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答申第541号

2025年12月1日

ページ番号:665573

大情審答申第541号
令和7年12月5日 

大阪市長 横山 英幸 様

大阪市情報公開審査会
会長 小谷 真理

答申書

 大阪市情報公開条例(平成13年大阪市条例第3号。以下「条例」という。)第17条に基づき、大阪市長(以下「実施機関」という。)から令和4年12月19日付け大IR推第68号により諮問のありました件について、次のとおり答申いたします。

第1 審査会の結論
 実施機関が令和4年11月4日付け大IR推第46号による非公開決定(以下「本件決定」という。)において特定した「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業事業用定期借地権設定契約書(案)」(以下「本件文書」という。)のうち、以下に記載した情報を非公開とした部分を取り消し、その余の部分については本件審査請求を棄却すべきである。
・本件文書表紙及び1頁から22頁までの右肩に挿入され、下線入りで記載されている作成年月日・局名・資料の性質(以下「公開部分①」という。)
・本件文書の表紙全部(以下「公開部分②」という。)
・本件文書1頁の第2条第1項及び第2項(条文番号及び条文見出しと項番号を含む。以下同じ。)(以下「公開部分③」という。)
・本件文書2頁の第6条第1項及び第2項(以下「公開部分④」という。)
・本件文書2頁の第7条第1項(以下「公開部分⑤」という。)
・本件文書2頁の第8条第1文(以下「公開部分⑥」という。)
・本件文書3頁の第12条第1項第1文(以下「公開部分⑦」という。)
・本件文書5頁の第18条第1項第1文、第2項(脚注を含む。)及び「注」として記載された2か所(以下「公開部分⑧」という。)
・本件文書6頁から7頁までの第22条第2項及び第3項(以下「公開部分⑨」という。)
・本件文書11頁の第42条(以下「公開部分⑩」という。)
・本件文書14頁全部(以下「公開部分⑪」という。)
・本件文書15頁の5つある表のうち1つ目の表の全6行のうち上から3行目まで(注記を除く。)及び2つ目の表全部(以下「公開部分⑫」という。)
・本件文書18頁の別紙番号及び別紙名並びに18頁から21頁までの番号(7)、(8)、(9)、(19)、(29)、(32)、(41)、(42)、(43)第1文、(45)、(47)、(50)、(57)及び(67)(以下「公開部分⑬」という。)

第2 審査請求に至る経過
1 公開請求
 審査請求人は、令和4年10月21日、条例第5条の規定に基づき、実施機関に対し、請求する公文書の件名又は内容として「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業事業用定期借地権設定契約書(案)」と表示して公文書の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。
2 本件決定
 実施機関は、本件請求に係る公文書を、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業事業用定期借地権設定契約書(案)」と特定した上で、公開しない理由を次のとおり付して、条例第10条第2項に基づき、本件決定を行った。
条例第7条第4号に該当
(説明)
 大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業事業用定期借地権設定契約書(案)は、事業者との契約締結に向けた意思形成過程における本市及び大阪府の機関内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、誤解や憶測に基づき不当に市民等の間に混乱を生じさせるおそれ、又は、特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるため。
条例第7条第5号に該当
(説明)
 大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業事業用定期借地権設定契約書(案)は、今後の事業者との契約、交渉等の事務に関する情報であって、公にすることにより、本市の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれがあるため。
 また、IRは、その推進・実現をめざす他都市との間で競争関係にあり、そのような状況の中で、本件文書を公にすることは、本市の競争上の地位を害するおそれがあり、IR関係事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため。
3 審査請求
 審査請求人は、令和4年11月30日、本件決定を不服として、実施機関に対し、審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。

第3 審査請求人の主張
 審査請求人の主張は、おおむね次のとおりである。
1 審査請求の趣旨
 本件決定を取り消し、公開決定を求める。
2 審査請求の理由
 次のとおり、非公開決定の理由として挙げられた大阪市情報公開条例第7条第4号、第5号のいずれにも該当しない。
ア 同条例第7条第4号に該当しないこと
 公開請求の対象である上記契約書案は、2019年12月24日付け「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」(その後2020年3月27日付け、2021年3月19日付けで要項の変更あり)の添付書類であり、同募集要項による事業者選定のための公募手続の前提条件である。同募集要項により、上記契約書案は、特定複合観光施設区域整備法第13条に定める実施協定の締結時に契約関係当事者を拘束するものと位置付けられている。
 また、すでに公募手続は終了し、特定複合観光施設設置運営事業における設置運営事業予定者の選定が行われ、その結果が公表されている。その後、大阪市及び大阪府は「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」を作成して同計画につき国土交通大臣の認定を申請済みである。
 すでに借地人となるべき事業者選定が終了し、上記実施協定締結時に上記契約書案をもって契約関係当事者を拘束するものとされており、事業用定期借地権設定契約書の当事者、契約内容はすでに定まっている。このため、上記契約書案を公開することによって、上記決定がいうような「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、誤解や憶測に基づき不当に市民等の間に混乱を生じさせるおそれ、又は、特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれ」はいずれも生じない。
イ 同条例第7条第5号に該当しないこと
 上記アのとおり、すでに借地人となるべき事業者選定が終了し、実施協定締結時に上記契約書案をもって契約関係当事者を拘束するものとされており、事業用定期借地権設定契約書の当事者、契約内容はすでに定まっており、すでに交渉段階にない。このため、上記契約書案を公開することによって、上記決定がいうような「本市の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」はいずれも生じない。
 また、上記決定は非公開決定の理由として、IR関係事業の推進・実現をめざす他都市との競争関係に言及したうえで、上記契約書案の公開により「本市の競争上の地位を害するおそれがあり、IR関係事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があると述べる。しかし、IR関係事業の推進・実現をめざす都市は、特定複合観光施設区域の整備に関する計画を作成したうえで国土交通大臣の認定を申請する必要があり、かかる認定申請の期限(2022年4月28日まで)はすでに経過している(特定複合観光施設区域整備法第9条第10項、特定複合観光施設区域整備法第9条第10項の期間を定める政令)。また、上記契約書案は、同法第8条に基づく事業者選定の公募手続における募集要項の添付書類であるほか、特定複合観光施設の設置運営事業者が用地の使用権原を有することを示す書類であるため、大阪市及び大阪府が認定申請を行うにあたり添付書類として国土交通大臣にすでに提出済みであるか、そうでなくとも国土交通大臣から求められれば提出されるべきものである(国土交通省観光庁「特定複合観光施設区域整備計画に係る認定申請の手引き」のうち要求基準3から5参照)。以上から、上記契約書案を公開しても、国土交通大臣による認定手続に影響することはなく、「本市の競争上の地位を害するおそれ」も「IR関係事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」も生じない。
ウ 同条例第7条第4号、第5号に共通する指摘として
 上記のとおり上記契約書案を非公開とすべき事由は存しない。むしろ、上記契約書案は、事業者選定の公募手続など大阪市及び大阪府における特定複合観光施設設置運営事業に向けた諸手続の公正性を検証するため積極的に公開されるべき情報である。
 同条例7条第4号、第5号は情報公開法第5条第5号、第6号に準じる規定であるが、情報公開法のこれらの規定については、非開示事由の認定にあたり行政機関に広範な裁量が認められるわけではないとの指摘がある(宇賀克也「新・情報公開法の逐条解説」〔第8版〕有斐閣、2018年、120頁以下、124頁以下)。上記決定は大阪市長の裁量によって非開示事由を漠然と広く捉えようとするものであり、大阪市情報公開条例の解釈及び適用を誤っている。
3 令和5年12月12日付け意見書
(1) 情報公開請求の対象文書について
ア 対象文書
 私が情報公開請求により開示を求めている「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業 事業用定期借地権設定契約書(案)」は、大阪市・大阪府が大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業(以下「大阪IR」という。)を実施する民間事業者を選定するため実施した公募手続において、募集要項の添付書類の一部となっていた文書である(以下、私が開示を求める同契約書案を「対象文書」という。)。
 大阪市・大阪府は募集要項本文をウェブサイト上で公表しているものの、添付書類や別紙については公募手続実施の前後を通じて非公表とされているものがある。
 対象文書について、特に次の二点を指摘することができる。
① 公募条件として確定しており、公募手続はすでに終了したこと
② すでに大阪市において契約締結済みであること
イ 公募条件として確定しており公募手続はすでに終了したこと(上記①)
 大阪市長は対象文書に係る事業用定期借地権契約についてしきりに「協議・交渉等を継続している」とか、「終局的・確定的な本件契約の案が存在しているわけではない」などと述べている。しかし 、私が開示を求めているのは最終的に大阪市と大阪SPC(大阪IRを運営しようとする民間事業者)との間で締結された契約書ではなく、すでに実施されて終了した民間事業者公募手続の公募条件の一環をなす募集要項添付書類たる契約書案である。
 契約書「案」といっても、公募条件としては確定しており、公募手続自体が終了して民間事業者がすでに選定されている。私が情報公開請求を行った時点においても、協議・交渉中であるとか、終局的な文書ではない、といったことは対象文書についてはあてはまらない。
ウ すでに大阪市において契約締結済みであること(上記②)
 上記イに加え、大阪市と大阪SPCが現在すでに契約締結済みであることを指摘しなければいけない。大阪市と大阪SPCは、大阪IRの用地について令和5年9月28日付けで事業用定期借地契約書を締結済みである(大阪市長も認めており、乙9がその契約条項骨子であると説明している)。
 対象文書につき「協議・交渉等を継続している」とか、「終局的・確定的な本件契約の案が存在しているわけではない」といった主張は妥当しない。
(2) 大阪市長が主張する非開示事由に対して
 審査請求書においても記載したとおり、大阪市情報公開条例第7条第4号、第5号は情報公開法第5条第5号、第6号と同様の規定であるところ、情報公開法のこれらの規定については、非開示事由の認定にあたり行政機関に広範な裁量が認められるわけではないという指摘が行政法研究者によりなされている(宇賀克也「新・情報公開法の逐条解説」〔第8版〕有斐閣、2018年120頁以下、124頁以下)。大阪市の非公開決定は、大阪市長の裁量によって非開示事由を漠然と広く捉えようとするものであり、大阪市情報公開条例の解釈及び適用を誤っている。
 また、大阪市は、対象文書を非公開とした理由として、大阪市・大阪府と大阪IRを運営する民間事業者(大阪SPC)との間で協議・交渉等が継続していることや、大阪IRに関する区域整備計画について国土交通大臣による認定を申請中であることに言及している。しかし、すでに、大阪市と大阪SPCは令和5年9月28日付けで事業用定期借地契約書を締結済みであり、これに先立つ令和5年4月14日付けで大阪IRに関する区域整備計画について国土交通大臣による認定が行われている。大阪市長がいうような状況にはない。
 後記のように、民間事業者選定のための公募手続において大阪市・大阪府が特定の事業者を優遇していた疑いがあり、その点について民主的なチェックを行うためにも対象文書が開示される必要がある。また、そもそも情報公開請求は「開示が原則」であり、非開示はあくまで例外である。
(3) 対象文書につき情報公開請求を行うに至った背景
ア 上記のとおり非開示事由の認定にあたり行政機関に広範な裁量が認められるわけではなく、行政法研究者がその旨を指摘している。情報公開請求は行政機関に対する民主的なチェックを機能させるために重要な制度であり、行政法研究者によりこのような指摘があることを審査請求にあたって慎重に検討していただくことを求める。
 行政機関に対する民主的なチェックという観点に関連して、私が対象文書につき情報公開請求を行うに至った背景を説明しておく。それは、大阪IRにおける事業者選定手続の公正性についてチェックする必要があるというものである。
 大阪市・大阪府は大阪IRを運営する民間事業者としてMGM・オリックスコンソーシアムを選定したが(その後同コンソーシアムが大阪SPCを設立)、こうした民間事業者選定後になり、大阪市は、IR用地の土壌汚染対策、液状化対策、地中障害物撤去のための各費用として約788億円を大阪市が負担することを決定した。
 こうした大阪市の費用負担は、上記公募手続における募集要項のうち公表されている要項本文をみるかぎり、当初の公募実施条件には盛り込まれていない。大阪市・大阪府は募集要項の本文についてはウェブサイト上で公表しているものの、対象文書を含む添付書類や別紙については公表していない。募集要項の添付書類とされている対象文書において、用地に関係する費用負担についてどのような条項がおかれていたのか、あるいはそもそもそうした費用負担についてそもそも何らかの条項がおかれていたのかどうかは、上記公募手続の公正性をチェックするうえで重要な事項である。
イ 大阪市・大阪府が2021年2月14日に公表したところによれば、公募参加の前提となる資格審査を申し込んだ事業者はMGM・オリックスコンソーシアムのみであったとのことである。他の事業者は資格審査を経ていない以上、そもそも公募に参加することができず、この時点ですでに民間事業者の候補がMGM・オリックスコンソーシアムのみに絞られていたことになる。
 そのように民間事業者候補が特定の1名に限られたなかで、大阪市・大阪府は、募集要項を変更しており、2021年3月19日の募集要項変更時には次の記載が募集要項に加わっている。
【上記変更時に募集要項に加わった記述】
「なお、IR施設を整備するに当たり支障となる地中障害物及び土壌汚染等に起因して設置運営事業者の負担が増加すると見込まれる場合は、設置運営事業者の施設計画や施工計画等を踏まえ、対応方法等について事前に協議の上、大阪市の設計・積算基準等により、大阪市が当該増加負担のうち妥当と認める額を負担するものとする。詳細については、事業条件書等において示す。」
 当初の募集要項になかった、民間事業者側に有利な条項であり、それが民間事業者候補が特定の1名に限定されたなかで追加されたのである。
 なお、このような指摘に対しては、大阪市からは、2019年3月19日の募集要項変更に伴い、同日から同年4月6日まで資格審査の追加受付期間を設けており、他の事業者による参入の余地もあったという反論があろうかと想定される。
 しかし、資格審査の追加受付期間は極めて短期間であり、企業内での意思決定や手続準備に要する日数を考えると、この短期間に資格審査を申し込む事業者が現われるはずがない。この追加受付期間は「形式的な言い訳」程度の意味合いで設けられたにすぎない。追加受付期間をふまえても他の事業者が参入する余地は実質上なく、上記で指摘したことを左右するものではない。
ウ 大阪市によれば、令和5年9月28日に大阪市と大阪SPCとの間で事業用定期借地権設定契約書を締結済みとのことである。契約内容についての公表資料(乙9)によれば、大阪市が土壌汚染対策、液状化対策、地中障害物撤去を含む「土地課題対策」のほか、「特定地中埋設物撤去」、「地盤沈下対策」の各費用を大阪市が負担するとの条項がおかれている(乙9記載の契約条項のうち第13条の2~7)。また、大阪SPCが設置する建物基礎について契約終了時の原状回復義務を免除する条項がおかれている(同第27条の2) 。
 これらは、民間事業者(大阪SPC)を優遇する条項であり、また、民間事業者選定の公募手続において、少なくとも当初募集要項には記載がなかった事項である。第13条の2から7、第27条の2というように条文のナンバリングが「枝番」によっていることからみても、これらは対象文書(すなわち公募条件として公示された賃貸借契約の内容)にはなく、事後に追加された条項であるとみることが自然である。
 このように、一部事業者を優遇して公募手続が実施された疑いがある。
エ 審査していただくにあたってはこうした問題が背景にあるということをご認識いただき、情報公開請求の制度趣旨をふまえて本件において大阪市長がいうような非公開事由が真に存するのかどうかを慎重に審査していただきたいと考えている。
4 令和6年5月22日付け意見書
(1) 対象文書につき、大阪市が大阪SPC等に対して秘密保持義務を負っていないこと
 大阪市は対象文書につき大阪SPC等に対して秘密保持義務を負っておらず、対象文書の開示につき大阪SPC等の了解など必要ない。このことは、民間事業者選定のための公募手続に関する募集要項のほか、令和6年4月17日付けで大阪市長が提出した各資料(様式7-A及び様式7-B)から明らかである。様式7-Bの誓約書により秘密保持義務を負うのは応募企業であり、大阪府・市ではない。
(2) 行政不服審査手続における判断基準時
 行政不服審査法の解釈において、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁自身である場合には、審査請求における違法性判断の基準時は「裁決時」と解釈されている。なぜならば、このような場合、審査庁は、原処分の取消裁決だけでなく、変更裁決もすることができ(同法第46条第1項)、また、申請拒否処分に係る認容裁決をする際には、一定の処分に係る措置をすることもできるとされており(同条第2項)、上記変更裁決や一定の処分に係る措置は、原処分時の事情だけでなく、裁決時の事情も考慮して、何が行政目的に適合しているかという観点からなされるものであるためである。判断基準時は「裁決時」であり、その時までの事実関係に基づき裁決が行われるべきである(以上につき、伊東健次「Q&A行政不服審査制度の解説 政令完全対応版」(ぎょうせい、2016年)230頁から231頁)。
 行政不服審査法に基づく審査請求における判断基準時について、大阪市長は、原処分時点の事実関係に基づいて裁決が行われるべきと主張するが、正しくない。
5 令和6年8月2日付け意見書
(1) 資料提出の経緯、大阪市長の主張について
 「保秘義務」と大阪市長が称する事項に関して、貴審査会の求釈明に応じて大阪市長より本年6月24日付けで資料(四件の協定書ないし契約書以下、本書において「協定書等四件」という。)の提出があったが、これにつき大阪市長から何ら主張はなく、漠然と資料の提出があったのみである。これに先立つ本年4月17日付けでの資料提出についても同様であり、大阪市長から何ら主張はなく、ただ貴審査会から求められて漠然と資料を提出したのみである。なお、本年4月17日付け提出資料への指摘事項については、本年5月22日付けで審査請求人より意見書を提出したとおりである。
 大阪市長は対象文書について大阪SPCに対して秘密保持義務を負うと主張したいようであるが、上記各資料が秘密保持義務の根拠となるのであれば大阪市長においてその旨を主張しつつ自発的に証拠として上記各資料を提出するのが当然である。しかし、大阪市長は、 貴審査会から求められてはじめて資料を提出したのみである。また、大阪市長が秘密保持義務(保秘義務)を主張していることに関連して、貴審査会は二度にわたって求釈明を行い大阪市長に資料提出を求めているところ、大阪市長は、最初の求釈明に対する応答(本年4月17日付け提出資料)においては協定書等四件を提出しなかった。貴審査会が再度の求釈明を行った後にようやく、大阪市長は協定書等四件を提出してきた。大阪市長において協定書等四件を自身の主張の根拠として認識していないことをよく示す経過である。
 このことは協定書等の締結時期の観点からもよくわかる。協定書等四件のうち大阪市長が対象文書につき 令和4年11月4日付非公開決定を行った時点で存在していたものは、令和4年2月15日付「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書」のみである。他の三件は上記非公開決定時点において存在せず、これら三件は非公開決定の根拠ではありえない。なお、上記基本協定書についても、大阪市長は上記非公開決定を行うに至った根拠として何ら主張していない。
(2) 追加提出資料(協定書等四件)の内容に対する指摘
ア 公募書類は「交渉等の経緯・内容」ではなく、秘密情報にあたらないこと
 貴審査会において、秘密保持義務(保秘義務)に係る該当箇所について、大阪市長との間で口頭により確認を行ったとのことであり、該当箇所が貴審査会の本年6月26日付け文書(大情審第46号)に記載されている。該当する各箇所(秘密保持条項)において、「本基本協定(※)の内容、本基本協定(※)締結に至るまでの交渉等の経緯・内容」が秘密情報にあたるかのような記載がある(文書により※の箇所は「本契約」や「本協定」となる)。しかし、これらの条項は対象文書に関して大阪市長に秘密保持義務を負わせるものではない。
 審査請求人が情報公開請求している対象文書は、IRの運営を行う民間事業者を選定するための公募書類の一環としての借地契約書案である。大阪SPCから開示を受けるまでもなく、大阪市長はもともと対象文書を保有している。また、対象文書は公募書類であって、当然ながら公募手続により民間事業者が選定される以前から存在する。公募手続において、「重要保秘義務対象資料」あるいはこれを含む「重要保秘情報等」について、 公募手続の参加企業側は大阪府・市に対して秘密保持義務を負うが、大阪府・市は企業側に対して秘密保持義務を負わないことは本年5月22日付け意見書で指摘したとおりである。
 大阪府・市は、対象文書を含め、公募手続のために公募参加企業に開示した文書(公募書類)について秘密保持義務を負わない。これと整合するよう解釈すれば、こうした公募書類は、協定書等四件の秘密保持条項における「交渉等の経緯・内容」に該当しない。
 公募手続による民間事業者選定が完了する以前の時期における大阪府・市と公募参加企業とのやりとりは、公募手続上のやりとりにすぎず、協定書等四件の締結に向けた交渉ではない。公募参加企業は、公募手続によりIR運営にあたる民間事業者として選定されてはじめて、協定書等四件の締結に関して大阪府・市と交渉する立場となる。
 このように、対象文書を含む公募書類は、協定書等四件の秘密保持条項にいうところの「本基本協定締結に至るまでの交渉等の経緯・内容」、「本契約締結に至るまでの交渉等の経緯・内容」、「本協定の締結に至るまでの交渉等の経緯・内容」にあたらず、協定書等四件の秘密保持条項における秘密情報にあたらない。
 こう解さなければ、大阪府・市は、もともと秘密保持義務を負わないはずの公募書類について協定書等四件の締結により「後付け」で秘密保持義務を負うことなり、不合理である。大阪府・市が公募参加企業に開示する公募書類は、おそくとも公募手続を終えた後には民主的なチェックのために開示されるべき文書であり、このため、大阪府・市は公募書類について秘密保持義務を負わない扱いになっている。この位置付けを狂わせるような解釈は誤りである。
 また、対象文書は借地契約書案であり、協定書等四件のうち三件(令和4年2月15日付け基本協定書、令和5年9月28日付協定二件)との関係では、そもそも別案件である。対象文書はこれら三件の協定書の締結に至るまでの交渉等の経緯・内容にはあたらない。
イ 情報公開請求に対する開示は秘密保持条項に抵触しないこと
 上記のように公募書類につき大阪市長は秘密保持義務を負わない。法令(情報公開条例を含む)に基づく開示や、行政機関として説明責任を果たすための開示が当初より想定される文書であり、民主的チェックの観点からも、公募書類は相応しい時期に開示されなければならない。
 協定書等四件の秘密保持条項においても、法令に基づく開示や、行政機関として説明責任を果たすための開示は可能とされており、秘密保持義務に抵触しない。たとえば、令和4年2月15日付「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書」第25条第4項、第5項にその旨が定められており、他の協定書等三件においても同趣旨の条項がおかれている。
 この観点からみても、対象文書を含む公募書類を情報公開条例に基づき公開することには支障がない。もともと公開することが想定されている文書であり、秘密保持義務には抵触せず、また、情報公開条例所定の非公開事由にも該当しない。
6 令和6年9月10日付け意見書
 審査請求人は、大阪市長の令和6年7月31日付け意見書(下記第4、3)に対して反論のための意見書提出を予定しているところ、大阪市長の意見には不明瞭なところがある。大阪市長において、上記意見書の2頁(下から3行目)から3頁(上から9行目)において秘密情報の各類型が列挙されているところ、大阪市長の意見として、対象文書(本件契約(当初案))がいずれの類型の秘密情報に該当するものと主張するのか。なお、秘密情報の要件に該当する具体的な事実を示したうえで回答されたい。
7 令和7年4月14日付け意見書
 令和4年11月4日付け大IR推第46号による非公開決定に対する同月30日付け審査請求について、大阪市長より「意見書」(下記第4、4)の提出があった。これに対する審査請求人の反論は、対象文書を含む公募書類が「交渉等の経緯・内容」にあたらず、このため秘密情報に該当しないことを含め、すでに提出済みの令和6年(2024年)8月2日付け意見書(上記5)のとおりである。

第4 実施機関の主張
 実施機関の主張は、おおむね次のとおりである。
1 令和5年3月30日付け意見書
(1) 本件文書において非公開とした情報等について
ア 本件文書は、大阪府及び大阪市(以下「大阪府・市」という。)が令和元年12月に開始した「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業」(以下「大阪IR事業」という。また、大阪府・市の施策を含む場合は「大阪IR」、国内外を問わずカジノを含むいわゆる統合型リゾートを「IR」という。)を実施する民間事業者の公募(以下「本件公募」という。)において、応募者に対して提示した募集要項の添付書類であり、令和4年4月に国へ申請を行った「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」(以下「本件区域整備計画」という。)について、国土交通大臣による認定が得られ、特定複合観光施設区域整備法(以下「IR整備法」という。)第13条に定める実施協定について国土交通大臣の認可を得て、大阪府と大阪IR株式会社(以下「大阪SPC」という。)との間で実施協定が締結された場合に、借地借家法第23条第1項に基づき大阪市と大阪SPCとの間で締結することを予定しているIR事業用地(本件区域整備計画に記載したIR区域の土地として、大阪市から大阪SPCへの賃貸を予定している夢洲地区(大阪市此花区夢洲中1丁目1番1外)の一部(約49万㎡)の土地をいう。)に係る事業用定期借地権設定契約書(以下「本件契約」という。)の案として、大阪府・市が本件公募の応募者に対して最初に提示した本件契約の案(以下「本件契約(当初案)」という。)である。
イ また、本件文書は、本件公募に先立ち大阪府・市が令和元年4月に実施したコンセプト募集の応募事業者の意見並びに大阪府・市の機関及び相互での検討・協議等を踏まえ、本件公募の実施時点の案として取りまとめたものであるが、本件公募手続きにおいて応募者との間で実施する競争的対話並びに選定した民間事業者との協議・交渉等により、随時変更・修正されることが前提とされたものであり(乙1号証(p4、50)、乙2号証第14条及び第17条)、大阪市が締結する本件契約として、終局的・確定的な内容が記載されているものではない。
 この点、大阪府・市は、本件公募の段階から、競争的対話や大阪SPCとの協議・交渉等を踏まえて本件契約(当初案)の内容の変更・修正等を行っているが、現在も引き続き、大阪SPCとの間で、本件契約の契約条項等について協議・交渉等を継続しているところ、その内容の変更・修正は今後も生じうるものであって、現時点において、終局的・確定的な内容を記載した本件契約の案が存在するわけではない。
ウ なお、審査請求人は、本件契約(当初案)が「実施協定の締結時に契約当事者を拘束するものと位置づけられ」ており、「契約内容はすでに定まっている」(上記第3、2、ア)、「契約内容はすでに定まっており、すでに交渉段階にない」(上記第3、2、イ)との理解の下、これを理由に本件文書が条例第7条第4号及び5号に該当しない旨を主張する。
 しかしながら、前記イのとおり、大阪府・市と大阪SPCは、本件契約の契約条項等について協議・交渉等を継続しており、現時点で、終局的・確定的な内容を記載した本件契約の案が存在するわけではない。また、募集要項に「修正等があった場合は、いずれも修正後の内容による」(乙1号証(p4))と記載するとおり、競争的対話や大阪SPCとの協議・交渉等を踏まえて変更・修正等が行われる前の本件契約(当初案)は、実施協定の締結時に契約関係当事者を拘束する本件契約の案とは異なるものである。
(2) 本件文書に対して本件決定を行った理由
ア 条例第7条第4号該当性について【審議・検討・協議情報】
(ア)条例第7条第4号は、公開請求に係る公文書に「本市の機関及び国等の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」が記載されている場合は、実施機関に公開義務はないものとしている。
 これは、「行政等の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報が公開されると、外部からの圧力や干渉等の影響を受けることなどにより、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が損なわれるおそれ」がある場合や、「未成熟な情報が公開されたり、特定の情報が尚早な時期に公開されると、誤解や憶測に基づき市民等の間に混乱を生じさせ、又は投機を助長するなどして特定の者に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれ」がある場合に、これを公開しないことができるとする趣旨である。
(イ)前記(1)、イのとおり、本件文書は、本件公募の応募者への提示以降、競争的対話や大阪SPCとの協議・交渉等を踏まえて、大阪府・市の機関内部又は相互間で検討・協議した上で、その内容の変更・修正等を行っており、本件文書には、本件決定前における当時の大阪府・市における過去の一時点における中間的かつ検討段階の未確定・未成熟な情報が含まれ、また、現在も引き続き、本件契約の契約条項等について、大阪SPCとの間での協議・交渉等や大阪府・市での検討・協議が継続している。
 したがって、本件文書は、本件契約の内容の確定及び締結に向けた意思形成過程の情報であり、大阪府・市の機関内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報に該当する。
(ウ)このような中間的な案や検討段階の情報が含まれた本件文書を公にした場合、未確定・未成熟な情報に基づき、必ずしも正しくない情報の流布、不正確あるいは断片的な情報による誤解や筋違いの批判等を招いたり、府・市民の正確な理解を妨げ誤解や憶測を呼んだり、最終的な意思決定に対し、かかる情報に接した外部から圧力や干渉等の影響を受けるなど、大阪府・市における本件契約の締結に向けた審議・検討や大阪SPCとの契約協議・調整・交渉等において、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が損なわれ、また、不当に市民等の間に混乱を生じさせるおそれがある。
 実際、現在、大阪府・市に対して大阪IRの中止を求める活動や、国に対して大阪IRの認定をしないよう国に要望する活動、融資予定金融機関に対する融資取止め要請、出資予定企業に対する大阪IRへの参画の批判・再考要請といった活動が行われているところ、前記がごとき中間的な議論や検討途上の不正確な情報、断片的な情報によって活動が誤導されれば、大阪府・市における審議・検討への支障や府・市民に混乱を招くおそれが生じることは明らかで、これは現実的かつ具体的なおそれである。
(エ)他方、行政運営の透明性を確保し、市民の理解を得るため、後記ウのとおり、大阪府・市は、本件契約に関し必要な情報公開・情報提供を行っているのであるから、本件文書を非公開としても公益性が害されることはなく、もとより、前記(ウ)のとおり、本件文書を公開することにより想定される現実的かつ具体的なおそれに鑑みれば、本件文書を公開することの利益より、これにより生ずる行政等の適正な意思決定に対する支障等が優越し、看過しえない程度に至っている。
(オ)以上のとおり、本件文書は、大阪市の機関及び大阪府の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に不利益や利益を及ぼすおそれがあるものが記載されている公文書であるから、条例第7条第4号に該当し、公開義務はない。
イ 条例第7条第5号該当性について【事務事業遂行情報】
(ア)条例第7条第5号は、公開請求に係る公文書に「本市の機関又は国等が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、」「契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、本市又は国等の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれがあるもの」や「その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」が記載されている場合は、実施機関に公開義務はないものとしている。
 これは、大阪市の機関等が行う「事務又は事業に関する情報が公にされることにより、その公正かつ円滑な遂行が妨げられ、実施時期の遅延、財政上の過大な負担、公平性の欠如、行政サービスの低下等の支障が生ずることになれば、結果的に市民全体の利益を損なうことになりかねない」ため、事務又は事業別にそのおそれを例示するとともに、例示規定「以外の事務又は事業であっても、公にすることにより、その性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるときは、非公開とすることができる」とする趣旨である。
(イ)本件文書は、大阪市と大阪SPC間の契約締結に向けた協議における原点となる情報であるため、大阪市の機関が行う契約、交渉に係る事務に関する情報である。また、前記(1)のとおり、大阪府・市は、現在も引き続き、大阪SPCとの間で、本件契約の契約条項等について協議・交渉等を継続しているところ、その内容の変更・修正は今後も生じうるものであって、現時点においても、終局的・確定的な内容を記載した本件契約の案は存在しないし、実施協定の締結時に契約関係当事者を拘束する本件契約の案も存在しない。
 このような状況下で本件文書を公にした場合、既に大阪府・市が公表ないし公開している本件契約に関する情報等と比較することにより、大阪府・市と大阪SPCとの間の契約交渉過程を一定推し量ることが可能となるため、大阪SPCにとっては交渉中の契約条件に関する情報が予期せぬ形で公表されることとなる。加えて、未確定・未成熟な情報に基づく契約交渉過程の推測等により、必ずしも正しくない情報の流布、不正確あるいは断片的な情報による誤解や筋違いの批判等を招いたり、府・市民の正確な理解を妨げ誤解や憶測を呼ぶおそれもあり、かような状況に至るようなことがあれば、大阪府・市と大阪SPCの信頼関係を損なうことは明らかであり、大阪SPCから、本件契約に係る協議・交渉等のみならず、大阪府と大阪SPCで締結予定の実施協定その他の大阪IR事業の実施に係り大阪SPCとの間で締結が必要となる各種協定の協議・交渉等において、必要な情報を得たり、連携及び協力を図ることが著しく困難になる。また、現在本件契約等の差し止めを求める住民訴訟が提起され、大阪地方裁判所第2民事部にて係属中であるところ(大阪地裁令和〇年(行ウ)第〇号)、このような契約交渉過程の情報が訴訟当事者自身のコントロールに寄らず一般に公開されることとなれば、訴訟遂行上の支障が極めて大きい。
 よって、本件文書を公にすると、契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、大阪市又は大阪府の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれがある。
(ウ)また、国において本件区域整備計画が認定審査中であるところ、本件文書を公にすることにより国の審査に外部からの圧力や干渉等が及ぶことがあれば、「審査委員会における率直な意見の交換及び意思決定の中立性」の確保を重視する国の公正かつ円滑な事務の遂行に支障を及ぼすおそれがある。そのため国との間の信頼関係を損なうことになれば、認定時期の大幅遅延や認定が得られない等の事態を招きかねず、区域認定以降の国との協力関係にも影響が生じるおそれがある。
 さらに、IR事業は、国内の3ヵ所のみを上限とする日本初の事業であるとともに、IRは国内外から顧客を誘致するのが一般的であるところ、大阪IRの実現を企図する大阪府・市として、今回の区域認定の取得をめざす他都市との間だけでなく、既存ないし今後実施が予定される国外のIRや、今後IR事業の誘致・実現をめざす他都市との間でも競争関係にある。この点、審査請求人は、「認定申請の期限(2022年4月28日まで)」が「すでに経過している」ことを理由の1つとして、本件文書を公開しても、「本市の競争上の地位を害するおそれ」は「生じない」と主張するが、大阪市が競争関係にあると認識しているのは今回の区域認定の取得をめざす長崎県との間のことだけではないため、当該主張の前提は誤りである。
 そして、このような競争関係にある中、大阪IRの確実な実現と長期間の安定的かつ継続的な事業実施のため、今後も大阪SPCとの連携・協力が必要不可欠であるにもかかわらず、大阪SPCと大阪府・市間の信頼関係破壊や本件契約の締結遅延が生じれば、大阪SPCとともに大阪IRを推進する立場にある大阪府・市が行う大阪IR関係事務の進捗や大阪IRの質にも影響が及ぶおそれがあり、ひいては、国内外の他都市との競争に打ち勝ち、大阪ないし関西圏の成長の起爆剤となろうという大阪IR関係事務の目的が達成できず、納付金・入場料収入や税収増加をはじめ期待される有形無形の事業効果が減少又は失われるなど、大阪ないし関西圏にとって著しい不利益を生じさせるおそれがある。
 よって、本件文書を公にすると、国が行う認定審査その他のIRに関する事務や他都市との競争関係の中で大阪府・市が行う大阪IR関係事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。
(エ)他方、行政運営の透明性を確保し、市民の理解を得るため、後記ウのとおり、大阪府・市は、本件契約に関し必要な情報公開・情報提供を行っているのであるから、本件文書を非公開としても公益性が害されることはなく、もとより、前記ア、(ウ)で述べたとおり、本件文書を公開することにより想定される現実的かつ具体的なおそれに鑑みれば、本件文書を公開することの利益より、これにより生ずる行政等の適正な意思決定に対する支障等が優越し、看過しえない程度に至っている。
(オ)以上のとおり、本件文書は、大阪市の機関又は大阪府が行う事務に関する情報であって、公にすることにより、契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、大阪市又は大阪府の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれがあるものが記載されている公文書であるとともに、国が行う事務及び大阪市の機関又は大阪府が行う事務に関する情報であって、公にすることにより、当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものが記載されている公文書であるから、条例第7条第5号に該当し、公開義務はない。
ウ その他
 審査請求人は、「契約書案は、(中略)大阪市及び大阪府における特定複合観光施設設置運営事業に向けた諸手続の公正性を検証するため積極的に公開されるべき情報である」などと主張する。
 この点、本件契約に定める予定の土地契約条件の概要については、令和元年11月19日開催の大阪市戦略会議の資料として議論内容とともに公開している(乙3号証(p10))。また、本件契約に定める予定の土地課題対策については、その対策費の負担を中心に、大阪市会令和4年2・3月定例会等において、大阪市民の代表である大阪市議会議員による公開の場での審議の対象となったところであり、大阪府・市は、議会の求めに応じ又は議会の審議に資する観点から、意思決定に関わる知事・市長等への説明資料の提供、土地課題対策費の負担の考え方やその内容等の説明、大阪SPCとの協議経過等の情報提供及び説明を行っている。さらに、令和4年5月11日付けで住民監査請求が提起されたときも、公表資料の中で、可能な限り具体的に本件契約その他の土地関連契約に定める予定の事項について説明を行っており、かかる説明内容は公表されている(乙4号証(p72~74))。もちろん、市民等から問合せや情報公開等の求めがあった場合も、上記と同様の情報を可能な限り公開又は提供してきた。
 このように、大阪府・市は、本件文書及び本件契約に関する必要な情報の公開等に努め、説明責任も果たしてきたところであり、今後もその姿勢を変えることはない。
2 令和6年2月26日付け意見書
(1) 本件文書及び大阪SPC等との協議・交渉等について
ア IRは、IR整備法第1条(目的)や「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(令和2年12月18日特定複合観光施設区域整備推進本部決定)」(乙20号証。以下「基本方針」という。)第1・1に規定されるとおり、国際競争力の高い魅力ある滞在型観光の実現、これによる観光及び地域経済の振興への寄与のほか、日本全体の健全な経済成長と国及び地方公共団体の財政の改善に資することを目的に法制化及び政策推進が図られているものである。
 また、これら目的の実現のためには、立地自治体及びIR事業者の双方における関連施策及び措置の適切な実施と、「長期間にわたって、安定的で継続的なIRの運営が確保されるとともに、IRとしての機能が適切に発揮されるよう、IR区域及びIR施設に係る安全や健康・衛生が確保されること」、「民間事業者の活力と創意工夫が生かされるとともに、カジノ事業の収益の適切な公益還元の観点から、カジノ事業の収益を活用したIR施設の整備その他IR事業の事業内容の向上や、都道府県等が行う認定区域整備計画に関する施策への協力が図られること」等が極めて重要な前提条件とされている(基本方針第1・1(乙20号証(p3))ほか。)。
 また、実施協定は、事業の基盤となり、IR事業の具体的な実施体制及び実施方法等を定めるもので、前記のような観点から、「IR事業者の責任の履行確保の方法に関する事項、IR事業におけるリスクやその分担等の都道府県等及びIR事業者の責任の明確化に関する事項、区域整備計画の認定の更新に向けて必要な手続に関する事項その他のIR事業の円滑かつ確実な実施の確保に関する事項」、「設置運営事業等の継続が困難となった場合における措置に関する事項」等を規定することが求められている(基本方針第4・8(乙20号証(p35~39)))。この点、本件契約についても、その内容が事業の収益性、実現性、リスク評価等に影響を及ぼし得るものとして、実施協定と一体となって事業の基盤を成すものであり、実施協定同様に、長期間にわたる安定的・継続的なIR事業の運営の確保等の観点から、契約内容を作り上げていくことが必要となる。
イ 他方で、IRは、日本初の事業として、大阪府・市はもとより日本国内には知見・実績の蓄積がない中で、日本独自の新たな法制度や市場環境下において実施する必要があり、加えて、多額の投資とカジノを含む多様な施設群の一体での設置・運営を要するなど、事業内容が極めて複雑かつ大規模な民設民営事業であるところ、民間事業者においては、極めて大きな投資判断を伴うものであり、実施協定や本件契約の契約条項等についての自治体との協議・交渉等やその応諾判断についても、投資判断上の重要事項として、極めて慎重に行われるものとなる。
 また、本件公募の応募者は、IRの知見・実績を有した海外IR事業者が中心となるところ、これら海外企業は、必ずしも日本の法制度・ビジネス市場に精通しているものではなく、特に、公共政策として実施されるIRは、IR整備法のみならず、地方自治法や誘致自治体の条例等をも考慮して事業参画を検討する必要があり、このような海外IR事業者にとって、誘致自治体との間で率直な意見交換や適切なコミュニケーションが図られること、また、これらを通じ、誘致自治体においてIRや民間事業者の意見等が詳細かつ正確に把握・理解され、その上で、事業環境の整備や事業枠組みの構築等が行われることは、日本のIRに参画する上での重要な前提条件となる。
ウ このような中で、大阪府・市は、法・政策目的の達成はもとより、大阪として、国内外の他都市との競争に打ち勝ち、大阪ないし関西圏の成長の起爆剤とすることをめざし、IRの誘致・推進に取り組み、RFC(大阪府・市が平成31年4月に実施した「(仮称)大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業のコンセプト募集」のことをいう。)及び本件公募の段階から現在に至るまで、IRの知見・実績を有した海外IR事業者を中心に、国内外の様々な民間事業者との間で、必要な情報提供を受けたり、率直な議論・意見交換を行うなど、信頼関係を構築しながら、事業環境の整備や事業枠組みの構築等の必要な事務を進めてきたところである。
エ しかるに、特に、事業の基盤となる関連契約の内容は、事業の収益性、実現性、リスク評価等に影響を及ぼし得るもので、事業の実施判断や成否に関わる重要な要素となるところ、前記イのような状況・事情等を踏まえれば、公民双方にとって、事業に対する理解や認識を詳細まで擦り合わせるとともに、それぞれの知見を踏まえて、より多角的な観点から慎重に協議・検討を行うことが必要である。
 また、IRの確実な実現、適切な事業実施や事業の安定性・継続性を確保する観点からは、大阪府・市として、IRに知見・実績を有し、事業実施を予定する民間事業者から、機密情報も含めた必要な情報の提供や率直な意見交換等を得た上で、これらを十分に理解し、必要に応じて契約内容を調整していくことが必須となる。
オ かかる前提のもと、本件文書は、本件公募の応募者との競争的対話や協議・交渉等を踏まえて、必要に応じ、その内容の変更・修正等を行うことを前提として、令和2年2月に応募者に提示したものであり、本件決定時点(令和4年11月4日)においても、大阪SPC等との間での協議・交渉等や大阪府・市での検討・協議が継続していたところである。
 また、前記ア~エで述べたような背景・事情から、本件契約は、令和2年2月に本件文書(本件契約(当初案))を応募者に提示して以降、令和5年9月の契約締結に至るまでの間、大阪府・市及び大阪SPC等においては、その役職員のみならず、それぞれ相当数の外部弁護士が参加した上で、相当の時間・労力をかけて、本件文書の細部にわたるまで、予断のない極めて慎重な検討・確認と協議・交渉等が積み重ねられていたところである。
 なお、大阪府・市は、本件公募の実施に当たり、募集要項(乙1号証)及び大阪市戦略会議の資料(乙3号証)等において、本件契約に定める予定の土地契約条件の概要を公開していたが、これらは土地契約条件の骨格的な要件を示したにすぎず、本件契約の案や具体的な条項や規定内容そのものではないところ、これらを本件契約に具体的にどのように規定するかを含め、本件決定時点において、終局的・確定的な内容となっていたわけではなく、協議・交渉等の途上にあったものである。同様に、本件決定の時点までに、議会、情報公開、情報提供等により公にした情報についても、本件契約の案や具体的な条項や規定内容そのものではなく、本件契約の個別具体の条文は、いずれにせよ、本件決定の時点では終局的・確定的な内容とはなっておらず、協議・交渉等の途上にあったものである。
 また、前述のとおり、本件文書(本件契約(当初案))の検討・確認、協議・交渉等は、条項・内容を問わず、その細部にわたるまで予断なく極めて慎重に行われていたものであるところ、大阪SPC等との間での協議・交渉等において、本件文書のうち、どの記載部分が、協議・交渉等及び変更・修正等の対象となるかは、契約締結前の協議・交渉等の段階において、予め断定的に確定できるものではなく、また、例えば、いわゆる一般的条項であったとしても(何が一般的条項であるかを普遍的に同定できるかは措き)、条項として一般的なものであるということに過ぎず、どういった条項を置くか、どのような内容(一般的な条項であってもその内容・書き方は様々)を規定するかは、契約交渉上は重要であり、そもそも、本件文書は、本件契約の協議・交渉等の対象事項として、各条項・前文・注意書き等が独立してそれぞれ複数の情報というわけではなく、独立した一体的な情報として、本件決定時点においては、その全体がひとまとまりのものとして、終局的・確定的な内容が記載されたものではなく、協議・交渉等の途上にあったものである。
カ また、本件文書は、募集要項第11・7(乙1号証(p45~46))及び本件文書の表紙記載のとおり、重要保秘義務対象資料と位置づけ、その開示対象範囲を応募企業や融資金融機関等の役職員・弁護士等に限定しており、加えて、実際の開示に際しては、応募者からは、重要保秘義務の遵守に関する誓約書のみならず、本件文書の開示対象者を個人単位で大阪府・市に提出させ、当該開示対象者以外の者に対しては、社内外を問わず、重要保秘義務対象資料及びそれに関連して本件公募により大阪府・市から提供された情報を一切開示してはならないことを義務付けるなど、応募者に対し、通常より厳しい守秘義務と厳格な情報管理を求めてきたところである。
 さらに、国内外の取引通念として、契約交渉途中の案や協議事項は機密として取り扱われるのが通常であるところ、大阪SPC等は、かかる取引通念及び前記の守秘義務に沿うものとして、内部においてもごく限られたメンバーにしか本件文書を開示せず、厳しい守秘義務と厳格な情報管理を行っており、本件契約の案や協議・交渉等の過程・内容が公開されないという信頼を前提にして、協議・交渉等を行ってきたところである。
(2) 本件文書を公にした場合の支障について
ア 本件文書をはじめ本件契約の案を一部でも公にするのであれば、本件契約の案の個々記載ごとに、どの記載部分が協議・交渉等及び変更・修正等の余地がないのかや、当該部分を公にした場合の支障の有無、大阪SPC等との協議・交渉等への影響等を検討・判断する必要が生じるところ、前記(1)、オ及びカのような前提を踏まえれば、これら検討・判断には、大阪SPC等との協議・調整等やその開示につき理解を得ることが必要である。そして、かかる対応は、本件請求にとどまらず、協議・交渉等の段階に応じて変更・修正等が行われた本件契約の案それぞれに対し、情報公開請求があるたびに生じるものとなる。
イ しかるところ、まだ契約締結も行われていない協議・交渉等の途中段階で、これと並行して、本件契約の案の一部を公にするとか、そのために、その時点で確定した記載部分がどこなのかや、公にした場合の支障・影響等を検討・協議しなければならないことについて、本件契約の協議・交渉等のまさに相手方でもある大阪SPC等の理解を得られるとは考え難く、もとより、大阪SPC等は、重要保秘義務対象資料と位置づけられた本件契約の案や協議・交渉等の過程・内容が公開されないという信頼を前提に協議・交渉等を行ってきたところ、かような対応が、大阪SPC等との信頼関係を破壊することは明らかである。
ウ また、大阪IRは民設民営事業であり、多額の投資を要する事業であるところ、事業の収益性、実現性、リスク評価等に影響を及ぼし得る内容が記載された契約書案の応諾については、民間事業者として大きな経営判断を伴うものであり、協議・交渉途中にある契約書案の全部公開はもとより、例えば、一般的文言に見える規定であっても、協議・交渉等の途中段階において、一部条項や記載だけを取り出して終局的な応諾判断や第三者への開示判断(協議・交渉等に影響しない契約条項等として、公にすることに何らの支障もない旨の判断)を行うことは難しく、契約協議・交渉等と並行して、このような判断を求めること自体、大阪SPC等の理解を得られるとは考え難く、事務の混乱や遅延が生じることはもとより、円滑な契約協議・交渉等を阻害し、大阪SPC等との信頼関係を毀損することは明らかである。
エ 加えて、重要保秘義務対象資料として位置づけられた本件契約の案について、これが公開されないという信頼を覆し、当該案が一部であっても公開され得ることを前提とした協議・交渉等を大阪SPC等に求めるのであれば、どのような記載箇所が公開され得るのか、協議・交渉等の段階に応じて公開方針(考え方、範囲、内容等)が更に変容し得るのか、他の重要保秘義務対象資料も同様に公開され得るのか、協議・交渉等の過程・内容まで開示され得ることになるのか等を含め、大阪SPC等に対し、本件契約の協議・交渉等に係る情報の管理につき、疑心を招くとともに、自らコントロールしたり対応を見通すことも得難い、不安定な立場の中で協議・交渉等を進めることを強いることとなる。そして、かような状態が、大阪府・市と大阪SPC等との間での率直な協議・意見交換や円滑な契約の協議・交渉等を阻害し、契約当事者間での信頼関係を毀損することは明らかである。
オ さらに、大阪IRの確実な実現と長期間の安定的かつ継続的な事業実施のため、今後も大阪SPC等との連携・協力が必要不可欠であるにもかかわらず、協議・交渉等の途中段階において、本件文書を一部であっても公にすることになれば、前記イ~エのとおり、本件契約の協議・交渉等に係る事務に混乱・遅延等の支障が生じることはもとより、大阪府・市と大阪SPC等の信頼関係を損なうことは明らかであり、かような大阪SPC等と大阪府・市間の信頼関係破壊や本件契約の締結遅延が生じれば、大阪SPC等とともに大阪IRを推進する立場にある大阪府・市が行う大阪IR関係事務の進捗や大阪IRの質にも影響が及ぶおそれがあり、ひいては、国内外の他都市との競争に打ち勝ち、大阪ないし関西圏の成長の起爆剤となろうという大阪IR関係事務の目的が達成できず、納付金・入場料収入や税収増加をはじめ期待される有形無形の事業効果が減少又は失われるなど、大阪ないし関西圏にとって著しい不利益を生じさせるおそれがある。
カ また、本件契約以外にも並行して協議・交渉等を進める実施協定その他の大阪IR事業の実施に係り大阪SPCとの間で締結が必要となる各種協定等もあるところ、これら協定等の案についても、前記ア~オ同様の状態に置かれるのであれば、事務の混乱や遅延が更に拡大することはいうまでもなく、率直な協議・意見交換や円滑な契約の協議・交渉等の阻害、信頼関係の毀損がより一層深刻な問題となることは明らかである。
(3) 本件文書の部分公開について
ア 条例第8条(部分公開)に関し、最高裁平成13年3月27日判決は、「同条(処分庁注:条例第8条と同趣旨の規定である大阪府情報公開条例第10条を指す。)は、その文理に照らすと、1個の公文書に複数の情報が記録されている場合において、それらの情報のうちに非公開事由に該当するものがあるときは、当該部分を除いたその余の部分についてのみ、これを公開することを実施機関に義務付けているにすぎない。すなわち、(中略)同条は、非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し、その一部を非公開とし、その余の部分にはもはや非公開事由に該当する情報は記録されていないものとみなして、これを公開することまでをも実施機関に義務付けているものと解することはできないのである。したがって、実施機関においてこれを細分化することなく一体として非公開決定をしたときに、住民等は、実施機関に対し、同条を根拠として、公開することに問題のある箇所のみを除外してその余の部分を公開するよう請求する権利はなく、裁判所もまた、当該非公開決定の取消訴訟において、実施機関がこのような態様の部分公開をすべきであることを理由として当該非公開決定の一部を取り消すことはできない。」と判示している。
 この点、本件文書は、前記(1)、オのとおり、各条項・前文・注意書き等が独立してそれぞれ複数の情報というわけではなく、独立した一体的な情報を成すものとして、大阪府・市及び大阪SPC等との間で契約協議・交渉等を行っているひとまとまりの情報であり、本件決定時点においては、その全体がひとまとまりのものとして協議・交渉等の途上にあり、どの記載部分が、協議・交渉等及び変更・修正等の対象となるかや、一般的内容であるかは、必ずしも断定的に確定できるものではなく、また、一般的条項であったとしても、どういった条項を置くか、どのような内容を規定するかは、契約交渉上は重要となる。さらに、大阪SPC等においては、本件契約の契約条項等についての自治体との協議・交渉等やその応諾判断についても、投資判断上の重要事項として、極めて慎重に行われるものであり(前記(1)、イ及びエ)、大阪府・市としても、大阪SPC等に対して、本件情報につき厳格な情報管理を求めてきたところ(前記(1)、カ)、前記(2)、ア~カのとおり、本件文書を一部でも公にするのであれば、率直な協議・意見交換や円滑な契約の協議・交渉等の阻害、信頼関係の毀損が生じるおそれがある。したがって、本件文書に記載される情報については、協議・交渉等の途中段階において、公開可能な部分を特定し、容易に切り離すことはできず、加えて、そのような契約全体から切り離された一部条項のみが部分的に公開されることで、本件契約の内容や印象が曲解・誤解される危険性もあるし、契約当時者以外の第三者において取り上げられることで、未確定・未成熟な情報に基づき、必ずしも正しくない情報の流布、不正確あるいは断片的な情報による誤解や筋違いの批判等を招いたり、当事者の間での協議に影響が生じるおそれがある。
 したがって、本件文書は、各条項・前文・注意書き等全体が開示することが適当でないと認められるひとまとまりのものとして、本件文書の全体が、最終的には不開示事由たる「おそれ」等を生じさせる原因となる情報の範囲と画されるべきであり、最高裁平成13年3月27日判示に照らしても、本件情報は、その一部のみを切り離して公開する義務はない。
イ また、条例第8条第1項は、部分公開義務につき「ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない」とし、「非公開部分を容易に区分して除くことができる場合であっても、非公開部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときには、部分公開の義務はない。ここで、『有意の情報が記録されていないと認められるとき』とは、公開請求に係る公文書から非公開部分を区分して除くと、無意味な文字、数字、様式等のみとなる場合や、断片的な情報や公表された情報のみとなり、請求者が知りたいと欲する内容が十分提供できない場合等をいう」としている(大阪市総務局「情報公開条例解釈・運用の手引」(p39))。
 この点、本件文書の表紙に記載された情報については、本件契約の内容・条項そのものを直接的に規定するものではないことから、本件契約との関係において、独立した一体的な情報の単位で捉えることができないと解される余地もあるが、仮に、かかる解釈をとった場合でも、当該情報は、無意味な文字、数字、様式等又は募集要項に記載されるなど既に公知・公用の情報として条例第8条第1項但書きに該当し、いずれにせよ当該部分のみを切り離して公開する義務はない。
(4) 結論
 以上のとおりであり、上記1、(2)、ウのとおり、大阪府・市は、これまで大阪IRに関し、府・市民への説明会や議会説明・種々資料の公表等、段階ごとに相当な情報公開・情報提供や説明を行ってきたところであるが、反面、本件文書を公にすることにより想定される支障は、具体的かつ現実的なものであり、本件文書を公にすることによる利益より、これにより生ずる行政の適正な意思決定に対する支障等が看過し得ない程度であることは明らかである。また、「事務又は事業に関する情報を公開することによる利益」と、本件文書を公にすることにより生じる「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」を比較衡量してもなお、当該事務又は事業の適正な遂行に及ぼす支障は看過し得ない程度であることは明らかである。
 したがって、本件文書は、条例第7条第4号及び第5号に該当するとともに、部分的にでも公開可能な内容はなく、全体として非公開とされる必要がある。
3 令和6年7月31日付け意見書
(1) 大阪市が大阪SPC等に対して負う秘密保持義務
ア 大阪市は、大阪府及び大阪SPCとの間で令和4年2月15日付けで「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書」(乙2号証。以下「基本協定」という。)、SPCとの間で令和5年9月28日付けで本件契約(乙10号証。以下「本件契約(締結版)」という。)並びに大阪府及び大阪SPCとの間で同日付けで「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の立地及び整備に関する協定」(乙21号証。以下「立地協定(立地市町村等)」という。)及び「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の立地及び整備に係る土地使用等に関する協定」(乙22号証。以下「立地協定(土地所有者)」という。)をそれぞれ締結し、これら協定等においては、大阪府・市及び大阪SPCの間における秘密保持義務を定めているところである。
イ そして、大阪市は、基本協定第25条第1項及び第2項、本件契約(締結版)第32条第1項及び第2項、立地協定(立地市町村等)第36条第1項及び第2項並びに立地協定(土地所有者)第19条第1項及び第2項により、SPCに対して、(A)これら協定等の内容、締結に至るまでの交渉等の経緯・内容並びに(B)これら協定等及び設置運営事業に関して大阪SPCから開示を受けた、営業上、技術上の情報のうち、①文書、電子媒体その他の有体物に化体された情報として開示された場合には、秘密であると明記されているもの又は②口頭・視覚的な開示を含む無形の情報として開示された場合には、開示の際にそれが秘密であることを明示され、かつ、開示から15日以内に当該情報の内容を記載した書面を秘密である旨の表示をして通知を受けたものにつき秘密保持義務を負っており、本件契約(当初案)に含まれる情報についても、これらに該当するものとして、大阪市が大阪SPCに対して秘密保持義務を負う秘密情報の一部となっている。
ウ したがって、本件契約(当初案)については、大阪SPCの事前の書面による承諾なく第三者に開示することはできない。
(2) 行政不服審査手続における判断基準時
ア 審査請求人は審査請求人意見書において、「行政不服審査法の解釈において、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁自身である場合には、審査請求における違法性判断の基準時は『裁決時』と解釈されている。なぜならば、このような場合、審査庁は、原処分の取消裁決だけでなく、変更裁決もすることができ(同法46条1項)、また、申請拒否処分に係る認容裁決をする際には、一定の処分に係る措置をすることもできるとされており(同条2項)、上記変更裁決や一定の処分に係る措置は、原処分時の事情だけでなく、裁決時の事情も考慮して、何が行政目的に適合しているかという観点からなされるものである」と述べた上で、「判断基準時は『裁決時』であり、その時までの事実関係に基づき裁決が行われるべきである」と主張する。
イ この点、行政不服審査法に基づく審査請求は処分に対する事後審査の一環として位置付けられるもので裁決の違法判断は処分時と解されるところであるが(京都地裁平成7年11月24日判決・小早川光郎・高橋滋「条解行政不服審査法」(弘文堂2016)233p~234p)、その点を措いても、そもそも、本件決定後、少なくとも現時点に至るまでに、本件決定の内容が変更されるべき特段の事情の変化は生じてない。
ウ また、審査請求人は、本件文書は「公募条件として確定」していると主張するが、本件文書は、本件公募の応募者との競争的対話や協議・交渉等を踏まえて、必要に応じ、その内容の変更・修正等を行うことを前提として令和2年2月に応募者に提示したものとなる。
 そのため、令和5年9月28日付で本件契約が締結されたからといって、本件文書に記載された内容は、公募条件として終局的・確定的に確定しておらず、あくまでその時点での途中段階の案となっているため、交渉途中段階の具体的な契約情報を開示することによって、想定される支障は決して抽象的なおそれにとどまらず、大阪IR関係事務の進捗や大阪IRの質、ひいては事業実施そのものに具体的かつ現実的な支障が生じるおそれがあり、審査請求人の主張する「裁決時」の状況を加味したとしても、本件意思形成過程情報や本件事務執行情報の要保護性を犠牲にした上で、公益上特に公開が必要であると認むべき特段の事情がないことは、当庁がこれまでの意見書等で主張してきたとおりである。

4 令和6年10月15日付け意見書
(1) 審査請求人令和6年8月2日付け意見書(上記第3、5参照)に対する意見等について
ア 「(1) 資料提出の経緯、大阪市長の主張について」について
(ア)大阪市長は、この間、審査会からの意見書や資料提出等の求め、及び審査請求人からの意見書や求釈明も踏まえながら、また、これに応じて、非公開理由について、より具体的な説明・意見や関係資料の提出等を行ってきたところである。基本協定、本件契約(締結版)、立地協定(立地市町村等)及び立地協定(土地所有者)(以下「協定書等四件」と総称していう。)についても、本件文書が公開された場合に大阪市と大阪SPCの信頼関係が毀損するとの大阪市長の主張等に関連して、大阪市及び大阪SPCが負う秘密保持義務の有無が争点の一つとなる中で、審査会からの提出の求めに応じ提出したもので、審査請求人の主張するような「大阪市長において協定書等四件を自身の主張の根拠として認識していない」ものではない。
(イ)しかるに、令和6年7月31日付け意見書」で述べたとおり、本件契約(当初案)に含まれる情報について、大阪市は、協定書等四件に基づき、大阪SPCに対して秘密保持義務を負っており、大阪SPCの事前の書面による承諾なく第三者に開示することはできない。なお、協定書等四件に定める秘密保持条項の具体的な適用については、後記(2)で述べるとおりである。
(ウ)もっとも、本件決定時点で締結していたのは基本協定のみであり、本件決定時点における大阪市の秘密保持義務は基本協定に基づくものとなる。この点、審査請求人は、「他の三件(大阪市長注:協定書等四件のうち基本協定以外の契約等)は上記非公開決定時点において存在せず、これら三件は非公開決定の根拠ではありえない」(上記第3、5、(1))と主張するが、同時に、「行政不服審査法の解釈において、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁自身である場合には、審査請求における違法性判断の基準時は『裁決時』と解釈されている。(中略)変更裁決や一定の処分に係る措置は、原処分時の事情だけでなく、裁決時の事情も考慮して、何が行政目的に適合しているかという観点からなされるものである」とした上、「判断基準時は『裁決時』であり、その時までの事実関係に基づき裁決が行われるべきである」(上記第3、4、(2))などとの主張も行っているところであり、審査請求人の主張する「裁決時」の状況を加味した場合、大阪市長は、基本協定以外の契約等(本件契約(締結版)、立地協定(立地市町村等)及び立地協定(土地所有者))にも基づき秘密保持義務を負うものとなる。
イ 「(2) 追加提出資料(協定書等四件)の内容に対する指摘」について
(ア)「公募書類は『交渉等の経緯・内容』ではなく、秘密情報にあたらないこと」について
① 基本協定第25条第2項 は、(ⅰ)本基本協定の内容、(ⅱ)本基本協定締結に至るまでの交渉等の経緯・内容(以下「秘密情報(交渉等の経緯・内容)」という。)及び(ⅲ)本基本協定に関して相手方から開示を受けた、営業上、技術上、又は行政上の情報のうち、同項(1)又は(2)のいずれかに該当し、かつ、同項(3)①乃至④のいずれにも該当しないもの を秘密情報として定めており、大阪市は、同条第1項により、当該(ⅰ)~(ⅲ)の秘密情報につき、大阪SPCに対して秘密保持義務を負うこととなる。
② この点、後記(2)で詳述するとおり、基本協定と本件契約は、両協定で使用する用語の定義や各条項の規定ぶりを含め、両契約を相互に参照しながら一体で大阪府・市及び大阪SPC等間での契約協議・交渉等や、大阪SPC等の意見を踏まえた修正等が行われてきたもので、本件契約(当初案)は、大阪府・市と大阪SPCで行われた交渉等の対象そのものとして、秘密情報(交渉等の経緯・内容)に該当する。
 また、本件契約(当初案)は、本件契約(締結版)と比較することによって各条項の異同・差分が明らかになるところ、当該異同・差分は、大阪市と大阪SPCとの間における交渉等の経緯・内容に他ならず、本件契約(当初案)の内容自体、本件契約(締結版)との関係からみても、秘密情報(交渉等の経緯・内容)に該当する。
 なお、念の為、基本協定第25条第2項に定める「本基本協定締結に至るまでの交渉等」は、基本協定の内容に関する交渉等に限定されるものではなく、当然、本件協定を含む協定書等四件の内容に関する交渉等を含め、基本協定の締結に至る上で必要となる大阪市・大阪SPC間での全ての交渉等の内容を含む。
③ したがって、本件契約(当初案)は基本協定に定める秘密情報に該当し、令和4年11月4日の本件決定時点において、大阪市は、基本協定第25条第1項及び第2項により、本件契約(当初案)に含まれる情報について、大阪SPCに対して秘密保持義務を負うものとなる。
④ 審査請求人は、「大阪SPCから開示を受けるまでもなく、大阪市長はもともと対象文書を保有している」「公募手続により民間事業者が選定される以前から存在する」「大阪府・市は、もともと秘密保持義務を負わないはずの公募書類について協定書等四件の締結により『後付け』で秘密保持義務を負うことになり、不合理」「大阪府・市は公募書類について秘密保持義務を負わない扱いになっている。この位置付けを狂わせるような解釈は誤り」などと述べ、本件契約(当初案)が基本協定等に定める秘密情報に当たらない旨を主張する。
 しかしながら、本件契約(当初案)を含む基本協定等の当初案について、本件公募の実施時においては、その後の変更・修正等の有無や程度等は未確定であり、大阪市として応募者に対し秘密保持義務を負う立場にはなかったものの、上記1、(1)で述べたとおり、IRに係る諸々状況・事情等(大阪府・市に知見・実績がない中での新法制度下・国内初の事業、多額投資、極めて大規模な民設民営事業、本件契約の内容が及ぼす事業収益性・実現性・リスク評価等への影響等)を踏まえ、もとより競争的対話や大阪SPC等との協議・交渉等を踏まえ、必要に応じ、その内容の変更・修正等を行うことを前提としていたもので、これら当初案についても、秘密保持義務の対象とすべきような情報となる可能性が見込まれていたところ、だからこそ、本件公募の当初から、基本協定等の当初案は公表せず、かつ、重要保秘義務対象資料と位置付けた上、応募者にも通常より厳しい守秘義務と厳格な情報管理を求めることとしていたものである。そして、競争的対話や大阪SPC等との協議・交渉等の状況(本件契約の変更・修正等の有無や程度等)を踏まえ、大阪市として、基本協定等の当初案を秘密情報とし、基本協定において秘密保持義務を負うこととしたものであり、何ら不合理な点はない。
 翻って、前記②で述べたとおり、基本協定等の当初案と締結版は、その異同・差分によって、その協議・交渉等の内容が明らかになることは明白であり、仮に、審査請求人の主張するように、本件公募の手続後に基本協定等の当初案を無条件公開するということであれば、応募者との協議・交渉等の内容を公表することと同じであり、かような取扱いは、応募者による本件公募への参画判断に大きく影響するものとして、募集要項で予め明確にしておく必要があると考えられるが、実際、募集要項上、そのような記載は行っていない。
⑤ また、審査請求人は、民間事業者として選定以前の大阪府・市と大阪SPC間の交渉等は「協定書等四件の秘密保持条項における『交渉等の経緯・内容』に該当しない」「民間事業者選定が完了する以前の時期における大阪府・市と公募参加企業とのやりとりは、公募手続上のやりとりにすぎず、協定書等四件の締結に向けた交渉ではない」などとも主張する。
 しかしながら、基本協定第25条第2項の「本基本協定締結に至るまでの交渉等」につき、協定文言上も、その対象を「交渉」に限定したり、交渉等の期間を民間事業者の選定以降に限定するような規定はしておらず、審査請求人の解釈は誤っている。しかるに、既述のとおり、IRに係る諸々状況・事情等を踏まえ、本件契約の内容は、民間事業者の選定前の本件公募の段階から、競争的対話において大阪府・市及び大阪SPCとの間で協議等を行い、これも踏まえて内容の変更・修正等を行っており、かかる協議等の経緯・内容は、基本協定第25条第2項に定める「交渉等の経緯・内容」に該当する。また、かような経緯を無視して、本件契約(当初案)の交渉等の経緯・内容について、民間事業者の選定前後で、秘密情報該当性を区分することに合理性はない。
(イ)「情報公開請求に対する開示は秘密保持条項に抵触しないこと」について
① 本件契約(当初案)について、本件公募の当初より開示にすることを想定していた文書ではないこと、また、協定書等四件により大阪市が秘密保持義務を負っていることは、前記(ア)で述べたとおりであり、大阪市は大阪SPCの事前の書面による承諾なく第三者に開示することはできない。
② この点、審査請求人は「協定書等四件の秘密保持条項においても、法令に基づく開示や、行政機関として説明責任を果たすための開示は可能とされており、秘密保持義務に抵触しない」などと述べ、本件文書を条例に基づき公開することには支障がなく、秘密保持義務に抵触しない旨を主張する。
 しかしながら、基本協定第25条第4項及び第5項は、同条第1項の秘密保持義務を除外できる場合を定めているが(基本協定以外の契約等にも同趣旨の規定を置いている。)、第4項は、条例に基づく情報公開請求による公開を対象とする趣旨はなく、また、第4項において「開示することができる」、第5項において「開示又は公表することができる」としているとおり、これら規定は、情報公開請求があった場合に、大阪市に非公開情報の公開義務を課す趣旨のものでもない。
 しかして、本件決定時点(令和4年11月4日)においては、本件契約は締結もされておらず、大阪SPC等との間での協議・交渉等や大阪府・市での検討・協議が継続していたところであり、いずれにせよ、本件文書は、条例第7条第4号及び第5号に該当し、公開可能な内容はなく、非公開とする必要があることは、これまで述べてきたとおりである。
(2) 令和6年9月10付け審査請求人意見書(上記第3、6)に対する応答について
ア 基本協定に基づく大阪市の秘密保持義務について
(ア)前記(1)、イ、(ア)、①のとおり、大阪市は、基本協定第25条第1項及び第2項により、本基本協定締結に至るまでの交渉等の経緯・内容(=秘密情報(交渉等の経緯・内容))につき、秘密情報として、大阪SPCに対して秘密保持義務を負うこととなる。
(イ)この点、本件契約(当初案)は、基本協定締結以前の公募段階において提示されたもので、基本協定と本件契約は、その内容が相互に関連しているため(基本協定第2条、第13条の2第3項、第14条、第17条、第21条、第22条等参照)、両協定で使用する用語の定義や各条項の規定ぶりを含め、両契約を相互に参照しながら一体で大阪府・市及び大阪SPC等間での契約協議・交渉等や、大阪SPC等の意見を踏まえた修正等が行われてきたものである。そのため、本件契約(当初案)が第三者に開示された場合、基本協定の内容に係る交渉等の経緯・内容が開示されるのと実質的に同じであることから、本件契約(当初案)は、大阪府・市と大阪SPCで行われた交渉等の対象そのものであり、秘密情報(交渉等の経緯・内容)に該当する。
(ウ)また、本件契約については、基本協定締結の前後に亘り、大阪府・市と大阪SPC等との間で協議・交渉が重ねられてきたものであり、本件契約(当初案)と締結された本件契約(締結版)を比較することによって各条項の異同・差分が明らかになるところ、当該異同・差分は、大阪市と大阪SPCとの間における交渉等の経緯・内容に他ならない。しかるところ、本件契約に係る交渉等は、本件契約(当初案)を出発点とし、これをベースに実施されてきたもので、この当初案の内容自体、交渉等の経緯・内容の出発点・ベースとした、大阪市・大阪SPC間の交渉等の経緯・内容そのものであり、本件契約(当初案)の内容自体は、本件契約(締結版)との関係からみても、秘密情報(交渉等の経緯・内容)に該当する。なお、念の為、前記(1)、イ、(ア)、②でも述べたとおり、基本協定第25条第2項に定める「本基本協定締結に至るまでの交渉等」は、基本協定の内容に関する交渉等に限定されるものではなく、本件協定の内容に関する交渉等を含む。
(エ)以上のとおり、本件契約(当初案)は基本協定に定める秘密情報に該当し、令和4年11月4日の本件決定時点において、大阪市は、基本協定第25条第1項及び第2項により、本件契約(当初案)に含まれる情報について、大阪SPCに対して秘密保持義務を負うものとなる。
イ 基本協定以外の契約等に基づく大阪市の秘密保持義務について
(ア)本件契約(締結版)第32条第2項、立地協定(立地市町村等)第36条第2項及び立地協定(土地所有者)第19条第2項 についても、前記(1)、イ、(ア)、①で述べた基本協定第25条第2項と概ね同旨の規定となっているところ、前記ア、(イ)の趣旨・考え方は、本件契約(当初案)及び基本協定とこれら契約等との相互関係でも当てはまるものであり、また、これら契約等の秘密保持条項の解釈も同様で、もとより、本件契約(締結版)の秘密保持条項における「本契約締結に至るまでの交渉等の経緯・内容」に当たることはより明らかである。
(イ)以上のとおり、本件契約(当初案)は、本件契約(締結版)及び立地協定に定める秘密情報にも該当し、令和5年9月28日付けのこれら契約等の締結以降、大阪市は、本件契約(締結版)第32条第1項及び第2項、立地協定(立地市町村等)第36条第1項及び第2項並びに立地協定(土地所有者)第19条第1項及び第2項により、本件契約(当初案)に含まれる情報について、大阪SPCに対して秘密保持義務を負うものとなる。

第5 審査会の判断
1 基本的な考え方
 条例の基本的な理念は、第1条が定めるように、市民の公文書の公開を求める具体的な権利を保障することによって、本市等の説明責務を全うし、もって市民の市政参加を推進し、市政に対する市民の理解と信頼の確保を図ることにある。したがって、条例の解釈及び運用は、第3条が明記するように、公文書の公開を請求する市民の権利を十分尊重する見地から行われなければならない。
 しかしながら、条例はすべての公文書の公開を義務づけているわけではなく、第7条本文において、公開請求に係る公文書に同条各号のいずれかに該当する情報が記載されている場合は、実施機関の公開義務を免除している。また、第9条において、公開請求に係る公文書の存否を答えるだけで、第7条各号に該当する情報を公開することとなる場合には、当該公開請求を拒否することができる旨規定している。もちろん、条例の解釈及び運用は、これらの規定の趣旨を十分に考慮しつつ、条例の上記理念に照らし、かつ公文書の公開を請求する市民の権利を十分尊重する見地から、厳正になされなければならないことは言うまでもない。
2 争点
 実施機関は、本件文書については、独立した一体的な情報を成すものとして一体的に非公開とすべきものであるとの主張を行っているので、まず、本件文書が一体であり、条例第8条第1項本文の適用がないと判断すべきかが問題となる(以下「争点1」という。)。
 次に、実施機関は、本件文書の全部が条例第7条第4号、第5号に該当し条例第10条第2項に基づく非公開決定が妥当である旨主張していることから、条例第7条第5号該当性(以下「争点2」という。)、条例第7条第4号該当性(以下「争点3」という。)が問題となる。
3 本件文書について
 本件文書は、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」の添付書類で、事業提案の前提となるものであり、「重要保秘義務対象資料の開示対象者名簿兼アクセス権申込書」及び「重要保秘義務対象資料の取扱いに関する誓約書」を提出した資格審査通過者に貸与された書類である。
 また、本件公募の開始後は、設置運営事業予定者との間で、本件文書をたたき台にして、契約条項(ここでは、表や図も含めて「契約条項」と表現している。以下同じ。)についての協議がなされ、令和5年9月28日に、合同会社日本MGMリゾーツ(MGMリゾーツ・インターナショナルの完全子会社)及びオリックス株式会社によって大阪IRの事業実施を目的に設立された大阪IR株式会社との間で契約が締結された。
 なお、大阪府ホームページにおいて公表されている「事業用定期借地権設定契約書の骨子案」(令和7年9月16日時点)と本件文書を見比べたところ、少なくとも条項内容の修正や条項そのものの追加がなされていることが確認できた。
4 争点1について
 実施機関は、令和6年2月26日付け意見書において、平成8年(行ツ)第211号及び平成8年(行ツ)第210号最高裁平成13年3月27日判決・民集55巻2号530頁を引用し、本件文書についても、一体的に公開/非公開の判断を行うべきであると主張する。
 そこで、当該実施機関の主張について検討すると、まず、上記判決については、「住民等の公文書の公開請求に対し、実施機関において、その裁量判断により、本件条例8条4号又は5号に該当する情報が記録されている公文書を公開することはもとより、上記のとおり、本件条例9条1号に該当する独立した一体的な情報が記録されている公文書のうち特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除いたその余の部分を公開することも、本件条例に違反するものとはいえない。しかしながら、実施機関による上記のような運用が広く行われているとしても、そのことから直ちに当該条例の解釈として住民等が実施機関に対し上記のような公文書の公開ないし部分公開を請求する権利が付与されているとすることはできないのであって、このような権利を付与するか否かは専ら各地方公共団体がその条例において定めるべき事柄であり、上記のような規定を有するにすぎない本件条例の下においては、その規定を改めない限り、住民等に上記のような権利が付与されていると解することはできないといわざるを得ないのである。」(当審査会において傍点を付記)と判示しているとおり、「個人に関する情報」の一体性について判断したものであり、「個人に関する情報」以外の非公開事由が問題となる事案に対して、直ちに射程が及ぶものとは言えないと考える(宇賀克也『新・情報公開法の逐条解説』有斐閣、第8版、平成30年、132頁から136頁までと令和2年(行ヒ)第340号及び令和2年(行ヒ)第341号最高裁令和4年5月17日判決・集民267号53頁及び同判決の宇賀補足意見参照)。
 ここで、本件事案においては、上記第4記載のとおり、実施機関は条例第7条第1号の該当性を主張しておらず、当審査会において本件文書を見分した限りにおいても、同文書中に「個人に関する情報」は見受けられないところである。よって、本件事案に関し、直ちに上記判決の射程が及ぶものではないと考える。
 その上で、本件で実施機関が主張する条例第7条第4号及び第5号の場合にも、上記判決のように情報を一体として見ることが適切であるかが問題となる。
 この点、本件においては、実施機関は、一件の公文書全体について、情報として一体であると主張し、その主張を前提として、公文書の一部に非公開情報が含まれているとして、契約書案という公文書の全体を非公開としているが、「情報の一体性」を安易に公文書全体に認めると、「公開請求に係る公文書の一部に非公開情報が記録されている場合において、非公開情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、公開請求者に対し、当該部分を除いた部分につき公開しなければならない。」として部分公開の義務を定めた条例第8条の趣旨を没却することとなりかねない。そして、平成29年(行ヒ)第46号最高裁平成30年1月19日判決・判例時報2377号4頁における山本庸幸裁判官の意見では、平成8年(行ツ)第211号及び平成8年(行ツ)第210号最高裁平成13年3月27日判決・民集55巻2号530頁について、そもそも非開示の範囲が無用に広がり過ぎるおそれがあるという行政機関情報公開法の本旨に反する本質的な問題点があるとの指摘がなされている(上記『新・情報公開法の逐条解説』135頁から136頁まで)ことを踏まえると、上記判決に示された「情報の一体性」を文書全体に拡大し、当該公文書の全体を一体として非公開とすることには、慎重とならざるを得ない(結論において同旨、令和5年(行ヒ)第335号最高裁令和7年6月3日判決・裁判所ウェブサイト)。
 実施機関は、この点について、「各条項・前文・注意書き等が独立してそれぞれ複数の情報というわけではなく、独立した一体的な情報を成すものとして、大阪府・市及び大阪SPC等との間で契約協議・交渉等を行っているひとまとまりの情報であり、本件決定時点においては、その全体がひとまとまりのものとして協議・交渉等の途上」である旨を主張するが、当該文書が契約書の案である以上、全体として相互に関連性を有していること、また、文書として一体のものであることは当然であるから、このような契約書案として一般的に有している性質を根拠として、文書として一体であることを超え、情報として一体であるとまで評価することはできない。
 したがって、本件においては、当該文書全体を一体のものとして公開の可否を検討するのではなく、当該文書中の一定のまとまりごとに条例第7条第4号や同第5号の該当性を判断し、「公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」や「契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、本市又は国等の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」等があると認められるひとかたまりの部分を非公開部分として黒塗りすればよいのであり、それが条例第1条、第8条の趣旨にかなうといえる。
 そこで、条例第23条第1項に基づき、諮問庁(実施機関)に対し本件文書の提出を求め、その内容を見分したところ、一般的な契約書と同様に、契約内容は条項の形式で規定されていることが確認できた。
 ここで、通常、契約書は、条及びその中の項ごとに異なる内容が規定されており、ある条と他の条やその中のある項と他の項が一定の関連性を有するとしても、そのことをもって情報として一体であるとは認めがたく、それは、本件文書の各条・各項についても言えることから、本件文書についても、最低限、条及びその中の項ごとに公開/非公開を判断すべきであり(各項内の規定に一体性が認められるかは個別の検討を要するので、下記5において検討)、実施機関の主張を採用することはできない。
 よって、以下、本件文書の各条・各項単位で公開/非公開の判断を行うこととする。
 なお、本件文書には別紙部分もあるが、上記と同様である。
5 争点2について
(1) 条例第7条第5号の基本的な考え方
 条例第7条第5号は、本市の機関等が行う事務又は事業の目的を達成し、公正、円滑な執行を確保するため、「本市の機関又は国等が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」は公開しないことができると規定している。
 ここで、「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」とは、事務又は事業に関する情報を公開することによる利益と支障を比較衡量した上で、公開することの公益性を考慮しても、なお、当該事務又は事業の適正な遂行に及ぼす支障が看過し得ない程度のものをいい、また、こうした支障を及ぼす「おそれがある」というためには、抽象的な可能性では足りず、相当の蓋然性が認められなければならないと解される。(2) 条例第7条第5号該当性
ア 実施機関の主張について
 実施機関は、上記第4、2、(1)、オにおいて、「本件文書は、本件公募の応募者との競争的対話や協議・交渉等を踏まえて、必要に応じ、その内容の変更・修正等を行うことを前提として、令和2年2月に応募者に提示したものであり、本件決定時点(令和4年11月4日)においても、大阪SPC等との間での協議・交渉等や大阪府・市での検討・協議が継続していたところである。」と主張しており、それについては、上記3に記載の通り、事実として認められるところである。
 また、実施機関は、上記第4、2、(1)、カにおいて、「本件文書は、募集要項第11・7(乙1号証(p45~46))及び本件文書の表紙記載のとおり、重要保秘義務対象資料と位置づけ、その開示対象範囲を応募企業や融資金融機関等の役職員・弁護士等に限定しており、加えて、実際の開示に際しては、応募者からは、重要保秘義務の遵守に関する誓約書のみならず、本件文書の開示対象者を個人単位で大阪府・市に提出させ、当該開示対象者以外の者に対しては、社内外を問わず、重要保秘義務対象資料及びそれに関連して本件公募により大阪府・市から提供された情報を一切開示してはならないことを義務付けるなど、応募者に対し、通常より厳しい守秘義務と厳格な情報管理を求めてきたところである。」と主張しており、そのような取扱いについても、証拠上認められるところである。
 以上から、本件契約については、本件請求当時、契約当事者間で合意に達していない状態で、今後の契約条項協議を予定するものであったと認められ、また、実施機関側は本件文書について対象者を絞って提供を行っていたことが認められる。
 この点、契約実務において上記のような取扱いを行うことは、社会通念上特段不合理なものではないと認められるところである。
 そして、そのような状況の中、条例に基づくとは言え、実施機関が一方的にたたき台となっている契約書を公開すると、契約書については実施機関が提示した原案を含めて協議途中の案については公開されないと認識していたであろう契約相手方との信頼関係が損なわれ、契約相手方との協議が円滑に進まないおそれが相当の蓋然性をもって認められるところである。
 よって、原則として、本件文書に記載された情報は条例第7条第5号に該当すると言える。
 ただし、本件決定時点で、実施機関等によって公表がされている情報(関連する情報で支障がないものを含む。以下同じ。)については、それが、契約条項として落とし込まれただけで、契約相手方との協議に支障が生じるとは考えられないことから、以下ウで詳述するように、公開すべきと考える。
イ 審査請求人の主張について
 上記ア記載の点について、審査請求人は、①本件請求時点で既に契約書案は固まっていること、②本件請求時点で公募手続は終了していたこと、③令和5年12月12日時点で「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業事業用定期借地権設定契約書」を締結済みであることをもって、非公開事由にあたらないとの主張を行っている。
 そこで、以下、これらの審査請求人の主張について検討する。
(ア)審査請求人の主張①について
 審査請求人は、本件請求時点で既に契約書案は固まっていたと主張しているが、実施機関が、第4、1、(1)、イにおいて、「本件文書は、本件公募に先立ち大阪府・市が令和元年4月に実施したコンセプト募集の応募事業者の意見並びに大阪府・市の機関及び相互での検討・協議等を踏まえ、本件公募の実施時点の案として取りまとめたものであるが、本件公募手続きにおいて応募者との間で実施する競争的対話並びに選定した民間事業者との協議・交渉等により、随時変更・修正されることが前提とされたものであり(乙1号証(p4、50)、乙2号証第14条及び第17条)、大阪市が締結する本件契約として、終局的・確定的な内容が記載されているものではない。」と主張しているように、大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業に係る公募の実施時点で、本件文書は修正等が予定されているものであったことが認められる。
 よって、大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業に係る公募の実施時点において、今後契約を予定する契約書のたたき台の案としては固まっていたと言えるが、それはあくまで実施機関の提示案としてであり、契約は相互の合意があってはじめて成立するものであることから、最終案としては固まっていなかったと言える。
 そうであれば、公開されることによって、上記アの実施機関の主張のとおり、契約相手方との協議が円滑に進まないおそれが相当の蓋然性をもって認められると言える。
(イ)審査請求人の主張②について
 審査請求人は、②本件請求時点で公募手続は終了していたと主張しており、それが事実か否かは定かではないが、仮に事実であったとしても、公募手続が終了した後に本件文書をたたき台にした契約協議が予定されていたことは上記(ア)のとおりであり、そうであれば、上記ア記載の支障が生じることに変わりはないと言える。
(ウ)審査請求人の主張③について
 審査請求人は、③令和5年12月12日時点で「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業事業用定期借地権設定契約書」が締結済みであると主張しているが、審査請求人が本件請求を行ったのは令和4年10月21日であり、本件決定がされたのも同年11月4日である。
 この点、審査請求人の主張③は、本件決定後の事情にあたり、実施機関が行った本件決定の適否を判断する答申においては考慮されないものである(なお、この点については後記7も参照)。
ウ 本件文書のうち公表情報から把握できる情報等について
 上記のとおり、原則として本件文書は条例第7条第5号に該当すると言えるが、本件文書の各条項のうち公表情報において把握可能な部分等は公開すべきであると言える。
 そこで、諮問庁(実施機関)に対し、本件文書の契約条項に係る本件請求時点の公表情報の提出を求めて見分を行った。
 その結果問題となったのが、契約条項がそのまま公表されている部分はほとんどないなかで、どの程度の一致があれば公開と判断すべきかである。
 この点、契約条項の内容が公表情報においてより詳しく説明がされている場合や公表情報の全趣旨から容易に想像できる場合には、実施機関としても、その条項等部分については公表しても契約協議に影響はないと考えたと推認でき、当該部分を公開請求があった際に公開したとしても契約条項の協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたいことから、公開請求があった場合には公開すべきであると考える。一方、公表情報と契約条項の内容が異なる場合はもちろん、公表情報より契約条項の方がより詳細な情報を含む場合には、そのより詳細な部分を公開することによって、契約条項の協議に支障が生じるおそれが認められることから、非公開とすべきであると考える(なお、契約条項内に、公表情報ではないが、明らかに条例第7条第5号に該当しない情報が一部含まれている場合は、当該部分を、同号を理由に非公開とすることは適切でないので、その他の情報とあわせて公開すべきと考える。)。また、ある条項に他の条項が引用されている場合も認められたが、この場合、引用元の条項の内容が非公表である場合、引用先において条項を示すことによって、その内容が推測できると言える。よって、この場合においても、契約条項の協議に支障が生じるおそれが認められることから、非公開とすべきであると考える。
 上記を前提に本件文書を詳細に検討したところ、公開すべきと考える箇所は、上記第1記載の公開部分①から公開部分⑬までの契約条項のみであり、それ以外については、非公表情報が含まれており、公開すべきでないものであった。
 さらに、具体の判断にあたっては、情報の一体性との関係で、各条項等中のどの部分まで公開すべきかが問題となるので、以下個別に検討する。
(ア)公開部分①について
 本件部分には、本件文書の作成日付と思われる記載と、実施機関の部局名や本件文書の位置付けが記載されている。日付以外の部分については、公表資料である「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」(2021年3月19日修正版。以下同じ。)を見れば明らかな内容であり、また、日付については公表資料に記載は見当たらないが、条例第7条第5号に該当するような情報ではないと認められる。
 よって、公開部分①については、条例第7条第5号に該当しない。
(イ)公開部分②について
 本件部分には、契約書のタイトル(脚注付き)、本契約書の締結にあたっての注意書き、本資料の取扱い、契約日や契約者(一部空欄)が記載されている。
 このうち、契約書のタイトルは、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」5頁に記載があり、脚注の内容については同49頁から50頁までに記載があり、本資料の取扱いは同46頁に記載があり、契約日や契約者(一部空欄)については、条例第7条第5号に該当するような情報ではないと認められる。
 よって、公開部分②については、条例第7条第5号に該当しない。
(ウ)公開部分③について
 本件部分のうち第1項及び第2項の内容は、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」16頁の「(1) 契約方法」欄の記載を契約条項の形で表現したに過ぎないものと言えることから公開すべきである。
 また、本件部分の条文番号及び条文見出しについては、これを一体として見るのが適切であり、条文番号は公開しても支障が生じるおそれがあるとは認めがたく(この点は他の条文番号等にもあてはまるので、以降では本説明を省略する。)、条文見出しについても第1項及び第2項の内容を端的に表したものであり、公開することによって今後の契約協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたい。
 よって、公開部分③については、条例第7条第5号に該当しない。
(エ)公開部分④について
 本件部分のうち第1項及び第2項は、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」16頁の「(3) 存続期間」欄及び令和元年11月19日付け戦略会議資料(参考資料1)の「3 土地契約条件の概要」中の「貸付期間」欄の記載を契約条項の形で表現したに過ぎないものと言えることから公開すべきである。
 また、条文見出しについても第1項及び第2項の内容を端的に表したものであり、公開することによって今後の契約協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたい。
 よって、公開部分④については、条例第7条第5号に該当しない。
(オ)公開部分⑤について
 本件部分のうち第1項は、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」16頁の「(4) 賃料等」欄の記載を契約条項の形で表現したに過ぎないものと言えることから公開すべきである。
 また、条文見出しについても第1項の内容を端的に表したものであり、公開することによって今後の契約協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたい。
 よって、公開部分⑤については、条例第7条第5号に該当しない。
(カ)公開部分⑥について
 本件部分のうち第1項第1文は、令和元年11月19日付け戦略会議資料(参考資料1)の「3 土地契約条件の概要」中の記載を契約条項の形で表現したに過ぎないものと言える。一方、第1項第1文に続く部分は公表情報には記載のない情報である。
 そこで、第1文とそれ以降が情報として一体であるかが問題となるが、当審査会において見分したところ、第1文とそれ以降で意味内容が異なり、また、第1文を公開することによって、それ以降の内容が推測されることになるとも認められないことから、本件部分とそれ以降とは分けて判断されるべきである。
 そうであれば、第1文については、上記のとおり、公表情報と表現が異なるに過ぎないことから公開すべきである。
 また、条文見出しについても第1文の内容を端的に表したものであり、公開することによって今後の契約協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたい。
 よって、公開部分⑥については、条例第7条第5号に該当しない。
(キ)公開部分⑦について
 本件部分のうち第12条第1項第1文は、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」17頁の「(5) 保証金等」欄の記載を契約条項の形で表現したに過ぎないものと言える。一方、第12条第1項第1文に続く部分は公表情報には記載のない情報である。
 そこで、第1文とそれ以降が情報として一体であるかが問題となるが、当審査会において見分したところ、第1文とそれ以降で意味内容が異なり、また、第1文を公開することによって、それ以降の内容が推測されることになるとも認められないことから、本件部分とそれ以降とは分けて判断されるべきである。
 そうであれば、第1文については、上記のとおり、公表情報と表現が異なるに過ぎないことから公開すべきである。
 また、条文見出しについても第12条第1項第1文の内容を端的に表したものであり、公開することによって今後の契約協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたい。
 よって、公開部分⑦については、条例第7条第5号に該当しない。
(ク)公開部分⑧について
 本件部分のうち第1項第1文については、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」17頁の「(5) 保証金等」欄の記載を契約条項の形で表現したに過ぎないものと言える。一方、本件部分のうち第1項第1文に続く部分は公表情報には記載のない情報である。
 そこで、第1文とそれ以降が情報として一体であるかが問題となるが、当審査会において見分したところ、第1文とそれ以降で意味内容が異なり、また、第1文を公開することによって、それ以降の内容が推測されることになるとも認められないことから、本件部分とそれ以降とは分けて判断されるべきである。
 そうであれば、第1項第1文については、上記のとおり、公表情報と表現が異なるに過ぎないことから公開すべきである。
 次に、第2項及び同項に付された脚注については、前者は、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」17頁の「(5) 保証金等」欄に記載されており、情報量としては公表情報の方が契約条項よりも多い関係にあることから公開すべきであり、後者は、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」17頁の「(5) 保証金等」欄に同様の注意書きが認められることから、こちらも公開すべきである。
 次に、「注」として記載された2か所については、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」17頁の「(5) 保証金等」欄に同様の記載を認めることができることから公開すべきである。
 また、条文見出しについても上記第1項第1文及び第2項の内容を端的に表したものであり、公開することによって今後の契約協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたい。
 よって、公開部分⑧については、条例第7条第5号に該当しない。
(ケ)公開部分⑨について
 本件部分のうち第2項については、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」16頁の「(3) 存続期間」欄に同様の記載が認められることから公開すべきである。
 次に、本件部分のうち第3項については、令和元年11月19日付け戦略会議資料(参考資料1)の「3 土地契約条件の概要」中に同様の記載が認められることから公開すべきである。
 また、条文見出しについても上記第2項及び第3項の内容を端的に表したものであり、公開することによって今後の契約協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたい。
 よって、公開部分⑨については、条例第7条第5号に該当しない。
(コ)公開部分⑩について
 本件部分のうち第42条は、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」16頁の「(1) 契約方法」欄の記載を契約条項の形で表現したに過ぎないものと言えることから公開すべきである。
 また、条文見出しについても第42条の内容を端的に表したものであり、公開することによって今後の契約協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたい。
 よって、公開部分⑩については、条例第7条第5号に該当しない。
(サ)公開部分⑪について
 本件部分は、本件文書の15頁から17頁までの内容を表す資料名が記載されているに過ぎず、次の(シ)で示すように、本件文書の15頁の一部は公開すべきものであり、その公開部分から上記資料名は容易に想像できるものであることから、条例第7条第5号に該当しない。
(シ)公開部分⑫について
 本件部分のうち1つ目の表の6行のうち上から3行目まで(注記を除く。)については、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」15頁の「図表3」に、地番と住居表示の違いはあるが、実質的には同じ土地を指した記載が認められることから公開すべきである。
 次に、本件部分のうち2つ目の表全部についても、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業募集要項」15頁の「図表3」にまったく同じ記載が認められることから公開すべきである。
 よって、公開部分⑫については、条例第7条第5号に該当しない。
(ス)公開部分⑬について
 本件部分を含む本件文書の18頁から21頁までには、契約書中に出てきた文言がどういう意味であるかが、文言ごとに記載されている。
 そして、本件部分のうち、番号(7)、(8)、(9)、(19)、(29)、(32)、(41)、(42)、(43)第1文、(45)、(47)、(50)、(57)及び(67)については、それぞれ、上記(ア)から(シ)までで公開すべきとした部分に出てくる文言の意味が記載されているところである。
 ここで、当審査会において、それらの意味として記載されている内容を確認したところ、法令や社会通念から容易に推認できる内容であった。また、(43) 第1文と、第2文以降は、当審査会において見分した限り、第1文のみを公開することについて支障があるとは認められなかった。
 そうであれば、それらが公開されることによって、今後の契約協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたいことから、番号(7)、(8)、(9)、(19)、(29)、(32)、(41)、(42)、(43)第1文、(45)、(47)、(50)、(57)及び(67)については、公開されるべきである。
 また、別紙番号及び別紙名についても、上記の内容を端的に表したものであり、公開することによって今後の契約協議に支障が生じるおそれがあるとは認めがたい。
 よって、公開部分⑬については、条例第7条第5号に該当しない。
(3) 実施機関が大阪IR株式会社と締結した協定等における秘密保持条項について
 実施機関が第三者と秘密保持についてなんらかの約束をしており、当該約束が適法なものであれば、当該約束に反して秘密情報を公にすると、当該第三者に対して損害賠償責任等を負う可能性がある。そうなれば、条例第7条第5号の「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」と言い得ることから、以下検討する。
ア 実施機関の意見について
 本件に係る審議の中で、実施機関は、大阪府及び大阪SPCとの間で、令和4年2月15日付けで「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書」、令和5年9月28日付けで「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業事業用定期借地権設定契約書」、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の立地及び整備に関する協定」及び「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の立地及び整備に係る土地使用等に関する協定」をそれぞれ締結し、これら協定等においては、大阪府・市及び大阪SPCの間における秘密保持義務を定めている旨の主張を行っていることから、これら協定等の適用について検討する。
イ 上記4件の協定等の適用について
 まず、実施機関が主張する上記ア記載の協定すべてが本件決定に影響を及ぼすかについてであるが、後記7で詳細に論じているように、本件決定の違法・不当の判断基準時は処分時と考えられる。
 そうであれば、審査請求人が、令和6年8月2日付け意見書において、「協定書等四件のうち大阪市長が対象文書につき令和4年11月4日付非公開決定を行った時点で存在していたものは、令和4年2月15日付「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書」のみである。他の三件は上記非公開決定時点において存在せず、これら三件は非公開決定の根拠ではありえない。」と主張するとおり、本件決定が行われた令和4年11月4日時点で既に締結されていた令和4年2月15日付け「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書」のみが適用されるのであって、それ以外の本件決定後に締結された契約・協定が本件決定の違法・不当の判断に影響を与えることはない。
 そこで、以下、大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書第25条第1項の「府、市及びSPCは、第2項に定める秘密情報を、相手方(なお、府及び市においての「相手方」とはSPCをいい、SPCにおいての「相手方」とは府及び市をいう。以下本条において同じ。)の事前の書面による承諾なく第三者に開示してはならず、また、本基本協定に基づく権利の行使又は義務の履行以外の目的に使用してはならない。」との規定及び同条第2項本文の「秘密情報とは、本基本協定の内容、本基本協定締結に至るまでの交渉等の経緯・内容及び本基本協定に関して相手方から開示を受けた、営業上、技術上、又は行政上の情報のうち、以下の(1)又は(2)のいずれかに該当し、かつ、(3)①乃至④のいずれにも該当しないものをいう。」との規定との関係が問題となる。
ウ 「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書」第25条第2項の解釈について
 その前提として、まず、本件文書に記載された情報が大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書第25条第2項の「秘密情報」に該当するかが問題となるが、その前提として、同条同項本文の解釈について検討する。
 この点、実施機関は、
ⅰ本基本協定の内容
ⅱ本基本協定締結に至るまでの交渉等の経緯・内容
ⅲ本基本協定に関して相手方から開示を受けた、営業上、技術上、又は行政上の情報のうち、以下の(1)又は(2)のいずれかに該当し、かつ、(3)①乃至④のいずれにも該当しないもの
が並列関係にあり、これらが「秘密情報」に該当すると解しているとのことであるが、当該解釈については、当審査会としても是認するところである。
エ 本件文書の「秘密情報」該当性について
 その上で、本件文書に記載された情報が上記ウのⅰからⅲまでのいずれに該当し得るかであるが、実施機関が令和6年10月15日付け意見書で「基本協定第25条第2項の「本基本協定締結に至るまでの交渉等」につき、協定文言上も、その対象を「交渉」に限定したり、交渉等の期間を民間事業者の選定以降に限定するような規定はして」いないと主張しているように、本件文書に記載された情報が除かれる理由はなく、「本基本協定締結に至るまでの交渉等の経緯・内容」に含まれると認められる。
 そして、上記ウのとおり、「営業上、技術上、又は行政上の情報のうち、以下の(1)又は(2)のいずれかに該当し、かつ、(3)①乃至④のいずれにも該当しないもの」は、「本基本協定締結に至るまでの交渉等の経緯・内容」に係らない。
 よって、本件文書に記載された情報は、「秘密情報」に該当すると言える。
オ 「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書」第25条第5項該当性について
 上記エで検討したように、本件文書に記載された情報は、大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書第25条第2項本文の「秘密情報」に該当するが、同条第5項は「府及び市は、第1項、第3項及び第4項にかかわらず、説明責任を果たすために必要な範囲で、以下の(1)又は(2)のいずれかに該当する内容(但し、大阪府情報公開条例で定める例外公開情報及び人の生命、身体、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。)を除き、第三者に対して、SPCの承諾を得ることなく、秘密情報の全部又は一部を開示又は公表することができる。但し、本項に基づき秘密情報の全部又は一部を開示又は公表する場合には、事前にその旨をSPCに通知するよう合理的な範囲で努力するものとし、事前に通知を行うことができない場合には事後に遅滞なくSPCに通知するものとする。/(1) SPC又はSPCの株主(但し、合同会社日本MGMリゾーツ及びオリックス株式会社に限る。)若しくはその親会社の権利、競争上の地位、その他正当な利益を害するおそれのある内容(特殊な技術やノウハウ等)/(2) SPCが、当該秘密情報を府及び市に対して開示するに当たって、(i)SPCの親会社並びに合同会社日本MGMリゾーツ及びオリックス株式会社以外の株主又は(ii)SPC若しくはその親会社が守秘義務を負う相手方として明示した第三者(但し、(i)に該当する者を除く。)の権利、競争上の地位、その他正当な利益を害するおそれのある内容(特殊な技術やノウハウ等)であることを特定・明示して客観的かつ合理的な根拠とともに府及び市に説明し、府及び市がこれを相当と判断した場合の当該内容」と規定しており、本件文書に記載された情報の同項該当性が問題となる。
 この点、実施機関は、令和6年10月15日付け意見書において、「基本協定第25条第4項及び第5項は、同条第1項の秘密保持義務を除外できる場合を定めているが(基本協定以外の契約等にも同趣旨の規定を置いている。)、第4項は、条例に基づく情報公開請求による公開を対象とする趣旨はなく、また、第4項において「開示することができる」、第5項において「開示又は公表することができる」としているとおり、これら規定は、情報公開請求があった場合に、大阪市に非公開情報の公開義務を課す趣旨のものでもない。」と主張している。
 しかし、行政契約は法令の規定に反して行うことはできず、条例の趣旨に反する内容は違法・無効となるか、契約締結者の意図にかかわらず条例の趣旨に適合するように当該契約の条項を解釈することになり(平成19年(受)第1163号最高裁同21年7月10日第二小法廷判決・判時2058号53頁参照)、契約によって条例で定められた情報公開請求権を奪うことはできず、審査請求人が令和6年8月2日付け意見書において、「協定書等四件の秘密保持条項においても、法令に基づく開示や、行政機関として説明責任を果たすための開示は可能とされており、秘密保持義務に抵触しない。たとえば、令和4年2月15日付「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書」第25条第4項、第5項にその旨が定められて」いると主張するとおり、第25条第5項は、情報公開請求に対応する条項と読むべきである。
 そうであれば、上記(2)、ウで公開すべきとしている情報は、第25条第5項の(1)及び(2)に該当するような情報ではなく(なお、仮に該当するなら、条例第7条第2号で非公開になる情報であると考える。)、これらの情報を公開しても、大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書第25条第1項には抵触しない。
 なお、大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書第25条第5項に基づき公開を行う場合には、同項の「但し、本項に基づき秘密情報の全部又は一部を開示又は公表する場合には、事前にその旨をSPCに通知するよう合理的な範囲で努力するものとし、事前に通知を行うことができない場合には事後に遅滞なくSPCに通知するものとする。」との規定が適用されることになる。これは、条例で課されたもの以上の義務を実施機関に課すものではあるが、条例第7条第2号該当性の判断にあたって第三者に確認することは一般的であり(条例第13条第1項参照)、当該義務は実施機関にとって過大な義務とは認められないことから、条例第7条第5号の「当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」義務の賦課とは認められない。
カ まとめ
 よって、実施機関が大阪IR株式会社と締結した協定等における秘密保持条項を踏まえたとしても、上記(2)の判断を左右するものではない。
(4) 小括
 以上のことから、公開部分①から⑬までについては、条例第7条第5号に該当しない。
6 争点3について
(1) 条例第7条第4号の基本的な考え方
 条例第7条第4号は、行政等の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報が公開されると、外部からの圧力や干渉等の影響を受けることなどにより、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり、また、未成熟な情報が公開されたり、特定の情報が尚早な時期に公開されたりすると、誤解や憶測に基づき不当に市民等の間に混乱を生じさせ、又は投機を助長するなどして特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるとの考えのもとに、「本市の機関及び国等…の内部又は相互間における適正な意思決定が損なわれないようにするため、審議、検討又は協議に関する情報」は、原則として公開しないことができると規定している。
 この「審議、検討又は協議に関する情報」とは、行政等の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報をいい、これらの審議、検討又は協議を行うために必要な調査研究、企画、調整等を含むものと解される。
 また、「不当に」とは、審議、検討又は協議に関する情報の内容、性質に照らし、検討段階にある情報を公開することによる利益と支障を比較衡量した上で、公開することの公益性を考慮しても、なお、行政等の適正な意思決定に対する支障が看過し得ない程度のものであることをいうものと解される。
(2) 条例第7条第4号該当性
 まず、上記5、(2)、ウで公開すべきとした部分の多くについては、実質的に同内容の情報が既に公表されているのであるから、それらの情報が情報公開請求によって公開されたとしても、「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」とは認めがたく、既に公表されていないが条例第7条第5号に該当しないとした部分についても、上記のようなおそれがあるとは認められない。
 よって、上記5、(2)、ウで公開すべきとした部分については、条例第7条第4号にも該当しないと言える。
 上記以外の部分については、上記5、(2)、ア及びイで検討を行ったように、少なくとも条例第7条第5号に該当することから、同条第4号について検討するまでもなく、結論として、非公開としたことは妥当である。
 なお、実施機関は、上記第4、1、(2)、ア、(ウ)において、「大阪府・市における本件契約の締結に向けた審議・検討や大阪SPCとの契約協議・調整・交渉等において、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が損なわれ、また、不当に市民等の間に混乱を生じさせるおそれがある」(当審査会において傍点を付記)と記載しているように、大阪SPCとの間の交渉における支障も主張しているように見受けられるが、本号は、「本市の機関及び国等(国、独立行政法人等、他の地方公共団体、地方独立行政法人及び大阪市住宅供給公社をいう。以下同じ。)の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報」とあるように、大阪市又は大阪府の内部又は相互間における審議等が問題となるものであり、上記主張から条例第7条第4号該当性を認めることはできないこと、また、実施機関は主張していないが、条例第7条第2号該当性も認められないことを念のため申し添えておく。
(3) 小括
 したがって、上記5、(2)、ウで公開すべきとした部分については、実施機関の条例第7条第4号に該当するとの主張は認められない。
7 判断基準時に係る審査請求人の主張について
 審査請求人は、令和6年5月22日付け意見書において、「判断基準時は「裁決時」であり、その時までの事実関係に基づき裁決が行われるべきである」と主張していることから、当該主張についての当審査会の見解について以下述べる。
 まず、取消訴訟における判断基準時について確認すると、昭和25年(オ)第220号最高裁昭和27年1月25日判決・民集6巻1号22頁において、「行政処分の取消又は変更を求める訴において裁判所の判断すべきことは係争の行政処分が違法に行われたかどうかの点である。行政処分の行われた後法律が改正されたからと言って、行政庁は改正法律によって行政処分をしたのではないから裁判所が改正後の法律によって行政処分の当否を判断することはできない。」と判示されているとおり、判例は処分時説を採用していると考えられる。もちろん、具体の事案に応じて判決時説を採用していると思われる判例もあるが、原則的には、処分時説を採用していると考えられる(情報公開に係る取消訴訟において処分時説を採用していると考えられる最近の判例として、令和5年(行ヒ)第335号最高裁令和7年6月3日判決・裁判所ウェブサイトがある)。
 その上で、不服申立てがあった際に、処分時の事情をもとに違法・不当を判断するのか、あるいは、裁決時の事情をもとに違法・不当を判断するのかが問題となるが、この点については、判断主体が司法機関である裁判所であるのか、行政機関である審査庁であるのかの違いがあり、直ちに上記判例の立場を踏襲することはできないところである。
 そこで、主要な学説を参照すると、塩野宏「行政法Ⅱ」〔第6版〕有斐閣、2019年、41頁から42頁までによれば、「日本法では一律な不服申立前置主義を採用していないし(行政事件訴訟法8条1項)、不服申立手続と裁判手続が並行することを前提としていること(同条3項)、審査請求裁決の取消訴訟においては裁決固有の瑕疵のみを主張できることなどに鑑みると、不服申立ての違法判断の基準時と取消訴訟の違法判断の基準時は等しくなると考えられる」とあり、仮に、両者で判断基準時が異なることになれば、両制度間で整合性が取れなくなることから、不服申立てにおいても処分時説を採用するのが合理的であると思われる。
 また、実質的な理由としても、裁決時を基準とすると(答申の場合には最終の調査審議日となると思われる。)、該当性判断にあたっては、時の経過に伴う事情の変化の可能性は大きく、その時時刻刻の状況を実施機関に確認して判断を行うことは審議期間を長引かせることになる一方、情報公開請求を行うにあたって回数の制限等はなく、審査請求人としては時の経過に伴い当初の実施機関の理由が成り立たないと考えるなら、新たな公開請求を行うことは可能であることから、処分時説を採用するのが合理的であると思われる。
 以上を踏まえて、当審査会としても、不服申立てにおける違法・不当判断の基準時としては、特段の事情がない限り処分時が適切であると考え、上記のとおり判断するものである。
8 結論
 以上により、第1記載のとおり、判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
委員 玉田 裕子、委員 小林 美紀、委員 重本 達哉、委員 榊原 和穂

令和4年度諮問第41号
(略)

答申第541号

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