答割合が合わせて7割を超えていることから、「70%以上が市のHPをほぼ閲覧していない」のが市民の現状であり、「HPでの情報発信では周知を徹底することが難しいということを理解しておく必要がある」との結論を導いている。
・以上のことから、実施機関が「区政に関する区民アンケート」の結果を「区民の割合」としているのは、これら運営方針関連文書、マーケティング・リサーチ関連文書が基になっていることは明らかである。
20 令和7年2月10日付け意見書
・情報公開審査会答申(令和6年1220日付け大情審答申第536号)で「個別の処分理由として十分かつ正確であることにとどまらず、他の処分に付された理由と一貫性・整合性があるかについての配慮も求められる」、「条例第1条の目的に照らせば、実施機関においては、本市の説明責任を全うするため、区民アンケートを含む事務事業について、合理的かつ一貫性のある説明が求められている」と指摘されていることなどお構いなしに、最近の公開請求において、請求の趣旨を恣意的に解釈し、都合の良い文書の特定を行っている。このように実施機関の請求の趣旨の解釈及び文書の特定は、説明責任を免れるために恣意的に行われている。
21 令和7年3月17日付け意見書(令和7年2月10日付け意見書の続き)
・令和7年2月17日に行った公開請求の結果によれば、「区政に関する区民アンケート」の結果が「区民の意見・ニーズ」を表したものになっているのかどうかについて、何の検討も確認も行っていないということであり、令和7年3月3日付け大市民第731号の不存在理由にある「どのような『区民の意見・ニーズ』が把握できたのかがわかる文書」が区民アンケート調査報告書等であることについても何の確認も行ってはいないということである。言い換えれば、区民アンケート調査報告書が請求対象文書として特定すべき文書であるということについて、説明責任を果たせない状態であるということである。
・令和6年1220日付け大情審答申第536号の結語には、「実施機関においては、本市の説明責任を全うするため、区民アンケートを含む事務事業について、合理的かつ一貫性のある説明が求められていることを指摘しておく。」とあるが、実施機関はこのような指摘を受けてなお、説明責任を果たそうとはしていない。
・大阪市の「説明責任を果たすための公文書作成指針」の「はじめに」には、「しかしながら、本市において、情報公開請求に対して非公開決定がされるものの中には、請求対象となる公文書が存在しないことにより非公開となるケースがあります。/そもそも作成すべき公文書が作成されていなかったり、作成されていても適正な管理がなされていなければ、情報公開制度の円滑で適正な運用ができないばかりでなく、市政に対する信頼を損なうことにもなりかねません。」との記載があるが、「区政に関する区民アンケート」に関しては、その結果データが何を意味するものであり、調査の目的が達成できるものになっているのかどうかについて、そもそも検討が行われておらず、根拠が示された文書が存在しないことによって、説明責任が全く果たせない状態になっている。これは明白に指針違反である。答申においてはこの点に言及し、実施機関に「区政に関する区民アンケート」に関する理論的検討の実施を促し、説明責任が果たせるだけの文書を作成するよう勧告すべきであると思料する。
22 令和7年3月25日付け意見書(令和7年2月10日付け意見書、令和7年3月17日付け意見書の続き)
・令和7年3月19日付け旭区の市民の声の回答で引用されている答申(令和6年12 20日付け大情審答申第536号)の部分は、「代表性を有していることを保証できない」調査結果を「あたかも、各区の代表性を有するかのように扱」っていることに関して指摘するものである。実施機関はこのような取り扱いの合理性、妥当性を説明する責任があるはずで、上記のとおり答申でも「合理的かつ一貫性のある説明が求められている」と指摘されているにも関わらず、実施機関はこれを完全に無視し、その説明責任を果たしていない。また、回答では「区民の代表性を有しないことを正確に表示するよう取り組んでいます」とあるが、これについても、上記同様このような調査結果を「あたかも、各区の代表性を有するかのように扱」っていることに関する説明は全くない。このように答申において情報公開審査会から説明責任を果たすよう求められているにも関わらずこれを無視し、何らの対策も行おうとしない実施機関の姿勢は極めて問題であると考える。
・和6年1220日付け大情審答申第536号の第5、4、(2)では、「同指針は意思形成がなされていることを前提に、意思形成に係る文書を作成することを求めるものである」としたうえで、「このようなアンケートの行い方で実施目的を達成できるかについて実施機関において検討がなされたとは認められない」ことを理由に「説明責任を果たすための公文書作成指針に違反するとまでは認められない」としている。しかし、審査請求人としては、区民アンケートを実施するとの意思決定は行われており、実施目的が達成できるということはこの意思決定の中で確認されるべき事項であり、そうであれば文書も作成されるべきものであると考える。答申において「そのような実施決定の妥当性が問われるところ」とされている通りである。上記で述べた通り、実施機関は文書が作成されず、説明責任が果たせないという事態に陥り、これを情報公開審査会から指摘されているにも関わらず、開き直ったかのように何の対応も行っていない。これは「説明責任を果たすための公文書作成指針」が形骸化し、その前文にある「そもそも作成すべき公文書が作成されていなかったり、作成されていても適正な管理がなされていなければ、情報公開制度の円滑で適正な運用ができないばかりでなく、市政に対する信頼を損なう」ような事態になっているにも関わらず実施機関は何の対応も行おうとしていないということである。情報公開審査会におかれては、強い対応を行う必要があるものと思料する。
23 令和7年4月4日付け意見書(令和7年2月4日付け意見書)
・「調査結果について、統計学上、各区の代表性を有していることを保証できない」 調査結果を「あたかも、各区の代表性を有するかのように扱うもの」という答申の指摘は、マーケティング・リサーチツールにも妥当するものであり、その意味で「区政に関する区民アンケート」は「これらマーケティング・リサーチ関連文書の想定する調査」に該当するものである。
・実施機関は、令和7年1月27日付け意見書において、「『標本誤差』及び『母集団の代表性』に関する論理的根拠に関する記載がない」としている。これに関しては、先に提出した意見書において、これもマーケティング・リサーチ関連文書である「アンケートの作業工程別ポイント!!アンケート方法を検討編」における記載を指摘したところである。確かに、この文書の「誤差±5%を確保するには約384標本(略)が必要となります。」との記載の384がどのような理論的根拠から求められるものであるのかについての記載まではない。しかし、この文書を作成するにあたり、384 との値を求める根拠は確認されているはずであり、384の根拠が示された文書も存在しているはずである。そして、この文書は請求対象文書としてマーケティング・リサーチツール関連文書とともに特定されるべきものである。なお、これに関しては、市政改革室の不存在による非公開決定(令和4年2月9日付大市第40号)に対する2022年9月10日付け意見書(上記6)で詳述しておりますので、こちらも併せてご覧ください。

 第4 実施機関の主張
 実施機関の主張は、おおむね次のとおりである。
1 弁明の趣旨
 本件決定は条例に則った適正なものである。
2 弁明の理由(弁明書)
(1)本件決定の理由について
・まず、「1.実施決裁文書」及び「2.業務委託契約書(仕様書の部分だけで結構です)」については、令和3年1116日付け大市民第703号の部分公開決定通知により既に部分公開している。これ以外には当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しないため、本件決定を行った。
・次に、「3.調査結果を取りまとめた資料」及び「5.本契約により得られた結果により、『区同士の比較』、『経年でみる』が可能であるという根拠が示された文書」については、令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書が対象文書となるが、令和3年度区民アンケート調査は本件公開請求日(令和4年2月3日)時点で継続中であり、結果を取りまとめた資料は未作成であったことから、当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しなかったため、本件決定を行った。
・最後に、「4.本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書」については、令和元年度に開催された区長会議資料のなかで、「地域活動協議会を知っている区民の割合」を指標として定めて全区統一様式による区民アンケートにより測定することが記載されており、当該資料が公開対象文書となるが、これについては、令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開しており、これ以外には当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しないため、本件決定を行った。
(2)審査請求人に対する反論について
・審査請求人の区民アンケート調査において統計学的見地に基づいた設計と指標の評価が行われているはずであるとの主張については、区民アンケート調査は統計調査には該当せず、統計学的見地に基づいた設計と指標の評価は行っていない。ゆえに、上記「『地域活動協議会を知っている区民の割合』の測定」、「区民アンケート調査の結果を区同士で比較できるものであるとすること」、及び「区民アンケート調査の結果を経年比較できるものであるとすること」を行うための、統計学的根拠を示した文書はそもそも作成又は取得しておらず、実際に存在しない。区民アンケート調査において統計学的根拠に基づいた設計と指標の評価が行われているはずであるという主張は審査請求人の一方的な期待に過ぎないものである。
・次に、審査請求人の「4.本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書」について、令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した「区長会議資料」には、区民アンケート調査の設問項目のうち「地域活動協議会を知っている区民の割合」の測定にかかる統計学的根拠が記載されていないことから、同決定は請求の趣旨に適合せず、当該文書がほかに存在するはずであるとの主張については、上記のとおり統計学的見地に基づいて区民アンケート調査を設計したという事実はない中で、当庁としても可能な限り請求の趣旨に沿って対象文書を特定し、本件決定を行ったものである。よって、公開文書に統計学的根拠が記載されていないことから、当該文書がほかに存在するはずであるとの主張も、やはり審査請求人の一方的な期待に過ぎないものであり、当庁は、令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した「区長会議資料」以外に当該公文書を作成又は取得しておらず、同決定は請求の趣旨に適合しており、文書特定に誤りはない。
・最後に、審査請求人の「5.本契約により得られた結果により、『区同士の比較』、『経年でみる』が可能であるという根拠が示された文書」について、区民アンケート調査の設計時点で、区民アンケート調査の結果を区同士で比較できるものであるとすること及び区民アンケート調査の結果を経年比較できるものであるとすることの根拠が記載された文書を作成しているはずである。よって、請求対象文書について、「本調査は現在継続中であり、本件請求日(令和4年2月3日)時点で結果を取りまとめた資料は未作成である」との理由は誤りであるという主張については、先述のとおり統計学的見地に基づいて区民アンケート調査を設計したという事実はない中で、当庁としても可能な限り請求の趣旨に沿って対象文書を特定し、本件決定を行ったものである。本調査は、定点観測的な状況把握の観点から、無作為抽出した18歳以上の区民を対象に毎年調査しているものであるが、「区同士の比較」及び「経年比較」を行うためには調査結果報告書が必要であり、本件請求時点で対象文書は作成していない。よって、対象文書を既に作成又は取得しているはずであるとの主張は、審査請求人の一方的な期待に過ぎないものであり、実際に未作成又は未取得である。したがって、当該公文書を作成又は取得しておらず、同決定は請求の趣旨に適合している。
3 令和5年9月15日付け意見書
・(審査会としては、審査請求人が、「5.本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠が示された文書を公開してください。」との公開請求にて求めている文書は、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であると言える理論的根拠がわかる文書であり、「結果を取りまとめた資料」はそもそも特定すべき文書として適切ではないと考え、上記公開請求に対する対応を再検討の上、意見を求めたところ)本市としては、令和5年8月8日付け大市民第320号で提出しております意見書のとおり、既公開している公文書以外に当該公文書を作成又は取得していない。また、「令和3年度区民アンケート調査業務委託」に際して、「区同士の比較」、「経年でみる」ということが理論的に可能かについての検討は行っていない。本件は行政処分のように根拠や基準を明らかにして行うものではなく、行政の裁量に応じて行う事務である。そのため、審査請求人が求めるようにすべての事務に根拠を示す文書があるものではないため、本既公開文書以外に当該公文書を作成又は取得していない。
4 令和7年1月27日付け意見書(審査会からの審査請求人が対象文書であると主張するマーケティング・リサーチ関連文書を特定しなかった理由に係る説明の求めに対して)
・審査請求人が令和3年8月20日付けで行った公開請求については、「令和元年度区民アンケート報告書」に記載の「標本誤差」及び「母集団の代表性」に関して論理的根拠がわかる公文書の請求があったと理解し、「標本誤差」については「平成29年度世論調査報告書」、「母集団の代表性」については「代表性検証シート」を対象公文書として特定し、令和3年8月20日付け大市民第492号において、「平成29年度世論調査報告書」及び「代表性検証シート」を公開した。
・「運営方針の手引き」「運営方針策定要領」「マーケティングリサーチの手引き」には、令和3年8月12日付け公開請求の趣旨である「令和元年度区民アンケート報告書」に記載の「標本誤差」及び「母集団の代表性」に関する論理的根拠に関する記載がないことから、対象文書ではないと考えている。よって、上記マーケティング・リサーチ関連文書を特定しなかった。

第5 審査会の判断
1 基本的な考え方
 条例の基本的な理念は、第1条が定めるように、市民の公文書の公開を求める具体的な権利を保障することによって、本市等の説明責務を全うし、もって市民の市政参加を推進し、市政に対する市民の理解と信頼の確保を図ることにある。したがって、条例の解釈及び運用は、第3条が明記するように、公文書の公開を請求する市民の権利を十分尊重する見地から行われなければならない。
2 争点
 審査請求人は、本件請求文書が存在するはずであると主張するのに対し、実施機関は、本件請求文書は存在しないとして争っている。
 したがって、本件各審査請求の争点は、本件請求において公開を求めている公文書の存否である。
3 本件請求文書の存否について
(1)審査請求人が公開を求めている文書について
 第2、1に記載のとおり、審査請求人が公開を求めている文書は、令和3年12月6日に(一社)KIZUNAを相手方として契約した「令和3年度区民アンケート調査業務委託」(契約金額:4,171,970円、事業担当:市民局)についての以下5件の文書である。
・実施決裁文書(以下「公開請求1」という。)
・業務委託契約書(仕様書の部分のみ)(以下「公開請求2」という。)
・調査結果を取りまとめた資料(以下「公開請求3」という。)
・本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書(以下「公開請求4」という。)
・本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠が示された文書(以下「公開請求5」という。)
(2)令和3年度区民アンケート調査業務委託について
 令和6年1121日付けで実施機関より提出された本件業務委託の仕様書によれば、本件令和3年度区民アンケート調査業務委託は、「全市的な課題として取り組んでいくべき項目について、全区共通的な指標を設定し、その状況を把握するうえでの資料とするため、統一的手法のもと無作為抽出した区民に対してアンケートを実施する。」ことを目的とし、「大阪市内24の行政区それぞれから無作為抽出した18歳以上の市民(外国人住民を含む)」を調査対象として実施されたものであると認められる。
 また、調査回数は1回で、契約期間は、「契約締結日から令和4年3月31日まで」とされている。
(3)公開請求1について
 公開請求1については、本件決定の「公開請求に係る公文書を保有していない理由」によれば、「令和3年1116日付け大市民第703号の部分公開決定通知により既に公開した」とのことである。
 そこで、実施機関に対し、令和6年1024日付け「資料の提出について」により、「令和3年1116日付け大市民第703号による部分公開決定通知書」の提出を求めて審査会にて見分したところ、公文書の件名欄に「令和3年度区民アンケート調査業務委託に係る実施決裁文書、仕様書」との記載が認められた。
 よって、「令和3年度区民アンケート調査業務委託」に係る「実施決裁文書」については、適切に特定がなされていると認められる。
 なお、この点について、審査請求人からの主張はなく、公開請求1について争う意思があるか否かも不明であるが、仮に、審査請求人の主張が、実施機関が特定した文書以外にも特定すべき文書が存在するとの主張であったとしても、「令和3年12月6日に(一社)KIZUNAを相手方として契約した「令和3年度区民アンケート調査業務委託」(契約金額:4,171,970円、事業担当:市民局)」に係る実施決裁文書が複数あるとはおよそ考え難いことから、実施機関の「既に公開したもの以外には当該公文書を作成又は取得して」いないとの主張に不自然・不合理な点はないと言える。
 よって、公開請求1について、「不存在」との決定は妥当である。
(4)公開請求2について
 公開請求2については、本件決定の「公開請求に係る公文書を保有していない理由」によれば、「令和3年1116日付け大市民第703号の部分公開決定通知により既に公開した」とのことである。
 そこで、実施機関に対し、令和6年1024日付け「資料の提出について」により、「令和3年1116日付け大市民第703号による部分公開決定通知書」の提出を求めて審査会にて見分したところ、公文書の件名欄に「令和3年度区民アンケート調査業務委託に係る実施決裁文書、仕様書」との記載が認められた。
 よって、「令和3年度区民アンケート調査業務委託」に係る「業務委託契約書(仕様書の部分に限る。)」については、適切に特定がなされていると認められる。
 なお、この点について、審査請求人からの主張はなく、争う意思があるか否かも不明であるが、仮に、審査請求人の主張が、実施機関が特定した文書以外にも特定すべき文書が存在するとの主張であったとしても、「令和3年12月6日に(一社)KIZUNAを相手方として契約した「令和3年度区民アンケート調査業務委託」(契約金額:4,171,970円、事業担当:市民局)」に係る業務委託契約書が複数あるとはおよそ考え難いことから、実施機関の「既に公開したもの以外には当該公文書を作成又は取得して」いないとの主張に不自然・不合理な点はない。
 よって、公開請求2について、「不存在」との決定は妥当である。
(5)公開請求3について
 公開請求3については、本件決定の「公開請求に係る公文書を保有していない理由」によれば、「本件請求日(令和4年2月3日)時点で結果を取りまとめた資料は未作成であるから、当該公文書を作成又は取得しておらず、実際に存在しない」とのことであった。
 この点、条例第2条において、「「公文書」とは、実施機関の職員(本市が 単独で 設立した地方独立行政法人及び大阪市住宅供給公社(以下「本市が 単独で 設立した地方独立行政法人等」という。)の役員を含む。以下同じ。)が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものをいう。」と定義されており、文書の作成を委託した場合には、実施機関が、受託者(受注者)から文書等を「取得」した時点で「公文書」に該当することになる。
 よって、仮に受託者(受注者)が本件公開請求日時点で資料を「作成」していたとしても、同日時点で実施機関が「取得」していなければ、公開請求の対象となる「公文書」には該当しないのであり、実施機関の「決定通知書」における「本調査は現在継続中であり、本件請求日(令和4年2月3日)時点で結果を取りまとめた資料は未作成であるから」との付記理由は誤解を与えるものである。
 上記を踏まえ、実施機関が調査結果を取りまとめた資料を取得した日を確認すべく、実施機関に対し、令和6年1024日付け「資料の提出について」により、「令和3年12月6日に(一社)KIZUNAと契約した「令和3年度区民アンケート調査業務委託」に係る成果物(令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書)が実施機関に提出された年月日が分かる資料」の提出を求めた。
 その結果提出された資料に付された実施機関の補足によれば、「本市は委託事業者である(一社)KIZUNAの債務不履行により、令和4年4月18日付けで契約解除しております。そのため、令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書の納品は得られなかったものの、令和3年3月4日、委託事業者から中間報告は受領して」いるとのことであった。それを踏まえて、提出された「(一社)KIZUNAと契約した「令和3年度区民アンケート調査業務委託」に係る中間報告メール」を確認したところ、遅くとも令和4年2月18日には、受託者からなんらかの資料の提出があったことが確認できた。
 そこで、改めて、実施機関に対し、令和6年1112日付け「資料の提出について」により、「令和3年12月6日に(一社)KIZUNAと契約した「令和3年度区民アンケート調査業務委託」に関して、受注者より成果物に関連して最初に文書(電磁的記録を含む。)が提出された際の年月日が分かる資料」の提出を求めた。
 その結果提出された資料によれば、令和4年2月10日に、(一社)KIZUNAから実施機関に対し、「令和3年区民アンケート【中間報告書】データ」(添付ファイル)が提出されていることが確認できた。そして、当該データが提出されたメール本文からは、それが受注者より実施機関に提出された最初の成果物であることを疑わせる記載は認められなかった。
 ここで、「令和3年区民アンケート【中間報告書】データ」が提出された日である令和4年2月10日は、本件公開請求日(令和4年2月3日)より後ではあるが、不存在決定日(令和4年2月16日)より前であった。
 そこで、まず、公開請求に対して特定すべき公文書の基準日が問題となる。具体的には、公開請求日時点で保有している文書を特定するのみでよいか、あるいは、公開請求日の翌日以後決定日までに作成又は取得した文書についても対象に含めるべきかが問題となる。
 この点について直接的に判示した裁判例はなく、条例解釈の問題となるが、以下の理由により、当審査会としては、特段の事情がない限り、公開請求日時点で保有している文書を特定するのみでよいと解するべきと考える。
 まず、条例の文言解釈としては、第5条は、「何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、当該実施機関の保有する公文書の公開を請求することができる。」と規定しており、「保有する公文書の公開を請求することができる」(傍点審査会)との文言からは、実施機関が今後作成又は取得する予定の公文書ではなく、公開請求時点で現に保有している公文書について公開請求権を認めるものと解される。
 また、実務上の観点からも、公開請求日時点で保有している文書と解するのが行政実態に即していると言える。というのも、公文書が決裁文書に限られるのであればともかく、条例第2条第2項が定義する「公文書」には、広く実施機関が作成途中の文書も含まれることになる。そうであれば、受付簿のような文書であれば、日々更新が予定されるものであり、仮に決定日時点のものまで含まれるとすると、決定時点まで文書が確定しないことになり、決定に係る決裁手続を考慮すると、不可能を強いることになる。
 以上より、公開請求に対して特定すべき公文書の基準日は、特段の事情がない限り、公開請求日時点と考えるのが条例の趣旨にかなうものと考える。
 上記見解に立って本件について検討すると、「令和3年区民アンケート【中間報告書】データ」が、審査請求人が求めている「調査結果を取りまとめた資料」に該当するかについて判断するまでもなく、本件公開請求日(令和4年2月3日)時点では、実施機関が取得していたとは認められないことから、公開請求3について、「不存在」との決定は妥当である。
(6)公開請求4について
 公開請求4については、「支援の評価が可能であるとする根拠」との文言から、審査請求人は、区民アンケート結果によって地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価を行うことが可能であると理論的に説明できる根拠を求めていると解される。
 それを踏まえ、審査請求人が求めている根拠が記載されていると実施機関が主張する「令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した区長会議資料」の内容を確認すべく、実施機関に対し、令和6年1024日付け「資料の提出について」により、「令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した区長会議資料(提出に際しては、審査請求人が求めている「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠」部分を四角囲み等してください。)」の提出を求めた。
 その結果提出された資料には、「『令和3年8月30日付け大市民第517号通知により公開した区長会議資料(提出に際しては、審査請求人が求めている「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠」部分を四角囲み等してください。)』を求められていますが、「地域活動協議会を知っている区民の割合」を指標として定めて全区統一様式による区民アンケートにより測定することが記載されている部分について四角囲み(p.3の赤色で囲った部分)して提出します。」との補足が付され、審査会において、当該提出された資料を確認したところ、四角囲み部分に、「2.次期計画に掲載されない「指標」の取り扱い/〇地活協に関する以下の指標については、次期市政改革計画において「地域活動協議会による自律的な地域運営の促進」を掲げ、次年度以降も取組を進めていくことから、引き続き全区において目標値を設定し、進捗状況を把握する。/・地域活動協議会を知っている区民の割合」との記載が認められた。
 しかし、当該部分については、「地域活動協議会を知っている区民の割合」について引き続き全区において目標値を設定し、進捗状況を把握していく旨が記載されているのみで、「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠」であるとは認められない。
 また、当該実施機関が根拠とする部分以外に「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠」の記載がないか確認したが、当該資料中に該当するような記載は認められなかった。
 よって、実施機関が該当文書とするものは不適切である。
 次に、実施機関が該当文書とするもの以外に請求対象文書が存在するかが問題となるが、令和4年8月29日付け実施機関意見書によれば、「区民アンケート調査は統計調査には該当せず、統計学的見地に基づいた設計と指標の評価は行っていない。」とのことであり、そうであれば、その調査結果は区民を代表するものとは言い得ないことから、「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能である」とは認められない。
 したがって、「本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとする根拠が示された文書」が、不存在であるということに、不自然・不合理な点は認められない。
 よって、公開請求4について、「不存在」との決定は妥当である。
(7)公開請求5について
 公開請求5については、本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が(統計学等の)理論的に可能であると言える根拠である。この点、令和5年9月15日付け実施機関意見書によれば、実施機関は、「令和3年度区民アンケート調査業務委託」に際して、「区同士の比較」、「経年でみる」ということが理論的に可能かについての検討は行っていない。」とのことである。
 そうであれば、実施機関としても、「区同士の比較」、「経年でみる」ということが理論的に可能であるかは把握していないと言える。
 よって、「本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠が示された文書」が存在しない点について、不自然・不合理な点はない。
 なお、上記実施機関の検討を行っていないとの主張を前提にすると、「令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書」に審査請求人が求めている本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠の記載があるとは思われないが、念のため、実施機関に対し、令和6年1024日付け「資料の提出について」により、「公開請求書の「本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠が示された文書を公開してください。」に対して、公開請求日時点で完成していたら対象文書として特定するはずであった「令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書」(なお、こちらについても③と同様根拠部分を四角囲み等して提出してください。)」の提出を求めた。
 その結果、「『公開請求書に記載の「本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるという根拠が示された文書」』を求められていますが、『本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」ことに用いるもの』として、上記資料を提出します。」との補足の上で、24区分の令和3年度区政に関する区民アンケート報告書が提出された。
 そこで、審査会において、上記24区分の報告書を見分したところ、本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能である根拠の記載は認められなかった。
 この点(公開請求4についても同じ。)については、「不存在」との結論を左右するものではないが、理由の記載については、条例第10条第3項において、「実施機関は、前2項の規定により公開請求に係る公文書の全部又は一部を公開しないときは、公開請求者に対し、当該各項に規定する書面によりその理由を示さなければならない。」と規定されているとおり、条例上義務付けられたものであり、もとより、記載の理由は事実に基づく適切なものである必要がある。
 よって、実施機関においては、今後適切な理由を付すよう努められたい。
4 マーケティング・リサーチ関連文書の特定について
(1)審査関係人の主張について
 審査請求人は、意見書等において、本件の請求対象文書(明示的に示されていないが、公開請求4及び公開請求5の対象文書という趣旨と思われ、以下それを前提とする。)は、市政改革室が作成した「運営方針の手引き」、「運営方針策定要領」、「マーケティング・リサーチの手引き」をはじめとしたマーケティング・リサーチ関連文書である旨主張していることから、以下、その点について検討する(なお、「マーケティング・リサーチ関連文書」については、大情審答申第536号第4、4(1)参照)。
 上記主張を受けて、実施機関に対し、令和7年1月10日付け意見書の提出の求めにより、本件決定において審査請求人が主張するマーケティング・リサーチ関連文書を特定しなかった理由について説明を求めたところ、令和7年1月27日付けで、「・審査請求人が令和3年8月20日付けで行った公開請求については、「令和元年度区民アンケート報告書」に記載の「標本誤差」及び「母集団の代表性」に関して論理的根拠がわかる公文書の請求があったと理解し、「標本誤差」については「平成29年度世論調査報告書」、「母集団の代表性」については「代表性検証シート」を対象公文書として特定し、令和3年8月20日付け大市民第492号において、「平成29年度世論調査報告書」及び「代表性検証シート」を公開した。/・「運営方針の手引き」「運営方針策定要領」「マーケティングリサーチの手引き」には、令和3年8月12日付け公開請求の趣旨である「令和元年度区民アンケート報告書」に記載の「標本誤差」及び「母集団の代表性」に関する論理的根拠に関する記載がないことから、対象文書ではないと考えている。/・よって、上記マーケティング・リサーチ関連文書を特定しなかった。」との主張であった。
 当該実施機関の主張を踏まえ、審査会において、「令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書」を確認したところ、実施機関の主張どおり、「標本誤差」及び「母集団の代表性」に関する論理的根拠に関する記載はないことが認められた。
 しかし、上記実施機関の意見に対して、審査請求人から、主として、過去に区民アンケートが世論調査方式で行われていること(以下「審査請求人主張根拠1」という。)、区長会議において、区民アンケートを用いて区民の割合を測定すると決定していること(以下「審査請求人主張根拠2」という。)、「運営方針策定要領」において、区民アンケートを用いて区民の割合を測定することにより運営方針の達成評価を行う旨記載されていること(以下「審査請求人主張根拠3」という。)から、本件調査結果の根拠として、マーケティング・リサーチ関連文書を特定すべきとの主張がされているところである。
(2)区民アンケートに係る経緯について
 そこで、まず、区民アンケートに係る過去の経緯について確認すると、審査請求人の主張及び実施機関の主張(当該審査請求人の主張に対して特段の反論はなされていない。)から概ね以下のような経緯が認められる。
 区民アンケートは、以前は市政改革室が実施しており、その際に、マーケティング・リサーチの手引きにおいて、統計調査のひとつとして位置付けられた。その後、区民アンケート業務が市民局に移管され、市民局においても、区民の割合を測定するための統計調査として区民アンケートが実施されていた。しかし、遅くとも、令和2年度の区民アンケートでは、回収率等の問題で、区民アンケート結果は区民を代表する結果を得られないものとなっていた(大情審答申第536号参照)。さらに、翌年度の令和3年度の区民アンケートでは、実施機関自身が、令和4年8月29日付け実施機関意見書において、「区民アンケート調査は統計調査には該当せず、統計学的見地に基づいた設計と指標の評価は行っていない。」と主張しているように、設計段階から統計調査としては実施されなくなり、それを裏付けるように、令和3年度区民アンケート調査に係る調査結果報告書では、統計学的説明が記載された「報告書を読む際の留意点」が削除された。つまり、令和3年度の段階では、区民アンケートは、名実ともに、統計調査ではなくなったと認められる。なお、市政改革室より発出された令和7年2月5日付け「運営方針のアウトカム測定におけるアンケート調査の取扱いについて(通知)」によれば、区民の割合を測定する目的で区民アンケートを実施すること自体が見直されようとしていることが認められる。
 以上の認定事実に基づき、実施機関が行っている区民アンケートの変遷について整理すると、第1段階では区民の割合を測定する目的で区民アンケートが実施され、現に統計学的に有意な結果が得られていたが、第2段階では区民の割合を測定する目的で統計調査として区民アンケートが実施されるものの、回収率等の問題で所期の目的を達成できなくなり、第3段階では区民の割合を測定するとの建前は維持されつつも、事実上、統計調査としては実施されず、その結果としても統計学的に有意な結果を得られるものではなくなり、第4段階では区民の割合を測定する目的で区民アンケートを行うこと自体が見直されようとしているところである。
(3)審査請求人主張根拠1について
 上記(2)の経緯を踏まえ、審査請求人主張根拠1について検討する。
 ここで、審査請求人の主張は、区民アンケートが世論調査方式で行われていることから、マーケティング・リサーチ関連文書が対象文書に該当するというものである。
 当該主張については、世論調査が統計調査であるという点に争いはなく、上記(2)の第1段階においては、(意識的かどうかはともかく)マーケティング・リサーチ関連文書に従って統計調査として区民アンケートが実施され、実施された区民アンケートの結果からマーケティング・リサーチ関連文書が想定している統計学的に有意な数値が得られたと言える。そうであれば、審査請求人の調査結果に係る根拠として、マーケティング・リサーチ関連文書を特定することも合理的であると言える。
 しかし、上記(2)の第3段階においては、事実上、区民アンケートが統計調査としては実施されず、また、その当然の帰結として、区民アンケートによって統計学的に有意な数値を得られるものでもなくなっていることから、統計調査であることを前提としたマーケティング・リサーチ関連文書を特定すべきとは言えない。
 これを本件について見ると、令和3年度区民アンケートが実施された時点では、実施機関において、本件調査が統計調査ではないとの認識を有しており、また、実際になされた調査も統計調査ではなかったと認められる。そうであれば、事実として、本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとも、本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるとも言うことができない。
 よって、審査請求人の主張を踏まえても、公開請求4及び公開請求5の対象文書として、マーケティング・リサーチ関連文書を特定すべきとは言えない。
(4)審査請求人主張根拠2について
 次に、審査請求人主張根拠2について検討する。
 ここで、審査請求人の主張は、区長会議において、区民アンケートを用いて区民の割合を測定すると決定していることから、マーケティング・リサーチ関連文書が対象文書に該当するというものである。
 この点、審査請求人が、令和7年2月4日付け意見書で主張しているように、令和2年1月24日に開催された区長会議安全・環境・防災部会において、令和2年度以降も、「区民の割合」を測定するべく区民アンケートを実施する旨が決定されており、また、実施機関からも、令和3年度の区民アンケートの実施においてその目的を変更する意思決定がされたとの主張はされていない。
 そうであれば、少なくとも令和3年度区民アンケートについては、「区民の割合」を測定するとの意思決定が明確に変更されることなく、区民の割合を測定することができない(つまり、統計調査ではない。)方法で区民アンケートが実施されたと認められる。
 上記事実を踏まえると、審査請求人の主張は、区民の割合を測定するという目的で実施されるものであるなら、それは統計調査であるはずだというものと思われる。
 しかし、そこには、論理の逆転が生じている。つまり、「区民の割合」を測定しようと思うならば、統計学に則った統計調査を行わなければならないという論理は成り立ちえても、「区民の割合」を測定することを目的として実施された調査は統計調査であるという論理は成り立たない。なぜなら、目的が正しくてもそれに合致した方法が選択されないことは(望ましくはないが)現にあることだからである。
 実際上も、上記のとおり、遅くとも令和3年度時点では区民アンケートは統計調査としては実施されていないと認められ、本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとも、本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるとも言うことができない。
 よって、審査請求人の主張を踏まえても、公開請求4及び公開請求5の対象文書として、マーケティング・リサーチ関連文書を特定すべきとは言えない。
(5)審査請求人主張根拠3について
 次に、審査請求人主張根拠3について検討する。
 ここで、審査請求人の主張は、「運営方針策定要領」において、区民アンケートを用いて区民の割合を測定することにより運営方針の達成評価を行う旨記載されていることから、マーケティング・リサーチ関連文書が対象文書に該当するというものである。
 この点、審査請求人は、運営方針策定要領において、「めざす状態」の記載例に、「〇〇により□□ができる区民の割合を増やす」とあり、アウトカム指標には「区民モニターアンケートで『・・・・』と回答した割合」とあることをもって、区民アンケートが「区民の割合」を測定するものと主張しており、事実、令和3年度運営方針評価においては、区民アンケートの結果をもとに運営方針評価が行われている。
 しかし、これについても、審査請求人主張根拠2(上記(4)参照)と同様に論理の逆転が生じている。つまり、運営方針評価として区民の割合を使用しその測定が統計学に則って正確になされているものであるなら、正しい運営方針評価ができるという論理は成り立ち得ても、区民の割合でもって運営方針評価を行っていることからその前提となる数値が統計調査によって導き出されているとの論理は成り立たない。
 実際上も、「マーケティング・リサーチの手引き」(関連文書を含む。以下同じ。)には、統計調査の実施方法等が記載されているが、上記(2)のとおり、遅くとも令和3年度時点では、名実ともに区民アンケートは統計調査として実施されていなかったのであり(つまり、「マーケティング・リサーチの手引き」は参照されていない。)、本契約により得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価が可能であるとも、本契約により得られた結果により、「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるとも言うことができない。
 よって、審査請求人の主張を踏まえても、公開請求4及び公開請求5の対象文書として、マーケティング・リサーチ関連文書を特定すべきとは言えない。
(6)審査請求人のその他の主張について
 その他、審査請求人は、実施機関職員の監査における説明や審査請求人が行った市民の声に対する実施機関の回答等も根拠として主張しているが、これらを根拠にマーケティング・リサーチ関連文書を特定すべきと言えないことは、上記(3)(5)と同じである。
(7)小括
 以上より、審査請求人の主張を踏まえても、公開請求4及び公開請求5の対象文書として、マーケティング・リサーチ関連文書を特定すべきものとは認められず、上記3、(6)及び(7)記載のとおり、公開請求4及び公開請求5に係る対応として、「不存在」との決定は妥当である。
5 大阪市公文書管理条例及び説明責任を果たすため公文書作成指針違反であるとの主張について
 審査請求人は、実施機関が、区民アンケートにより得られた結果により、地域活動協議会の認知度向上に向けた支援の評価及び「区同士の比較」、「経年でみる」が可能であるとする根拠を説明できないことをもって、大阪市公文書管理条例(平成18年条例第15号)及び説明責任を果たすための公文書作成指針違反である旨主張している。そこで、以下検討する。
 ここで、大阪市公文書管理条例は、第4条第1項において、「本市の機関は、意思決定をするに当たっては、公文書(法人公文書を除く。以下この条及び次条において同じ。)を作成してこれをしなければならない。ただし、事案が軽微なものであるとき又は意思決定と同時に公文書を作成することが困難であるときは、この限りでない。」と、同条第3項において、「本市の機関は、審議又は検討の内容その他の意思決定の過程に関する事項であって意思決定に直接関係するものについては、事案が軽微なものである場合を除き、公文書を作成しなければならない。」と規定している。
 また、同解釈・運用の手引では、同条第3項の解説として、「公文書作成の在り方として、従来からの事務及び事業の適正執行だけでなく、市民に対する説明責務を全うするためという観点からも適正な作成が必要です。そのためには、市民が必要とする情報を的確に文書化する必要があるため、「意思決定の過程に関する事項であって意思決定に直接関係するもの」についても、事案が軽微なものである場合を除き、公文書を作成しなければならないとしたものです。/「意思決定の過程に関する事項であって意思決定に直接関係するもの」とは、「意思決定に大きく影響を与える会議や協議における審議又は検討の内容」や「市長、副市長への説明資料や説明時の指示の内容」などをいい、第5項の規定により定める「説明責任を果たすための公文書作成指針」に示していますので、意思決定の過程に関する事項についても的確に公文書を作成し、記録しなければなりません。なお、意思形成過程文書の作成は本条例制定時には努力義務として定められていましたが、市民に対する説明責務を全うするため、平成23年4月の本条例の改正に伴い、作成が義務付けられることになりました。」と記載されている。
 そして、「説明責任を果たすための公文書作成指針」の1、(2)、アでは、「決裁による意思決定を行うまでの過程においては、意思決定の方向性が決められるなど意思形成に大きく影響を与える会議、市長・副市長に対する重要な報告等が行われている場合がある。公文書管理条例においても意思決定の過程に関する事項に係る公文書の作成について規定されているところであり、これらの意思形成過程においても確実に文書を作成し、決裁手続を経て意思決定がされた文書(決裁文書)と同様に、公文書として適正に保存管理しなければならない。」と記載されている。
 これらを要約すると、行政が何か事務事業を行う際には、事案が軽微な場合を除いて意思決定に係る公文書を作成しなければならず、あわせて、意思決定に直接関係する意思形成過程についても公文書を作成のうえ、両文書を保存管理しなければならないというものである。
 これを本件にあてはめると、令和3年度区民アンケートの実施については、第5、3、(3)のとおり、実施決裁が作成されており、当該アンケートの実施については、令和2年1月24日開催の区長会議の安全・環境・防災部会において決定されていると認められ、当該区長会議資料は現に審査請求人も提供を受けているとおり公文書として保存管理されていると認められる。
 この点、審査請求人は、令和7年1月6日付け意見書において、令和6年1220日付け大情審答申第536号の第5、4、(2)を引用したうえで、「このようなアンケートの行い方で実施目的を達成できるかについて実施機関において検討がなされたとは認められない」ことで、意思決定はなされていないとの判断だと考えられます。/本件では、区民アンケートの実施に係る意思決定文書は作成されています。つまり、区民アンケートを実施するという意思決定はなされています。しかし、そこには区民アンケートの結果を指標であるとすることができる根拠や、目標達成判断ができるとする根拠に係る記載はありません。これらは「意思決定の過程に関する事項であって意思決定に直接関係するもの」であると言え、これを作成する義務を実施機関が負うことは「公文書管理条例解釈・運用の手引」にも記載されています。」と主張している。
 当該主張については、令和7年1月27日付け「資料の提出について」の実施機関の補足において、「なお、区長会議(安全・環境・防災部会)において、どういったアンケートとするかについて、「無作為抽出」という以外に具体的な想定はなかった。」と記載されていることからも想像できるとおり、本件の実施決裁において、「区民アンケートの結果を指標であるとすることができる」根拠等が記載されていないことは事実と認められる。
 そこで問題となるのが、令和3年度区民アンケートに係る実施決裁等において審査請求人の主張する根拠等が記載されていないことをもって、公文書管理条例又は説明責任を果たすための公文書作成指針違反になるかである。
 この点、公文書管理条例及び説明責任を果たすための公文書作成指針では、上記で引用したところからもわかるとおり、意思決定の過程においてどういった議論をすべきかについては規定していないところである。
 これについては、ある会議において、意思決定の前提となる条件のすべてを議論することが現実的に不可能であることからも明らかである。
 つまり、審査請求人が求めているのは、公文書管理条例及び説明責任を果たすための公文書作成指針の規定範囲を超えた話であると言える。
 以上より、本件においては、意思決定文書及び意思形成過程文書のいずれについても、作成・保存されていることから、公文書管理条例及び説明責任を果たすための公文書作成指針違反は認められない。
6 審査請求人からの求釈明申立てについて
 審査請求人は、意見書において、審査会から実施機関に質問するよう求めているところである。
 このうち、審査会において、本件の争点(対象文書の存否)にかかわるものについては、実施機関に対して、意見書の求めや資料の提出の求めを行って確認を行ったところであるが、審査会が本件の争点にかかわらないと判断したものについては、確認を行っていない。
 求釈明を行うか否かは、もとより、審査会の裁量によるところであるが、念のため求釈明を行っていない理由について申し添えておく。
7 結論
 以上により、第1記載のとおり、判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
委員 重本 達哉、委員 小林 美紀、委員 榊原 和穂

(参考)答申に至る経過
令和3年度諮問第65
(略)

答申第539号

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